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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」と迷いの森
20/129

2-6

 どういうことだ? どうなっているんだ?


「それじゃ、昨夜話した通りってことで」

「メイさんは私たちに任せてください!」

「うん。『欠落』さんは安心していいですよ」

「ご主人様ー。メイはがんばってくるですー!」


 そんな風に四人は俺に手を振って、何故か良い笑顔で去っていった。

 呆然としながらそれを見ていると、背後で誰かが動くのを感じた。誰かというかなんというか、一人しかいないんだけれど。


「それじゃ、わたしたちも行こっか」

「…………えー」

「嫌な顔禁止!」


 ソフィアが笑いながら怒るという、妙に器用なことをした。


「どうしてこうなった……」

「どうしてって、昨夜話したじゃない」

「そっちじゃない!」


 どうしてもっと俺は強固に反対しなかった……?

 悔やみつつ、「もう二度とあんなことしないよ!」と反省するため、昨夜のことを思い出すことにした。


 たしか、メシアが何やら言い出したんだ。ああ、そうだ。俺がメイに酷いことしてないか確認させてもらうとかなんとか。鬱陶しかったが「太陽」パーティの連中が止めるだろうと思ったものの、何故か誰も止めなかった。……なんでだ?


 それからメイは不安そうな顔をしつつ、メシアの元に行った。そして耳許でこそこそ内緒話をしたのだ。レベルを活かして聞き取ろうとしたが、左右にアイリーンとアリアが来て、一杯だけだが酒を飲ましてくれるというのでありがたく頂いたのだ。一杯のはずが二杯三杯と注いでくれた。

 あれだ。美人のお酌はいいですねえと言っていたら、今度はアリアが自分もお酌するとか言って、どっちがうまいか訊ねられた。そして確認するためにまた二人から注いでもらって……といううちに酔っ払って寝たんだった。

 そんでもって朝起きると、話ができていた。何故かメイも乗り気だった。


 メイたちの班で遭難者を探す。これは「太陽」パーティが請け負った依頼を達成するためだ。

 俺とソフィアの班は雪の精霊を探す。これは俺たちのためだ。

 ソフィアたちは離れていても連絡を取れる魔法があるらしい。そして俺は奴隷印を通じてメイの居場所を探ることができる。

 このスキルは熟練度を上げていないため、探るのに非常に時間がかかるのだ。別に奴隷印使ったこと一度あるかないかくらいだし、今後もこのスキルの熟練度を上げることはないだろう。熟練度を上げるということはメイを苦しめるというわけだしな。

 あの馬鹿を苦しめるなら痛みよりももっとうまい方法があるので、使う必要がないのである。


「ちくしょう! これがかの有名なハニートラップかっ!」


 いずれハマってみたいと思っていた罠だが、予想より甘くなかった!

 もっとこう、ドロドロっとしてキュンとキてぬめぬめしててエロティックに「ィグゥッッ!!」て感じの罠の方が良かった!


「なに、それ? 美味しそうな罠ね」

「…………」


 こいつマジか? 天然培養?


「な、なによぉ、その目は……その目禁止! 禁止だからね!」

「俺はもう瞬きもできないというのか……」

「瞬き禁止!」

「瞬きくらいさせろ!」


 そのまま数分くらい口論し、俺の禁止事項が五〇の大台を突破するのではと思えた頃だった。


「――ん?」

「ちょっと! まだ話が終わってな――」

「ちょっと、黙れ」


 手でソフィアの口を塞ぐ。そのまま近くの木の下まで移動した。それから上空を見上げる。

 むーむーうるさいし俺の手を放させようとしているが、レベル差のせいでまったく問題ない。


「魔力の反応だ。誰かが上空でスキルを使ったぞ」


 囁くように告げる。何故か髪より真っ赤な顔をしていたソフィアだったが、俺の言葉を聞いて冷静さを取り戻したようだ。もう口は塞がなくていいな。


「……どうして、そんなのわかるの?」

「レベル上げて感覚磨いていけばいずれ気付けるようになる」


 魔力の方向性が身体の内側に働く〈身体強化〉などのスキルでない限り、ほぼすべてのスキルは身体の外側へ魔力を出して使うことになる。なので感覚を磨くことにより、大気中の魔力の振動を拾うことでスキルが使われたかどうかを察知できるようになるのだ。

