3-6
翌朝、俺は不機嫌さを全面的に表情に出しながら冒険者ギルドの前にいた。隣にはメイと隠蔽魔法を使ったエミリーがビクビクしながら付いている。
「ご、ご主人様……まだ怒ってるです?」
『あまり怒ってるのは、ええと……身体に毒だと思うヨ?』
「うるさい。殴られたくなけりゃ黙ってろ」
メイもエミリーも口に両手を当てて黙った。しかし、二人に言うことを聞かせたことで余計に昨夜の話を思い出し、苛ついてしまう。やっぱ問答無用で殴っとけば良かったかもしれん。
「なんだ? なんなんだアイツは? どうやったら人をあそこまで馬鹿にできる?」
苛つきのあまりに腕を振り回してギルドの壁をぶち壊しそうになった。咄嗟に理性が働いてよかった。
「あのあの……ご主人様。ルナーさんにもワケがあると思うのです……」
『そうヨゥ。昨日の晩ご飯のときは確かにアレだったけど、メイと話してたときはどちらかというと優しい人だったわヨ?』
「ああん……? 誰が喋っていいつった?」
再度、二人とも口を噤んだ。そこへ声が掛けられる。
「呆れた。昨夜あれだけ言ったのに、まだ反省してないのね。その頭を振ったら、きっとカラカラ良い音がするんだわ」
「ルナー、落ち着きなって」
俺を苛立たせている張本人とその従者的な人物が現れた。
片方は女。年齢はメイが聞き出したところによると二〇らしい。ロールは「魔法使い」で、〈詠唱破棄〉のスキル持ち。オグルドが言っていた新人というのがコイツである。
長いストレートの髪に割とピタッとした、ワンピースのように一繋ぎになった服の上から腰まであるローブを纏っている。義眼の〈情報開示〉によれば、服はともかく、ローブの性能が割と良い。これは冒険者として活躍していないと買えないくらいの高級品だ。そのため、実力に関しては信用していい。性格的にはこの女を信用など一切しないが。
女――ルミナークのレベルは一五一。ステータスの「魔法使い」表示はランクアップによって銀色に輝いている。そしてその隣には珍しい「死霊使い」のロール。「呪術師」に並んで他人に言えないロールだ。だからだろう、オグルドにも伝えていないようだ。恐らく、俺たち以外にコイツが「死霊使い」のロールを持つことは誰も知らないだろう。
そしてルミナークと共に行動しているのがエイリークという優男。幼馴染らしく、コイツも二〇歳だそうだ。ルミナークがいなければこの街の女たちは放っておかないだろう甘いマスクをしている。俺の次くらいには、という但し書きを付けておくべきかもしれないが。
身に纏うは、薄く軽いが硬度の高い銀色の——ミスリルの鎧。これもルミナークのローブと並んで高級品である。
エイリークは一四七レベル。「聖騎士」のロールを持ち、ランクは銅まで上がっている。
ただ、この二人に関してその辺りはどうでもいい。コイツらはとんでもない状態異常を抱えているのだ。厳密には状態異常と呼ぶべきではないのだろうが。
エイリークの状態異常。その名は死霊。つまり、ヤツは死人なのだ。
死した後、「死霊使い」のスキルによって蘇った仮初めの生命。それが死霊である。実にわかりやすい。
死霊にはふたつの種類がある。生前の肉体とは別の器へ魂を封じ込められた死霊と、生前と同じ肉体へ封じ込められた死霊。エイリークは後者であり、その術者が誰であるかなど考えるまでもない。
この場合の死霊は死んだ直後に魔法を付与されないと成り立たない。しかし、それが可能であった場合、ある意味で永遠の命を手に入れたと言えるだろう。主人である「死霊使い」が死なない、あるいは追加で魔法を掛け続ける限りは生命活動を続けることができるのだ。
そしてルミナークの場合。こちらはある意味、エイリークよりとんでもだ。
その名も魔人。魔人である。人間辞めちゃっているということだ。
迷いの森で倒した魔人と同じ。ただ、アレよりは随分と格が下のようだ。
魔人は一度死んだ人間が何らかの要因で生き返った存在。そういう定義でいうなら死霊も魔人といえるかもしれないが、魔法の存在によって仮初めの命を手にしている死霊と違い、魔人はそういったモノなしに存在することができる。
ただし、生前の衝動に引きずられる形になる者がほとんどで、理性を持たない。代わりに、その存在は魔族並の力を得る。
裏返せば、普通に人間に紛れ込めるくらいの理性を持つルミナークの場合はそこまで力がない。なんちゃって魔人みたいなもんだ。同じレベルで同じロールのやつよりは強いだろうが、それでも大して差は出ないだろう。
