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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」とエルフたち
80/129

6-6

 ヘータに先導させ、俺とテッサは狐面族の村へと向かっていた。

 魔族たちは一族ごとに固まって暮らすことが多いが、それはやはりこの大陸においても同様であったようだ。

 魔王軍の配下であるため、徴兵によって年に一定数は必ず兵士として向かわせねばならない。だから基本的にどの魔王も魔族たちに子を増やすことを奨励している。ただ魔族たちとしても働き手が減るのは困るため、限界数ギリギリまでしか出さなかったりする。

 逆に戦闘に自信のある種族は多数を向かわせ、魔王に自分たちの存在をアピールする。そうすれば様々な利権や恩恵に得られるからだ。


 そういう意味では人間での貴族の仕組みに似ている。違いがあるとすれば、人間などのように一部の家系だけが貴族になるのとは違って、魔族たちはどの種族であっても全員貴族のような立場であるということか。種族をまとめる長が貴族という扱いで、残りは全員その家族と考えればいい。


 また、貴族のように子孫を別の貴族と結ばせ、婚姻関係で力を増すというやり方を魔族は取らない。同じ魔族であるとはいっても種族が違うため、それは変態と見做されてしまうためだ。

 俺は人間だからその辺りの機微がよくわからないが、犬が猫と盛るようなものなのだろう。まあたしかに、俺もリンゴとレモンを掛け合わせてより酸っぱいリンゴを作ったりしたら激怒するだろう。リンゴはあれで完成されてるからいいんだよ。けど酸っぱいリンゴもそれはそれで食べるよ。リンゴに罪はない。


「で、狐面族ってのは弱い魔族なんだな?」

「そうです。一五〇レベルに届く者は一握りで……」


 才能限界的な問題だな。

 弱い種族というのは才能限界が低い種族といえる。実際は特殊なスキルを持っていたり、戦い方次第で上手に立てたりするのだが、それでも圧倒的にステータスの開きがあれば勝率は低くなるし、一部のみの話だけになってしまう。

 そもそもとして、魔族というのは素の身体能力が高い。少なくとも、人間よりは遥かに。だからレベルを上げれば物理で殴るだけで、大抵の敵には勝てるようになる。

 これらの理由から魔族において一番重要なのはレベル……つまりは才能限界であり、次に特殊なスキルということなのだ。


 また強い魔族は生まれた子供もある程度までレベルアップしやすいという恩恵がある。これは人間という種族に固有で〈経験値獲得量上昇(微)〉があるようなものだ。人間のそれとは違って永続的でなく、一定年齢まで効果があるとかそういう時間制限付きのスキルのようだが。


「それで、今回のエルフとの共謀をすることになったんです」


 狐面族はエルフと協力し、ハーフエルフの量産をすることになった。

 俺がいう勝者敗者の理屈と同じく、単純な戦闘力などで上に立てないなら経済力や特産商品で名を上げようという理屈である。最初は実験ということでエルフの隠れ里だけで行う予定だが、それが軌道に乗れば犯罪者として捕縛されているエルフを狐面族の村へ移送し、こちらでも同様に犯罪者と交配させてハーフエルフを作り出そうという話らしい。


「いかん。少し狐面族を見直してしまった」

「おまえが向こう側に付いてどうするんだ……」


 いや、でも……自分たちでどうこうできない事態に直面したから考え方を変え、別の方法で成り上がろうとするハングリー精神は嫌いじゃない。希望を見据え、できるカードを組み合わせて最善を希求する姿勢は素直に賞讃に値する。

 ただ、話を聞いていて腑に落ちない点があった。


「エルフが狐面族と協力すること自体はまだ、わかる。けど、どうしてそれでドワーフを切るって話になるんだ?」


 そこがわからない。

 ドワーフを切って捕縛し、ハーフエルフを生むための奴隷として労働させる。しかし、それをするメリットがエルフ側にはない気がするのだ。その場合、エルフたちは武器や農具の修繕、購入をどうするつもりなのだろう。ドワーフとの繋がりを断ち切るまでは行かない気がする。

 狐面族が格安で卸してくれるとする。けれど、それは彼らに対して権力を握られてしまうことを間接的に意味していた。

 それならばドワーフとの交流頻度を下げる程度に留めておき、いざというときの保険として確保し続けるべきだろう。狐面族から無理難題を突き付けられたりしたらどうするのか。

