8-0 プロローグ
宝晶国ガルデニスに戦争仕掛けて国盗りしようぜしようぜとここ最近話題沸騰中のパーティ「太陽」と「盗賊」ロールの多い「餓狼」とかいう頭痛々しい集団を道連――仲間に引き込むことに成功した偉大なる「勇者」である俺とその下僕数名を含む、いわば「『欠落』と愉快な敗北者」パーティを一時的に結成したのはいいのだが。
最近洞窟に篭って涼しい生活を送っていたからか、灼熱の荒野は以前と比べて一段とその光量もとい熱量を増したかに思える。何をせずとも、ただ息をしているだけで汗が流れる始末。というか呼吸が苦しい。空気が熱を孕んでいて喉を焼いているようだ。実際は細かい砂があって、それもまた熱を孕んでいるから尚更タチが悪い。
だというのに……何故、俺は余計に汗を掻くような真似をしているのだろうか。ついでに痛いし。もう嫌だ。誰がこんな世の中にした。俺の住み良い世にしろ。
「ぐえっ」
「絶対手綱を放しちゃ駄目だよ!」
「頭、踏まれるかもだから」
「……というか、意外だよね。『欠落』さん、馬乗れなかったんだね」
「だよね」
「貴族にとって乗馬は当然の技術ですわ!」
「ぷっ」
「誰だ今嗤ったの! ってかわかってんだよこの性悪女が!」
「誰が性悪よ!」
「今おまえ自白してんじゃねーか! 性悪自覚してんだろ!」
「アンタが私睨みながら言うからでしょう!?」
「……喧しいですね。いつもこうなのですか、彼は?」
「あう。ご主人様は、その……いつも元気なのです!」
「…………なるほど。お察しします」
共に居るのは「太陽」からソフィア、アイリーン、メシア、アリア、ヴィヴィアン、ルミナーク、エイリーク。「餓狼」からはシシリィというエルフだ。ウチからはメイで、あとは黒豹の獣人であり、「麻痺の邪眼」を持つリン。聞いたところ暗殺者として育てられたらしく、彼女は基本的に寡黙なようだ。それにリリアーヌと近衛兵二人がいる。
そんでもって、どうして俺がこうもしんどい思いをしているかといえば――はっきり言って、多人数での行動というものを俺は本気で甘く見ていたというしかないだろう。だからこそ、こうして痛い思いをしていても続けているのだ。
「おまえももうちょっと人の心を察しろ」
「無茶だと思うよ……?」
尻に付いた砂を叩きながら立ち上がって馬を睨みながら告げてみるが、ソフィアは曖昧な微笑を浮かべながら首を横に振る。
その一方、俺の言葉を意に介していないのか、はたまた介しているからと言うべきか。黒毛の馬はつーんとそっぽを向いたままだ。おのれ、この駄馬め。捌いてちょっと豪華な晩飯へと華麗に変身させてやろうか。
多人数での旅では付き物の問題がある。どんなパーティであろうと頭を悩ませる課題でもある。つまりは食料の持ち運びだ。
まず大前提となるのが飲料水だ。ましてやこのアールグランド大陸は「剣舞の魔王」の影響で一年中夏といえる気候。ギラついた陽射しは容赦なく大地を焦がしているせいか、荒涼とした大地が広がっている。
雨が降るのは地形の影響がある山やその麓であり、そういった場に人間は国を興している。あとは湧き水のある場所や伏流水のある場所から井戸を掘ったりして町か村を作ったりもしているが、それらでは国と呼べるほどの規模まで広げるのは不可能だ。
まあ平たくいえば、人間の生き難い大陸なのだ。そういう意味では一年中冬といってもおかしくない、「叡智の魔王」が支配するサルニア大陸はどうなるの? という疑問も出て来そうだが、あそこはそうでもない。いや、あそこだって生き難いといえば生き難いけども。
ただアールグランド大陸と比べ、サルニア大陸は横に長く、魔王城や魔都があるのは東部であるため、西部はそこまで影響が強くない。サルニア東部に人間の住まう国や町はひとつとして存在しないが、西部であれば割と普通に生きていけるのだ。
