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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」とドワーフと小悪魔
62/129

5-5

 ドワーフのドンネルはギルドの会議室に足を運ぶ際、どうしてこうなったのかと頭を捻っていた。というのも、ギルドで会議室を借りれるというのはかなり高名な冒険者でないと無理であるからだ。

 彼らの依頼したクエストを受注した「白無垢」の存在は知らなかったが、とりあえず有名だというのは周りの冒険者たちの反応で理解できた。

 だが、実際に目の当たりにしてみると、まさかまるで子供というか、まんま子供だったのだから色々と予想外なのは仕方がないだろう。

 それだけでもアレだが、その彼女はどうも奴隷だという。さっぱり意味がわからない。高名な冒険者でありながら奴隷。どういうことだろう。


 そして、彼女に呼ばれて現れたのが、明らかに胡散臭い男だった。片目は失っているのか眼帯をしているし、左腕はあからさまにない。普通なら二の腕がある部分で袖が丸められている。ぼさぼさでやや長めの珍しい黒髪に、蛇のように油断ならない目付きの男。怪しいという言葉を擬人化したらこうなるのであろうという感じだ。

 なのに、自分の名前はわけあって名乗れないという。怪しさは天元突破した。果たして自分はこの冒険者たちに依頼してよいのだろうか、疑問は尽きない。


 しかし既に依頼を発してから誰かが受注してくれるまで、かれこれ一ヶ月が経っている。これ以上は限界だ。

 街に滞在するのにも金が要るため、普段ドンネルは仲間たちと街の外で生活している。自分たちも大概だが、エルフたちの方も痺れを切らしているかもしれない。これ以上はあのエルフとドワーフとの関係に修復不可能な亀裂を刻みかねなかった。


 だからこそ、「白無垢」が高名な冒険者であると知って、数少ない特技である倒立前転から土下座へ繰り出したのだ。倒立前転からの土下座は初めてであったが、為せば成るということだろう。幸いにして倒立前転土下座は成功し、効果もあったようだ。

 ……もっとも、ドンネルが「白無垢」だと思った相手は「暴風」という「勇者」の方だったらしく、その隣にいた小さな少女が「白無垢」らしい。余計に彼は驚いた。


 冒険者ギルドの話では、彼女たちのパーティリーダーは「白無垢」である。しかし彼女は奴隷であり、本当のリーダーは冒険者でもなんでもない、この「欠落」という男らしい。

 彼も「勇者」だとは言うが、あまりにも胡散臭い。こんなのが「勇者」なら自分でも「勇者」を名乗れると思うのだが、それを言って彼の機嫌を損ねては事だ。大人しく、自分がお願いする立場だということを崩さないよう注意する。


 男は改めて話を窺いたいと口にしたので、ドンネルは初めからできるだけ簡易に説明した。これまで何人もの冒険者にしてきたため、すらすらと喋れる。もっとも断り続けられたため、できるだけ同情を誘う言い方をするのはやめない。

 ただそれはあまり効果がなさそうだ。この男の目はひどく冷たく、鉛のようにも見えるがその実、どれだけ熱しても熱を持たず、加工しにくいオリハルコンのような目だ。その分、加工できれば素晴らしい性能を誇るのだが、果たしてこの男の場合はどうなるのだろう。


「ご主人様ぁ、可哀想です……」

「うるさい。黙れ。三日三晩メシ抜きにするぞ」

「あぅ……」


 やはり、オリハルコンではなく、単純に性格が悪いだけだとドンネルは思った。

 ただ、彼の同情を引くのは無理だ。そのため、説明からそういった感情の部分を排し、できる限り事実のみを客観的に説明することに切り換える。その変化に気付き、彼の背後で直立していたトールという「暴風の勇者」が僅かに目を見開いた。ドワーフだからといって見下していたのだろう。ほんの僅かに、ドワンゴの中で暗い愉悦が輝いた。


 ドワーフは人間たちから見て軽蔑される種族だ。ドワーフの側も人間を同様に軽蔑してはいるが、ドワーフはそれでも「良い人間もいるにはいる」という考えを持つ。ただ母数となる数が違うため、悪い人間が目立つというだけの話。なので、できる限りは人間に干渉しないように努めている。今回のようなケースではさすがに話が変わるが。


(ざまあ見やがれ)


 そういった事情もあり、「暴風」を驚かせられたのは非常に心地良かった。


 背が低く体毛の濃いドワーフを人間たちは見下す。

 容姿と頭の出来はまるで別の話だというのに、まるでモンスターに手足が付いただけのような扱いをしてくるのだ。そもそもその解釈だと自分たちをゴブリンと言っているようなものだ。

 良い人間というのは、素直にドワーフを対等とし、自分の技術の拙さを理解し、頭を下げて鍛冶技術を教わりたいと言う人間だけなのである。決して、こんな風にお高く留まった人間ではない。


 その点でいえば、この「欠落」という男は良くも悪くもない人間だった。いや、悪い人間ではあるのだろうか。偏見の目で自分たちを見てくることはないが、それは決して良い理由からではない。

 彼の目はドワーフであれ人間であれ、他者はどうでもいい存在として見做している者特有のソレだと直感する。観察眼に関し、ドンネルは自信を持っていた。だからこそ、こうして仲間を代表してギルドへやって来ているのだ。


「ふむ。概要は聞いていた通りだな。じゃ、次の質問だ。そのモンスターってのが実は魔族で、魔王の配下だっていう可能性は?」

「ないと思います。ヤツはその場から動きませんので」

「なるほど」


 魔王の配下である魔族はそれなりに忙しい部類である。なにせ魔王に仇為す者がいないかチェックしなければならないからだ。

 特に、この大陸を支配する「剣舞」は特殊な魔王であるため、その魔王軍は殊更だろう。なので、一ヶ月も配下を遊ばせておく余裕はないはず。それを知っているのか知らないのか、男は容易く頷いた。


(知ったかぶりか? それとも、本当に知っている?)


