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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」とエルフたち
86/129

6-12

「黙れ。誰が勝手に喋っていいつった。馬鹿野郎が」


 向かい側の牢屋にいるエルフたちが俺を睨んでくる。今のはトールの向かいの牢屋にいたエルフだな。いやあ、全員眉目秀麗なことで。野郎は殺してやろうか。


「あの、ご主人様……。いきなり喧嘩はよくないと思うのです」

「馬鹿言え、メイ。初対面のときが一番大事なんだぞ。舐められたら終わりだ」

『マスターの場合、舐められたら叩き潰すんだから、どっちでもイイんじゃナイ?』


 それもあるか。なるほど、たしかに。エミリーの癖に良いこと言うな。

 よし。もうちょっと話聞いてやるか。


「我々エルフをあまり甘く見――」

「そういうのいいから。いや本当。昨日もそういうこと言うヤツ一人始末したし」


 手をひらひらさせながら男の言葉を遮った。


「エルフを、倒したのですか?」

「エルフじゃないよ。八刀将のアキツってヤツ」


 トールの問い掛けに答えたら、彼女もエルフたちも顔を引き攣らせた。


「ば、馬鹿なことを言うな! 八刀将が人間風情に破れるものか!」


 何故かエルフどもは手枷などがないようで、格子を掴んで吼えてくる。


「八刀将を破ったぁ!?」


 男が吼えてしまったため、反響して牢屋にいた囚人全員に聞こえてしまったらしい。続いてドンネルが悲鳴を上げた。


「とは言っても、倒しちゃったんだからしょうがない。そもそも、アールグランドに初めて来てすぐにおまえらの依頼受けて今に到るんだ。じゃないと八刀将のことなんか知らんし、アキツって名前すらわかるわけないだろ?」

「だ、旦那さまの言うことを疑っているわけではないのですが……一応、お聞かせしてもらってよろしいしょうか? アキツというのは、どんな外見でしたか?」


 トールは頬を引き攣らせ、冷や汗を流しながら問い掛けてくる。


「トンボの魔族だろ。まあ魔蟲族っていうんだろうけど。ブンブン飛び回ってウザかったから、辺り一帯焦土に変えてやろうとしたら馬鹿正直に正面から突っ込んで来やがった。はは、あんなのは敵にもならんな」


 まあ空中での戦いだったから面倒ではあったけどな!


「アキツ殿が、敵ではない……」

「ま、トールじゃ勝てないだろうな」

「くっ……。そう、ですね……悔しいですが、そうでしょう」


 レベルはトールの方が上だが、あちらは種族とロールの相性が良い。それに「勇者」はバランスの良いオールラウンダータイプのロールだが、これは一点特化した相手との相性が悪いのである。特に敏捷に長けた相手は最悪だ。こちらの攻撃は当たらないのに、向こうの攻撃は一方的に喰らってしまうのだから。

 ましてや、アキツは「剣舞」に魔改造されている。トールでなくても、普通のやつらでは勝てない。八刀将という名前の感じからして、あと七人も魔改造された幹部がいるみたいだな。鬱陶しい。

 アキツがスピード特化だから、あとはパワー特化と防御特化と魔法特化みたいな感じか?


「防御だけに留めるなら、トールでも抗える。つっても削られるだけだからじり貧で、勝つことはできないけど」

「……今は、それで満足するとしましょう。あのアキツ殿に防御だけでも抗えるというのですから」


 薄々予想はしていたが、やはりトールはアキツというか八刀将のことを知っていたみたいだ。「叡智」の側近なのだから、親交のある「剣舞」の幹部を知っていてもおかしくはない。


「というかさ……なんなのおまえら。取っ捕まってる割には手錠とかないしさ。どっち側なわけ?」


 立ち上がり、軽く鉄の格子を蹴る。軽くではあったが結構な音が鳴り響き、エルフたちはびくりと震えた。特に俺の入れられた牢屋の正面にいる女のエルフは壁に張り付いてしまっている。今にも泣き出しそうだ。ちょっと悪いことしたか。すまんな。心の中で謝っておこう。