……まあ、それらは別にいい。俺はロールとかで人を差別しようとは思わないし、コイツらにしても、そういう状況だからこうなっただけだと判断している。でないと魔族であるメイを奴隷にしようとか思わない。
では何が気に食わないかというと――ルミナークの主張である。
簡単にいおう。「太陽」パーティにいるメシアをよりウザくしつこくしたのがルミナークという女だと考えていい。わかりやすくいうなら女尊男卑の精神の持ち主なのである。くたばれ。
そしてそれだけならまだ我慢できるが……初対面時のメシアのように、それを俺に押し付けてくる。それが堪らなくムカつく。俺がテメエらを尊重してやって「死霊使い」であることや魔人、死霊であることなども黙ってやっているのに、それをいいことに何言いたい放題してくれちゃってんのこのクソアマ。
「『欠落』さん、すいません。ウチの者が……」
「謝る必要なんてないわよ。メイみたいに小さな子供を奴隷だなんて、その男のゲスさがわかるものじゃない。汚物を汚物と見て何が悪いの?」
エイリークの台詞に「別に構わない」と言おうとした瞬間だった。
「……ふ、ふふふふふ……」
「ご、ご主人様……!?」
『あ、キレちゃった……。ワタシ知ーらないッ』
プツンと来た。頭にキた。もう許さん。コイツら、許さん。
怒り任せにぶっ殺したりはしない。そこまでの感情は取り戻していない。ただ身を焼くような怒りが頭の奥でぐるぐるし続けているだけだ。
よって、コイツらが一番困る方法をもって復讐とさせていただきます。
「よし。俺はこの件から手を引――」
「すまんすまんすまん! ルナーにはおれから言い聞かせておく! だからそう機嫌を損ねないでくれよ!」
そこへオラルドが慌ててやってくる。俺とルミナークの間に割って入り、俺の両肩を掴んで頭を下げてくる。
「昨夜も言ったけど、おまえのとこの新人どうなってんだ? 礼儀ってやつを知らないのか? 普通冒険者ってのは、一時的とはいえパーティを組むのなら、多少嫌なところがあっても黙って我慢して連携を乱さないようにするもんじゃないのか?」
「いや、まったく。耳が痛い」
ルミナークを制御できていないのはリーダーであるオラルドの責任ともいえる。なので思いっきり文句を言っておいた。
「ふん。自分の存在自体が和を乱しておきながら、その責任を他人に向けるだなんて。やはりゲスはゲスね」
「はわ、はわわわわ……」
『……ううん。この人、相当よネ』
俺が正体をバラさずに今回の一件を解決に導くためには強力な「魔法使い」が要る。そしてルミナークは性格を除けばその条件に適合している。そうでなければこの件から手を引くとか生易しい復讐で終わらせるわけがない。
イライラする……この苛立ち、どこにぶつける? やはりモンスターか? もう、それこそ船でも出して単独でクラーケンをぶっ殺したいくらいだ……。
「オラ、オ、オラルド……。最初の獲物は俺に譲れ。でないと、いつキレるか自分でもわからん……」
「わ、わかった。そればかりは絶対に守ろう……。絶対にルミナークには攻撃させない」
誓えよ? でないとその場でおまえらまとめて殺しかねない。
額に手を当てて深呼吸する。落ち着け。落ち着け、俺……。
「そ、そそそれで……今日はどこへ向かうです?」
「そうだな! ええと、イッカクを誘き出すためにも、まずは見付ける必要があるんだったな!」
メイとオラルドが協力して話題を変える。
「下手に最初に見付けるなよ……本気で殺しかねないぞ……」
「そんなのこっちにできるわけないでしょ? やはり、頭に何も詰まってないのね」
「ぐ、がぎ、ぎぎ、ぎ……」
「ご、ご主人様ぁ……」
『お、落ち着こうよマスター! ほら、人間の小娘なんかの意見に惑わされちゃ「勇者」の名が泣くヨ!?』
ブチギレそうな俺をメイとエミリーが必死で抑える。普段ならこの二人にそこまでさせているということで我に返るが、今は駄目だ。そのことを自覚していても、苛立ちが到底治まろうとしない。ストレスでハゲそう。ハゲるわけにはいかないので、兎にも角にも、一刻も早く八つ当たり対象のモンスターがいる。できるだけ強いヤツがいい。ドラゴンとかよりもっと強いヤツ。今ならエルダードラゴンでも喜べそうだ。
「エイリーク、最後に確認できたのはどこだった?」
「はい。ルゴンドを西に出て一時間後くらいの場所だそうです。海岸線を辿って行くのが良いでしょう」
オラルドはエイリークへイッカクの発見情報を探させていたらしい。
「よし。それじゃそこへさっさと行くぞ」
「何でアンタが仕切るのよ? アンタは冒険者でも何でもないんでしょ。リーダーの指示に従いなさい」
ならオマエが先ず従えやあああああああああっ!
