宴の日
三
坂田家には、いわゆる猫の額ほどの庭がある
がその庭に、入る門柱のステン製の扉を開けると
右側に見るからに貧弱そうな雑木がある。多分ど
こかの鳥が種子を運んできたものだと思う。なぜ
なら夫婦にはそれを植えた記憶がないのである。
それから玄関の脇に申しわけ程度の小さな菜園が
あるが順子のお楽しみの場所でもある。
「今年は、キュウリとじゃがいもそれにミニトマ
トを育てるつもり去年キュウリが虫にやられて全
滅しちゃったから今年はそれのリベンジってとこ
かしらね」
陽一は、順子の言葉を聞きながら全然別の事を
考えていた。和彦の事である「あいつは、いった
いこの先どうするつもりなんだろう。仕事の、事
もそうだし付き合っている彼女のこともあるし」
「ねえ、聞いてる」
肥料袋のビニールを破りながら順子がこちらを
睨んでいた。
「あなた、いつもそうよね人の話をうわの空で聞
いてる」
手に抜いたばかりの、雑草を持っていた陽一が
少し慌てて答えた。
「聞いてるよ、ジャガイモのリベンジの話だろう」
「違うわよ、キュウリよキュウリやっぱり聞いて
なかったのね」
「ごめん、ごめん」と言いながら、陽一は別の話
にすり替えて言った。
「今夜、ほら何て言ったかな和彦がつき合ってい
る。さ、何とかさん」
「さやかさんよ、もういい加減覚えないと失礼よ」
あっ、そうかという顔をして陽一は手拭で額の
汗を拭きながら言った。
「今夜、そのさやかさん来るんだろう?」
順子は、少し呆れた様子で肥料を土にやりながら
答えた。
「そうなの、二人から大事な話があるって和ちゃ
ん言ってたけど何かしらまあだいたい想像はつく
けど」
「・・・・・」
土は、日光に当たり過ぎたのか少し水気が足り
ない色をしているが、良い感じに耕されている様
だ。 それから、一時間ほど菜園の手入れをして
から二人は家の中に入った。日は、まだ高く夕方
にはまだまだ早かったが今夜招待するお客さんの
用意をしなくてはと言う事で夫婦は早めに切り上
げたのだった。