其ノ一 異世界の扉
「送る…..?
ーーえ、異世界転移って出来るのか?」
「勿論じゃよ」
「いや、だが、それは魔法士協会、魔術書にも禁じられていたはずだぞ」
「そうじゃな」
「それに、転移はあるものの、世界規模の転移なんて聞いたことがない」
「そりゃ、ワシも発見したのは最近だからの」
「第一、そんな規模の大きく、かつ精密な魔法、どんな優れた魔術師でも実行不可能だ」
「ほざけ、ワシはそのどんな優れた魔術師とやらよりも5倍は長く生きとるわ」
そう言って魔女は十二、三の見た目にそぐわない、ニヒルな微笑みを浮かべた。
全く、これだからロリババは、、、
「...ふっ、面白い。しかし、確証はあるのか?」
「確信や確証は、一度でも成功してから初めてカケラが出るものよ」
「つまり、今回が初めてと言うわけか」
「平たく言えばそうじゃ」
「おい」
「なんじゃ」
「.....そうか、初めからお前は俺を実験台にする為にここに来たんだな」
「そうじゃよ?」
「……随分と正直だな」
「まぁお主に嘘ついたところで見抜かれるからの、お主に宿る加護でな」
「あぁ、そんなこともあったな」
「さぁ、乗るか、乗らないか.....と、聞く前にその顔を見ればわかるがな、今のお主、中々に良い顔をしとる」
ーーあぁ、まったく、俺もだよ。自分の顔から止め処なく溢れてくる笑みに気付き、まだこんな感情が少しでもあった事に驚きつつも、それに気付がないほどの自暴自棄には陥ってないようで、安堵した。
「その提案、のった!!!」
「ーーこれでいいのか?」
「上出来じゃ」
あの後、魔女は準備があるだのでそそくさと帰って行った。魔女曰く異世界への転移魔法の行使にはMPだけでなく、膨大な魔素が必要らしく、最も魔素が充満すると言う、満月の夜に行う事になった。
「いいか、もし魔法に失敗して、命を落としたとしてもワシを恨むなよ」
「なに、命を落としたら、それで終わり。恨み言の一つも溢すことは出来ないがな」
「その調子なら大丈夫じゃな」
「いいか、転移できたとして、転移した世界とワシらの世界は必ずしも似ているとは限らぬ。寧ろ全く根元からして違うことの方が大いにありうる。そのことを踏まえて行動するのじゃ。言語については、、、」
「言語については問題ない。俺の守護たる精霊が何とかしてくれるだろう」
「なら、問題ないじゃろうな、後、向こうとこっちでは時間の流れが違うので、気をつけるように、定期的に伝書鳩を送るつもりだ。それまでは何とか踏ん張るのじゃ」
「了解だ」
「そして、、、」
「お前は俺の母親かそこまで心配しなくとも十分にやってゆける」
「ならいいのじゃがの」
「あぁ、最後に一つお願いがある」
「なんじゃ?」
「ビーストテイマー、メアリによろしくと言っといてくれ、そしてすまなかった。と」
「了解じゃ」
「それでは、頼む」
「頼まれたっ!
ーー来れ集え精霊よ、我願いに応えたまえ。
彼者を異界の地へと誘いたもう。
来れ集え魔の素よ、我が力に応えたまえ。
精霊の力を助けたもう……」
ーーなるほど、この魔法は近代じゃなく古代魔法なのか。近代魔法は術者のMPと魔素を複合させ、精霊の代わりとする。その人工精霊を依代として術者がMPを注ぎ、魔法を発動する。それに対し、古代魔法は精霊の力を主とし、魔素と術者がそれを支援する形で発動する魔法。精霊は意思を持っているので医師の疎通が必要で、発動にも時間がかかる。
そういった致命的なデメリットを補うように
実用化されていったのが近代魔法なのだが、古代魔法はそのデメリットに変わり、術者が使用するMPは軽減し、精霊が魔法を起動するので、より精密で正確な魔法を構築できるのだ。今回のような大規模魔法は特にMPが多く消費されるので、人工で精霊を作るMPと魔素すらも発動に回さなければならない。となると必然的に古代魔法の形式を取る形になる。
「……ディ・トランスレーション!!!」
「ーーッ!!」
一瞬にして視界が白く飛び、方向感覚が麻痺し、立ちくらみが自らを襲い、思わず膝から倒れてしまった。
ーー暫くして視界に色や形が戻ってきて、やっとのことで立ち上がるとそこには、直方体の山々が広がっていた。
「な、、、なんじゃこりゃーー!?」
いやぁ遂に新章、本編突入です!次話からは主人公が日本の荒波に飲まれながらも何とか生活していく様を書いていきたいとおもいます。