 感覚を磨かなくても、賢者や魔法使いといったロールの場合は常に自動発動するパッシブスキル〈魔力感知〉によって察せられる。


「スキルを使えば周りに気付かれるかもしれないとだけ覚えとけばいい」

「わかったわ。それで、どの辺り?」


 二人してその場にしゃがみ、俺は顎で上空を示した。森の中なので他の木々が邪魔だな。


「見えない……ちょっと乗るわよ」

「っ!?」


 ソフィアが俺の肩に手をやり、背中に覆い被さるようにしてくる。

 どうしてお風呂に入ってないのに女の子って良い匂いするの? あと、うなじに胸が当たってとても良い感じです。鎧が大分邪魔だけどな! けど沈み込んでいく感じはわかる。アイリーンのように大きくはないが、アリアほど小さくもにない。メシアと同じくらいでいい感じじゃありませんか。でも俺の予想だと、メシアは着痩せするタイプなんだよな。

 俺から何者かの姿は見えないので、そちらの監視はソフィアに任せた。俺はこの感触を楽しむことにする。全神経をそちらに回そう。


 ……それにしても、どうしてこいつ、こういうの気付かないかな。羞恥心とかないの?

 ふと考えているうちに答えがわかった気がした。

 どんな国でも「勇者」を発見して鍛え上げようとする。こいつもその一人なのだろう。俺は特殊なケースだからアレだが、それでも俺だって修練場というところで他の「勇者」たちと共に暮らしていた時代がある。ひょっとすると、ソフィアの育った環境では、男女別室だったのかもしれない。


「……うぅん、駄目ね。見えないわ」


 少し悩ましい声を発してソフィアが離れた。


「あ、ごめんね。勝手に上に乗って」

「いいや、別にいい。むしろありがとう」

「?」


 ある程度時間も経過してしまったし、何者かもどこかへ行っただろう。俺たちも木の下から出ることにした。


「それじゃ、どうしようか」

「ん? どういうことだよ」


 ソフィアは腰に手をやり、珍しく困ったような微苦笑を浮かべる。


「ええとね……あ、そうだった」


 なんか思い出しているような感じで、少しずつ口を開く。


「わたし、〈ハイパーラーニング〉があるでしょ? まだ他の人には発動してないのよ。だから、一度発動したあなたからなら、また他のスキルを学習できるかもって思って」

「それを俺が飲むと思ったのか?」

「みんなはメイちゃん連れて行ったから強引に行けって言ったけど、どうもね。もし駄目だったりするなら、残念だけど、今日は別行動にしましょう。明日からは普段通りってことで」


 嘆息する。そういうことか。

 少し考える。

 ソフィアの〈ハイパーラーニング〉は非常に強力なスキルだ。〈魔力感知〉のようなパッシブスキルであり、自意識で発動させる必要がないというのもでかい。

 しかし、そんな強力なスキルであっても、決して敵に対して有効なスキルというわけではない。攻撃系でも防御系でもないからな。ゆえに、強力なスキルとはいっても、彼女の生存率を上げるという意味では何の意味もないのである。


「…………仕方ねえな」

「え、いいの? 本当に!?」

「一宿一飯の恩義って言葉知ってる? 二日分もメシを食わせてもらったからな」


 昨夜はワイバーンの肉を出そうと思ったが、一〇〇レベルを超えている上に群れで行動するモンスターの肉をどうやって手に入れたか説明するのが面倒で出さなかったのだ。あと酒ももらったし。あとさっき幸せだったし。ええ感じやったな……。


 それに――彼女は「英雄」に憧れている。

 それは俺にとって非常にむず痒いことで、アレなのだが、別段嫌というわけじゃない。それに「英雄信仰」によってではあっても、人を助けようという心を持つ者を失うのも勿体ないしな。


「やった! ありがとう! 断られたら、今日どうしよっかなって思ってた」

「はいはい」


 両手で手を握られる。やはり「勇者」なだけあって、剣を幾度となく振ってきた手をしている。それでも、男と女という違いは確かにあった。


「そういやおまえ、手袋しないの?」


 霜焼けになっちゃうよ?