「このまま取っ捕まってたら俺たちとエロいことさせられるんだろ? 俺はそういうの好きだけどさ、自分でヤるならともかく、他人に強要されるのは嫌いなんだわ」


 和やかにするのも好きだし、反抗するのを押さえ付けるのも好きである。

 だが、それらはあくまでも俺が主体の話だ。

 俺が自分の意思で行為に入るというのが前提条件となる。

 なんで他人に強制されなきゃ駄目なんだよ。不愉快だ。

 俺に強制させることができるのなんて師匠たちくらいだ。あとクソ仙人くらい。育ててくれたり鍛えてくれた人には報いる。


「それにこのままだと、このエルフの里は滅びるぞ」

「なに……? どういうことだ!?」


 さっきの男が反応する。トールがこそっと耳打ちしてきた。どうも彼は今のエルフたちを牛耳っているカルネの父親であるらしい。はー、父親まで投獄するのかと驚いていたが、どうも話が違う。

 なんでもやつは人間と関係を結び、その罪で投獄されたのだとか。なるほど、つまりは変態か。人間でいうと犬や猫を犯したようなものだからな。

 変態と話すのはちょっと気落ちするが、彼はそれまで次期村長として教育を受けてきたらしい。なので、これから話す相手としては好都合かもしれなかった。変態を次期村長として育てるとか大丈夫かエルフ。


「カルネ主導の、今のエルフたちのやろうとしてることはわかってるよな?」


 自分たちを利用してハーフエルフを増やし、それを奴隷として出荷する商売だ。出来の悪い子は出荷よー、ということだろう。それを率先して作らせといてよくもまあ言えるものだと思うが、考えようによっては人間社会の家畜と同じなので、納得もできる。それを同族相手にするというのは狂気的だが。


 そしてドワーフとの関係を切り、魔王の配下である狐面族と新たな繋がりを作る。ドワーフへ委託していた業務関連は狐面族が引き継ぐというわけだ。


「馬鹿げたことを考えるものだ……。将来性がまるでない。ほんの僅かな金で未来を売り渡すというのか」


 ほう。こいつは変態だが頭の回る変態のようだ。きちんとリスクを理解している。


「それだけならまだマシだけどな、実はもうその計画詰んでるんだわ」

「……貴様らが来たからか?」

「違う違う。俺たち関係ない」


 手をヒラヒラさせながらカタコトで告げる。俺の力の一端は見せつけているし、アキツを倒したかどうかは半信半疑だろうが、戦って生き残ったということくらいは信じてくれているはずだ。だからこそ挑発的な口調を事前に放ち、その後の内容とで落差を生じさせる。結果、その重大性を理解してくれる……といいなあ。

 まあドワーフたちを生かして帰せたらここのエルフたちなんぞどうなってもいいのだが。ヘータは最悪、ドワーフたちに預ければいいし。でもエルフの秘薬は欲しいので、ちょっとくらいは助ける姿勢を見せてやらんこともない。


「まず、狐面族には優れた鍛冶技術なんてものがないってのが一点」


 全員が唖然とした顔になり、続いてそんなのは信じられないという意見が出る。

 それは当然だろう。そこまでカルネが馬鹿だとは思わないだろうから。信用に足るだけの情報がなければ、わざわざドワーフを切ってまでして協力関係になろうとは思わない。

 ただ意外だったのは、ドワーフやトールといった俺の身内側からも反対意見が飛び出したことである。


「旦那さま。失礼ですが、それは信じられません」

「なんで?」

「カルネとかいうあの小娘だがな、おれたちドワーフの目から見ても相当な業物の短剣を持っていやがったんだ。装飾も細かく、素晴らしい出来と言わざるを得ない。ドワーフならアレを作れるやつは即座に出世するはずだ。自分の工房を持てるくらいに」


 ふむ。それがどこまで凄いのかはイマイチわからんが、ドワーフでも作れないほどの逸品というのは凄まじいな。実際に剣を武器として扱うトールも納得するのだから、実用性の方も十二分にあるのだろう。


「でも、間違いないんだよなあ。狐面族の村に行ったけど、そこに鍛冶場はひとつしかなかった。それに、俺に協力してる狐面族のヘータも、別に狐面族が鍛冶に優れてるなんて話はないって言ってたし」

「なんだと……!? じゃあ、カルネたちは騙されているということか!?」


 カルネの親父さんが両手で頭を抱えて悲鳴を上げる。

 いやいや、けどさ、ここで終わる話でもないんだよねえ。


「もう一点、問題がある」


 親父さんが青ざめた顔を上げた。他のエルフたちも、俺の話している内容があまりにも衝撃的過ぎ、尚且つ信用性に足ると思ったのか、真剣な面持ちでこちらを見詰めている。正面にいた女のエルフですら格子に近付いてきているくらいだ。


