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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」とドワーフと小悪魔
67/129

5-10 幕間

完全に別の話です。

今現在のあの子は何をしているか、みたいな話。

 日当りのよいのどかな風景がそこからは広がっていた。巨大な樹木の前、日陰になっている場所で、一〇人女性がいたら一二人は凝視するであろう端正な容姿の少年が巻き藁を相手に徒手空拳で稽古をしていた。

 近くには壮年の男性が腕を組んで彼を見守っており、時折厳しく指導していた。少年は汗を袖で拭いながら素直に頷き、指示に従って稽古を続ける。


 そこからやや離れたところに、落ち着いた装いの一軒家がある。縁側で茶を啜りつつ、老いた者たちは彼を眺めていた。


天音あまねの様子はどうじゃ?」

「見ての通りじゃな。一生懸命に打ち込んでおる。そりゃあ、成長するもんじゃて」


 集まった老人たちは皆好々爺という表現がぴったりな者たちばかりだった。まるで孫を可愛がるような視線を少年に向ける。

 いや、実際、孫のようなものだったのだ。


「初めはどうしたことかと思ったがな」

「まあ、若い者が魔力を制御し切れぬのはままあることよ」

「じゃな。それに、〈人化の法〉を修得した今では、素直な良い子じゃて」


 ここは世界の果てとも呼ばれる、極東の大陸龍皇国でもさらに東の果てにある龍神山。人の身では決して辿り着けない高みにあり、下界を見下ろそうとしても雲海が邪魔をするため、余程気象条件が良くないと下界を見ることはできない。

 人の身では単純に登れないだけでなく、酸素が薄過ぎて、まず生きていられない高みだ。


 そんな場所にいる彼らが人間であるはずもない。全員がドラゴンであった――正確にいうなら、天音という若いドラゴンを除いた全員がエルダードラゴンだ。


 天音はある日、突然やって来た。当時は〈人化の法〉すらまともに使えないドラゴンであり、若いドラゴンが大抵そうであるように、ドラゴンという種族特有の強大な魔力を制御できずに荒れた性格をしていた。

〈人化の法〉を使えば、その出力に応じた姿に変化することができる。また、それに応じて本来の性格でいられることができた。ゆえに、彼らが天音に最初に教え込んだのも〈人化の法〉だった。


 天音の本来の性格は口数こそ少ないものの素直で、人の言うことをきちんと聞く子だった。端的に言って、とても良い子だった。ゆえに、ここで暮らすエルダードラゴンたちは皆が彼を孫のように可愛がっている。


『オレに稽古を付けて欲しい。どうしても、強くならねばならない』


〈人化の法〉を修得した天音は全員に頭を下げ、そう願った。

 ドラゴンである内は繁殖もできるが、エルダードラゴンへと成長してしまうと、子を成す能力を失ってしまう。また最近のドラゴンたちは帰巣本能をどこかへやってしまったのか、あまり龍神山へ戻る者が少なかった。現在ここにいるドラゴンは天音ただ一人だけなのである。誰もが可愛がるのも当然といえた。


 また「どうして強くならねばならないのか?」の疑問に対する答えもまた、老人たちを感涙させるに足るものだった。

 というのも、天音は「竜踊りの笛」という魔具によって、とある魔王軍に自由を奪われてしまったらしい。その笛は後に別の人間の「勇者」に渡った。つまり、その人間が天音の主人であるといえた。

 だが、その主人は天音を支配しようとしなかった。


『エルダードラゴンになって戻って来い』


 そう告げたという。


 間接的に、天音をこの村に戻させたのはその人間のおかげだといえよう。魔具によって精神を支配するということに老人たちは多少心にしこりはあるが、その人間に感謝していた。

 また、天音がその指示に素直に従い、自分を鍛えようとするのを嬉しくも思っていた。最近はドラゴンであることに満足し、まともに訓練しようとする者も少ないからだ。


 エルダードラゴンははっきりいってしまえば、ドラゴンが成長した姿である。成人の儀式を終えればエルダードラゴンと呼ばれるのだ。生殖機能を失くすのはさらにそれからしばらくした後なのだが、成人年齢ぴったりで儀式を行う者などほぼいない。現実的には生殖機能を失くしてからようやく成人の儀式を行い、エルダードラゴンになる者がほぼ全員であるといえた。