 ましてやハーフエルフの量産体勢、販売のノウハウを狐面族に奪われたら最後、商売敵になるというのに。


「それは……」


 ヘータは言い淀む。知らないってわけじゃなさそうだな。


「ま、言いたくないなら言わないでいい。……村に着くなり適当なやつを取っ捕まえて吐き出させりゃ済む話だからな」

「ひぃっ!」

「発想がどう考えても悪人だよな」

「し、しかし……その、ウチは一応、『剣舞』様の配下ですよ?」

「うん。それで?」

「それ、でって……」


 魔王の種子が芽吹き、種族ランクも昇格したことでレベルが劇的に上がった。隻腕というデメリットはあるが、これなら魔王相手でもまだ戦える。倒すというのは厳しいかもしれないが。

 相手にもよるが、戦うこと自体ができるのならなんとでもできる。きっと。


「おまえの仲間たちに使ったあの魔法だけどな、実は魔王でも通用するからな? 喰らったら終了だから。一撃で殺せるから」

「…………そ、んな……馬鹿な……」


 ヘータは驚愕している。俺は嘘を吐いていない。当たればという前提条件はあるが、一応本当なのだ。

 あの魔法こそ「強欲」の奥の手だ。四二〇にまでレベルアップした俺の魔力で五割も消費するのだから、アイツにしてもそうそう気軽に使える魔法ではなかったのだろう。まあ事前に情報を仕入れていたから〈アイギス〉で防いだが。


 当時は果たしてどの魔法がその奥の手かわからなかったから、いつ使うべきか凄く悩んだのだ。あの魔法でなくても「強欲」の攻撃は苛烈で、どれも一撃で死ぬんじゃないかと思えるものばかりだったし。幸い、当たりを引いたから良かった。そこをしくじっていたら「強欲」の勝ちだっただろう。

 そういう意味では、ヤツとの戦いは博打だったな。まあ「強欲」相手に勝算がちょっとでもあるというのが異常か。さすが、俺。


 そして、「冥府からの呼び声」というスキルを手に入れてわかったことがある。正確には、種子が芽吹いたからこそというべきか。

 魔王たちはそれぞれの種子に応じた固有スキルを持つ。「強欲」の場合はそれだったというだけの話で、おそらくはメサイアにも「剣舞」にも、それに相応しいだけのスキルがあるのだろう。ただメサイアの場合は「叡智」関連のスキルになるわけだけど……どんなのなんだろう? まあいいか。


 閑話休題。そうなると、余計に〈アイギス〉の重要性は重くなる。「強欲」と戦ったとき同様、一撃ですべてをひっくり返す奥の手があるのなら、俺も〈アイギス〉は温存しておかなくてはならないのだ。魔法に関して絶対の障壁を展開するスキルなのだから、切り札以外の何物でもない。


「ところで、狐面族の村まであとどれくらいだ?」

「えと、あと二日か三日くらいです」

「遠いな」


 エルフの隠れ里に滞在するのは十日間の予定だった。今は二日目なわけだが、往復すると考えると半分の日程が経過してしまう。この予定はエルフ側も当然握っているはずなので、不測の事態に備えて多少前倒しも考え……七日目か八日目がタイムリミットか。

 そこまでいくと、ドワーフやトールたちが犯されてしまう可能性が高まる。俺たちが戻って襲撃を仕掛けるタイミングが早ければ早いほど連中は慌てるだろうから、やはりもっと素早く移動した方がいい。

 トールが他人の手に汚されるのは業腹だが、まあ強制されたドワーフとかを恨もうとは思わん。俺はな。

 けどメサイアがどう思うかは別の話。自分の配下を殺すだけならともかく、商品という名の子を産む機械扱いするとなると、さすがに怒るんじゃなかろうか。

 想像して、ちょっと背筋が寒くなった。

 本気でメサイアがキレたとしたら……うん、死ぬ可能性が高いな。四〇〇レベル相当で戦えたとはいえ、それは奇跡的に両腕が揃ったからだ。隻腕である以上、たとえ今が四二〇レベルあるとしても勝てない。運が良くて引き分けとかじゃなかろうか。