「俺がアキツと遭遇したのは狐面族の村方面からだった。で、ヘータを差し出せとかふざけたこと言ってたから返り討ちにした。それで狐面族の村に行ったんだが――」


 ふと、あの光景を思い出す。僅かに、不快感が募った。

 不快感を飲み込み、振り払う。今はそんな感傷に浸っている場合じゃない。


「――狐面族の村は皆殺しにされて滅んでいた。今、生き残りはヘータただ一人だ」


 わざわざアキツの話を挟んだのは、その犯人が誰かを明確にさせるため。

 余程の馬鹿でない限り、気付かないはずもない。


「その、アキツさんがやったんです……?」

「そうだ」


 なにしろメイが察するくらいだ。

 メイは沈痛な面持ちで、俺の服をぎゅっと握っていた。彼女の種族であるドッペルゲンガーはサルニア大陸において絶滅したとメサイアから聞いていたし、彼女にも思うところがあるのだろう。


「何故だ……? 狐面族は魔族――魔王の配下なのに」

「さあ? 気分かもしれないし、逆鱗に触れたのかもしれない。理由なんてどうでもいいだろう? 問題は今の状況だ」


 エルフが狐面族に裏切られるということはなくなった。何しろ、その裏切りを画策していた狐面族自体がいなくなってしまったのだから。

 しかし、それによってエルフは別の問題に直面することになる。


「ドワーフとの関係を自分たちから切ってしまったから、これから武具などは自分たちで作るしかない。ノウハウがないから、かなり性能は落ちるな。しばらくは今あるものだけで生活するしかないわけだ。けどいずれは朽ちる。それまでに自分たちでノウハウが作れればいいが、できなきゃ死ぬな。はは、まあ必死になったらなんとかなるかもな」


 武器であれ農機具であれ、手入れや修繕は必須だ。でないと本来のパフォーマンスを発揮することなどできやしない。手入れくらいならエルフたちでもできるかもしれないが、修繕は無理だろう。下手をすると有限であるそれらを壊して駄目にする可能性もある。


 また、外との繋がりを持たないエルフたちはハーフエルフを奴隷として売り出すこともできなくなった。狐面族に任せてノウハウを伝授してもらう予定だったのかもしれなかったが、それはもう無理だ。

 そもそも、その苗床となる俺たちはここを脱する予定だし、それをエルフたちが妨げるのも不可能。

 残るのは外界から隔離された状態のエルフたちだけが残る。しかも皆をまとめるカルネに大きな不信を抱いた状態で、だ。


「不和が広がり、内乱も起こるだろうな。五年、この村が残れば良い方だろう」

「そんな、馬鹿な……」


 親父さんは頭を抱え、その場に蹲った。他のエルフたちも沈痛を通り越し、絶望を浮かべている。

 いい気味だ、とは思わない。俺は別に彼らに対してそんな感情を抱くほどの敵意などないのだから。

 そして可哀想だから無条件に助けてやろう、なんてお優しい感情も沸かない。何故こちらを下等種族と蔑む挙げ句、自分たちを奴隷を生むための苗床にしようとする連中を憐れむ必要があるのだろう。

 これはエルフたちが勝手に自爆して滅亡への道を歩み始めただけの話だ。そのツケは自分たちで支払わなければならない。

 俺の前にいるエルフたちは絶望に暮れて泣き始める。鼻を啜る不快な音が反響し、ここからは見えない向こう側に囚われたエルフたちも泣いているのが響いてきた。


「ご主人様……」

「ん?」


 くいくい、とメイに服を引っ張られる。


「どうにか、できないです?」

「なんで俺がこいつらを助けなきゃいけないんだよ」

「それは……でも、可哀想です……」

「はあ……。可哀想な連中なんてこのご時世いくらでもいるぞ? なんでわざわざ俺が汗水垂らして、その中からこいつらを助けなきゃならないんだよ」


 ましてや俺たちを勝手に捕らえ、自分たちが利する道具にしようと企む悪党どもを。まだ正面から土下座してお願いしてくるような連中の方が、助け甲斐もあるってものだ。

 そう。助け甲斐があれば、話はまた変わる。気付け。


「あう……」

「そもそもだな。俺がここに連れて来られたとき、看守のエルフたちがいただろ? そいつらを前にして、こいつらはだんまりだったじゃないか。反抗的な態度くらい取ってたら俺も多少心変わりはしたかもしれないが、これじゃ駄目だ」


