♯0–4 疑心の始まり
「・・・大変です!起きてください!アーサーさんっ!起きてくださいっ!」
「ん、、、後五分まってくれ、、、」
「それどころじゃないんですよぉーー!」
てっきりいつものようにゴキ〇リかなんかが出たのかと思ったのだが、どうも違うらしい。それにしても、こんな朝早くに何の用だっていうんだ?そんな俺をよそに、起きるのを確認するとビーストテイマーはそそくさと外へ出て行ってしまった。俺も追って外に出てみると
「いや、何も無いじゃないか」
「違うんです!後ろです後ろ!」
「後ろ?、、、ってなんじゃこりゃ!?」
そこには目を疑うような光景が広がっていた。というのも、家の壁一面に落書きがされていたのだ。
「なんだ?このガキンチョのいたずらは?」
「それが違うんですよ。これ、全部魔法で書かれてるんです。 」
「ま、魔法?」
「えぇ、おそらくなんですが、火と木、闇の魔素を複合した魔法みたいなんです」
「ほぅ、じゃあ並みのガキンチョの仕業じゃないなぁ」
「茶化さないでください!」
「わかってるよ、悪かった」
ーーそう、火と木の魔素は置いとくとして、闇の魔素は一般人じゃ使いこなせない。魔法の難易度にもよるが、光と闇の魔法はMPの消費が激しく、調節が難しい。最低でも2年は魔法に携わっていなければ上手く扱う事はかなわない。一見、原理的には簡単な魔法式だが、一定の太さで文字が書かれているところを見ると、相当手慣れている者の犯行だと見ていい。
「冒険者、、、それに、ハンター、、、か」
「誰か心当たりがあるんですか?」
「いや、単にこの魔法を使えるのがそれくらいの役職だと思っただけだよ。聖職者がこんなことしないだろうしな」
「まぁたしかにそうですけど、、、」
「しっかしまぁ、偽善者に人殺しかぁこりゃ物騒なこったな」
「とりあえず、どうしますか?これ」
「まぁ俺が消しとく。ビーストテイマーは朝飯でも作っといてくれ」
「、、、はい。わかりました。」
まぁ、幸い俺は九つ全ての魔素に適性があり、MPもそこそこ多い方だ。この量消すぐらい朝飯前だろう.....なんてな
「、、、あの」
「ん?まさか家の中にもあったのか?!」
「いえ、その、、、そろそろ、名前で呼んで欲しいんですけど、、、」
「へ?」
余りにも予想だにしていない回答で思わず変な声が出てしまった。
「いえ、この前約束したじゃないですか!」
「そ、そうだっけか?」
「はい!この前のアイスクリーム食べた時に!」
「…ぁあ、そんなこと言ってた様な」
あの時は買い物に服選びとで軽く疲労していたのと、ビーストテイマーの笑顔を見たいがためになんとなくで返事してた節があったので、正直よく覚えてないが、そんなこと言ってた様な気もしなくない。
「あぁ、わかったよ、、、メアリ」
「、、、はい フフッ」
なんというか、 最近その笑顔にめっぽう弱くなっている気がする...
ともあれ、後日、情報収集にギルドの方へ行ってみることにしよう。
ーー犯人はきっと、いや、確実に勇者の家と認識して犯行に及んだはずだ。一応、ギルドに行く前に軽い変装をしておくことにした。といっても、軽いローブを羽織るだけなのだが、このローブには認識阻害が付与してあり、顔や声が誰か認識することが出来なくなる様にしてある。これを羽織れば、向こうの警戒も多少は躱すことが出来るはずだ。
見たところ、ブラックウォルナットの様な整った節目の重いドアを開ける。
そういえば、ギルドなんて来たのいつぶりだろうか、依頼を受けることはあっても、基本的に村人達から直接という場合がほとんどだった為に、ギルドに行く必要がなかったのだ。そう考えると、ギルドに来たのは旅開始直後からで、約ニ年ぶりといった所だろうか。
中に入ると、正面にギルドの受付窓口があり、入って左に酒場、右手に依頼の掲示板と言ったところだった。
ーーしかし、平日だと言うのにやけに酒場に人が多い。二年ぶりとは言え、流石にこの人数には違和感を感じる。
とりあえず、情報収集にはもってこいのタイミングなので人の話に聞き耳を立てながら、ギルド内を徘徊することにした。
するともう一つ違和感を覚えた事があった。
「依頼が....少ない?」
なんと依頼が六つしかなかった。
それに付随して、どれも依頼内容は迷い猫探しや下水のドブネズミ退治などばかりで、モンスターや魔獣の討伐依頼が一つもなかった。
「そうなんです。最近、モンスター達が大人しくなって、ほとんど人里に顔を出さなくなったんです。もちろん、ゴブリンなどは今でもやって来たりはしますが、その討伐依頼が出ても、出た瞬間にすぐ取られてしまうんです。なんでも冒険者さん達も仕事を選んでられないとか、、、」
「なるほど、だから依頼を取れなかった奴らは行く場所もなく、ここでたむろしていた訳か」
「はい。残ったのはこういった迷い猫探しとかですからねー」
先程から聞こえる話も統合すると、魔王の支配下にあったモンスター達は魔王がこの世から消えたことを察知し、自らを支配するものが居なくなったことで、どう動けばいいか分からず、物陰に潜んだりして、機会を狙っているのだろう。しかも、スライムなどの下等種は魔王の溢れる力によって生み出される。ある種、魔王の力の具現化とも聞いたことがある。つまり、其奴らは魔王の力なしでは生きていけないのだろう....
ーーそうか、これで全てがつながった!
先日の落書き、あれは冒険者らの犯行で間違いない。きっと冒険者の中にもこのきっかけが魔王の、ひいては勇者の引き起こしたものだと言う答えに辿り着いた者がいるのだろう。先日の件は其奴らが憂さ晴らしにやった者なのだろう。しかし、許されざる行為といえども、俺が彼らの仕事を潰してしまったのも事実。さて、どうするべきか、、、
そんな時、許すまじ言葉が勇者、アーサーの耳に入った。
「なぁ、知ってるか?勇者のパーティーに居た戦士と僧侶、死んだらしいぜ?」
「まじか、どっか修行に行ったとかじゃ無かったのか?」
「どうやらそれはガセらしいぜ。俺の伝手からの話だ。間違いねぇ」
「じゃあなんでそんな嘘ついたんだよ」
「いやぁ俺が思うに、勇者、あいつらのこと見殺しにしたとかさ、表立って言えない様な仕打ちしたんじゃねぇーかって!それで国がそれを庇った!」
「うわっまじか、どんなクズだよその勇者」
「だが、」
「「ありえる!」」
そんな、たわいも無く、根も葉もない話だったが、大切な友人である二人の死。それも今もなお悔やみ続けているアーサーにとっては怒るに足り得るものだった。
気がつくと、アーサーは彼らを殴り蹴り、我を取り戻した時にはすでに彼らは気を失っていて、認識阻害が付与してあったローブは剥がれてしまっていた。
「あ、、、あれ勇者じゃねぇか?」
一人またひとりと彼の正体に気付き始めていた。が、勇者は逃げることなく、ただ、呆然と立ち尽くしていた。
ーー俺はこんな奴らのためにあいつらを犠牲にしたって言うのか?