そもそも、冬は冷気で、雪が降るわけで。それが人の体温や気力を奪ったりはするものの、これらは対処できる。厚着をしたり、壁を厚くしたり。
一方でアールグランド大陸の場合、夏は熱気で、陽が射すわけで。度が過ぎた陽射しは容赦なく大地から水気を奪い、植物を枯れさせる。
サルニア大陸は奪う一方で与えるものもあるが、こちらは奪う一辺倒なのだ。
色々と述べたが、要するに水の管理が超大変で困っちゃう、と思ってくれたらいい。水の確保も大変なら、普段以上に喉が渇いて困る。ましてやこの人数なので水の値段もただでさえ高いのに跳ね上がる。ムカつくことに、今回は俺が依頼者側なのでこちらの経費でソフィアたちの分の水を買わねばならんのだ。おのれ。俺の聖水でも飲ませてやろうか。伝説の「勇者」の聖水といえば誰か買い手が出そうな気もしなくもないが、その場合買われたら俺が精神的に困るのでやっぱりやめておこう。普通にヒクわ。
ちなみに。魔法で生み出した水を摂取することは推奨されない。できなくはないが、あくまで緊急避難的なものでしかない。なにせ体内で魔力へと変換された場合、むしろ水分欠乏になる。どういえばいいかな……メイに説明するつもりで考えよう。
魔法で作り出した水を飲む→十分な水分を確保できたので、身体は体温を下げるために汗をより掻こうとする→魔法で生み出した水はいずれ魔力へ還元されるため、身体からその量の水分が消える→汗として掻いた分、水分は飲む前と比べてマイナスになる
こんな感じだ。きちんとした水が確保できるまで、定期的に魔法で生んだ水を摂取するのであれば、問題はない。この定期的というのは体内の魔力で作られた水が魔力へ還元されるまでの時間を指す。空気中よりも還元に時間がかかるから、だいたい1~2時間くらいかな。熱中症の人がいて、手持ちに水がなくて……とかの緊急避難以外、やるべきではない。付きっきりになるしな。
ともかく常飲には適さないので、魔法の水は駄目。
飲料水の確保は最低限の話。次に食料や塩が持ち運び困難アイテムトップランクに名を連ねる。俺は〈施錠〉〈解錠〉を最大限まで上げた上に〈換装〉まであったからかつてはまるで気にしてなかったが。
なんせ〈換装〉はスキルレベルを上げることで、ただでさえ有能なのが超有能になり、最終的には過労死寸前まで使い倒されるスキルなのだ。装備をロックしておくことで瞬時に入れ換えられる……というのが基本的な効果だが、ひとつ疑問が浮かぶ。その装備はどこにあり、交換された後の装備はどこに行くのか、というもの。
その答えはそれぞれの装備のある場所、としかいえない。他人が勝手に持ち出さしたりしても困るので、拠点というかアジトというか隠れ家的なところに置いている。「英雄」時代の装備が悪魔に押収されたのは「叡智の魔王」ことメサイア戦で述べた通りである。
そんな〈換装〉だが、スキルレベルを上げればロックの対象が概念的な意味合いで拡がる。一言で言ってしまうと、装備じゃなくても使えるようになる。強いていえば、その隠れ家そのものを異空間倉庫として扱えるようになるのだ。距離が離れるにつれて、また対象の重さによって消費魔力量も莫大になるが、俺はそこんところレベルアップボーナスでどうこうしたので問題なかった。
……うん。悪魔に押収されたのは隠れ家ごとなんだ。だからそこに置いてある水や携帯食料とかも全部使えない。別に拠点を作っても良かったが、既に俺のロック可能数は限界に近いので、それもできなかった。かつての装備を捨てるつもりでならいけたが、いくらなんでも食料とのトレードでは踏み切れなかった。パン一個、水一樽と引き換えで伝説級の剣や軽鎧を捨て去るのはちょっとキツい。
