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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」とドワーフと小悪魔
73/129

5-16 幕間

一方その頃、というお話。


 薄暗い部屋に成人した男女が一人ずつ、対面するソファに座っていた。両者の間にはローテーブルがあり、そこにはそれぞれのワイングラスと三本のワイン、あとはチーズなどのつまみが皿に乗せられている。

 部屋が薄暗いのは灯りとなる蝋燭をケチっているからだ。燭台の数は足りているが、この部屋を借りている主がケチなのである。


「暗いんだけどね。これじゃあ暇潰しに本も読めない」

「本が読みたければどこか別のとこに泊まれ。俺に集ってる癖に」


 男はグラスを持ち、一気に煽る。それを見て女は微笑を浮かべた。


「教会は世界で二番目に安い宿だよ」

「ふうん。じゃあ一番は?」

「墓場」

「つまんないこと言うなよ」


 女の発言をつまらないと一蹴し、男は空いたグラスに新たなワインを注ぐ。


「いいのかい? 『神託の勇者』がそんな酒ばかり呑んで。ましてや教会で」

「ワインは神の血って言うから大丈夫さ」

「それ、神様から訊いたの?」

「まさか! あの神様はそういうの気にしない」


 男は「神託の勇者」の二つ名を持つ、現在世界で最も注目されている「勇者」だ。むしろ人気はますます高まり、書店などでは「英雄」の本よりも「神託」の本の方が倍以上多く並んでいるほどである。

 それも頷ける理由がある。彼は最も直近の魔王殺しなのだ。そのうえ、ロールを二つも所持している。


 ロールは教会の手で固定された場合はひとつに限定されるが、自然定着を待った場合は二つ以上所持している可能性がある。

 ゆえに男のロールが二つあるということは自然に定着されたことを意味するのだが、それが「勇者」に「賢者」という稀少ロールだ。人々が「神に選ばれた!」と謳うのも無理ない話。


 だが、彼は実際に神と話すことがたまにあるのだという。

 ある者はそれを嘘だと言う。ある者は教会が神輿にしようとしていると言う。

 だが、彼の前にいる女は知っている。彼のその発言は真実なのだ。


「そんで、久しぶりに会ったわけだけど……『霊峰』殿は『英雄』を見付けられたのか?」


「霊峰」と呼ばれた女は長い黒髪を横に振り、苦笑した。


「キミと違って、そう簡単には見付からないね。ボクもそれなりに『英雄』の行動の先を読もうとしているのだけれど、難しいものだ」

「死んでるんじゃないのか?」

「それはない」


 突然真顔になって否定する「霊峰」に「神託」は嘆息する。

 なまじ美人なだけに、まなじりの吊り上がった顔は迫力があった。


「わかった。怒るなよ。揶揄しただけさ」

「なら、いいけどね。……キミだってわかっているんだろ? 『嫉妬』とはいえ、魔王を倒したのだから」

「ああ、わかってるよ」


「神託の勇者」は「嫉妬の魔王」を討ち滅ぼしたことで「英雄の勇者」と同じかそれ以上の名声を手に入れた。これは「英雄」が「強欲」を倒して姿をくらましたのに対し、彼は無事帰ったからだ。


 そしてボロボロになった彼に肩を貸し、敵から護衛していたのが「霊峰」である彼女である。そのため「霊峰」の名も「神託」の影に隠れてはいるが、多少広まった。もっともそれは彼女にとってあまり嬉しくない出来事なのだが。


「まったく、面倒だよ。ボクの予想では『英雄』は名が売れることを良く思っていない。だからキミをこっそり助けてさっさと隠れようと思ったのに……」

「悪かったとは思ってる。俺も『嫉妬』を倒すので精一杯だったんだ。……アレが最弱の魔王だっていうなら、最強の魔王の『強欲』を倒した『英雄』は、一体どれだけバケモノなんだ」

「同じ『勇者』とはいえ、呆れるかい?」

「おまえも『勇者』なんだから、わかるだろ?」

「ま、否定はしない」


 この場にいる二人は両名とも「勇者」だ。「神託」はそれに加えて「賢者」でもあるのだが、さすがに「霊峰」は普通に「勇者」だけである。

 そもそも「勇者」のロールを一時的とはいえ発現する者自体が少ない。ゆえに教会では急いでそれを定着させようとする。だからこそ、「神託」は超稀少な存在なのだ。


 また、二人には「勇者」以外にも他の共通点があった。

 それは「英雄」の真似というわけではないが、二人とも一人で旅をしているのである。顔見知りなのは出身大陸が隣合わせであったために、ちょくちょく顔を合わせることがあるというだけの話だ。