「あなたもしてないじゃない」

「剣が滑ると困るからな」

「わたしも同じよ」


 寝るときとか、明らかに戦闘じゃないときは付けるけどね。ここは一一九レベルのダンジョン。油断はしない方がいいと踏んだのだ。普通なら滑り止めの付いた革の手袋を着けるんだろうが、俺の握力ならそんなものあってもなくても同じなので、じゃあ無駄に金使わなくてもいいかと判断した次第。


「まあいいや。それじゃ、精霊を探すか。おまえら、あれから見た?」

「ううん。もし見付けたら、同じように捕まえてあなたたちにあげようと思ってたんだけど……」

「別にいいよ」


 申し訳なさそうにする必要なんてどこにもないだろ。

 頭を掻きながら、告げてやることにする。どうにも、こいつには甘いなと我ながら自覚した。


「『勇者』だからって、変に気負うことはないぜ? これ、先輩『勇者』としての忠告な」

「…………ありがと。でも、そういう風に気負ってるわけじゃないの。ただそうしたいってだけだから」


 そうかい。それなら勝手にしろ。


「行くぞ。あっち側はまだ調べてないんだ」

「うんっ」


 弾むような口調で、笑顔のソフィアが俺の後に続いた。


◇◆◇◆


「遭難者さーん。いませんですー? いないならいないで返事して欲しいですー」

「メイさん、いなかったら返事はないと思いますよ?」

「あっ!? たしかにそうですっ」


 メイの子供のような勘違いを正しながら、メシアは笑みを浮かべた。メイもそれを見てえへへと笑う。


「あまり離れるんじゃないよ、メイちゃん。メシアがいても、動きの早いモンスターがいないとも限らない

んだから」


 そう告げ、アイリーンがアリアと共にやってくる。四人でいるため、二人組を作って多少捜索範囲を広げているのだ。迷いの森なので離れ過ぎないようにしてはいるのだが。すぐに駆け付けられる距離を保っている。


「でも、ご主人様はモンスターいないって言ってましたですよ?」

「『欠落』さんが断言したなら信用できる」

「でも、それで万一があったら困るだろ?」


 アイリーンとアリアがメイと話しているのを見て微笑を浮かべ、メシアは少し安心した。

 メイが主人である「欠落」と別れ、それで自分たちに馴染めるかという問題だ。これまでの交流もあってあまり心配はしていなかったが、やはり問題はなかったようだった。

 それにメイは「欠落」と行動しているものの、冒険者登録しているのは彼女一人である。

 ギルド内には基本的に冒険者であることを証明する階級プレートがなければ入れない。そのため、ギルドホールなどではメイ一人なのだ。

 しかし、メイのこの様子であるなら、そこで他の冒険者たちに喧嘩を売られる心配などもないだろう。誰も彼も――メシアたちも――メイがまるで親戚の子供のような感覚を抱いているのだから。

 そんなとき、メシアの持つパッシブスキル〈魔力感知〉に反応があった。


「危ないっ!」


 全員に呼び掛けて注意を促し、自分も魔法を行使する。


「〈白鱗の盾〉!」


 氷属性の攻撃に対して有効な盾魔法だ。スキルランクがアップしていれば効果範囲を大幅に上げた上位互換の魔法が使えるのだが、彼女にそれはない。

 魔力で編まれた白い菱形の盾に氷の槍が衝突する。一瞬安堵するが、すぐにそれは掻き消えた。


「な――っ」


 盾に亀裂が走る。咄嗟にメシアは盾の防御範囲から脱するが、その判断は正解だった。直後、盾を貫通した氷の槍が飛来したからだ。


「なんて威力……!」

「はわ、はわわですぅ」

「ちっ! マズいわねえ!」

「アイ! メイさんをこっちに!」


 本来守るべき対象であるメイは守護者のロールを持つアイリーンが保護すべきである。しかし、現在このパーティに前衛を任せられるのもまたアイリーンしかいなかった。そのためアリアがメイを預かり、アイリーンが前に出る。その斜め後ろの位置にメシアも移動した。