「お、落ち着けって! な! ほら、行こう行こうさっさと行こう!」
オラルドが俺の肩を叩きながら、背中を押してくる。フラストレーションを解放できる場所を求めて俺はそれへ素直に従うことにした。後ろにメイとエミリーが、そしてエイリークとクソアマが付いてくる。
西の街道に続く門へ向かう。
以前にエミリーが言っていた通り、自分で歩いてみるとなるほどたしかに、活気のなさが意識に留まった。
通りを歩くのは圧倒的に女性が多く、早朝であるためか余計に人が少ない。その中でも若い女性がちらほら点在しており、彼女たちは俺たち一行を不思議な目で、そして情欲を孕んだ目で見ている。そのおかげで少しは落ち着いた。視線の八割がエイリークに向けられているので、それに抱かれて悦んでいる女どもが実は死霊に抱かれていると知ったときの顔を想像し、なんとか機嫌を元に戻したのである。できるだけ悲痛な顔で絶叫して欲しいところだ。
街道へ出る門――関所でオラルドが代表し、冒険者を証明する階級プレートを提示させた。最上位である白金階級のプレートに門番をしていた兵士は目を見開き、どうぞと言って門を開く。
外へ出て、すぐに傍らの道を使って街道を外れて海岸へ出た。砂浜に幾つもの足跡を刻みながら西へ、無言のまま進む。
雰囲気は重い。明らかに俺が原因だが、俺が不機嫌になっているのはルミナークの所為なので、俺は悪くない。そもそも冒険者なのだから、雰囲気が悪い程度で文句を言うのが間違いなのだ。
そうこうしているうちに、一体のモンスターを発見した。ヒトデが人間大まで巨大化したようなヤツだ。ちょうど海から上がってくるところだった。
「ご主人様っ!?」
一目散に駆け寄り、慌てて繰り出してきた触手の一本を掴む。細く小さな棘が手を刺して毒を流し込んでくるが、すべて無視。〈状態異常耐性〉と〈回復速度上昇・極上〉のパッシブスキルが発動しているのを感知しつつ、モンスターを力任せに海上へ放り投げた。
そしてそのまま砲身代わりの右腕をそちらへ向け、魔力を充填。
放つ。
「〈緋色に渇き狂う極光〉!」
槍系魔法と同じく貫通性質を持つ閃光系魔法。その中で闇と火の複合属性の一撃を放った。当然スキルランクは限界まで上がっており、なおかつスキル自体の難易度も最上位。
「勇者」ロールは成長させることにより、全属性の魔法が使えるようになる。ただし反動が最大値で固定だし、魔力消費が激しく連射が効かない。捕捉範囲も広範囲か単体のどちらかに限られる。
要するに、ありとあらゆる状況に対応することはできるが、小回りの利かないロールなのである。小回りを利かそうと思うと接近戦を挑むか、意図的に威力を落として低ランクの魔法を使うしかない。
しかし、小回りを利かそうと思えば俺のストレスは一向に解消されない。そのため被害ができるだけ少ないように敵を海上に放り投げ、宙空に浮いているうちに最高ランクの魔法で消し飛ばすことにした。さすがに全力で放つことはしないが、それでもスキル自体が最高難度のものであるため、相当な魔力を注ぎ込むことでストレスも軽減される。
明度の低い茶褐色の閃光が放たれ、宙空のモンスターを飲み込む。さらに直撃はさせていないにも関わらず、閃光の真下にある海水が一気に蒸発。閃光が消えても、突如生まれてしまった空間自体は消えない。そこを埋めるように周りから海水が流れ込み、大波を作った。
そして、それに乗って複数のモンスターが押し流されてくる。陸地に近いため、まだこの辺りは底が浅い。モンスターたちが巻き上げられたのだろう。
「バッカじゃないの!? なんであの程度のモンスター相手にあれだけ強力な魔法を使うのよ! おかげで敵が増え――」
「ヒャッハー! 入れ食いだあっ!!」
「ハアッ!?」
もはやルミナークの言葉など聞こえやしない。
俺の目にはただストレスを解消させるための経験値の山しか見えない。
ただ、同じミスを繰り返しはしない。ミスとはいっても、先の一撃はこれを見越していた部分もあったのだが。だからこそ、初手は譲れと言ったのだ。
一晩を超えてもなお続く俺の苛立ちが一撃程度で消えるものか!
