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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」とエルフたち
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6-0 プロローグ

第六章開始です。

まあプロローグなので、この短さでも勘弁してやってください。

勘弁してくれた人の中の誰か一人くらいには淫魔が夜寝てる間に忍び寄ってくれるよう交渉しときますので。

 どくん、どくんと脈打つ音。

 まるで赤子が空気に触れるその時を待つかのような、期待に満ちた音。

 其れは目覚めの時をいまかいまかと愉しみにしていた。


 魔王は死の際に、その身を魔力と化して世界中に撒き散らす。

 結果として人々はそれを通し、どの魔王が討ち倒されたのか察知できるということだ。


 ただ、あくまでもそれは余波に過ぎない。

 本質でいえば、魔力を撒き散らす行為にこそあった。



 魔王の発生に関して、人はあまりにもそのプロセスを知らない。人々の寿命はたかだか五〇年ほどで、長くても一〇〇年に届かないのだから、知らなくても仕方ないだろう。

 いや、別に人類に限らなくても、知る者はごく僅かに限られるだろう。

 魔族ですら、魔王たちから直接教えられでもしない限り、その方法を知らないのだ。


 魔王が発生するその方法。それは魔王たちしか知り得ない。

 どれだけ「勇者」が抗おうとも——そう、たとえそれが世界最高峰の実力を身に着けた「勇者」であろうとも、魔王が発生する方法は知らない。

 第一、知ったところで止める方法など存在しないのだ。


 ただ、あるいは。

 魔王が発生する方法を、魔王でない身で知っている者がいるとするならば——それは魔王と同じく、悠久の時を生きる存在しか有り得ない。



 ぎしり、と椅子が音を鳴らす。椅子に座している者が前のめりになったためだ。

 その音を皮切りに、続いて同様の音が二つ三つと続く。


 円卓の中央には遠見の水晶玉があった。映し出しているのは森の風景と、そこを疾走する男女の姿。

 集まった四人たちが注目しているのは女の方ではなく、男の方にこそ。


 やや伸びた黒髪。隻眼にして隻腕。「欠落の勇者」を名乗る人物だ。


「今日は面白いモノが見られると聞いて来たが……」

「そうですね。彼が追われているというのはわかりますが」

「これだけだと、到底面白いとは言えないがな」


 男が二人、女が一人、そう口にして、自分たちを集めた最後の一人へ責めるような視線を浴びせる。

 視線が向かった張本人はキシキシと嗤い、これからですよと返す。


「『強欲の魔王』が滅びたのは皆さんもご存知の通り。あの男は厄介でしたからね。我々や神の存在にすら気付けていたほど」

「そうだな」

「無理矢理次元に穴を開けようと計画していたくらいだしな」

「そもそも、あやつは度々戦争を起こしていたが……果たして何を目的としていたのだ? ああ、もう死んでしまっているからどうでもいいか」


 懐かしいとでも言うように、彼らはふと「強欲の魔王」を思い返す。


「強欲の魔王」がどれだけ強大な存在だったかというのは、当時を知る者からすれば誰もが頷く話だ。

 その当時というのは彼が滅びる直前などではない。もっと昔。魔王たちがまだ血気盛んで、世界中で魔王たちの戦争が巻き起こっていた頃。当時を知る人間は一人として生き延びていないほど昔の話。エルフなどといった長命種でなければ誰も実感として思い出せはしないだろう。


 それでもやはり、当時を知る者たちは皆が「強欲の魔王」を畏れる。


 彼は欲しいモノがあれば力ずくで手に入れようとする魔王だ。

 ただ、不可解なことがある。

 というのも、戦争を起こしているのに、何も手にせず帰るということがしばしばあったからだ。もっとも、それは夥しい数の戦争のせいで埋もれてしまったが。


 しかし、それを別の次元から眺めていた悪魔たちからすれば、「強欲」の行動には何か意図があったように思われた。

 そうして出された結論が、「強欲」は神を狙っているというもの。


 人間たちの暮らす世界だけでなく、魔界をも創り出したという、絶対の力を持つ神。

 それに対する叛逆だ。

 神たちが知れば決して逃しはしないだろう。だから、「強欲」はその目を誤摩化しつつ、神をも滅ぼす力を得るための何かを求めて戦争を巻き起こし続けたのではないか。

 これが悪魔たちの予想だった。


 ただ、予想外だったのはその「強欲」が目的を達成させる前に死んでしまったことだ。それも、下等種族であるはずの人間に、である。


「『強欲』の名を出したのは、改めて皆さんに思い出していただきたいことがあるからなのですよ」


 一人の悪魔が三人の悪魔へそう告げる。三人は興味深そうに、真紅の瞳を輝かせた。


「あの『強欲』が、死んだ程度で諦めると本気で思いますか?」


 ニタリと嗤い、悪魔は告げる。

 三人の悪魔はそれを理解し、彼らも一人の悪魔と同じような笑みを浮かべた。


「なるほど、なるほど」

「つまり、聖誕祭? いや、違うか」

「どちらでもいいわ。たしかに、これは面白いわね。で、仕込みは?」

「上々といったところでしょうか。いえ、私は仕込んでなどいませんよ?」


 悪魔が「とんでもない」とばかりに言うが、他の三人は胡散臭そうな目を向けた。

 その視線を意にも介さず、悪魔はより深い笑みを浮かべる。


「私程度の仕込みなど要りませんとも。仕込みが要るような存在なら、私も……あなたたちも興味を持たないでしょう?」

「……それも、そうだな」

「いやいや、それはそれで、なかなかに信じ難いけれどもね」

「本気で、どういう星の下に生まれたのか気になるわね、あの人間」


 全員の視線が水晶玉に映る「勇者」へと向かう。


 正確には——「勇者」の胸の内で胎動する「種子」へと。

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