 わからない。だが、もはやこの段階に到ってしまえば、彼らを頼るしかない。


「ま、魔王軍が関係ないならいいかな。エルフには多少用事もあるし……」

「ではっ!?」

「や、まだ受けると決めたわけじゃないよ。確認したいことは他にもある」

(やられたっ!)


 前のめりになったところを一刀両断された気分だった。

 男はどうも交渉事にも長けているようだ。正確にいうなら、人の弱みを見出すのが上手いというべきだろう。

 乗り気なところを見せてドンネルが食い付いたのを見計らい、まだ決定ではないと言う。ドンネルの態度を見て判断したに違いない。そうすることで報酬をさらに上乗せさせるつもりだ。さすがは人間。汚い。実に汚い。


(これだから人間は好かんのだ!)


 腹を立てながらも、顔には出さないよう苦心する。冷や汗が流れるが、そこはバレないように気を払いながら拭うことにした。


「一ヶ月も前からだったか。……ああ、なるほど。じゃあやはり、魔王軍の配下じゃないのは確定なのか」

「……どういうことでしょう?」

「ん? あんたも知ってると思うけど、この間『嫉妬の魔王』が死んだだろう?」

「そのようですね……。二人目の魔王殺しが生まれたということですな」

「そいつの情報はまだこっちまで回ってないけどな。あ、知ってる? そいつのこと」

「いえ。まだアールグランド大陸には届いていないかと」


 というか、ドワーフにそんな情報が素早く回るはずがない。そういった情報を回しているのは基本的に人間なのだから。それをどうせ理解している癖にわざわざ聞いてくるということは、やはりこの人間もドワーフを下に見る悪い人間ということだ。


(おれたちは運が悪い! こんなクソみたいな人間にヘーコラしなきゃいけないなんて……!)


 心の中で涙を流していることに気付いていないのか、あるいは気付いた上で無視しているのか。男はさらに質問を重ねた。


「エルフの隠れ里への移動、そこでの滞在日数、帰路。これらでどれくらいの時間がかかるか教えてもらえるか?」

「悪いですが、細かな日数は依頼を確実に受領してもらってからでないと……」

「今更そんなこと言える立場じゃないだろ? まあ立場はわかるから、合計でいい。詳しい日数はまた後で教えてくれ」


 うぐ、と眉を顰める。「後で教えてくれ」というのは引き受けてくれるということなのだろうか? それとも、あくまで情報を引き出すための撹乱か?


(わからない。まるで悪魔と取引しているかのようだ)


 勿論、悪魔なんて会ったこともないが。既に絶滅したという話もあり、ドンネル自身は悪魔の存在など信じていなかった。

 ともかく、話さなければ話が進まない。合計でいいなら、まだマシだろう。観念し、ドンネルは告げることにする。


「約二〇日の予定です」

「なるほど。……なるほどね」

「……?」


 男は後ろにいる「暴風」から二枚の書類を受け取り、何やら確認しているようだ。


「おまえ、運が良いな。同時に受けてるクエストは期間の余裕がありそうだ」

「おおっ! じゃあ……」

「いいよ、引き受けよう。確認しておくが、モンスターやら何やらが出て来ても殺すなとか言うなよ? 敵は全員殺すからな」

「構いません」

「そりゃ良かった。中にはいるんだ、頭足りない馬鹿が」


 男は口角を持ち上げ、乾いた笑みを浮かべる。ドンネルからすれば理解し難い話だ。自分たちを殺そうとやってくるモンスターや動物をどうして生かしておく必要があるのだろう? 事情があったり、自分たちより強い敵なら話はわかるが、そうでないなら殺してしまえばいい。

 ただ話を聞いている限り、「欠落」はどうやらそんな馬鹿なことを言う依頼人に当たったことが過去にあるようだ。


「すぐに出発でもよろしいですか? 時間が押してしまっているので」

「構わない。元々、俺たちもギルドでクエストを受けたらすぐに出る予定だったからな」


 話が早くて助かる、と安堵の息を漏らした。


(だが、油断はできんな。この男たちがエルフの里で妙なことをしないよう、目を光らせておかなくては……)


 エルフの作る魔法薬はドワーフたちにとって必須アイテムだ。というのも、彼らの住む街では何故か神職系ロールを持って生まれる者が少なく、そのため教会の数も異様に少ない。病気に掛かっても中々治せないのだ。

 そのため、エルフたちから大量にアイテムを購入して帰らなくてはならない。そのためにも金は温存しなくてはならず、だからこそハーシェルの外で一ヶ月も耐えてきたのだから。


「こちらです!」


 話が決まれば後は早い。頼みの綱である冒険者たちを連れ、足取り軽く仲間たちの下へドンネルは駆けるのだった。

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