 ともかく、老人たちは最近のドラゴンに憤っていたのだ。これだから最近の若者は、というやつである。そこへ降って沸いたのが、純粋無垢で素直というものを具現化したかのような天音だった。


 エルダードラゴンの強みはその長大な体躯や魔力もあるが、それ以上に老練した知識や技術であることの方が多い。そういう意味では老人たちのような、往年のエルダードラゴンは絶滅してしまったとすらいえるだろう。

 昨今世間でいわれるエルダードラゴンは、彼らからすれば紛い物なのである。龍神山で修行も為していないくせにエルダードラゴンを名乗るなど片腹痛いというわけだ。本物のエルダードラゴンである彼らからすれば、人間に負けることなど絶対にありえない。相手が魔王級で、ようやく戦いになるのだ。


 結果として、天音には詰め込み教育が行われている。老人たちは毎朝毎晩顔を突き合わせてあーだこーだと話し合い、時には拳で語り合って天音の教育方針を決めていた。

 割と冷静な老婆のエルダードラゴンは「やり過ぎじゃないかえ? 天音が壊れてしまうよ」と心配していたが、当の本人は「オレは急いで強くならなきゃならない。望むところだ」と強気であった。それがまた往年のエルダードラゴンを思い起こさせ、老人たちを感涙の渦に叩き込んだことを天音は知らない。


「しかしじゃな。やはり、如何せんやり過ぎとは違うかえ?」


 老婆が嘆息しながら告げる。


「何を言う! 天音は弱音も文句ひとつも吐かんぞ!」

「そうじゃ! 天音の為を思うからこそ、儂らは鬼にならねばならん!」

「その通りだ。天音は我らの財産だ。新時代のエルダードラゴンとなるべくして生まれた子だ」

「どっかの知らんドラゴンが生んだ子じゃないか! あんたらが溺愛するのもわかるけどねえ、ちょっとくらい自重しな!」


 老婆の一喝に、老人たちはぐぬぬと反論できずに顔を伏せる。


「じい! ばあ!」


 丁度そのタイミングで、天音が稽古から帰ってきた。


「オレは強くなったか? もう成人の儀式を迎えられるか?」

「馬鹿を言うでない」

「そうじゃ。天音はまだまだじゃ」

「ああ。まだエルダーの称号は与えられんな」

「そうか……。わかった。ならば、まだ稽古を続けよう」


 反論せず、頷いた天音はそのまま踵を返そうとする。


「天音! お待ち!」

「なんだ、ばあ」

「汗を掻いているじゃないか。きちんと拭きな。あと、水もお飲み」

「わかった。ありがとう」


 きりりとした顔で表情ひとつ動かさない天音に全員は心配していたが、最近はそういうものとして受け入れていた。いや、表情の変化は小さいだけで、一応は多少なりとも変化している。ほんの少しは口角も上がっていた。微笑というにも仄か過ぎる微笑だった。

 勿論、それに老人たちが初めて気付いたときは、感涙の嵐だったわけだが。

 手ぬぐいで汗を拭き、お茶を飲んだ天音はまた稽古へ駆けていく。


「……あの天音もいつか、ここを去って行くんじゃなあ……」


 ぽつりと、一人が呟いた。


「おい! やめないか!」

「そうじゃあ! やめえぃ!」

「儂はそれを想像するだけで涙が……」

「やめ……やめんかあ! わ、儂も……」

「っく、ぐすっ、おぬしら……っふ、涙もろ過ぎじゃ、っ、ないのか……?」

「あんたら全員同類さね」


 老婆が嘆息する。


「可愛い子には旅をさせよと言うじゃないかえ」

「とはいえの! 地香や! 儂はその人間に感謝しておるが、果たして天音を預けるに足るかどうかは疑問じゃて!」

「そうじゃそうじゃ!」

「人間如きが天音をどう面倒を見るというのだ? 利用するだけされて、後は放り出されるのではないか?」

「そうなったら儂ぁ人類皆殺しじゃて」

「儂も乗るぞい」

「俺もだ。根絶やしにする」

「馬鹿言ってんじゃないよ。それじゃあ神龍様になんて言うんだい」


 ぐむ、とまた老人たちが黙り込む。それから屋敷の奥にある像を祈るように見た。


 神龍。遥か昔、それこそこの老人たちが赤ん坊であった頃に龍皇国の魔王をしていたエルダードラゴンのことだ。今では別のなんとかいう二つ名の魔王が支配しているが、ドラゴンですらなかった。なので、彼らからすればその魔王なんぞどうでもよい存在なのである。

