5-11
「あたしが持ちたいわけじゃねえけど、こんなガキに持たせるってのもどうなんだ?」
「最後まで責任を背負うつもりじゃないなら、中途半端に手を伸ばすのはやめとけ」
「大丈夫です、テッサさん。メイはこれでも強い子なのです! ね、ご主人様っ」
「え、なに? 聞いてなかった」
「ひどいのです……」
『確実にそれ言いたいがために耳ほじったでショ……』
ハーシェルを出て四日目の朝。
クソ暑いアールグランド大陸で、直射日光を一切遮らないクソみたいな荒野で寝起きしていたこれまでと違い、今日はエルフの隠れ里を覆う森での野宿だった。
刺すような日射しを木々が遮ってくれるため、実に心地良い目覚めに早朝から気分爽快——といけば、俺もメイをあまりいじめることもなかったかもしれない。
つまり、メイが今涙目なのは決して俺のせいというわけではないのだ。
いいね?
というのも。昨夜の間に俺の魔法で氷塊に閉ざされた六人の男たちと、テッサが鎖で首を折って殺した三人の男たち。
彼らをどう処分したかというと、ハッキリいって放置していた。面倒だし。魂自体は悪魔が奪ってテッサと半分こしてたらしいのだが、それならいっそのこと死骸の方もどうにかして欲しかった。
最初はいつ襲撃が来るか確定していなかったため俺が寝ずの番をする予定だったが、もう倒してしまったので、俺も眠気に抗うことをやめたのだ。
どうせ危険が迫れば目が覚めるし。一人でエルキア大陸を旅していたというのは伊達ではない。
だいたい、眠くなるのだって当たり前の話だ。人の三大欲求のひとつが睡眠なのだから。あと三大欲求のひとつも踏まえて、朝方までテッサの身体がどんなものか主人として検査していたので仕方ない。
むしろよく働いたと誰か褒めてくれてもいいくらいだ。言ったらトールは褒めてくれそうだが、そうなると俺が催促したみたいな感じなので、言わない。自発的に俺を褒めることもできないとは、まだまだトールも調きょ……教育が必要なようだ。
そんな苦労を背負い込んでいじましくも頑張る俺を叩き起こしたのが野太いドワーフどもの声である。そりゃあ俺もイラつくってものだ。
ドワーフたちは大騒ぎだった。まあ彼らからすれば当然かもしれないが。何せ起きたら周りに見知らぬ死体が転がってるわ、護衛は全員寝てるわ、見覚えのない女はいるわ。
説明しろ説明しろと鬱陶しいので、事前に用意してあった言い訳を朝食の際にしてやった。
こいつらはドワーフの持ち物を狙っていた。普通に戦っても勝てないから、中に睡眠薬を仕込んだ酒を買わせて尾行していた――という話だ。幸い、男たちの中にはドワーフへ酒を売った者がいたらしく、俺の話は真実として受け入れられた。
「儂らが貧乏なのを知らんと見える」「実に愚かだ」「馬鹿者どもめが」
などと憤っていた。まあ、殺されるかもしれなかったという話なのだから、そりゃ怒って当然ともいえよう。ただそう言いながらも、罠であった酒は呑もうとするのだから救えない連中である。いつか痛い目を見ると思う。
それと同時に、俺の昔の知り合いで、この大陸で再会する予定だった――というでっち上げの話でテッサの合流を誤摩化す。メイは素直に信じていたが、エミリーとトールは懐疑的であった。今はドワーフたちがいるから話せないが、そのうち話せばいいだろう。下手に念話で連絡を取り、表情に出されても面倒だ。
「それで、旦那さま。テッサ殿はどれくらいの力量なのですか?」
トールは敏感にテッサの実力を雰囲気から察したのだろう。別に隠すこともないので伝えておくことにした。
ただ、ドワーフたちに聞こえても面倒だ。聞かれたら聞かれたでいいっちゃいいが、聞かれない方が面倒は起こり難いはず。なのでメイたちにはドワーフと共に前へ行かせ、俺たちは最後尾を進むことにする。
義眼のスキルでの確認は昨夜の間に済ませた。昨夜の悪魔との会話が嘘だったらアレなので。とはいえこの義眼自体が悪魔のスキルで作り出したモノなので、あまり意味もないかもしれないが。
テスタロッサ。一一五レベル。種族は小悪魔で、ロールは「獣魔使い」。
悪魔ではないものの、小悪魔というだけあって、ステータス補正は中々強力だ。また「獣魔使い」のロールによる補正も合わさり、ステータスはかなり高い。筋力なら「勇者」であるトールを上回っているほどだ。
