6-13
トールやメイたちはきょとんとした顔をしていたが、テッサの泡を喰った様子からただ事ではないと理解したのか、表情を厳しくさせる。
一方で俺はというと、どうしても我ながら間抜けな表情を隠すことができないでいた。
いや、復活とか……マジか。なんでもアリか。
「カトンボの分際で復活とか……どうなってやがる」
「知らねえよ。けど、今は地獄絵図だぞ」
テッサは上を指差しながら告げる。この牢屋が地下だからだろう。今のところ振動が地下側まで来ることはないが、あのアキツが暴れ出したというのであれば、そりゃあ地獄絵図だな。エルフどもではまともな対処などできまい。
テッサの持ち帰った話にドワーフたちも、エルフたちも息を呑んだ。牢屋内に緊張が走り、誰かの唾を飲む音が聞こえるくらい、耳に痛い沈黙が満ちる。
「……じゃあ、そうだな……」
テッサに預けておいた武器を返してもらう。剣帯を装着し、剣を抜く。トールがメイたちを邪魔にならない場所まで下げた。
剣先でカンカンと格子を叩き、強度を確認。魔力伝導率が高い。けど、音の響きからしてオリハルコンではない。ミスリル製か。随分上等な牢屋じゃないかとも思うが、囚人を外に出さないのが牢屋の役目なのだから、考えてみれば当然でもあった。
おそらくはミスリルを使うことにより、受けた魔法の魔力を分解する魔法陣へ再利用する際のロスを小さくしているのだろう。最低限は空気中の魔力で補える、と。
……随分と大層な魔法陣だ。こんな技術がエルフたちにあるというのも考えられない。ひょっとすると、遥か昔の遺産なのかもしれない。よく知らないが、かつて巡ったダンジョンでは遺産を吞み込んだものがあって、よくわからないものが沢山あった。興味なかったからダンジョンコアを手に入れるついでにブチ壊しておいたけれど。
まあ、ミスリル製の格子だから何だという話。魔法に対して凄まじい防御力を発揮しようと、限度を超えた物理攻撃には敵うまい。
「〈八重刃〉」
横に刃を振り抜き、直ぐさま切っ先を反転。再度〈八重刃〉による切り返しで人が通り抜けられる程度に格子を切断する。
この牢屋は魔力を吸い取る仕組みのようだが、色々と抜け穴がある。
魔法や魔法を利用した攻撃――例えば「勇者」のスキルでいうなら〈雷鳴閃〉など――であるなら吸収されてしまうものの、純粋な斬撃として放つのであれば問題ない。〈八華閃〉のように魔力の斬撃を分散させるとそれも駄目かもしれないが、〈八重刃〉はすべて同時に叩き込むスキルだ。
一カ所が一度に吸収できる量には限界が当然存在する。無限に吸収できるなんて夢のような話があるはずない。
要は一カ所に集中して火力を叩き込めば、容易く破ることのできる程度の仕組みなのである。魔力の扱いに長けたエルフだからこそ、この穴を見逃してしまったのかもな。とはいえ、ミスリル製の格子なのだからそれなりには硬くもあるのだが。普通の冒険者ならミスリルの武器や防具など、一生かけて手が届くかどうかくらいだろうし。
隣の牢屋にいるドワーフたちはこちらが見えないため何が起こったのかわからないようだが、向かいの牢屋にいるエルフたちは口を丸くして唖然としている。
「トールたちは先に行って戦っててもいいぞ。当たり前だが、自分たちの命を優先するように。エルフが何人死んでも俺は構わないが、おまえらが死ぬのは少し困るからな」
「了解しました」
トールが頷き、真っ先に駆け出した。剣も持っていないのにどうするつもりなのだろうかと思ったが、居ても立ってもいられなかったのだろう。彼女は魔族だが、その心根は恥じることなき「勇者」であると俺も思う。
「ご主人様……メイたちも行ってもいいです?」
「死なないなら、構わない」
「わかったです!」
『あ、ちょっと、メイ! ああもう、わかったわヨ! ワタシも行けばいいんデショ!』
メイも駆け出し、エミリーもそれに付いていく。
テッサも三人の後を追って走り出し、立ち止まってこちらを振り返った。
「何やってんだよ! おまえも――」
「やだよ、めんどくさい」
「は……?」
俺の疑問に彼女は眉根を寄せた。ちらりと見ると、エルフたちも同様だった。
何を生温いことを期待しているんだ?