 ハッキリ言ってしまうと、ハングリー精神が足りない。和を乱すほど行き過ぎたものは話が変わるが、それでも内部で対立する意見というのは重要だ。こいつらから、俺はそれを感じることができない。もし救い出したとしても、また似たような目に遭えば助けを請うだけの醜悪な存在になり下がる。


「自分では何もせず、力ある者に頼るだけの弱者か? おめでてーな。そんなのを見て、どうして他人が助けてくれると思うんだよ」


 吐き捨てるように告げるが、誰も言い返してこない。

 これだ。さっき、俺がまだどれだけ強いかわかっていないときは噛み付いて来たのに、こちらが強いとわかると何も言わなくなる。そんな負け犬根性が染み付いた連中を助けようとは思わない。ましてや、俺たちを捕らえた他のエルフたちなんて論外だ。


 そしてそれは、ハーフエルフにもいえることだ。今考えると、留守の間に俺の荷物を漁って、町を脱しようとしていたあのハーフエルフは根性があった。殺したのは少し可哀想だったかもしれないな。まるで後悔も反省もしてないし、時間が巻き戻ってもやっぱり殺すだろうけれど。


「…………メイは、少しわかるのです……」

「あん?」


 メイは視線を足下に落とし、震えた声で呟く。


「奴隷で、酷い目に遭ってると……何も考えられなくなるです……。『何をしても無駄』って思えてきて……それなら、何もしない方がいいって思うのです。期待したら、した分だけ、駄目だったときの反動が辛いのです……」

「それが負け犬根性っていうんだ。それが染み付いているヤツはどうしようもない。どこまで行っても他人に任せてしまう」


 責任の放棄。判断の放棄。自己の放棄。それで事態が好転するワケがない。

 良くなるかわからない。悪くなるかもしれない。けれど、動けば見えなかった場所が見えるようになる。それは成長だ。

 その一歩を踏み出す勇気がないというのなら、死ねばいい。どうせいつかは死ぬのだから、緩やかに死ぬかすぐに死ぬかだけの違いだ。

 一歩を踏み出す勇気がある者ならば何か変革をもたらすことができるかもしれないが、そうでないのなら何も生み出さないまま緩やかに死ぬだけなのだ。希望のない者をわざわざ救うような労力を俺は取らない。それは徒労というのだ。


 俺の言葉に、メイも黙り込んでしまった。ただエミリーとトールは何かに気付いた様子で、俺を見てくる。


 そう。俺はこのエルフたちに希望を見出せない。だから助けない。

 それなら考え方を変えればいい。俺が助けるに足るメリットを考え出せ。

 それこそが、未開の地に足を踏み出す一歩に他ならないのだから。

 けれど、どれだけ待ってもエルフたちは何も言おうとしなかった。ただ自分たちに降ってきた絶望に圧し潰されたまま、嘆くことしかできない。


 こりゃ、駄目かもな。


 今の状況で一歩踏み出し、何か発言するというのはかなり楽勝の部類だ。だって失敗したところでデメリットはない。俺だってかなり譲歩しているつもりなのだ。

 誰か一人でも勇気を持って踏み出し、俺に交渉しようとすれば済む話なのである。そうすれば俺が引き受けなかったとしても、他のアイデアを考える者が出てくるかもしれないのだから。それなら俺だって交渉次第で助けようとは思う。

 助けて欲しいなら助けてと言えばいい。それもできないやつらを助けることに、俺は意義を見出せない。


 ………………駄目だな、こいつら。

 そう呟こうとした瞬間、予想外にも、ドワーフの側から声が発せられた。


「なあ、『欠落』さん?」

「なんだ?」

「どうか、エルフたちを助ける方法を考えてくれんか?」

「はあ? なんでおまえらがそんなこと言い出すんだよ?」


 思わず顔を顰めてしまう。意味がわからん。


「いや、おれたちもこの状況には怒ってる。今後の付き合いを考えるくらいにはな。けれど――エルフとの交易がなくなって困るのは、おれたちなんだよ」


 囚われのエルフたちは泣きはらした顔を上げ、ドワーフを見やった。


「おれたちにとってエルフの魔法薬は重要だ。それでこれまで助かってた命が、これからは助からないかもしれないからな」


 ドンネルの言葉に他のドワーフたちも同意を返した。

 しばし考え、俺は答えを告げた。


「駄目だな。俺のメリットが余りにも少ない」

「なっ!?」

「極端な話をするぞ? 情なんて一切ない話だ。そっちもフラットに第三者的な視線で聞いてくれ」


 前置きをしてから、続ける。


「俺はエルフが滅んだところでどうでもいい。そして、ドワーフが滅んでも、やっぱりどうでもいいんだ。ドワーフやエルフが生きていようと生きていまいと、俺にはなんの関係もないからな。正直な話、俺がおまえらも助けようとしてるのは護衛として依頼を受けているからに他ならない。そうでなければ完全に無視してさっさと帰ってる」