魔力のステータスもサキュバスとして補正の高いトールへ迫るほどなのだが、いかんせんロールの都合上、魔法はほぼ使えないといっていい。「戦士」として扱うのが妥当なのだろうが、「獣魔使い」であるために耐久のステータスはそれほど高くない。ゆえに鎖というマイナー武器を選んだのだろう。
この鎖は魔具だそうで、両手の二の腕に腕輪みたいな感じの輪っかを装着し、そこから腕を鎖で覆っている。戦闘になれば解き、武器として放つわけだ。右腕の鎖の先端には分銅のようなものが装着されており、直撃を喰らえば人の頭骨くらい容易に砕けるだろう。左腕の鎖の先端は鏃のようなものがあり、やはりこちらも人の頭蓋を刺突で貫くことは可能だと思う。脆いな、人骨。
そんな話をトールとしていると、テッサがこちらへやって来た。自分の話をしていると理解したのだろう。ついでなので、フォーメーションの話をしておく。
メイとエミリーにはしないでもいいだろう。メイは馬鹿だから理解できないし、エミリーは察して行動できるはずだ。それぞれ悪い意味と良い意味で、俺の説明が不要な二人である。
「耐久力がそこまでだから中衛だな。近接はトールに任せる。後衛にエミリーとメイを置いておく感じだ」
「了解しました。……私の腕を引っ張らないことだ」
「はあ? 舐めたこと言ってんなよ、サ――たかが人間風情が」
サキュバスと口走ろうとしたので、ドワーフの目に留まらない速度で蹴りを放っておいた。痛かったのか涙目だが、それでも悲鳴を漏らさずトールに最後まで告げたのは意地だろうか。
「トールも、あまり敵対心を燃やすな」
「……申し訳ありません。ですが、その……」
トールはテッサを睨み、続いて俺を困った顔で見てくる。それから頬を染めた。
「…………朝起きて、あの状況だったので」
「馬――っ!? 思い出させんじゃねえっ!」
テッサも顔を真っ赤にしてがなる。
「別にいいじゃん。女同士なんだし」
「良かねえわ!」
テッサは途中で恥ずかし過ぎたのか、それとも怒り心頭だったのか、気絶してしまったのだ。
別に最後までするつもりは元々そこまでなかったが……うん、なかったなかった。時折ミステイクもあるかもしれないが、人間ミスもするものである。ただそれでも、できる限りキッチリ嫌がるようなやり方で彼女を自由気まま愛のままに蹂躙しておいた。おかげでまだまだ眠いが、身体はスッキリしている。
トールが起きて目にしたのは上半身裸の俺と抱き合うようにして寝ていた、全裸のテッサというわけである。まあ俺の上着を被せてはいたが。
「主様、わかってんな? もう、ああいうのは駄目だ。昨日は……あれだ、初回サービスってやつだ」
「なるほど。次回があるってことだな?」
「駄目だつってんだろ! 人の話を聞けっ! 頭ん中パーなんか!?」
「おい。それ以上の狼藉は許さんぞ。旦那さまに何という口の利き方だ」
「ああん? あたしの口の利き方、別に主様は咎めてねーだろ? なんでてめーが文句言ってくんだ、クソアマが。自意識過剰なんじゃねーの」
もうめんどい。こいつら無視しよう。
そういうわけで言い争う二人を最後尾に放置し、ドワーフたちを追い抜いて先頭にいるメイとエミリーの元へ駆け足で進む。そこにはドワーフ代表のドンネルもいるので、あとどれくらいでエルフの隠れ里に着くかも聞けるはずだ。
「あ、ご主人様」
『ねー、マスター。あの二人、マーダやってんの?』
笑顔で抱き着いてくるメイをいつものように引っ剝がす。エミリーはメイの頭の上から俺の肩へと移動し、やれやれと言いた気に訊ねてきた。
「なんかよくわからんけど、相性が悪いらしいな」
『チョットわかるケドねー』
ほう。エミリーにはちょっとわかるのか。よしよし、申してみよ。
「まあ、あの嬢ちゃんらじゃ、仲良くはできなさそうですな」
『おっ? ドワーフのおいちゃんもそう思うノ?』
あれ。ドンネルが喋り始めたぞ? 別にいいけど。
「理解が進めば、仲良くなれる芽はあります。ですが……この依頼の間は無理でしょうなあ」
『だいたいワタシと同じ感じー。ケド、ああいうのって、一度徹底的に喧嘩させてみちゃえば、意外と仲良くなれると思うのヨ』
「わかります。ドワーフでも、仲の悪い二人は同じ坑道で作業させてる内に、仲良くなったりしますしな」
『ケンカトモダチって感じよネ』
ほーん。そういうものなのか。俺は孤児院時代のことなんてあまり覚えてないし、それからは師匠たちに引き取られて、修練場じゃ喧嘩する相手もいなかったしな。それからは仲間もいたが、ああいう喧嘩はしなかった。あれ……俺って友達少な過ぎ?