「まずは持ち上げる必要があるな……〈遮断する拒絶の鎖〉」
腕を振るい、魔力を放りながら魔法名を詠唱する。
魔力は闇属性へ変質。変形して錨となり、大波がやってくる直前に海中へ没した。
瞬間――瀑布が展開。水飛沫を上げながら、黒色の鎖に繋がれたモンスターたちが上空へ放り投げられる。
今度こそ、広範囲を殲滅する魔法を使える。魔力消費量が大きいということは即ち、ストレスをより多く発散できるということに他ならない。
敵の平均レベルは七〇程度が十数体。であるならばこの程度の手加減か。少し物足りないが、この辺で妥協しておくといいかな。
「〈棚引く黄泉への雷光〉」
闇と雷に氷の三色複合属性による広範囲殲滅魔法。
黒色の稲妻が駆け巡る。その一筋一筋がモンスターを丸ごと一体包めるほどの太さ。それが十重二十重を超えた数展開されていく。
誰がどう控えめに見てもオーバーキル。黒稲妻はチリさえも――魂さえもその存在を許さんばかりに念入りかつ執拗に敵を轢き殺し、消し飛ばす。
轟音? 爆風? このレベルの魔法ならば余裕をもって制御可能だ。そんな余分な魔力は注ぎ込んでいない。驚くほど静かに、数多の命は掻き消されていく。さながら、死神の鎌で命を刈り取られているかのように。
あとには、耳が痛くなるほどの静寂だけが残された。海岸へ打ち寄せる潮騒だけが救いといえるだろう。
「……うん。多少、すっきりしたな」
魔力が二割ほど減ったな。まあ最高ランクの魔法だし、割と無理矢理三連発したし、仕方ないだろう。〈回復速度上昇〉のスキルも極上まで上げているため、状態異常のみならず、体力や魔力の回復にも適応される。他のロールの者と比べれば五倍以上の勢いで魔力が回復していった。もしも魔力が枯渇したとしても、その場で寝そべって回復に集中した場合、三〇分ほどで全回復できるほどの速度だ。レベルにもよるが、「戦士」ロールの場合は回復に丸一日掛かったりもするから、このスキルの恩恵がどれだけ大きいかわかるといえよう。
今の魔法はメイやエミリーなどの俺の本当の実力を知っている者からしても、愕然としてしまうほどのものだったようだ。振り返った先、目と口を限界まで開いたオグルド以下二名がいて非常に痛快だった。
「……まあ、これで俺が船上で戦えないって言った意味がわかったろ?」
「……………………ああ。こんな魔法の反動なんて、考えたくもない」
さすがにリーダーらしく、オラルドはいち早く我に返った。
「けど、おまえ……前より格段に強くなってないか?」
「そんなことはねえよ。これだけレベルを上げてると、次のレベルアップまでの経験値も膨大な量必要になるからな。あのときは手加減していただけだ」
「いや、だとしても……」
「『勇者』のステータス補正を舐めるな。『戦士』と『ウォリアー』を持っていても、まだ『勇者』の方が上だ」
実際はむしろ下がっているしな。あの頃はまだ六〇〇以上あったはずだ。「強欲」を倒して少しした頃だったし、解呪もそこまで進んでいなかった。
しかし……悪魔との契約解除によるレベルダウンだが、数を重ねるほどに減少幅が小さくなっている気がする。これはどういうことだろうか。また今度、タダで聞けるなら聞いておいた方がいいな。
これ以上話す気はないとばかりに無視して歩き出す。後ろの方では「いや、これ……ドラゴンも倒せるんじゃないか?」とオラルドが呟いている。当たりだよ。むしろドラゴンってトカゲみたいなもんだよ。