 というのも、神龍以外の魔王が龍神山へその手を伸ばすことができなかったからだ。

 この山はエルダードラゴンたちにとっての聖地であり、決して何者にも汚すことのできない場所だったのだ。

 しかし――時代の変化により、それも叶わなくなる。


「…………『強欲』のクソ野郎めが……」

「今度会えば、粉微塵にしてくれるわ……」

「存在すら許さぬ……」

「もう死んだ魔王を何恨んでるんだい、あんたらは……」

「いや、儂は信じられんな!」

「そうじゃそうじゃ! いけ好かんが、あの魔王は過去にないくらい本物じゃぞ!」


 龍神山では徐々にエルダードラゴンの数を減らしていったが、さすがにここまで少ないわけでもなかった。それが現在これだけの数まで減ってしまったのは「強欲の魔王」の侵略に遭ったからだ。


 当時、龍神山にいたエルダードラゴンたちは全員で「強欲」と戦った。戦いは一週間にも及び、エルダードラゴンたちは勝利したのだ。ただ、被害は甚大であった。その時点で大多数が死亡し、残った者たちも重傷者多数となった。

 だが、悪夢はそれだけでは済まない。

 一ヶ月もしない内に、「強欲」は再び急襲を仕掛けてきた。今度は「強欲」の配下である四天王も連れて、だ。

 四天王たちは決して「強欲」ほど強くはなかった。だが、魔王級の力は十分に持っていたし、エルダードラゴン一体で御すことは不可能な戦力ではあった。

 抗ったが、結局は駄目だった。

 勝利はした。だが、その勝利には何の意味もなかった。

「強欲の魔王」に秘宝とされていた宝珠を手にされてしまったのである。


 あろうことかそれを一目した直後に「強欲」は「なんだ。こんなモノを有り難がっていたのか。ああ――興醒めだ。どれ、コイツは返してやろう。俺は心が広いからな」と吐き捨て、無造作にその場へ宝珠を投げ捨てた。


 彼はただ一方的にエルダードラゴンたちの命とプライドをズタズタに引き裂き、そうして帰って行った。それはある種の呪いとなり、気死したエルダードラゴンも少なくない。


 結果として、今でも生き残っているのはこの場にいる五人だけとなってしまった。龍神山へ帰巣するドラゴンも少なく、このまま聖地は滅んでいく運命なのかと思っていたところへ天音が現れた。彼らが天音を手放したくないと思うのも当然のことだった。


 しかし、一方で理解してもいる。

 天音を一人前のエルダードラゴンとして育て上げ、「竜踊りの笛」を持つ人間と共に旅をさせるのだ。そして世界中のドラゴンたちに天音の強さを知らしめ、その実力はこの聖地で手にしたと伝えさせる。

 そうすればまたかつてのように、多くのドラゴンたちがここへやってくるかもしれない。

 そういった希望は全員の胸にあった。


「……まあ、『強欲』を本当に人間が倒したかどうかなんてどうでもいいさね。それより大事な問題は、そのいけ好かない魔具を持つ人間だえ?」

「……そうじゃな」

「たしかに、そっちの方が先決じゃ」

「果たして、天音を預けるに足る者か……見極めねばなるまいな」


 人格の判断に加え、好みのリサーチもしなくてはならない。天音に酷いことをしないよう、気に入る形で送り出さなくてはと全員が思っていた。勿論、大多数が血涙を流しながらだが。


 ドラゴンは成人の儀式を行う際、生まれたときの性別に関係なく、雌雄を自由に選べるようになる。これはドラゴンの数が減るのを妨げるために進化したものだと考えられていた。エルダードラゴンとして完全に成長してしまうと生殖機能を失うのだから。

 完全に成長する前に子を残す必要があり、その際に都合良く異性のエルダードラゴンがいるとも限らないためにそう進化したのだろう。


 大抵は生まれたときのままの性別を選ぶが、片方に偏り過ぎていた場合、全力の説得である程度のドラゴンは性転換することになる。当初はともかく、ある程度の年月が過ぎれば身体の性に従った性格になるため、元々同性だからということを気にする者も少なくなるのだった。