「勘違いしてるようだけどな、俺は別にここのエルフが死のうと生きようとどうだっていいんだ。依頼があるからドワーフたちさえ無事なら、それでいい」
「なんということを……!」
カルネの親父さんが睨んでくるが、まったく怖くない。恐怖心というものがないという理由もあるが、それ以前の段階で怖くない。
「馬鹿か、おまえ。俺がなんでおまえらを助けなきゃなんないんだよ」
「貴様は『勇者』なのだろう!?」
「『勇者』だからって、助けなきゃならない理由があるのか?」
「こんな非常時にか!?」
口から泡を飛ばす勢いで、顔を真っ赤にさせて怒鳴ってくる。エルフというだけあって非常に美男子なので、怒って顔を歪めても見れる顔である。実に不愉快だ。そのままシワが取れなくなればいいのに。
「関係ないね。非常時なのはおまえらエルフであって、俺はそうじゃない。ドワーフを守りながら敵を蹴散らすなんざわけない話だ。敵がエルフどもを一掃して疲れた頃合いを見計らえばいいだろ。馬鹿らしい。なんで真正面からぶつからなきゃならないんだ」
エルフに限らずドワーフたちも絶句したようだった。
どうも勘違いしているようだから、改めて言っておくか。
「俺は確かに『勇者』だ。だが、『勇者』になりたいと思ってそうなったわけじゃない。おまえらのロールが何かは知らないが、それと同じように、偶然『勇者』になっただけなんだよ。それで困ってる人を助けろ? 馬鹿げてるな。誰も俺を助けないのに?」
「勇者」なら無条件に誰でも彼でも助けろと? ふざけた話だ。そういう連中は豚っていうんだ。いや、豚に失礼か。では何と言えばいいのだろう。乞食か? いや、乞食だって救いを求めるし感謝するが、こいつらはそれすらせずに与えてもらえることを当然のように甘受している。やはり乞食も駄目だな。
「わ、わかった……。『欠落』さん、おれたちがスター級の武器を……」
「いやいや。それはさっきまでの話だ。危急の事態になってから助けを請うなら、そりゃあこちらの取り分だって多くしてもらわないと困る」
状況は変動する。ならば取引の内容だって変動するのが世の常だ。
豊作なら麦の値段は下がるし、不作なら上がる。水源豊かな土地と砂漠とでは水一杯の値段が変わるのは当然の話だろう。
そもそもとして、カルネたちの馬鹿げた計画をぶっ飛ばすのにスター級金属を要求している。そこに八刀将たるアキツを倒せとまで加わるんじゃ、対価が釣り合わない。
「人の命が平等だのと嗤わせるなよ。ああ、エルフだからこそ、それは言えるか」
口角を上げ、俺を射殺さんばかりに睨み付けるエルフたちへ向けて告げる。
そんな顔するなよ。差別だなんだと俺たちを見下してる癖に。本当に差別を主張したいのであれば、この状況でも自分たちでどうにかするだけの気概を見せて欲しいところだ。
「当たり前だが、俺の命が一番高い。次に俺の仲間たちだな。その次にドワーフたち。それから俺に協力してる狐面族。最後がおまえたちエルフだ。そこを見誤るなよ?」
「くっ……」
エルフたちの視線が足下に落ちた瞬間、テッサに目配せした。彼女は頷き、姿を透明にさせる。気配が離れていくのを感じたため、おそらく俺の意図を理解してくれただろう。
それにしても……アキツが蘇った? どういうことだ? 確実にヤツは殺したはず。
回復魔法などが存在する世界ではあるが……それは肉体の活性化によって傷の治癒を促進させたり、魔力を用いて損傷した部位を補完したりというものだ。決して、失った命を取り戻すというものがあるわけではない。
「…………いや」
内心で呟く。
俺が知っている限りがそうであるというだけで、別に蘇生魔法がないと断定することはできないか。
なんせ悪魔は魂を視ることができ、それから記憶を読み取ったり、魂自体を食うことだってできるのだ。人の身には余るというだけの話で、悪魔などには可能なのかもしれない。
ましてやアキツは八刀将。「剣舞の魔王」の幹部であるのだ。そういった魔法を「剣舞」が使えないと断定するのは早過ぎる。色んな意味で常識はずれなのが魔王という連中なのだし。