 急いだ方が、いいな。


「魔力も五割くらいまで回復したし、いいかな」

「あん? 何言ってんだ?」

「〈召喚・大気の精霊〉」


 おや、レベル上昇に伴ってステータスが上がったからか、ほんのり大きい。ということは大精霊を召喚したら、もっと乗れる人数が増えるということか。


「乗るぞ。ヘータは俺の後ろに座って服掴んでろ」


 言って、精霊の上に乗る。ヘータもテッサも唖然としていたが、頭を振ってヘータは言われた通りに俺の後ろに乗った。


「テッサ。おまえも」

「いや、どこ乗れってんだよ」

「ここだ。来いっ!」

「…………えええ……」


 嫌そうな顔すんな。何のために道案内役のヘータをわざわざ後ろに座らせたと思ってんだ。おまえを俺の膝に座らせて嫌がら――可愛がってやるために決まってんだろうが。野郎を膝に乗せる趣味などないのである。


「あたしは自分で飛ぶからいらねーよ」


 なん、だ、と……。小悪魔のくせに、何故そんなスキルを持っている……。


「駄目だ、認めん、許さん。早く俺の膝に来い。はよ! はよっ!」

「明らかに妙な狙いがあるだろ! 乗りたくねえ!」

「おまえが飛んだらエミリーの存在価値が薄まるだろ! あいつのアイデンティティ壊してんじゃねえよ!」

「あいつの価値もっと認めてやれよ!」


 俺が絶対に引かないとわかったのだろうか、テッサは嫌そうに三回も四回も溜め息を吐きながら、俺の膝に座る。いや、膝に座れとは言ったけど、そんな先に座れって言ったつもりじゃない。近う寄れ。苦しゅうない。むしろ気持ちいいはず。


「よし、行くぞ」

「ぎゃあっ!?」

「わああっ!?」


 ムカついたので、精霊を急角度で急発進させる。〈精霊通信〉のスキルを手に入れていたので、前よりも俺の意思を伝えることができて楽だ。前から思い通りに動かせていたけれど、より複雑な動きが可能になったように思う。

 また、擬似的な人格を植え付けることも可能になったようだ。


『召喚士様、ドチラヘ?』

(ヘータが指示する方向へ向かえ)

『御意』


 これで俺がヘータの指示を聞き流していても問題なくなった。よしよし。いいぞ。さすがは俺の作った擬似人格。素直かつ命令に忠実かつ賢い。時折わざと揺らし、少しずつ離れようとするテッサを俺の方に背もたれてくるようにしている。グッドだ。


「この野郎……! 胸を触ってくんじゃねえ!」

「いや、ちょっと今は精霊の操作で難しい。文句言うな」

「嘘だろ! おまえがどんなバケモノかはわかったよ! だからわかる、嘘だろ!」

「いや、ほんとほんと。俺今すごく忙しい」


 主に胸を揉みしだくのに。

 トールは普通よりやや小振りの胸で、テッサは巨乳だ。みんな違ってみんな良いが、ひたすら揉んで遊ぶ分にはテッサの胸が良い。


「ぐぎぎぎぎぎ……覚えてやがれ……」

「ああ。この感触を俺は忘れない」

「やっぱりこっちに集中してんじゃねえか!」


 ああっ、誘導尋問だと!? おのれ、汚い! 小悪魔とはいえさすが悪魔! 汚い!


 騒ぎながら、空中で珍道中は続く。時折鳥のモンスターなどもやって来てヘータが震えるが、テッサが迎撃する暇もなく、大きなエイに似た精霊が脇腹から触手を生やし、打って地面へ落とした。もうこれエイじゃねえな。いや、精霊だけれども。

 俺が召喚したとはいえ精霊であるため、本来なら魔法を主な武器とする。だがこのスキルのランクは最上位。この程度の敵なら魔法を使うまでもないということだ。


「…………ッ!?」


 だから、油断していたのだろう。この辺りでは敵になる者などいない、と。

 突然発生した魔力への注意が一瞬遅れた。


「うわあああああっ!?」

「ひゃあああああっ!?」


 精霊が急角度で斜めに降下する。直後、俺たちがいた場所を何かが通過した。魔力を感知したが、魔法ではない。その存在が起こした暴風によって、精霊は体勢を崩してきりもみ状に回転して降下することを余儀なくされた。