 というより、「霊峰」側が「神託」が近くにいると聞くと、「英雄」の消息を手にしていないか押し掛けて来るというのが真相なのだが。


「…………お、気配が去っていった」

「みたいだね、その様子だと」


「神託」は背筋を伸ばし、ふうと肺の底から重い息を吐く。

 アルコール臭い吐息に「霊峰」は細い眉を顰めた。直後、すぐに微苦笑を浮かべる。


「神様のご機嫌取りも大変だ」

「まったくだ。プライバシーも何もあったもんじゃない」


 周りはともかく、「神託」本人は神の存在を疎ましく思っている。というのも、勝手に現れては彼に難題を突きつけて去っていくからである。それを達成すれば莫大な経験値を寄越すので従ってはいるが、失敗したときのことを考えると恐ろしくて仕方ない。また、きちんと指示に従っているか数日に一度、酷いと一日に数回調査に来るのだ。


「神とはいっても、チェックに来るのはその使いだけどな」

「天使ってやつかい?」

「そんな感じだ。教会がイメージする天使みたいなやつではないがな」


 肩の凝りを解すように大きく腕を回し、天使の気配がなくなったことで「神託」は真面目な顔になる。


「で、アームズ。例の古代兵器は他に見付かったか?」

「それなら真っ先にその話をしているよ、セイン。ウチの実家の書庫に平積みにされた話を、よくもまあそこまで探すね」

「当たり前だ。俺はもう神にはうんざりしてんだ。人の人生をああだこうだと指示しやがって」


「神託の勇者」――セインは金色の髪を搔き上げ、舌打ちする。

 それを見た「霊峰の勇者」――アームズ・レインツリーは同情と失笑を混ぜた微苦笑を浮かべた。


「ただ、俺が『嫉妬』を倒したから、レインツリー王国はこれで諸手を振って調査に出られるだろ?」

「そうだね。父には『神託』の要請で内密にと伝えている」


 レインツリー王国は「嫉妬の魔王」が支配していたグリーンウッド大陸に存在する。セインが「嫉妬」を倒しに向かったのも、この古代兵器の調査において「嫉妬」に邪魔されるのを避けるためだった。


「それは助かる。……けど、王女が宿代に困るってどうなんだ?」

「『英雄信仰』じゃないけど、困ってる人に力を貸すのは当然だろう? それに継承権を考えれば、ボクは王女なんて器じゃないよ。何番目かわからないくらいの側室の子なわけだし」

「自分の宿代も飯代もなくなるくらい募金してんじゃねえよ……教会はウハウハだろうけどな」


 呆れたように言って、セインはソファに深く腰掛けた。それを見てアームズはむっとした顔になり、セインを睨む。


「さすがに募金する教会は選んでいるさ。私腹を肥やそうとする司祭がいる教会には一銅貨足りとも募金していない」

「降参だ。よくそこまで調べて募金するもんだ。感心する。いつか『英雄』に会えたらきっと感涙してくれるんじゃないか?」

「……。ま、理解されないならされないで結構」

「あ、やばっ。わかった、悪かったから! おい、アームズ!」


 アームズはセインの制止を無視し、一本のボトルを手に取った。手刀で口を無理矢理切り開き、そのまま直に口を付けて呑み始める。


「ああ、ああああ……貴重品が……神に捧げろって言ってせしめた熟年ボトルが……」

「ぷはっ。ごちそうさま。天罰って下るもんだよね」

「明らかに人誅だろ! なんだって酒の味もわからんやつがザルなんだ……やっぱり神って頭おかしい……」


 頭を抱えたセインを鼻で嗤い、アームズはソファに深く背もたれる。


「……ねえ、セイン。どう思う?」

「何が……?」

「『英雄』の目的」

「……ふむ」


 セインもアームズも……いや、「勇者」でなくても世界中の誰もが知っている世界で一番有名な「勇者」の名。


「英雄」は死んだと言う者は必ず一定数いた。しかし数ヶ月前、いきなり世界中の「勇者」たちは前触れもなくレベルアップした。そして誰もがそれを「『英雄』の祝福」だと理解したのだ。


「勇者」は全員が「英雄」の生存をそれで確信した。

 彼は今もなお生きていて、誰にもその存在を知られぬよう水面下で何か画策している。その目的が善か悪かは判断できないが、過去の功績から考えると善行であると判断してよいだろう。

 しかしそうなると、今度は「何故『英雄』は水面下で動いているのか?」という疑問が生まれることになる。


 一番説得力があるのが「名を知られるとマズい何者かから姿を隠すため」だ。「英雄」ほどの力があって誰から逃げるのだと一笑される類の話だが、セインとアームズは神の存在を知ってしまった。

 直感する。「英雄」は神殺しのために暗躍しているのだ、と。

 そしてそれはセインの目的と合致し、アームズも半分は合致している。


「セインの言うことが本当なら――」

「俺は嘘なんて吐いてないぞ」

「それがボクには本当かどうか判断できないもの。まあ本当だとして――神とやらは、あまり善いモノではないよね」

「ああ。何を企んでいるのかは知らないが、神は基本的に傍観者だ。俺に干渉してるのは上位存在だから神って言ってるだけで、天使でしかない。強いて言えば大天使か? 本来の神はそれより上だろう」