エルフたちを睥睨してからその場に座り込み、俺が動くことになるその時を待つ。
トールたちではアキツに敵わない。
願わくば――あいつらが死なないうちに、エルフたちがうまい交換条件を見つけ出してくれることを祈るしかないだろう。
そう考えながら、目を閉じ、地上での戦いへ耳を澄ませた。
◇◆◇◆
カルネの父親アルファルドはぐっと奥歯を強く噛み締めた。
足下に沈んでいた視線を僅かに持ち上げれば、向かいの牢屋で胡座を掻いて瞑目している人間の「勇者」が視界に入る。
黒髪で中肉中背。隻眼に隻腕の異形な「勇者」。
そう。彼を一言で言い表すのであれば「異形」というのが一番近しいとアルファルドは思った。
「勇者」というのは神に与えられたロールだ、というのがエルフの間では常識である。
エルフは皆が〈簡易魔法〉という種族固有スキルを持つため、簡易的な魔法を扱える。これは魔法の行使において詠唱を必要としないものだ。ある意味では「魔法使い」の〈無詠唱〉に近い。実際、下手な種族の「魔法使い」とエルフの〈簡易魔法〉であれば、魔力に長けたエルフの魔法の方が威力が高かったりするのだ。
そんなエルフの魔力をもってしても、「勇者」の魔法には敵わない。「勇者」とはそれだけ特別なロールなのだ。
彼らが扱う魔法はロールによって強制的に反動値が最大となっており、連発が利かない。けれどその代わりに威力が非常に高い。同じレベルで魔法を比べ合うのであれば、エルフの「魔法使い」でようやく人間の「勇者」と同じ威力になる程に。
それだけでなく、「勇者」は筋力や敏捷性といったステータスも高い。敏捷性はともかく、筋力の伸び難いエルフには非常に有用なロールなのである。
ただエルフは単純に出生率が低く、そのうえ「勇者」が稀少ロールということもあって、エルフの「勇者」というのは非常に少ない。だからこそ神が与えたロールという考え方があるのである。
かつてはエルフにも「勇者」が現れた。彼はエルフを奴隷として攫おうとする人間たちと敵対し、複数の部族と協力し、仲間たちを救い出した。またそうでなくても、「勇者」が悪人と戦う物語などは世間でも一般的なものである。
そういった背景もあって、「勇者」というのは困った者の味方という考えが、人間だけでなくエルフたちにも広く浸透している。
だというのに、今目の前にいる「欠落の勇者」は自分たちを助けないという。それも面倒くさいだとか興味がないだとか、そういった個人の怠慢の感情によってだ。さらには、手を貸すなら何か寄越せとまで言うのだから始末に終えない。こんな「勇者」など聞いたこともない。
——ということを、他のエルフたちは考えているのだろう、とアルファルドは予想した。彼にも似たようなことを考えたが、その一方で、この「勇者」が言う内容も道理だなと思えてしまっている。
エルフという種族は昔から人間に攫われ、奴隷として扱われる。それだけでも業腹だが、そのうえに性処理という役割まで持たせられる。人間からすれば、どうもエルフは見目が整っているようだからだ。
しかしエルフにとって他種族とまぐわうというのは、人間にとって犬猫やらの相手をさせられるようなものだ。とてもじゃないが正気でいられるものではない。
まして、エルフは長い期間若々しい姿を保つ。これはそれだけ長い間全盛期の肉体を保ち続けられるということだ。また種族適正のおかげか魔力に秀でているため、個々の戦闘力が高い。ゆえに人間たちは数で少数のエルフを襲い、無力化した後に隷属魔法を付与する。
種族としては明らかにエルフが上位だということもあり、余計に奴隷に堕とされるということへの恨みは強い。人間を下等種族と蔑むのは、単に種族としての上下だけではなく歴史の側面もあった。
それらもあって、エルフで人間に好意的な者というのはほぼいないといっていい。エルフの冒険者などもいて彼らは好奇心が旺盛だ……と言ってはいるものの、その実は彼らの考え方自体が異質過ぎて各村などから放逐されたというのが正確なところなのだ。