「なんでこっちに来るかねえ。役割逆じゃないかっ」


 その姿は小さいため、やや距離感が狂う。それでも周囲の木を見て場所を特定した。

 森の奥に少女の姿をした雪の精霊が三体。今の魔法はたった一体のそれだ。もしも三体全員が放っていたならどうなっていただろう。

 咄嗟に、一昨日の「欠落」の話を思い出した。


 精霊使いのロールが放つ精霊魔法は強力だ。単純な威力で「賢者」に勝っており、「魔法使い」でもロールランクが最大に達していないと肩を並べられない。

 そんな精霊魔法ですら準精霊のものだという。

 ならば、一人前の精霊が放つ魔法はどれだけなのか。


「氷属性に強い盾でも破るのですか……」

「貫通性質があるからだろうねえ」


 マズい、と誰もが直感する。敵の魔法の威力が想像以上過ぎた。

 精霊たちは嗤っている。こちらがまだ行動を起こさないのを見て、自分たちより格下だと理解したのだろう。だからこそのあの余裕だ。


「ご、ご主人様の話だと、精霊さんは凄く性格が悪いらしいのです! こっちを甚振るようにするらしいです! なので、必死に逃げてご主人様と合流するのが良いと思です!」

「わたしも賛成。それに、ソフィーとも合流できる」


 ソフィアのロールは勇者。レベルはアイリーンより低いものの、耐久力以外のステータスは彼女の方が上だ。そんなソフィアよりレベルの高い「勇者」である「欠落」と合流できれば十分に戦いになる。