「なんだ……?」


 一度通過して、その存在はすぐに小さな点にしか思えないほどの距離へ移動する。そこで一度止まり、またこちらへ向かって高速で飛来した。


「今度は見えてるぞ」


 テッサに指示し、俺の身体に全力で抱き着かせ、動きがぶれないようにさせる。さすがにこの状況下ではテッサの身体の感触を楽しむことはできない。それを察したため、彼女も素直に従った。


「『白夜の閃光』!」


 氷と風の複合属性の閃光魔法。一直線に飛来する何者かが避け得ないタイミングで魔法を放つ。

「勇者」の魔法であるため反動値が最大だ。反動で精霊が悲鳴を上げ、後ろへ下がってしまう。衝撃で俺も首を持っていかれそうになるが、根性で耐える。ヘータは俺にしがみついたまま気を失ったようだ。


「ばっ、躱した!?」


 確実に当たると読んで放った魔法が回避され、思わず目を見開いた。

 敵の動きは直線的ではあるが、カクカクと細かく直角に曲がることで俺の閃光の周囲を回転するようにやってくる。


「ちっ。閃光系魔法を理解してやがる」


 閃光系魔法は端から見て真っ直ぐに撃ち出されたビームのように見えるが、実際は螺旋状に渦巻いている。それによって槍系魔法ほどではないが貫通力と射程距離を伸ばしているのだ。

 この敵はそれを理解し、俺の放った閃光の回転に逆らわない形で回転しつつこちらへ接近している。これでは魔法の余波である衝撃波も潜り抜けられていると見ていいはずだ。


「我の領域に翼を広げし愚か者よ、地に墜ちろ」

「んだとっ!?」


 俺たちの眼前まで接近した敵はそう告げたかと思えば、直角に折れ、俺たちの頭上へと移動した。

 さらに魔力の反応。スキルを使ったな。


「避けろ!」

『御意ッ』


 本当、〈精霊通信〉を獲得していて良かった! 最初の油断していたときの不意打ちの際も、今も、それらをすべて擬似人格に押し付けられる。そうすることで、俺はこの敵へ集中力をすべて向けられるというわけだ。


 精霊は辛くも敵の突進を回避した。しかし、やはり巻き起こされる暴風圧と衝撃波で体勢が崩れるのまでは防げない。俺にしてさえも反撃のタイミングを見出せないのだから。

 そしてレベルや種族を右の義眼で視ようとするが、情報を取得するまでの時間に視界から消えてしまうため、それもできない。素早過ぎるだろう!


「強い……!」

「なんだ、アイツ……!」


 テッサが驚愕に目を見開く。縦に割れた瞳孔が拡大され、敵の姿を確認したのだろう。いや、敵の魂を確認したというべきか? 悪魔の血が混ざっているからこその強みか。


「テッサ、どんな敵だ?」

「魔人……いや、魔族? 魔族とも魔人とも言えない! なんだアレッ!?」


 テッサの眼でも見切れない? 小悪魔とはいえ、魂を直視できるテッサが?

 舌打ちする。俺がそういった眼を有していたなら良いのだが、ここで魂の形を視れるのはテッサだけだ。しかし、彼女にはそれを俺に伝える手段がない。


「一番近いと思えるのは、どんな魂だ!?」


 敵は直線の突進を繰り返しているとはいえ、先程から戦法を変えている。おそらく、俺の先の魔法を回避することに成功したが、威力には内心震えていたのだろう。そのため直接ぶつかるのではなく、暴風圧や衝撃波でこちらを揺らし、落とすことに目的を変えたようだ。


 義眼を使えないから、力量は推測することでしか計れない。

 これだけの素早さだ。単純なレベルも、たぶん高い。そのうえで彼我の実力差を理解し、自分にとって最も勝算の高い戦法を見出している。この賢さはただの魔族ではない。どう考えても魔王軍上層部。

 トールやメサイアには悪いが、「叡智」の魔王軍とじゃ相手にならないだろう。どんな優れた魔具があろうとも、当てることができなければ意味がない。……メサイア辺りなら、作戦でカバーできそうだが。


「面倒な野郎め……!」


 敵は宙空を自由自在に駆ることができる。対してこっちは不安定な精霊の上。

 剣を振っても当たらないから、攻撃系スキルはほぼ無意味。魔法に関しては反動値のせいで多用できない。


 こうして、かなり分の悪い空中戦が始まった。

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