そして、アルファルドもまた、そうした異質な考えを持つエルフの一人であった。彼が放逐されなかったのは、自分が村長の子であり次期村長になることがわかっていたため、表に出していなかったからだ。
村長としての教育から他人を表面上だけで判断せず、きちんと内面を見るように諭されていた。その他人という範疇に人間も入ってしまったのは彼の父親も予想しなかったことだろう。
当時幼かったアルファルドにとって、人間というのはお話に出てくる存在でしかなかったため、それらもまた対話で理解し合うことが可能なのではないかと判断したのである。幼さゆえの純真が起こした悲劇とでもいうべきだろうか、と今のアルファルドは自嘲する。
とはいえ、次期村長になることがわかっているアルファルドは分別もついていた。だから表立って人間に肯定的な言動はせず、不和を招かないよう否定的で在り続けた。幼い頃に生まれた気持ちは消えないまま残り続けていたが。
同胞であるエルフの嫁を貰い、しばらくして娘であるカルネが生まれた。彼女もまた村長としての教育を受けて育った。次期村長の座を争うのが実の父娘というのはエルフの不思議な慣習というものなのだろう、とアルファルドはどこか仲間から外れた気持ちで思っていた。
そんな風に一歩引いた気持ちで同胞を眺めていられたのは、きっとドワーフの存在があるだろう。
ドワーフたちとエルフたちは互いの共存共栄もあり、それぞれに無いものを出し合って交易を行っていた。エルフたちからは薬草から作り出す魔法薬を、ドワーフたちからは農機具や武具といったものを。
同胞たちは人間だけでなくドワーフたちをも蔑んでいたが、アルファルドは彼らが自分たちに持ち得ない技術を有していることをきちんと理解し、尊敬した。
そして彼らと対話が可能なことから、人間ももしや、という考えがどんどんと強まった。
そうして悲劇の日が起きた。
アルファルドは隠れ里周辺の森を監視巡回する一員として働いていた。次期村長とはいえ、まだ村長ではないのだから村のため働くのは当然のことだ。自分たちで栽培した薬草と自然で生まれ落ちた薬草とで効能が違うので、それらを集めるのも仕事の内だった。
その最中、人間の女冒険者を発見する。
幸いというべきか、そのときアルファルドは単身で行動していた。慎重に驚かさないよう声をかけて近付いた。
この森に掛けられている幻惑の魔法に関しては「何かある」と理解していれば解ける程度のものなので、こうした密猟者はたまにいる。エルフたちの使う薬草があれば優れた魔法薬が作れる、と考えてだろう。
エルフの慣例通りであれば、捕らえて処刑になる。この慣例を通して、子供たちは人間が下等種族であり、自分たちの敵と学ぶのだ。
アルファルドは声を掛け、話が通じること、また自分に対して敵意を出さない女冒険者に安堵の息を吐く。それから会話を重ね、彼女の母親が病気で、それを癒すために薬草が必要なのだとわかった。
『手持ちの薬であれば渡そう。だが、このことは吹聴せず、再度来ることもないようにな。私だから良かったが、他のエルフたちが貴様を見付けていれば、即刻処刑になっていた』
女冒険者は目を丸くし、それから自分を逃がしてくれるのだと理解すると大きくさせた目を潤ませ、感謝の言葉を告げて森を去って行った。
そうして彼女が森を無事出るまで見届け、アルファルドが踵を返したときだった。
『お父様——いいえ、逆賊アルファルド。何をしているのかしら』
そこにはカルネと、他の巡回衛士たちが武器をアルファルドへ向けて立っていた。
『逆賊を捕らえなさい。そして、あの人間も逃がしては駄目よ。人げ……家畜にも利用価値はあるのだから』
酷薄な笑みを零し、カルネは部下たちにそう告げた。
アルファルドは投獄された。また、女冒険者も同様だった。彼女はアルファルドの前の牢屋に入れられ、自分のせいでと散々泣きながら謝って来たが、アルファルドは気にしないよう告げた。
慣習が他者の目からどう見えるかは別として、慣習は慣習だ。このエルフの集落において異端なのはアルファルドの方であり、正しいのはカルネたち側なのだから。
ただ、後にカルネから告げられた罰には驚愕した。否、罰という名の計画を。