「殿はあたしに任せて」

「私はアイの少し前を走ります。〈白鱗の盾〉!」


 盾をアイリーンの前方に出現させる。


「よし、行けっ!」

「行きますよ!」

「しっかり掴まってて!」

「はいなのです!」


 一同は一斉に退却を開始する。それを見た精霊たちは三人で何か相談し、邪悪な笑みを浮かべて三方向に別れ、メシアたちを追い掛け始めた。


「っく、別れやがった!」


 守護者ロールのスキルも利用し、アイリーンは〈白鱗の盾〉の防御性能をさらに向上させる。今度の氷槍はきちんと防いだ。しかし亀裂が走っており、二度目は無理だろう。


「メシア! 新しいの頼むっ」

「重ね掛けはできないんですすいませんっ!」

「くぅ……そうかっ」


 精霊は狩りを愉しむように、一撃一撃をゆっくりと確実に放ってくる。

 否、これは狩りなのだ。

 圧倒的強者が圧倒的弱者を蹂躙するのはよくある話。

 蹂躙という言葉では手当たり次第に破壊するイメージがあるが、これだって精神を踏み躙るという意味では蹂躙だ。

 少しずつ、白い死神の手が、ゆっくりと、皆の首へ伸びていく。


「…………っ、…………!」


 メシアはその手がいやにくっきりと想像できる気がした。おそらく、他の仲間たちもそうだろう。

 死神の手はきっと冷たい。凍えるように冷たい。触れたものを凍て付かせる絶対零度の魔手に違いない。

 足下の雪が鬱陶しい。そのせいで精霊との距離は開くどころか縮んでいる。精霊たちは背から生えている氷細工の蝶の翼で飛翔しているため、地形は関係ない。


「アリア! 何か逆転できるような魔具はないですかっ!?」

「そんなものない。現実は非情である」

「メシアは何かないのかいっ!?」

「私、風属性と水属性に突出してるんですっ!」

「なんで火属性覚えてないんだい!」

「外したら森とか燃えるじゃないですかぁっ!!」

「アリアさんアリアさん。精霊さん、どこにいるです? 見付からないです」

「え? あ、アイッ! アイの後ろっ!」

「っと、あぶなっ!」


 今度は氷槍を束ねたものが剣山と化してアイリーンを襲う。盾がひび割れながらも一瞬耐えてくれたおかげで間一髪助かった。


「もうこんな距離にっ」

「〈白鱗の盾〉!」


 斜め後ろを走るアイリーンに再度障壁を展開させ、それからメシアはまた前を向いた。そちらにはアリアに抱えられ、後方を鋭い目で睨み付けるメイの姿があった。


「メイ……さ、ん……?」


 それはメシアにとって驚愕すべきことだった。

 いや、考えてもみれば当たり前のことでもある。いくら「欠落」に戦いを任せているとはいえ、同じパーティなのだ。彼女だって経験値は得ている。

 それでも、それはレベルが上がっているだけのように思えていた。普段のメイがあれほど純粋無垢な少女だからこそ、そう思えていたのだ。


 しかし冷静になって考えてみれば――あの「欠落」という「勇者」が奴隷であるメイを甘やかすだろうか?


 別段、メイを虐げているわけではない。

 けれども、甘やかしているとも限らない。

 ただ荷物を持ち運ぶ。それだけならメイのような少女を選ぶ必要はない。魔術師のロールで選んだのかとも思ったが、彼ほど経験豊富ならばどんなロールの奴隷であってもその性能を活かすだろう。


 彼はメイを選んだ。そして、甘やかしているはずもない。

 それを証明するかのような鋭い目をメイはしていた。

 あれは正しく冒険者の目だ。


 メシアもまた、自分たちと同じ黄金階級の冒険者になったことを思い出す。

 ある町の冒険者ギルドで、僅か二ヶ月にして黄金階級に到った冒険者が出たという話を聞いた。まだ十歳ほどの少女。彼女は奴隷であり、冒険者でない主人と共に行動している。

 それらの話を聞いてメイのことだと気付かないわけもない。しかし、何故黄金階級にまで到っているのかが理解できなかった。だからメシアたちは職員に訊ねたのだ。そうして返ってきた言葉はなまじメイを知っているだけに、他の冒険者たちよりも信じられないものだった。


『セパリアを一度離れたドラゴンが復讐に来て、彼女が一人で追い払ったという話です。セパリアでは民間人が約八〇人も亡くなられたらしく、依頼も受けずに正義感から行動したという功績も踏まえ、黄金階級へ昇格されました』


 実際はきっと「欠落」が手助けしたのだ。そうに決まっている。メシアたちはそういう結論に到った。


 だけど——本当に?


「欠落」は強い。しかし、それでは彼がほぼ単独であのドラゴンを退治できるだけの実力者であることを証明してしまった。

 なのに話をより詳しく聞くと、メイはボロボロになっていたという。つまり、彼女はある程度単独で戦っていたと考えられる。


 メシアは想像する。あのドラゴンを相手に単独で、どれだけの時間なのかはわからないが、どれだけ保つことができるだろう?

 それが可能なのはソフィアかアイリーンくらいだ。けれど、前衛ロールの二人と違い、メイはメシアと同じく後衛ロールなのである。

 信じられない。きっと嘘に違いない。メシアはそう思った。

 なのに今――目の前で剣呑な目付きをしたメイは、その話を真実だとこれ以上なく声高に主張しているかのようでもある。


「〈暴れ巣食う蜘蛛〉」


 メイの魔法が放たれる。メシアたちの隙間を縫うように放たれた魔法がアイリーンの背後へ移った瞬間、破裂。周囲に蜘蛛の巣状に拡がった。


『ぎゃっ! なに、これ! ネバネバするぅ!』


 背後からは精霊のものだろう、甲高い悲鳴が聞こえた。


「よくやった!」

「でかしたねえ、メイちゃん!」

「凄いです、メイさん!」

「まだです」


 一体の精霊の動きを止めたにも関わらず、メイは浮かれない。瞳には怜悧な光が宿り、自分たちより遥かに経験を積んだ冒険者であるかのようだ。

 そう、まるで彼女の主人が浮かべるような。


「あと二体いるです! 油断なんてできないですっ」

「そ、そうだねえ!」

「ん。悪かった」

「走りましょう!」


 一行は背後からの攻撃を気にする必要がなくなり、振り返る手間がなくなったため、行軍速度も上がった。

 だからだろう。メイの魔法に絡めとられた精霊に何者かが忍び寄っていることに誰も気付かなかった。

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