 神の目的が何なのかはセインもわからない。しかし、神の性格は醜悪だとセインは断定していた。


「助けられる者を意図的に見殺しにする指示……たしかに、神のやることじゃないね」

「そうだ。俺は助けを求めながら殺される人たちを見殺しにした。神の指示でな」


 セインは拳を固く握り、爪が皮膚を裂いて血を流させる。それでも、セインは自分の過去に犯した大罪を思うと、もっと力を込めてしまう。


「『英雄』の行動は、あの話とかがすべて真実だとすると、あまりに綺麗過ぎる。聖人君子ってレベルじゃない」

「けれど、神の指示だとしたら……話が合う。そういう話を前にしていたね」


 セインはアームズの言葉に頷いた。


「俺は『嫉妬』を倒しても解放されなかった。だが、ひょっとすると『英雄』は解放されたのかもしれない。なにしろ魔王どもでも最強格の『強欲』を相手にしたんだからな。……そうして俺たちと同じように、古代兵器に気付いたのかも」

「辻褄が合ってしまうんだよね、そうすると」


 神代に作られたといわれる古代兵器。

 神代といっても、厳密にいつとわかっているわけではない。単に現代の魔具製造技術では決して作れないし、修復もできないくらいの超高度な魔具のことだ。巨大であるため持ち運びはできず、今では遺跡として扱われていた。


 アームズとセインは偶然、レインツリー王国の書庫でとある資料を見付けた。そして、世界中に点在する遺跡は神殺しのための兵器だと知る。もっとも、それらすべてはオーバーテクノロジーの産物であり、すべて修繕しなくては起動すらできない。けれど、その修繕方法すらまだわかっていないというのが現状だ。


 セインは神の指示を仰いで行動しつつ、それらを探る。

 アームズは裏でそういった古代兵器の資料を探しながら、同じ目的を抱いているかもしれない「英雄」を探していた。


 セインは辛くも「嫉妬の魔王」を倒した。だが、彼は最弱の魔王だという。

 だからこそ、彼は断言する。他の魔王など人間が勝てる相手ではない、と。

 特に単騎でなど正気の沙汰ではない。


 ゆえに、世界で最初に魔王を討った存在。それも最強最悪と名高い「強欲の魔王」を討った「英雄の勇者」の協力は、神を倒すためにも必要不可欠だ。


「俺はもう少しグリーンウッド大陸にいなきゃならない。アームズはどうする?」

「東か西か、だね」


「嫉妬」が支配していたグリーンウッド大陸は西から数えて八番目の大陸だ。それに対し、「英雄」が討った「強欲」の支配していたエルキア大陸は西から数えて二番目の大陸である。

 普通に考えれば西へ行くべきだ。しかし、「英雄」が姿をくらましてから一年以上が経過していた。ひょっとすると、もう東へ行ってしまっているかもしれない。

「英雄」は自分たちの尺度で考えることのできない強力な存在だ。だからこそ、その可能性は捨て切れなかった。


「……ボクは西へ向かうよ。ひとまずはデセオ大陸だね」

「『色欲』の大陸か。気をつけろよ。おまえが死んだら、神へのストレスを吐き出す相手がいなくなる」

「『英雄』に会えばいいじゃない」

「馬鹿。『英雄』は男だぞ? 女のおまえがいた方がいいに決まってるだろ」

「そういう人物ではないと思うけどなあ」

「甘い。男はみんな狼だ。『英雄』だって強靭な理性で欲望を抑え付けてるだけで、根っこは同じだ」

「ふうん? じゃあ、セインもボクに欲情するわけ?」

「ああ、それはない。俺、女らしい女が好きだから」

「…………ボクも別にキミが好きなわけではないけれど、今のはカチンと来たかな」

「あっ! ああっ! ごめん! 悪い! 俺が悪かった! あ、あああああっっ!!」


 二本目のボトルをアームズに空けられ、セインは口から魂が抜け出しそうになる。


「『英雄』……恨むぞ……」

「『英雄』はお酒を嗜むかな? 会える日が楽しみだよ」


 薄暗い部屋の中、一人は乾いた笑みを、一人はクスクスと鈴を転がしたような笑みを漏らすのだった。



『……愚か者じゃの。女子はもっと丁重に扱わねばならぬというのに』

『貴方がそれを言うのですか。時代は変わるものですね』

『喧しいわい。儂にも、お主にも、色々なことがあったということだ』

『そうですね。あとの二人は元気にやっているでしょうか?』

『さての……』


 セインとアームズの傍らでは、魔剣と聖刀が小声で話をしていた。

一方、その頃の他「勇者」たち


欠落……ムラッときた

ソフィア……イラッとした

トール……敵が増えた気がした

シルバー……誰かに見られた気がして周囲を見回していたら足を滑らせて沼に落ちた。が、偶然そこでユニコーンと協力できるようになる魔具を発見。結果オーライ



次から第六章です

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