けれど、考え様によっては俺とメサイアも似たようなもんか。アレは殺し合いだったわけだけど、殺し合いも喧嘩の延長線みたいなもんだろう。それなら頷ける話である。
ただ、思いがけない収穫はあったな。ドンネルはドワーフたちでも炭坑夫どもの班長みたいな役割を果たしているそうだが、それでああいうのをまとめたりと対人関係の擦り合わせなどは得意らしい。そして、エミリーもだ。忘れかけてたがこいつ、精霊の住処では守備隊長か何かだったんだっけ。羽虫の分際で守備隊長とは生意気な。
つまり、二人とも部下をまとめる立場だったのだ。その手の技術に関しては俺より一日の長があると認めざるを得ない。
俺の知り合いでいうなら、オラルドがそれに当たるだろう。俺は人をまとめるのとか嫌いだから、よくもまあそんな面倒くさいことができるもんだと感心していた。
言うことを聞かなければ放置か殴って聞かせるのが俺のスタイルだ。しかしそれは短期的には効果的だが、長期的にはデメリットが目立つのだろう。人間関係の不和が少なければ少ないほど良いというのは、組織として当然のことだからだ。
かといって、不和がまったくないというのも問題である。
何故なら、不和というのは意見の対立によって生じるからだ。所詮赤の他人同士なのだから、意見の対立が起こらない方がおかしいのである。
だから話し合い、意見を擦り合わせ、それを通して互いを理解するというのが重要なのだ。
俺のやり方の場合、俺の予測の範囲内のことしか起こりはしない。マイナス方向に予想外の事態はあるかもしれないが、プラス方向に予想外の事態が起こる確率はほぼゼロなのである。
そういう意味では、俺が上から言えば従えられる現状の場合、ある程度は喧嘩をさせておいた方が良いのかもしれないな。成長の余地があるというなら、多少はうるさくても我慢してやらんことはない。対価は夜に身体で払ってもらおう。
「あ、でもエミリー。できるなら試しにあいつらまとめてこいよ」
『エッ? 無茶言わないでヨー。誰にだって限界ってのはあるのヨ? ワタシにトールとテッサをまとめれるワケないじゃん』
「ワタシはメイで十分ー」などと言いながら、エミリーはメイの頭へ戻る。そしてうつ伏せに引っ付いた。メイはエミリーが戻ってきて嬉しそうにしていた。頭の中お花畑だからな、きっと何が起こっても嬉しいのだろう。幸せなやつだな。
「こりゃ今晩のメイの食事は塩と水だな」
「どうしてですっ!? 今、その要素あったです!?」
戦慄した様子で訊ねてくるが、無視。ひんひん泣きながらぽかぽか殴ってくるが、力が足りなさ過ぎてこそばゆい程度だった。むしろマッサージみたいなので、叩くなら肩とか腰とかにして欲しい。
「そんで、もうエルフの隠れ里には着きそうなのか?」
「昨日、無理して進んだ甲斐がありましたな。あのモンスターを恐れて、他のモンスターの姿も少ないですし、昼過ぎには到着するでしょう」
本来の予定ではハーシェルを出てから五日目の夕方に到着だったらしい。
俺たちがモンスターをあっさり排除していたのと、昨日醜悪なモンスターを急いで片付けたのも幸いしたようだ。四日目の昼過ぎということは、一日と数時間ほど稼いだことになる。
「……ま、敵もいるにはいるんだがな」
気配を察知し、片手剣を抜く。
「ひえっ! 本当に来た!」
尾行者を排除した以上、俺が戦いに出ない理由もなくなった。この程度の雑魚相手ではテッサも加えた連携訓練などできるはずもない。俺が出てサクッと片付けるのが時間短縮にも繋がっていいだろう。
と、思ったのだが。
「旦那さまっ! 私が行きます!」
「待てやコラ! あたしがブッ殺す! ストレス発散すんだ引っ込んでろ!」
「貴様の耐久は低いんだろう? 大人しく下がって震えていろ!」
「ああん!? スキル封じられた凡人が何意気がってんだ!」
「はわわわ……」
『うわー。仲悪ーい』
急いでトールとテッサが前に出て来たが、抜いたこの片手剣どうしろってんだよ。仕方ないので鞘に納めたけども。
大小様々だが、空を飛ぶ敵が四体。地を駆るのも四体。
「じゃあ、上の敵をテッサが、下の敵をトールが相手しろ」
「了解しました!」
「ブチ殺す!」
二人は一斉に飛び出していった。
欠落「羽虫って花の蜜吸ったりするじゃん?」
メイ「ですです」
欠落「メイって頭の中お花畑じゃん?」
エミリー『そだネ』
欠落「つまりメイの頭に留まりたがるエミリーは羽虫だったってことだよ!」
メイ「な、なんだってー、です!」
エミリー『違うカラ!!』




