3-14 エピローグ
本日二話掲載です。
「失礼します」
言って、ある女性が冒険者ギルドの会議室の扉を開いた。彼女の後ろにはさらに三人の仲間が続く。
「よくぞ、いらっしゃいました」
「ああ、歓迎しよう。非常に力強い応援だ」
市長と支部長が彼女たちを歓迎する。しかし、リーダーである彼女は最低限失礼でない程度の素振りを見せただけで、目は別の誰かを探していた。
当然、その対象はこの部屋に存在しない。しかし、彼に近しい人物はいた。
「あ! ソフィアさんです! 待ってたですー!」
「メイちゃん! 久しぶりね」
冒険者ギルドルゴンド支部の会議室に現れたのは「太陽の勇者」一行だった。
挨拶もそこそこに、「太陽」たちは自分たちに用意された椅子に座る。支部長や市長の次の席にメイは座っており、その次の席だ。つまり、この場に集められた冒険者の中では最も重要視されているということだろう。
全員が「太陽」についてざわめく。それだけの実績や能力を彼女たちは証明していた。
自らを鍛えたいと言い残して消えてから一ヶ月。それから冒険者として復帰したとき、「太陽」たちはそれまでと隔絶した力を持つ冒険者になっていた。
「それでは、今回のクエストについて、諸君に述べよう」
全員が黙るのを確認してから支部長は口を開く。
「以前にここ、ルゴンドの街がクラーケンによって危機に脅かされた際、作戦会議にも作戦実行にも最大限の協力を惜しみなくしてくれた一人の者がいる。知っている者もいるかもしれないが、『白無垢』は奴隷であり、彼女の主人のことだ」
ソフィアはすいっと会議室を見渡した。動揺している者もいるが、少数。ほとんどの者は納得し、支部長の言葉をいまかいまかと待っている様子だ。
少し、嬉しくなる。そしてそれと同じくらい、嫉妬があった。
その中には綺麗な容姿をした女冒険者たちも数名いたからだ。
「彼の名はわからないが、二つ名は判明している。『欠落の勇者』だ」
それから詳しいことを支部長は述べた。
クラーケン退治があったこと。イッカクを襲わせて手傷を負わせてから戦ったこと。その際にリヴァイアサンが現れてしまったこと。リヴァイアサンが魔王のペットであり、攻撃するのはマズいといこと。
そして皆を逃がすために自分に付いた妖精を使い、自分は単身居残ったこと。
(相変わらずだなあ。けど……『英雄』がリヴァイアサン相手に負けるのかな?)
ソフィアは内心で疑問を抱く。
彼女は「欠落」が「英雄」なのではないかとかなりの確信を抱いていた。というより、彼女の中では本人だと断定している。
仲間に話してみたが、いまだにそれはないと否定されている。彼の言う通り、あくまでも「英雄」と共に旅をしたパーティメンバーなのだ、と。
もっとも、彼自身が言いふらしていないからにはそれなりの理由があるのだろうと判断し、仲間以外には口にしていない。
支部長の話は続く。
その際に一人の女性冒険者が「欠落」と共にリヴァイアサンと戦った。それが「戦斧」のパーティメンバーである「魔女」だ。
この場にも居り、自分たちの次の席である「戦斧」の一員なため、すぐに「魔女」を見付けることができた。
(うわっ! 美人! それにその隣の人もカッコいい! すごーい。絵になるなー)
話によると、その際の功績などを加味して彼女も二つ名持ちになったらしい。
そして「欠落」はリヴァイアサンとの激闘で気を失った「魔女」を連れ、とある島へと逃げる。リヴァイアサンも傷付いてしまったため、彼らを追うことができなかった。
(……殺したんじゃないかなー、リヴァイアサン。あの人ならやりそう……。あ、でも魔王のペットなんだっけ? じゃあルゴンドが無事だし、そうでもないのかな? けど、二人で島に……無人島、だよね……むう!)
