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今回の話は非常に短いです。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
村長はふうと重い溜め息を吐きつつ、自分の孫娘の背を見る。
会議は見事としか言い様のない手腕で孫娘が進行させている。しかし、それはドワーフやその護衛の人間たちを生け贄にするという計画である。いや、牢獄に捕らえられる犯罪者であるとはいえ、自分たちの身内であるエルフをも生け贄に捧げた会議だ。
自分が老化点を超えて一気に衰える前から、カルネを次期村長として様々なことを教えてきた。
しかし、何が狂って彼女は身内やドワーフたちを生け贄とするような、非道なことを考えるようになってしまったのだろう。
止めたい。けれど、今の自分では誰も付いてこないだろうという諦観もあった。既に誰もが彼女を村長として認めている。正式な村長ではないが、それは自分がこうして後ろにいるという理屈で誤摩化しているのだ。
倫理的に誤ったものではあるが、カルネのアイデアは今のエルフの困窮した事態を打破することは間違いない。ただ、彼の目にはどうも、それは期限付きであるように思える。
狐面族が自分たちだけでハーフエルフを調達できるようになったら? 販売のノウハウなどを身に着けたら? そのとき、苗床となる対象として自分たちをも狙うとは誰も考えないのであろうか?
(しかし……劇薬も薬には違いない、か)
自分を粗末に扱っているという憤りもある。孫娘だからという情は、彼女が次期村長として就任し、そのために努力すると言ったときに捨て去った。だからこそ、彼は敢えてそれらの疑問を口にすることはしなかった。どうせ自分は老い先短いのだから、もういつ死んでもいい。愛すべき肉親への情もないし、もう誰がどんな目に遭おうとも、余計なことを考える必要はないのだ――と自分を必死に誤摩化す。
このエルフの集落は衰退の一途を辿っている。教育の過程で、カルネはそれを誤った形でどうにかしたいと思ったのだろう。
元々、エルフは出生率が低い。男女共に性欲が低いというのも理由のひとつだ。そのうえ、この町から外へはあまり出ようとしない。閉ざされた集落なのだ。
中には集落の外に出る者も、ごく僅かではあるが、存在する。しかし、無事に帰ってくる者はさらに少数だし、大抵は女性で、人間たちに犯されて妊娠してしまったということが多かった。そうした事例が重なり、外に出ようとする者はますます減っていったのだ。
ただ穏やかに生活していれば、この集落はまだ生きられる。しかし時代の流れなのだろうか。若い者たちの中には集落を大きくしようと言い出す者も出てきた。そういった者もこれまではいたが、この一年は異様なほどに多い。
理由の一因として「英雄の勇者」が挙げられる。彼はエルフより数以外劣る人間という種族でありながら、最強最悪と名高い「強欲の魔王」を討った。ならば自分も、と言い出す若いエルフが出るのも仕方ない話なのだ。
それだけならまだ抑えられた。「強欲の魔王」はあまりにも強大で、彼の爪痕は世界中に散見され、どの大陸のどんな種族であろうと畏怖する対象だからだ。
ゆえに「英雄の勇者」が人間とは思えないくらい規格外の存在なのだ、という理屈で誤摩化すことができたのである。
ただそれから一年の内に、今度は「神託の勇者」が「嫉妬の魔王」を討った。今回の魔王は最弱とされる魔王だ。けれども、魔王は魔王。「嫉妬」もまた他の魔王と同様に悪報は数多く存在する。
そしてそれを討った「神託」もまた、「英雄」と同じく人間だった。
今度は抑え切れなかった。
この集落の未来を憂う若者が増えるのは嬉しい。
集落を大きくしようと頭を捻る者が増えるのも喜ばしい。
しかし、そのために長年の付き合いであるドワーフたちを裏切り、魔族と協力するというのはどう考えてもおかしいのではないだろうか?
会議の内容は、今回の件で半数のハーフエルフが得られるとして、それを幾らの金で売るかということ、その金でどれくらいの物が買えるかということ、苗床となるエルフを増やす方法などに変わっている。
まだ得られるかどうかもわからない金銭で買うものを決める。それ自体、会議で扱うのも馬鹿らしい話だと彼は思う。だが、敢えて口を挟もうとはしなかった。それが上手く行くにしろ行かないにしろ、すべて彼女たちの糧になるだろうと考えたからだ。
まして、苗床となるエルフを増やす方法などあるわけがない。異種族との交配など、男でも女でも嫌に決まっている。元々投獄する必要があるほどの犯罪者など年に一人いるかいないか程度。こんな罰があるとわかれば、今後罪を犯す者はさらに減るだろう。増えるはずもないのだ。
ゆえに、いずれは法を犯してもいないエルフが苗床にされる可能性が濃厚だった。自分たちの権利が広がるとわかれば、欲に倫理観を壊されてしまうのは人間であれエルフであれ同じだからだ。知性ある生物すべてに共通するものともいえるだろう。
(この集落も、もう終わりやもしれぬな……)
老いたエルフはひとり、昏い未来を予想して重い溜め息を再度吐くのだった。