 息を呑むような音が聞こえた。メイやエミリーからも聞こえる。トールもだな。なんだなんだ、全員じゃないか。


「……ふ、慈悲がないな」

「当たり前だ。俺は『欠落の勇者』だぞ? そんなマトモな感情はどっかに落として来たわ」

「うむ。それじゃあ……依頼者として、お願いしたいことがあります」


 ドンネルは口調を変えた。依頼者と冒険者としての交渉がしたいということだ。


「報酬を上乗せします。そちらの要望を出来る限り応えようと思います。そのうえで、もう一度、今の相談を考慮してもらえませんか?」

「…………ック」


 喉の奥で音が鳴ってしまう。打てば響くというやつだろうか? こういう反応を待っていたからこそ、喜んでしまった。

 何かがあればそれに対処しようと頭を捻る。そういった精神を、俺はエルフに期待していたのだ。なのにそれをエルフでなく、彼らに嵌められたドワーフがするとは。皮肉と言う他ないな。


「んじゃ、スター級金属で作られた片手剣」

「――――っっっ!?」「なんじゃとぉっ!?」「と、とんでもない話だっ!」「お、おおおおい! 誰か酒をくれ! 呑んでないとまともに考えるのも無理じゃあっ!」


 ドワーフたちが衝撃を受けているが、それはエルフたちにしても同様。俺が要求しているのはそれだけの代物なのである。


「あの、ご主人様……スター級金属ってなんです?」

『はあっ!? メイ、知らないノ!?』

「あう……。ごめんなさいです……」


 まあメイにはまるで関係のない話だからな。仕方ない。

 トールに視線をやり、彼女に説明させる。ドワーフへの要求にトールも驚いていたようだが、それでもこくりと頷いてメイへ説明した。それを介し、エルフたちにも、改めて俺の要求がどれだけのものか理解してもらう。そして、その要求をもしもドワーフが呑んだ場合、自分たちがドワーフへどれだけの貸しを作ってしまったのか自覚させる。


「基本的に、武具などに使われる最上位の金属はミスリルやアダマンタイト、オリハルコンなどといわれています。ミスリルの方は魔力伝導率が高いため、『魔法使い』などの杖としてはこちらの方が良いとされていて、アダマンタイトは硬く丈夫なため剣や槌に使われます。そして、両方の良い部分を併せ持っているのがオリハルコンです」


 一度、世間一般の金属についての説明を挟んだ。メイは頷き、続きを促す。


「その上にスター級という金属があります。順にスターシルバー、スターゴールド、スタープラチナ……そして、スターハートです」


 その名を聞くだけで震える者が少なくない数いた。幻聴か、ドワーフ側の壁が軋んだ気がする。


「それは……ものすごーく、珍しいです?」

『珍しいってレベルじゃないヨ、メイ! ないって言った方がいいくらいなのヨ』

「ミスリルやオリハルコンが山のように採れる鉱山があったとして、スター級でも一番産出量の多いスターシルバーですら、それらの一割以下とされています。ハッキリ言ってしまうと、ひとつの鉱山から採れる量ではナイフ一本作れません」


 スター級の武器はその大きさにもよるが、ひとつだけで大国の国家予算並の値段とされている。それだけ強力でもあるのだが、いかんせん出回るわけもないのだ。


「それに加え、生成条件がわかっていないので、どこでどのスター級金属が採れるか皆目わからないのです。他の金属が採れないただの山で石灰を採っていたところ、スターシルバーが少量手に入ったという話もあります。ですが、それで石灰山などを集中的に掘っても、スターシルバーは手に入りませんでした」


 つまり、どこで採れるかわからないから博打にしかならないのである。一応はミスリルやオリハルコンの採れる鉱山からは微量採れるようだが。


「ただ、スターシルバーだけは……仮説が挙がっています」

「採れる条件です?」


 正確には、スターシルバーが眠っている鉱山の傾向というべきだろうか。

 トールは喉をごくりと鳴らし、告げる。


「人だけでなく、数多の生物が多く死んだ山です」

「っっっ!?」


 そうだ。そのため「スター級金属は魂が圧縮・凝固されたものではないか?」と言われてもいる。だが、それだけなら気にする者はあまりいない。あくまでも噂だからだ。鍛治師にしたって、そんなものは気にせずに稀少金属を使って素晴らしい業物を作る方が先決だろう。

