第9話【紅霧異変解決】
眠りに落ちると霊夢とレミリアさんが弾幕勝負している光景が見えた。
「やるわね、人間。でも、これで終いよ、喰らいなさい【紅色の幻想郷】」
「博麗の巫女を甘く見るんじゃないわよ!」
レミリアさんの大玉の弾幕をかわしながら、霊夢はお札を連射する。
レミリアさんもなんとか耐えるけど、戦況は霊夢が有利にある。
そしてーー
「これでトドメよ!夢想封印!」
霊夢の奥義が炸裂してレミリアさんが地面に落ちる。
そんなレミリアさんを追って霊夢が地面に着地してレミリアさんと対峙する。
そんな霊夢にボロボロになった服のレミリアさんがゆっくりと立ち上がって笑う。
「降参よ。私の敗けだわ」
「姉さんは何処?」
「さあ?」
「とぼけるなら、容赦しないわよ?」
レミリアさんが肩を竦めると霊夢がお札を出して脅す。
そんな霊夢にレミリアさんは頭を押さえて、しゃがみ込む。
「うー☆」
「うー、じゃない!姉さんは何処か聞いているのよ!」
「本当に知らないわ。詳しい事は幻想郷の守護者に聞きなさいな」
「幻想郷の守護者?なんで、あんたがそれを知ってる訳?」
「そう名乗ったからよ。ともかく、貴女のお義姉さんは無事の筈よ」
「あ、そ」
霊夢はそれだけ聞くとお札をしまってレミリアさんを冷ややかに見下ろす。
「兎も角、この紅い霧をなんとかなさい。
でないと、赤く湿った布団で寝る羽目になるのよ」
「え?そんな理由ーーいえ、解った。解ったわよ。だから、その札をしまって頂戴」
レミリアさんは渋々頷くと紅い霧が晴れて黄色いお月様が姿を現せる。
「これで満足でしょう?」
「なによ。解っているじゃない」
霊夢はそう呟くと構えを解く。
「おーい!霊夢!」
そんな霊夢に魔理沙さんが降り立つ。
その後ろにはフランちゃんがいた。
「フラン!?」
「なによ?もう一匹、吸血鬼がいたの?」
「まあ、待て、霊夢。こいつらにも事情があるみたいなんだ」
身構える霊夢に魔理沙さんはそう言うとレミリアさんとフランちゃんのやり取りを見守る。
「ごめんなさい、お姉さま。
折角、私の為に異変を起こしてくれたのに……」
「気にしなくて良いわ、フラン。
私の方こそ、ごめんなさい。
貴女に黙って、こんな事をして……」
「お姉さま」
「フラン」
二人がお互いを抱き締め合うと霊夢がヒソヒソと魔理沙さんに問う。
「ちょっと、どう言う事なの、魔理沙?」
「気にすんな。今回の首謀者は霊夢が倒した。それだけなんだぜ」
魔理沙さんがニカッと笑って親指を立てると霊夢も溜め息を吐く。
「まあ、そう言う事にして置きましょう」
「そうと決まれば、博麗神社で宴会なんだぜ!」
魔理沙さんはそう言うとレミリアさん達に顔を向ける。
「お前達も来いよ!
大勢で飲んだ方が楽しいんだぜ!」
「え?いいの?」
「勿論だぜ!なあ、霊夢!?」
「あんた、勝手に決めるんじゃないわよ」
霊夢はもう一度、溜め息を吐くとレミリアさん達を見下ろす。
「日時は私が決めるから、来るか来ないかは好きになさい」
「待たな、フラン!
また遊ぼうな!」
それだけ言うと霊夢は魔理沙さんと共に紅魔館を後にした。
ーーー
ーー
ー
「ちょっと姉さん。こんな湿った布団で寝てたら風邪引くわよ?」
「んえ?」
ボクはゆっくりと瞼を開けると霊夢を見詰める。
「……あれ?ボクは一体?」
「覚えてないの?
姉さんは異変解決中にいなくなったんじゃない?」
「異変?ーーそうだ!」
ボクは跳ね起きると霊夢にゴツンと頭突きして一緒にゴロゴロと悶えた。
「いったいわね!」
「ご、ごめんね、霊夢。でも、レミリアさん達が……」
「それについては心配いらないわ。そんな事よりもーー」
霊夢はゆっくりとお札を裾から出すと真後ろに投げる。
「ぎゃっ!?」
すると悲鳴が上がり、一人の男性が姿を現せた。
そんな男性を霊夢は冷ややかに見下ろす。
「あんた、里の連中よね?
なんで、そんなあんたが此処にいるの?」
「い、いや、その……へへっ」
「……消えなさい」
霊夢はそう呟くと男性を階段から蹴落とす。
「ちょっーー霊夢!?」
「心配しなくても死にはしないわよ。
それよりもあいつから邪念を感じたわ。
空姉さんは人が良くて私より弱いんだから、しっかりしてよね?」
「ふみゅ~」
今日のボクは色んな人に注意されるな。気を付けよう。
「さ、そんな事よりも、また洗濯しましょう」
「う、うん。そうだね?」
ボクは霊夢に頷くとぬちゃっとする布団を洗って物干し竿で吊るす。
その夜は布団が結局、乾かず、少し湿っちゃった畳の上で眠る事になった。
今日は素敵な夢が見れます様に……。
ーーー
ーー
ー
博麗神社の階段から蹴落とされた男ーー新次は痛む身体を引きずりながら、自宅へと戻る。
すると、そこには黒い外套に身を包む複数の人妖が佇んでいた。
「掟を破ったな?」
「な、なんの事だ?」
そんな新次が動揺しつつ問い返すと返って来たのは刃であった。
新次は声を発する事も出来ず、首筋を斬られて床に倒れる。
「貴方は闇に生き、光に奉仕する身でありながら己が欲の為に博麗に手を出した。
その行いに対する罪は死を以て、償いなさい」
そう呟いた人物を見上げると黒い外套の下から冷めた瞳で見下ろす八雲紫の顔があった。
新次は悶え苦しみながら、かつての同胞達から冷たい目で見られつつ、息を引き取る。
「逆賊は処刑した。この処刑に異議なくば、沈黙を通せ」
その言葉に誰も答えず、刀を消すムラマサは家から出る。
そして、一人、また一人とその場を後にした。
最後には八雲紫と新次の遺体が残され、やがて、どちらもが消える。
こうして、闇の裁きが人知れず、決行され、一人の若者が地獄へと落ちて行く。