 もっとも、それはこの地できちんと修行を積んだドラゴンたちが居た頃の話でしかないのだが。今では廃れた技術でもあるが、きちんと受け継がれてもいる。


「もしやすると、天音が子を成すかもしれんしの……」

「ハーフになると、子を成せなくなるやもしれんが……」

「天音にも、その子にも過酷な運命かもしれないが……この聖地を再び聖地足らしめるためには仕方のない犠牲だ」

「天音も……辛いもんだねえ。嫌になるよ、あんな素直な良い子に、あたしたちは運命を託そうというんだからねえ」


 老婆が全員の気持ちを代弁する。老人たちも皆、奥歯を噛んで沈痛な面持ちになっていた。


「じいー! ばあー! どうかしたのかー!?」

「なんでもないぞい!」

「そうじゃ! それより気張らんか、天音!」

「きちんと灰音の言うことを聞くのだ!」


 遠くからでもこちらの様子はわかったらしい。表情を歪めた老人たちを心配し、天音は声をかけたのだった。それがわかっているからこそ、老人たちも努めて心配は要らないという表情を浮かべて声援を返す。


「そんじゃ、あたしは遠見の水晶を用意するかねえ」

「待て! 急ぐ必要はないぞ!」

「そうじゃ! 別に今日でないといかんわけじゃないぞい!」

「なんなら来年でも再来年でもよいのだぞ!」

「馬鹿言うんじゃないよ! 天音があんな素直に頑張っているんだ。過酷な運命を背負わせるなら、あたしたちも真摯にあの子に向かい合わなきゃならんだろう」


 ぐぬぬ……と老人たちは再度黙り込む。その様子に老婆は嘆息し、妥協案を告げた。


「じゃあ、明日にするさね。そんで灰音も天音も合わせて全員で見るとしよう」

「……わかった」

「そう、じゃな……それがよかろう……」

「うむ……やむを得まい……」


 全員が納得し、老婆も祈る。

 どうか、天音を託すに足る素晴らしい人物であってくれ、と。



 そして、翌日。

 朝食を終えて修行へ繰り出そうとする天音を呼び止め、遠見の水晶で、彼の将来の主人となる人物を一度視てみようという話をした。天音は珍しく目を僅かに開き、口を小さく開いた。何も知らない他者からすれば大した変化ではないが、天音を知る老人たちからすれば天地が逆さになるほどの大きな変化だった。


