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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」とドワーフと小悪魔
57/129

5-0 プロローグ

第四章開始です。アールグランド大陸編開始でもあります。

相も変わらずプロローグは短いので、一時間後にもう一度更新します。

 ソレは悪魔と呼べない脆弱な力しか持って生まれなかった。いや、悪魔と呼ぶことすら烏滸おこがましい劣化種か。周囲の者たちはソレを嘲り、差別し、鼻つまみ者として扱った。

 ソレはそのことを自体を恨みはしない。怒りもしない。


 だって、当然のことだ。

 悪魔という、魔王の支配からも抜け出す高等種族の血を半分も継いでいながら、この程度の力しか持っていないのだから。「失敗作」と誹られるのも当然だろう。


 だから、ソレの恨みは父たる悪魔でなく――母たる人間に向いた。

 悪魔と人間との間に生まれたその存在を他者はこう呼ぶ――「小悪魔」と。

 人間ではない。だが、決して悪魔と呼べるほど力を持たない小さなか弱い存在と。



 ソレは出来が良くないという理由で父から捨てられた。仕方ない。自分でもそうすると思う。

 母は自分を生むのと引き換えに命を落とした。そのことに恩義は感じていない。所詮脆弱な人間という分際で悪魔との子を産もうとするのがそもそもの間違いなのだから。


 だから、一人で生きていくしかなかった。

 けれど、それは辛いことで、苦しいことで、寂しいことだった。

 いや、それ自体はどうでもいいことだ。

 何故なら、ソレはそのこと自体、理解していなかったのだら。

 初めからぬくもりを知らなければ、何も問題ない。

 初めからそういった人生だと理解しているから、別段苦しくなんてない。


 なのに、転機が訪れる。訪れてしまった。


 知らなければ、これまでが不幸だったなどと思わずに済んだのに。

 知らなければ、こんな寂しさも、苦しさも、辛さも味わわずに済んだのに。


「おやおや、ようやく見付けました。まったく、実に脆弱なものです。いえ、さすがは不肖の兄というべきなのでしょうかね?」


 その悪魔は一目で凄まじい力を持っていると理解できた。

 話を聞けば、魔界に存在する四つしかない大悪魔の一族であるという。それも宗家であり、分家の血筋でない最高位クラスの悪魔だ。

 そんな雲の上どころか星雲を漂っていそうな大悪魔が、何故こんな自分に声を掛けてくれたのか?


 考えるまでもなく単純な話。彼女が言っていた通り、自分は彼女の兄の子であるらしい。つまるところ、彼女は自分の叔母だということだ。

 ただ、半人前のソレからすれば信じられないことに、あの父であっても、大悪魔としては才覚も覚悟もすべてを持たない不肖の子だったようだ。

 だがそれも目の前の存在を見れば頷ける。

 彼女は父とは対照的に、まるで父の分の力を含めてすべてを総取りしたかのようだった。


 そんな大悪魔は不思議なことを言う。彼女は自分を引き取り、最低限度の教育を施すというのだ。どうしてそんなことをするのか訊ねると「あなたには知る必要のないことですよ」とキシキシ嗤いながら告げられた。


 名前すら持たなかったソレは大悪魔によって名を授けられた。

 それから大悪魔のことを「叔母」と呼ぶようになり、幾星霜の月日が流れ――ソレは見事なまでに反抗期へ突入した。


「……仕方のない子ですねえ。これは修行兼罰兼調きょ――いえ、躾が必要かもしれません」

「今、調教って言った!?」

「どちらでもいいことですよ。まあ、そうですね……ええ、やはりあの方に預けるのが最も良いかもしれません」

「あの方……? 誰だよ、叔母さん」


 叔母は嗤う。間違いなく、自分にとって悪いことだろうと予想して肌が粟立つが、彼女の本気の怒りを買うのはごめんだ。一度として本気で怒られたことはないが、本気で彼女が怒ったところを一度だけ見たことがある。

 絶対に、彼女には逆らうまいとそのときに決めた。


「人界へ行ってもらいましょう。小悪魔とはいえ、彼方では多少役立つでしょうから」

「い……いやだああああああっ!!」

「逃げても無駄ですよ?」

「ぐえっ」


 一瞬で手足を拘束され、首輪を巻かれる。そこからは鎖が伸びており、それを叔母は握っていた。


「しばらくは屋敷の外の小屋で暮らしていなさい。呼び出しがあれば連れ出します。それまでは大人しくしているように」

「はい……」


 呼び出し? どういうことだろうか? 大悪魔である叔母を呼び出すなど、どれほど力のある者でも無理な気がする。

 自分の未来を不安に思いつつ、それでも、雨風が防げる分、小さな小屋での生活も悪くないとソレは思うのだった。



 これから先、自分がどういう事態に巻き込まれるかを理解していたならば——たとえ叔母の怒りを買う覚悟をしてでも逃げ出していただろうが。

 そんなことは〈未来視〉を持たないソレにとって、わかるはずのないことだった。

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