ともかく。飲料水や食料は人数が増えるほどに大量になるのは自明の理。個々人で管理するには限度があるし、モンスターとの戦いで速やかに動けない。必然的に馬車がいる。また行動速度を上げ、この炎天下での疲労を抑えるために、俺たちも馬に乗ることになった。以上、説明でした。
馬車は幌付きの二頭引き。御者台にメシア、メイ、リン、アイリーンが座っている。メイは馬に乗れないし、体力もないから。メシアは「賢者」で神殿の旅での経験があり、御者として。アイリーンは彼女のロールが「守護者」なので、いざとなったときに馬車を守ってもらうため。あと鎧なので馬が重そうなのと、陽射しで鎧が高温になって火傷しかねないから。リンの理由は後述。
ソフィアはアリアと同乗、アイシャはシシリィと同乗、ルミナークはエイリークと同乗だ。ヴィヴィアンやリリアーヌ、近衛兵二人と俺はそれぞれ一人だが、これは理由がまた違う。
初めましてとなるヴィヴィアンはなんでも「鉄壁」の二つ名を持つらしい。ロールは「観測士」と「戦士」。武器はなんとフレイルの魔具だ。金属製の棍の先に鉄球が付いており、魔力によって棍と鉄球の間に鎖が生じる変則的な鞭ともいえようか。余程でないと使いこなせない武器だが、「戦士」ロールのスキルによって扱え、なおかつ「観測士」ロールのスキルで命中力を上げている。こういったダブルローラーじゃないとまず使えない変態武器である。つまりヴィヴィアンは変態といっても過言ではない。
そういや彼女の変態性を際立たせるもののひとつとして口調がある。ロール家という貴族の末娘で政略結婚を嫌がって家出したらしいのだが、それなら口調も直せよと。とはいえ鼻に付く口調ではあるものの、ルミナークと違って「お、貴族らしいですね」と言っておけば機嫌が良くなるので扱いやすい娘でもある。棒読みでも喜ぶんだぜ、マジ変態。
それらの話を聞いて「何故『鉄壁』なのか」と訊ねようとしたところ、「空気読めよおまえマジで」って目でみんなから見られたので、俺は空気を読んだ。メイですら空気を読んだのだがから相当な圧力だったことをここに付け加えておく。
で、まあ、俺が一人の理由だけど。もうわかるよね。リンも俺と同乗する予定だったんだよね、本来はね。
乗れないんですよね、馬。
だってさ、ほら。馬とか乗れなくて誰が困るの? 馬なんてみんな持ってないでしょ、普通。馬乗るくらいなら精霊召喚してそっちに乗るわ。魔力消費とか知ったことじゃないわ。全員から反対されたから渋々乗る練習しとりますが。
ソロで旅していたときだって、エルキア大陸で馬とか速攻殺されるし。むしろ邪魔で仕方ないわ。余計に飼料とかかかるし。馬とか絶滅してくれても俺は一向に困らんのだが。
あと俺に押し付けられたこの黒馬。そう、押し付けられたの、コレ。
他より体格が明らかに良い。あと人間様を舐め腐った目してるの。調子乗んなよ駄馬の分際で。
が、俺とリンは同じく、他の馬から怯えられて近付いたら逃げられた。逃げなかったのがこの駄馬なので、仕方なく俺が乗るハメになった。ちなみに他の馬は俺の中で「なまにく」と名付けた。この駄馬の場合は駄馬そのままでも良かったが、それ以外の名前を求められたので「非常食」にしたところ、みんなから憐憫の目で見られた。何故だ。俺がこいつをどう思っているのかすぐわかる良い名前だろうに。
嘆息しつつ、馬の背に飛び移る。乗った後は嫌がるくせに、乗るときはきちんと待っているのがまた微妙にムカつく。殺すに殺せない。地味に俺の乗馬技術が足りていないのだと、間接的に指摘されているかのようだ。
「次に俺を振り落としてみろ。最悪、てめえ担いでやるからな。運ばれる恐怖というやつを思い知らせてやる」
「なんで馬を運ぶの」
