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仮想の果実  作者: 村上蘭
5/7

求めない誤解


 五




  陽一と、順子は二階の和彦に聞こえないように


 気を使いながら小声で話しをしていた。和彦は、


 まだ寝て居るようで夫婦の話の中心はどうやって


 和彦を怒らせずに病院に連れて行くかだった。あ


 れから、陽一は和彦から自分がいかにして億万長


 者になったかと言う話を聞かされたのであるが陽


 一は黙って「うん、うん」と頷いて出来るだけ和


 彦を刺戟しない様に静かに聞いていたが話の内容


 はほとんど聞いていなかった。ただ、陽一は和彦


 が不憫でならなかった。和彦は、仕事に疲れ人生


 に疲れ何もかも投げ出してしまったに違いない。


 そして、空想と現実の間でその矛盾に耐えきれな


 くておかしくなってしまいその中で生まれたのが


 例の空想通貨だったに違いないと言うのが陽一の


 出した結論だった。




 「病院、どこに連れて行くかなお前どこか知らな


 いか?」




  陽一が囁くように順子に聞いた。




 「私の、知り合いにそれ関係の病院を知っている


 人が居るからちょっと聞いてみるわ。それよりあ


 ちらの親御さんには何て言ったらいいのかしら」




 陽一は、腕組みしながらリビングのサッシのガラ


 スから見える景色を見るともなく見て答えた。




 「まだ、俺たちに伝えたくらいで向こうの親には


 言ってないんじゃないか」




 「それなら、良いけど、まさかあの大金持ちって


 話はしてないでしょうね?」




  順子が、溜息をつきながら言った。陽一は、順


 子に昨夜の話をかいつまんで伝えていた。その時


 の、順子の驚き落胆は尋常じゃなかったが夫婦の


 結論は若い二人を出来るだけ傷つけない方法で別


 れさせるということに決めたのである。




 「さやかさんが可哀そう」




  順子が涙目のか細い声で言った。




 「うーん、二人には可哀そうな事になるけど、こ


 れが最善の方法だと思うぞ」




 「誰が、可哀そうだって?」




  テーブルを、挟んで話し込んで居た夫婦の真上


 から突然声がしたので「うわ!」「ひえ!」と言


 葉にならない奇声を上げて二人は思わず椅子から


 立上ってしまった。




 「なに、二人でコソコソ話し合ってんだよ」




  いつの間に、来たのか和彦が夫婦の後に立って


 いた。




 「いや、何、その何でもないんだ。あっ、そうそ


 う遠い親戚の話だよ。なあ母さん」




  陽一は、慌てまくってしどろもどろに答えた。




  順子は、順子で何よ私に振らないでよと言わん


 ばかりに陽一を睨んだ。




 「どうせ、俺を病院送りにする相談でもしていた


 んだろう」




  図星を、当てられて陽一が焦って弁解したが額


 に変な汗が出ていた。




 「違うんだよ、和彦さっきの話は遠い親戚の話だ」




  陽一の、焦って居る様子を見ながら和彦は椅子


 に座った。まだ、寝起きらしく頭は寝ぐせが付い


 たままだった。




 「母さん、コーヒー入れてくれない?」




  順子は、まるで壊れ物でも扱うかのようにおど


 おどして台所に立った。




 「はい、はい今すぐ入れて上げるからね。落ち着


 ついてねとにかく落ち着いて」




  母親に、入れて貰ったコーヒーを呑んだ所で和


 彦が口を開いた。陽一と、順子の夫婦は少し上目


 遣いに自分達の息子が何を言い出すのかと戦々恐


 々としていた。




 「あのさ、そんな目で自分の息子を見るのはやめ


  てくれないかな」




  和彦は、少し非難する様な眼で二人を見て言っ


 た。夫婦は、黙って和彦の言う事を聞いていた。




 「多分、こういう事になるだろうなと思って中々


 言い出せなかったんだよね。親父達の反応は予想


 通りだったよ言っとくけど俺は頭がおかしくなん


 かなっていないよ」




  親としては、息子の言う事を出来れば信じて上


 げたいけどあんな突拍子もない話は信じられない


 と言うのが正直な気持ちだった。




 「お前の、話には現実味が無さすぎる」




  陽一が言った。




 「私もそう思うわ」




  続けて順子もそう言いながら頷いた。




 「解った、じゃあこうしよう今から街に出よう。


 そこで、俺の言ってる事が本当だって証明する


 から」




  それから、しぶしぶ承諾した二人を連れて和


 彦と陽一夫婦の三人は春の日差しが初夏の様に


 熱く照り付ける中を陽一の愛車で出かけて言っ


 たのである。






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