不機嫌になり、柳眉を逆立てるソフィア。
周りの者は「『太陽』が怒ってるぞ……」「きっと『勇者』として義憤に燃えているに違いない」などと小声で話しているが、彼女の耳には届かなかった。
「そこで――」
支部長の話が再開し、意識をそちらへ向ける。
ただ放たれた話は、とても理解が追いつくものではなかった。
「――『欠落』は『叡智の魔王』の手の者と接触したようだ。話し合いなだけと言っていたようだが、魔王軍の言うことなど信用ならん。実際、既に二ヶ月が経とうとしている」
目を見開く。そしてメイを見るが、彼女は俯いていた。痩せこけてはいないが、最後に記憶にある姿からすれば、明らかに痩せている。
「これは我々……冒険者ギルドとしての判断だが、『欠落の勇者』は比肩する者がほとんどいないほどの実力者だと思う。彼を魔王軍の下においたままというのは、どう考えても人類の損失だ」
「しかし……本当に『欠落』とやらが生きているのですか?」
その存在を知らない冒険者が疑問を口にした。その瞬間、批難が起こる。
「それはおめえが知らないからだろ」
「おれは見たぜ。あいつ、ありえねえ。それ以外に言い様がねえよ」
「支部長の言うことももっともでござろう。拙者は協力するでござる」
「おれはあいつに借りがある。返さなきゃならねえ、意地でもな」
「僕は同じ『勇者』として放っておけない。いや、そもそも、僕一人でいいのだがね」
「私は賛成する」
「わたしもだね」
「私も。というか、死んでも死ななそうだしね、あの人」
「あんなヤツ放っとけばいいって言ってるのに……まあ、私も、借りっ放しで死なれるのは困るけどね」
ソフィアは目を丸くした。それは自分の仲間たちも同じだったようで、ひそひそと小声で話し始めた。
「おいおい。『欠落』さん、随分高評価じゃないか?」
「だね。ま、わかるけど」
「支部長の話がすべて真実だとしたら、頷けますけどね」
ソフィアも同感なのだが、すべて真実とは思えなかった。大筋は合っているだろうが、細かいところはあまり信用できない。
ただ、「欠落」が魔王城へ旅立ってから帰って来ないのは確か。
そして連絡も一切ない。言葉にこそしていなかったが、彼が奴隷であるメイを大事にしていたのは確かだ。そんな彼が、彼女がああなるまで放っておくだろうか?
ソフィアにはとてもそうは思えなかった。
出された結論はひとつ。「欠落」は「叡智の魔王」に囚われている。
「『欠落』を奪還する。これは魔王に弓引くクエストだ。死ぬ可能性はあまりにも高い。そして失敗しても成功しても、死ぬ可能性がある。ここ、ルゴンドではガレオン船を三隻用意している。生き残った者はこの船で速やかにサルニア大陸から脱せよ。既に民衆の避難は先月から始めている。……また、クエストを受ける受けないも、冒険者として自由である。強制はしない」
中にはその言葉で立ち上がり、去っていく者もいた。しかし過半数がその場所に止まり続けている。
それはつまり、「欠落」の功績によるものだ。
それがソフィアには嬉しい。
そして、やはり。少し、悔しい。
自分に力があれば――あれほどの力があれば――単独で助けに行けるのに。
「『太陽』の諸君は……参加してくれるということかね?」
「はい。彼には多大なる恩があります」
「そうだねえ」
「うん」
「当然ですね」
「あ、ありがとうなのです!」
『ありがとねー! まったく、モウ! マスターったら、何考えてるのか!』
メイが頭を下げ、ごちんとテーブルで額を打つ。その隣で手のひら大の精霊が周囲の冒険者に手を振っていた。
「あなた……姿を出してて、いいの?」
『ン? ああ、「太陽」さんネ。いいのいいの! マスターが見せていいって前に言ってたから!』
「そ、そうなんだ……」
彼女はソフィアが「欠落」と行動していた際に迷いの森で出会った雪の精霊だ。どういった理由かは知らないが、今では彼と行動を共にしていたらしい。もっとも、現在は彼の奴隷であるメイと共にいるようだが。
「それでは、詳しい作戦会議を始めよう」
全員が軽く自己紹介をするのを待ち、支部長が口を開いた。
(助け出す……! 今度はわたしの番なんだから!)
ソフィアは拳を強く握り、一度は触れた彼の体温をもう一度取り戻すため、心に火を点した。
これで第三章は終わりです。
感想とか評価とかもらえると嬉しいです。
たぶん飛び跳ねます。物理的に。