ハーフエルフの量産による人身売買計画。
エルフたちからすればエルフ以外の生物は人ではないので、人身売買扱いにはならないと考えているようだ。
何度もアルファルドは考えを改めるよう呼び掛けた。それでは人間の奴隷商と同じだと。
けれど、その声は届かなかった。人間などという下等種族に心を許した異端の言葉など、誰も耳を貸さなかった。
『まず、人間とエルフとの間でどれくらい子供ができるのか知りたいわね。量産速度を把握するのは大事よ。アルファルドも心を許した人間相手だから丁度良いでしょう? その人間も、普通なら処刑されているところなのだから、感謝して欲しいわ』
そう酷薄にカルネは告げ、強制的にアルファルドは女冒険者と子を作らされた。
女冒険者はそれでも生まれた子を可愛がろうとした。アルファルドもまた向かい合う牢で一年という時を共に過ごしたためか、情が育まれた。
だが、生まれたハーフエルフはカルネに奪われた。自分たちに預けておくとどういった教育をするかわからないとのことだ。そのハーフエルフは実験台としてカルネが育てるという。育てるという言葉に反し、それを告げたときのカルネの顔は父親であるアルファルドからしても憎たらしく思えるほどに歪んでいて、まともな教育が施されるはずもないと一目で理解できた。
子を奪われた女冒険者は発狂し、泣き叫びながら牢に頭をぶつけ続け、死んだ。
その様をアルファルドは見続けた。己の罪だと理解し、見続けることこそが罰だと思った。
それからどれだけの年月が経ったのだろうか。牢屋は地下であるため、どれだけ時間が経過したのかわからない。同胞であるエルフたちが一人、また一人と牢に閉じ込められていった。話を聞いても、どれも軽い罰で済みそうなものばかりだったため、アルファルドはカルネのいうハーフエルフの計画が本気なのだと知った。
けど、どうしようもない。
諦めから絶望がやってきた。絶望が心を満たすのにそう時間はいらなかった。ただ生きて、ハーフエルフを作るだけの存在。カルネが望む家畜同然の存在までアルファルドは堕ちた。
そこへやって来たのが、目の前にいる「欠落の勇者」だ。
彼と話すことで、少しずつ絶望で満ちた心に亀裂が走った。
「欠落」はエルフなどどうでもいいと言う。それはカルネたちからした人間と同じだ。
けれど、彼はまだ幾分か理性的なのかもしれないと思う。他者などどうでもいいと告げておきながらも、「依頼を受けたから」としてドワーフたちを守ろうとしている。彼の本音通りならば、ドワーフも見捨てるはずなのだ。
つまり言外に彼はこう言っている。「己を納得させるだけの対価を出し、依頼として頼め」と。
アルファルドはそれに縋りたい。けれどもエルフとして、次期村長として生まれ育ち、本音を隠すために強固にした仮面はそう易々と剥がれてくれない。まるでこの仮面こそが本当の顔なのだと言い張るかのように、本当の気持ちを吐露することができない。
口からは本音と違う、彼らを罵る言葉ばかりが顔を出す。
またその反面、アキツという八刀将が来たというのであれば、もういっそのことこのエルフの集落が滅んでしまってもいいのではないかと、心の中に今なお残る絶望が言葉を発する。
カルネの計画を進めた場合、他のエルフたちがどういう反応を取るかわからない。
金を集めることはできるだろう。けれど、金が集まったところでどうしようというのか。
金はあくまでも道具だ。決してそれが力を持っているというわけではない。
今回のように、より強大な武力を持った者たちがハーフエルフの商売を利用しようとした場合、どうなるのか考えていないのだろうか。
中途半端な富ならば、ない方がいいというのに。
他の牢に閉じ込められている同胞たちが「欠落」を罵る言葉が聞こえる。
ドワーフたちが「欠落」に懇願する言葉が聞こえる。
それらが反響し合って、まるで心の内側からの声のようにも感じられた。
どうするべきなのか。
どうすればいいのか。
わからない。
わからないまま、アルファルドはただただ奥歯を噛み締めた。