「……じゃあ、始めるよ」

「ああ、頼む。オレの魔力があの魔具には染み付いているはずだ」


 老婆が水晶に魔力を注ぎ、魔具を起動させた。探すのは天音を操る「竜踊りの笛」に染み付いた魔力。その先に天音の主人となる人物が映るはずだ。

 透明な水晶の内部に靄が生まれ、渦巻く。そうして――渦が晴れた。


「むっ!?」

「おおっ!?」

「なに……っ!?」

「これは……」

「……おおぅ……」

「御館様だ!」


 一人嬉しそうな声音を発する天音を除き、全員が悪い方向に予想外の光景を見て固まってしまった。

 後ろ姿であったために顔はわからなかったが、黒髪で隻腕の男が映っていた。よく見ると眼帯のようなものをしているのがわかったため、隻眼なのかもしれない。


 それだけなら、別にいい。むしろ、天音が彼の片腕となって働ける状況だ。

 だが、それ以外の要素が最悪にも程があった。


 彼は女性を四つん這いにさせてその上に腰掛けており、さらに膝の上に別の女性を座らせ、残った片腕で胸をまさぐっていたのだ。

 非常にアレな光景だった。


「ストーーップ!!」

「中止じゃあっ!」

「今直ぐ消せえええええいっ」

「わっ!?」

「天音、見るでない! 目が……心が穢れる!」

「……これはあまりにも予想外だねえ」

「待ってくれ! オレはまだ御館様を改めて見れていないぞ!」

「見んでよい!」

「どうしてだ!?」


 反射的に天音の言葉に反論してしまったが、その理由を口にしろと言われれば非常に言葉に迷うことになる。


「そ、の……じゃな……」

「おい、どうかうまい理由を考えい」

「これは……想定外過ぎる……」

「ええとね、天音……これは、その……」


 全員がしどろもどろになっているのを見て、老婆がやれやれと呟きながら口を開く。


「これ以上は見ても仕方ないよ、天音」

「ばあ、どうしてだ?」

「だって、あんたはまだまだ弱いじゃないか」

「っ!」


 ぐっ、と天音が拳を固く握った。


「これ以上、将来の主人……になるかもしれない男を見ていると、もしかしたら今すぐにでも飛び出したくなるかもしれないだろう?」

「そんなことはないっ」

「いや、気もそぞろになって、修行に集中できないかもしれない。だから、今日はここまでってことさね」

「………………わかった。なら、いち早く御館様の下に戻れるよう、より一生懸命に修行することにする」


 なんとか天音を丸め込めたことに全員が安堵する。老婆も笑みを浮かべ、やわらかく応えることにした。


「ああ、それがいい。……あ、ところで」


 ついでに、ふと浮かんだ疑問について訊ねることにした。


「御館様って呼び名はなんだい?」


 きょと、とした顔で天音は老婆を見返す。


「灰音のじいが座学で教えてくれた。なんでも、命を預けた主君をそう呼ぶんじゃないのか?」


 一瞬、時間が止まった。


「灰音えええええええええええええっ!!」

「なんちゅうことを教えとんじゃあっ!」

「適当なことばっかり教えるんじゃない!」

「何が適当だ!? これもきちんとした書物に従ったものだぞ!」

「そんなもん、龍皇国じゃとっくの昔に滅んだわい!」

「だからこそ、今こうして蘇らせるのだっ! この聖地と同様にな!」

「何うまいこと言った顔しとるんじゃあっ!」

「今時忍者なんて流行らぬわっ!」

「流行程度で忍者が滅びるとは片腹痛し!」

「何かっこつけとんじゃ! ジジイの癖して!」

「その髭引っこ抜いてやるわい!」

「なにを!? やるかっ!? 風杜に炎左が俺に勝ったことがあったか!?」

「今こそ雪辱を果たしてやるわい!」

「おうともよう!」

「俺も参戦するぞ。灰音は一度懲らしめねばならぬ」

「なっ!? 光多まで参戦するのはいささか卑怯ではないか!?」

「おのれが言うか!?」

「一番力があるからと天音を任せてみれば……!」

「とんでもない外道だな、貴様は……!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、四人の老人たちが表へ出て行く。呆然としている天音の手を老婆は引いた。


「天音はこっちにおいで」

「しかし……いいのか? 地香ばあはじいたちを止めなくて……」

「構わんよ。たまには血を流してスッキリするのも必要さね」


 老婆は頭を抱えつつ、天音をこれからどう教育するか悩む。


 あの男は……たしかに人間というか、人というか、ともかく最低の性格だということは理解した。

 しかし、天音はこれで頑固である。先程の「御館様」発言の意味を聞いたところによれば、ここで彼に仕えないという選択肢は絶対に受け取らないだろう。


 だが、本音を言えば任せたくない。

 なので折衷案とし、とにかく仕えるまでに覚えることの数を膨大に増やそうという作戦に出た。天音が仕えるようになったそのときに、あの男がそういった欲望を持っていなければいいのだ。あるいは、既に死んでいれば万々歳だ。

 隻腕隻眼ともなると、まともな戦闘能力があるとは思えない。そう遠くないうちに死ぬだろうと判断してのことでもある。


「あの主人に仕えようと思ったら、天音は雌にならねばならないよ?」

「構わない。オレが女になることで御館様が喜んでくれるなら、喜んで身を捧げよう」

「……こんな良い子なのに……神は居ないのかねえ……」

「どうかしたか、ばあ?」

「はあ、なんでもないよ……。ただ、雌として仕えるなら、覚えることはまた増えてしまうからね、覚悟するんだよ」

「う……いや、仕方ない。出来の悪い者と思われるのは心外だ。ばあにもじいたちにも顔向けできぬ。十分にこの身を鍛えてやってくれ」

「そうかい、そうかい……。なら、裁縫に掃除に料理に洗濯に……覚えなきゃならないことは山ほどあるねえ」

「望むところだ」



 天音大改造計画が終わることは、随分先のように思えるのだった。


 ……が、天音が脅威的な学習能力を開花させるのは、また別のお話である。

やったね「欠落」!

また一人、人外仲間が増えるよ!

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