「本末転倒じゃないの。やっぱり馬鹿ね」
「おいそこのエセ騎士、その女こっちに近付けろ。切り殺してやる」
「そう言われては近付こうとも思えません」
「ちっ。……おし、おら行け!」
「あっ!?」
馬の腹を蹴る。スタートの合図だ。
スタートの合図のはずだ。
「ぬわーっ!?」
「あー!」
「やっぱり……」
「だから、力強過ぎるんだって!」
スタートの合図だってんのに、この駄馬きっと俺を振り落とす合図だと間違って覚えているに違いない。やはり屠殺して晩飯にするしかないのではなかろうか。
「ぐぬぬ……ぺっぺっ」
口に入った砂利を吐き捨て、魔法で水を生んでうがいをする。こういうのが正しい魔法の使い方だ。飲むのはアウト。あとはタオルを湿らせて汗を拭う。すうっとした冷気が陽射しに焼かれた肌を癒す。あとはちょこちょこと火属性の回復魔法を使えば重度の日焼けになることもないだろう。
さて、と……。
「この野郎め」
「ストーップ! ストップったら! 振り被らないー!!」
「……いっそのこと、私がそっちに乗る? ソフィー、どう思う?」
「うーん……」
「ふざけろ! 俺がなんか負けたみたいだろうが! 認めんぞ!」
「だったら殺そうとするのやめようよ!」
「時間の無駄遣い」
「無駄じゃない! 無駄な努力なんぞこの世にひとつとしてあるものか!」
「そんな無駄に良い台詞を無駄に迫真の表情で無駄に言われても困る……」
などと騒ぎながらの珍道中と化しているのだが――少しばかり、かつての日々を思い出して、楽しくないわけでも、ない。
汗水垂らしてぶーぶー文句言って回りに宥められ――当時は殴って文句言うなとやられてたんだが――そういったことが俺にもあったのだと思い出す。そう多いわけではない、俺の楽しかった「英雄」時代の思い出だ。いや「英雄」以前の思い出というべきか。
俺がまだ「欠落の勇者」でも「英雄の勇者」でもなく、ただの■■■■だった頃の思い出。
もう、記憶ですらその姿は、呪いによってモザイクと化しており、名前さえ思い出せないけれど。
三人の――否、いまや二人となってしまった師匠たちは、今頃何をしているのだろうか。
☆★☆
――ダンジョン。
それはモンスターの一種で、核をその生命の中心とする生命体だという話は、かつてはあまりにも有名なものだった。
長い年月。そして戦乱の時代を超えた現代において、それを知る者は少ない。知っているのは長い月日を生きる寿命を持つ者か、学者として知識を連綿と受け継ぎ続けた者くらいのもので、一般的な常識ではない。
ダンジョンは核を守るために守護者を作り出す。番人とも呼ばれるソレは核の能力によって上下するものの、基の状態よりも遥かに強化される。その代わり、核を守るためであれば人格を排除され、ただ戦うためだけの道具と化す。
そんな、どこにでもある、とあるダンジョンの最下層。
核の前の男は座禅を組んで瞑想していた。
自身で切っているのだろうか、髪はどこか不揃いで、みすぼらしい印象を与えそうだ。けれども実際は剛毛を通り越して針にも見えるほど鋭く、太い。結果として剛の者といった印象へと変わっていた。
その印象は決して間違っていない。眉は太く、閉じられた瞳も一度開かれれば剃刀よりも鋭く敵を穿つだろう。頬はやや痩けているものの、肌の色つやは悪くない。刻まれたシワの一本一本は深く、男の生きて来た年月を感じさせる。
首から下にしても印象通りだ。筋骨隆々とはさながらこの男のことを表したものと辞書に記してもよさそうだ。太く厚く、皮膚の下には鉛でも詰まっているかのよう。彼を見て侮れる者などこの世にいないだろう。首から下だけは年齢をまるで感じさせないのだから。