 ただ、そうはさせない事情がスター級金属にはある。

 それについてトールは躊躇いながらも話し始めるようだ。


「……あまりの加工難度に集中力を使い切ってしまうのか、それともスター級金属がそういったモノなのかはわからないのですが……。スター級金属を加工した職人は、それから数年以内にほぼ全員が死亡しています」

「そ、そんな……それじゃ、呪われた金属です!?」

『そーゆーコト』


 だから、鍛治師でも余程気が狂った本物でない限り、スター級金属の加工には手を染めない。

 俺は幸いにして「英雄」であるとき手に入れていたが、アレはエルキア大陸のドワーフだからこそ譲ってくれたともいえる。

 エルキア大陸は「強欲」の支配地であったため、ヤツの機嫌ひとつでドワーフたちはいつ滅ぼされてもおかしくなかったのだ。ならば、それを倒せる可能性のある「勇者」にスター級装備を渡そうということで、作ってくれたのである。彼らが後にどうなってしまったのかは、俺も知らない。気にはなっているのだけれども。

 まあ、引っ掛かるところはあるんだけどね。スター級金属使って武器作ったからって、本当に死ぬのか? だって呪われた金属だっていうなら、それを使ってた俺が死んでないとおかしいだろ。鍛冶で呪いが抜けるっていうんなら、先に抜けばいいし。

 よくわからない謎の金属がスター級金属と思っておけばいい。


「まあ、ともかく。俺にとっちゃミスリルもオリハルコンもくず鉄と大差ないんでね。数打ちの安物を使ってたけど、スター級の武器が欲しいなーとは思ってたんだよ」


 戦力アップもあるが、なによりメンテナンスフリーなのが素晴らしい。スターシルバーなら多少は気にしないといけないが、スターハートの武器なら本気で気にする必要もないのだ。スタープラチナの軽鎧も懐かしいなあ。


 というか、材料自体なら俺はそれなりに持ってたんだよな。さすがにスターハートは見付からなかったが、スタープラチナまでのスター級金属なら、片手剣一本分くらいなら所持していた。ただその荷物空間ごと悪魔に奪われたが。「英雄」じゃないとアクセスできないんだよう。

 山に限らず、意外とぽろって落ちてたりするぞ、アレ。というか、金属として考えて山掘ってるから出ねえんじゃねえかな。足滑らして川に落ちた後流された先の湖の底にあったりしたんだけど。


 話が横道に逸れ過ぎただろうか。元に戻そう。いや、一旦整理すべきか。


 俺はここのエルフたちに好感など当たり前だが抱いていない。勝手に滅べと思っているくらいだ。けれど、それでも助けて欲しいと懇願するのなら、条件次第で助けていいとは考えている。

 問題はエルフという種族がここの者に限らず排他的であり、なおかつ差別的であるということだ。そんな余計なプライドが邪魔をするのか、俺にへりくだることも、助けてもらえるよう条件付けて懇願することもしない。

 そこで横から口を挟んで来たのがドワーフだ。彼らも俺たちと同じくエルフの罠に嵌められた。しかし、彼らの同胞のことを考えると、憎しみを堪えてでもエルフたちを生かすべきだと考え、彼らが俺にエルフたちを助けるよう懇願している。


 うん……エルフとか滅べばいいんじゃないかな。いや、それはそれで困るか。俺も連中の魔法薬は欲しいのだ。ただそれはここのエルフに限った話ではないし、渇望しているというわけでもない。別のエルフの集落を訪れて仲良くなれば手に入るものでもある。


「……ん?」

「たたた大変だっ!」


 バタバタと足音が牢屋内に反響し、近付いてくるのが聞こえた。その主の発する声は俺も知っているものだ。テッサである。

 彼女は慌てた様子でやってくるやいなや、格子の隙間から俺に片手剣と剣帯を寄越してくると同時に口を開く。


「またアイツが出て来たぞ! あのアキツってヤツ! 本当におまえ殺したんだよな!?」

「…………はあ?」


 逼迫ひっぱくした様子のテッサに対し、俺は間抜けに口を開いておくことしかできなかった。

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