第10話【新しい仲間】
八雲紫は椅子に座るレミリア・スカーレットの前にスキマを通してやって来る。
「何の用かしら、妖怪の賢者ーーと聞くのは無粋かしら?」
「そうね。今更の事だもの」
紫とレミリアは互いに笑う。
「邪気と云うイレギュラーは存在したけど予定通りに異変は解決した」
「ええ。次は白玉楼が異変を起こす番。それさえ、上手く行けば、予定通り、幻想郷の弾幕の華麗さが評価される」
「ただ一つ問題があるわ」
そう言うとレミリアは足を組み返し、机に頬杖を突く。
その仕草は霊夢に見せたあどけなさはなく、大人びた妖艶さがあった。
「解っているわ。空の事でしょ?」
「ええ。確かに彼女の力は心強い。
けれど、それは邪気に対してと言う事。
通常の弾幕戦ではやはりと言うか、役不足ね」
「元々、彼女に異変を解決させる気はないわ。
護御霊空はあくまでも異変の裏に忍ぶ邪気を祓う為のキーになる人間よ」
「ーーとは言え、またいつ邪気が現れるか解らない」
「ええ。そうよ。邪気は妖精、妖怪、吸血鬼など、あらゆる存在に取り憑く。
それもランダムでね?」
「そうかしら?……私にはある一定の法則がある様に思えるけど?」
その言葉に紫はレミリアに顔を鼻先まで近付ける。
そんな紫にレミリアは「近いわ」と言って笑い、椅子に背中を預けて彼女から顔を離す。
「宵闇の妖怪は解らないけど、美鈴曰く氷の妖精とフランには共通点があるわ」
「あら、何かしら?」
「心よ」
「こころ?」
「ある一定以上の心の在り方ーー思いに引き寄せられ、邪気は集まる。
私は妖怪、妖精に憑き易いと踏んでいるわ」
「根拠は?」
「実験したからよ。私の館には邪気すら操る事が出来る門番がいるもの」
その言葉を聞いて、紫は眉を寄せた。
そんな紫にレミリアは苦笑して手をヒラヒラさせる。
「まあ、落ち着きなさいな。
どの道、必要になる事だったのだから」
「……そうね。だけど、邪気に関しては無断で実験しないで頂戴。
貴女達がそれでどうなろうと知った事じゃないけど、それで凶暴化した妖怪が何をするか解らないのよ?」
「解ったわよ」
レミリアはわざとらしく肩を竦めると髪を払い、ゆっくりと姿勢を正す紫に資料を見せる。
紫はそれを受け取るとマジマジと内容に目を通す。
「人間には今の所は無害、ね?」
「ええ。ただ弱い妖怪は精神が邪気を受け切れなくて消滅する可能性が高いわ。
あとは邪気を纏う存在ーー妖魔同士が戦うと邪気はより強い者へと憑依する」
「成る程。なかなか面白い結果ね?」
紫はその資料をスキマにしまうとレミリアに尋ねた。
「それで紅魔館からの候補は?」
「咲夜よ。あの娘は人間ですもの。
協力する様に運命を操作して置くわ」
「そう。感謝するわ、レミリア・スカーレット。
丁度、空きの席が一つあるのよ」
紫はレミリアに対して、そう告げると自身の後ろにスキマを作り、その中へと入る。
「それじゃあ、宜しくお願いね」
「ええ。幻想郷に平穏の在らん事を」
二人はそれだけ言う紫はスキマに消え、レミリアがうっすらと笑みを浮かべて、ベルを鳴らす。
次の瞬間、十六夜咲夜が現れる。
「傷の具合はどうかしら、咲夜?」
「問題ありません。この度は申し訳ありません。
私の技量不足で賊を入れてしまいまして……」
「気にする事はないわ。私も敗れてしまったもの」
レミリアはそう咲夜に言って笑うとある命令を下す。
ーーー
ーー
ー
「ちょっと買い込み過ぎじゃない、霊夢?」
ボクは霊夢にそう言って荷物を背負い直す。
そんなボクに霊夢はビシッと指差す。
「甘いわよ、姉さん!
割引している今が服の買い時なんだから!」
「いくら割引って言っても、買いすぎだよ。
ボク達は宴会の準備をしなきゃなんだから」
ボクはそう告げるとふと、違和感に気付く。
振り返るとキョロキョロと周りを見渡す咲夜さんの姿があった。
「咲夜さん」
「あ、空さんーーと、霊夢だったかしら?」
「あの時のメイドね?
あんたがこんな場所になんの用?」
「丁度良かったわ」
そう言うと咲夜さんが紙きれを見せる。
これは……八百屋さんに肉屋さんの書いてある地図かな?
「えっと、咲夜さんはこの辺りを知らないんで?」
「ええ。だから、道案内をお願いしたくて」
「ぷっ!何よ、あんた!
その歳で初めてのお使いみたいな?」
「霊夢。そんな事を言っちゃ駄目だよ」
ボクはそう言って咲夜さんを馬鹿にする霊夢を注意すると咲夜さんに微笑む。
「ボク達で良ければ、お付き合いします」
「私"達"?」
「笑った罰だよ。咲夜さんは本当に困っているんだから、キチンと教えて上げないと」
ボクは霊夢にそう言うと此方をクスクスと笑う咲夜さんを見る。
うん。やっぱり、笑っている方が咲夜さんは素敵だと思う。
「ありがとうございます、空さん。
改めて、十六夜咲夜です。今後とも宜しくお願いします」