ただし、着ているものはみすぼらしいといえる。ダンジョンの最下層であることを考えるとありえないことに、男は革鎧すら身に着けておらず、衣服の見た目だけなら粗末な村人じみていた。だからこそ、張り詰めた筋肉などがどれだけ異様なほどの鍛錬の先にあるのか一目でわかるのだが。
腰には一本の剣。鞘に収められたそれは幅広の両手剣で、柄に巻かれた革から使い込んだものだとわかる。
そんな男の目が開かれた。鳶色に染まったソレは、男の生来のものでは、ない。
「……久しいな」
「ええ、そうですねえ」
男の口から放たれた声は掠れていたが、ひどく重く、巌のような重厚さに満ちていた。
対照的に、男が目を開く切っ掛けになった闖入者の声音は力に満ちていた。どこか揶揄うような、あるいは人を小馬鹿にするような声音は男の記憶の通りのものだった。
現れたのは小柄の老婆だ。鷲鼻で、唇を孤月状にさせる猫背の姿は“魔女”のイメージにぴったりだった。ただ、声音からその印象は覆される。
「計画は順調だろうな? でなければ、おれが此処で魔人にまで成り下がった意味がない」
「勿論ですよぉ。あの子は順調に此処に向かっています。ドワーフの王たちにはあの子の扱い方を教えておきました。此処に潜らされるでしょうねぇ」
そう言って、老婆はキヒヒ、と嗤う。
「ならば、いい。ようやく、だ。ようやく時計の針を進めることができる」
「その前準備、でしょう?」
「変わらぬさ。おれを倒し、乗り越えられるならの話だが」
「どうでしょうかねえ。あの子、隻腕に隻眼ですよぉ? それに『強欲』を倒してからレベルも下がっていますし」
「聞いている。だが問題ない。純然たる力が必須なのは当然だが、それ以上に必要なのは意思だ」
「ま、そうですねえ。……いいんですねえ?」
「ああ。騙して『強欲』に挑ませたのは悪かったが、あの魔王も倒せない程度じゃあ、おれたちの望みを叶えるのは不可能だろう?」
「そうなんですがねえ。あれもあなたも……人間というのは実に面白い生き物ですねえ」
「おや。もう取り繕うのはやめにしたのか?」
「ええ。薄々気付いていたでしょうしねえ。それに、此処であの子にすべてを説明することになるでしょうし」
「そうだな。だが、おれは手加減などしないぞ。いまや守護者で、できぬしな」
「わかっていますよ。だからこそ守護者になることを提案したのですしね。……それに、もしあの子があなたにこの場で殺されるようなら、もうこの世は終わりです。アレの支配から抜け出せません」
老婆がそう告げると、男はしばし瞑目した。
「今思えば、悪いことをしたのだろうな。いや、していると言うべきだな。我々はあの子にすべてを背負わせ、そう考えるように誘導し続けていたのだ」
「仕方ないといえば仕方ないのですがね。あれだけの運……運命力を持った子は生まれませんよ。今となっては特異点と化していますから」
「特異点……アレの支配の及ばない例外存在。ふん、この世をくびきから解き放つのが運の高い者というのも皮肉だな。どれだけ力を付けようとも、運が低ければ何にもならん」
「運というと少し違いますけどねえ。運命力は、自己の周囲にあるアレの支配を緩和させる力ですし。結果として、都合の良いように場が変化することがままあるのは確かですがね」
「ま、謝らんがな。育ててやった恩返しをしろというだけの話だ」
「育ての親が言うことではないかと思いますがねえ」
「自分の子なら言うことではないな。だが孤児を引き取っているのだ。養父の言うことを叶えるのはある意味で養子の義務のようなものだ」
「……そんな性格しているから、あの子も引っ張られるのですよぉ?」
「ふん。知らんな」
互いに苦笑を漏らし、男も老婆も十数年振りの会話に口角を持ち上げた。
こんな感じのだらっとした日常話がしばらく続く……予定です