一般的にドラゴンが強力だとされている理由にはもちろん〈ブレス〉が挙げられる。だが、ドラゴンと戦ったことのある者ならば、〈ブレス〉より厄介なものを知っているはずだ。
それが竜鱗。金属より余程硬く、生半可な攻撃では傷付かない。そしてそれは魔法においても同様。
魔法に優れたミスリル、物理に秀でたアダマンタイト、両方の性能を併せ持つオリハルコン。竜鱗というのはオリハルコンの鎧を纏っているに等しいのである。
ドラゴンを強力な存在足らしめているのは、攻撃力以上に防御力。その耐久力にこそあるのだ。
では俺がドラゴンと戦う際にはどうするのか?
レベル差があるため物理でも勝てるが、スマートではない。だって使っている剣自体はそれなりくらいのものだからだ。竜鱗に下手にぶつけると簡単に折れてしまうだろう。なので、魔法で攻める。
基本属性に加えて闇と光属性があり、「勇者」である俺は全属性を扱えるわけだが、特に闇属性を好む。というのも、敵のスキルや種族特性によるダメージ減衰を無視できるからだ。ドラゴンの竜鱗はあらゆる攻撃に対して抵抗を持ち、ダメージを減少させる。しかし、闇属性はそこを無視し、本来与えられるダメージをそのまま与えることができるのだ。そのため、盾や防壁魔法を無視することはできない。ただ、防御力アップ系のスキルは無視できる。
光属性の場合は逆で、防壁系魔法などを無視できる。また貫通性質の付与された魔法を強化させる働きを持つため、槍系魔法や閃光系魔法と相性が良い。
ちなみに。光と闇属性の魔法を同時に修得できるのは基本的に「勇者」ロールだけだ。「賢者」ロールですら、人種次第で光と闇属性魔法は修得できない。闇属性単体でいうなら「呪術師」や「死霊使い」「暗黒騎士」などが修得可能である。一部のみだが「怪盗」もそうか。
『チチチチョット! 何ヨ今の魔法は!? 常識はずれもここまで来ると大概ヨ!?』
(うるさいな。『魔法使い』のロールを最大まで上げたら、おまえも似たような魔法は使えるようになるよ)
闇属性は使えないから、あくまでも似たような魔法止まりだけどな。
『え――マジで? ウソ。本当に? えと、どうしよう……マスターに付き従って真面目に訓練しようかしら……』
「ご主人様」
エミリーがぶつぶつ呟いているのを他所に、メイが俺の服の裾を引っ張ってくる。
「少し、さっぱりしたです?」
「……そだな。少しだけだけどな」
「そうですか。それなら良かったです!」
にぱ、とメイが笑う。鼻で笑いつつ、多少はそれでもストレスが軽減された。
脳天気な馬鹿を見ると、色々考えているのもアホらしくなるということだろう。さっきまでは苛つきの余り、それすらわからなくなっていたようだ。やはり、冷静さを失うのはマズいな。師匠の教えは正確だったと言わざるを得ない。ひょっとすると「太陽」パーティの仲が良いのはソフィアがいるからかもしれないな。なんせ〈脳天気(快晴)〉とかいう謎スキルを持つくらいだしな……。何の役にも立たないんだぜ、アレ……。
「さて。そんじゃいっちょ本腰入れてイッカクを探すとするかぁ」
「ですですっ!」
『あ、待ってヨ! マスター、ワタシもメイみたいに鍛えて! 真面目にやるから!』
いまだに戦慄している三人を他所に、俺たちは談笑しながら歩みを進めるのだった。




