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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」と盗賊たち
122/129

7-21 エピローグ

 ――などとかっこ良く締めようとしても、文句が出るのが世の常。低能な連中は俺のように優れた脳みその生み出す発想を拒んでしまうもののようだ。自分で思いつかないだけの癖して、俺が突飛なアイデアばっかり言うもんだと思われるのは心外ですよ、ぷんぷん。“ぷん”に合わせて爆撃とか撃ち込んだら俺の気持ちが伝わるだろうか? アナタの生命ハートに届け、この思い……!


 とは言っても、俺は説明をリリアに任せてのんびりすることにする。俺の説明はあれで終わりなのだ。休むったら休む。一人であれだけの高レベルの連中敵に回して疲れていないわけないだろうが。俺にだって休ませろ。殺せりゃ楽だけども、そういうわけにはいかないし。

 その光景を眺めながら、元王女という肩書きは便利だよなと思う。色々信じられないって言われても、「確かな筋からの情報です」って言えば「そんな……」とかいった表情で信じてもらえるんだもんな。確かな筋ってのは俺のことなんだけど、まあ調べたから確かなのは間違いない。

 リリアが元王女ということを信じられないってやつもいるみたいだが、元近衛の連中がそれに激昂した素振りを見せた他、彼女のロールである「王女」特有のスキルを見せたことで信じたらしい。戦争があったことも、ガルデニスに住んでいたオッサンどもが認めてるしな。


「…………」


 ああ。もちろん、連中に話していることが完全にすべてというわけではない。それ以前に、リリアにすら話していないことだってある。俺個人の本当の狙いとか諸々。メイが心苦しそうな目で俺を見ているのはそのせいだ。シャラップ。目は口ほどに物を言うという。そういう意味では今のメイは色々言い過ぎだ。あとでお仕置きだな。晩ご飯を豆だけにしよう。生の。


 ガルデニスの王族が人狼どもに乗っ取られているのは本当。

 連中が対神兵装を取り出して使おうとしているのも本当。

 それで獣人たちが被害に遭っているのも本当。


 じゃあ何を黙っているのか?


「……言えるわけがねえんだよなあ」


 まずひとつ。人狼連中が本当に狙っているのは「英雄の勇者」への復讐だ。うん、ガルデニスとかマジとばっちり。けど「宝晶鎧」とか抱え込んでたのが原因でもあるから、俺は悪くない。


 そして二つ目。「太陽の勇者」であるソフィアや「氷姫の勇者」アイシャを使って、「英雄」亡き後の旗頭として持ち上げようとしていることなど。何故「英雄」の代わりが必要なのかとか話さなきゃならなくなるしな。俺が「英雄の勇者」として戻る気がないってのがすべてなのだが。


 感情とかは取り戻すけど、じゃあ「英雄」として活動を再開するのかと言われたらノーサンキューだから。あんなのもう無理だから。思い出すと吐きそうだもの。常日頃から他者に対して敬語だったんだぜ、俺。今思うとありえねー。

 そういう点でいうなら、旗頭としてピッタリなのはソフィアの方だろう。二つ名の方も「太陽」ということでピッタリ。是非ともぴかぴか光り輝きながら皆を先導してやってくれ。あ、「勇者」特有のカッコいいポーズで周囲に盲目押し付ける例のスキル教えてやろうかしら。


「具体的な作戦については参謀よりお願いします」


 リリアがそう言うと、連中の視線が俺に集まった。なにか勘違いしてやいませんかね。


「なんで俺を見てんだ」


 そりゃたしかに、俺を是非とも見ていたい気持ちはわかる。抱かれたいのだろう。うんうん、そりゃしょうがない。俺が悪いと言われても頷けよう。だが男はノーサンキューだ。ついでに言うとロリもアウト。そこそこの胸蓄えて出直してこい。おめーに言ってんだよまな板エルフめが。

 シ尻ィという名前だけあって、自信ある尻にすべてBETですかそうですか。野郎は尻がすべてだと勘違いしてないか? いや、そりゃ尻とか脚も悪いとは言わないが。俺は胸を推します。リリアは俺が仕込んだおかげか最近胸のサイズが大きくなったらしい。喜ばしいことだ。トールはいくら経っても変わらんからな……。とはいえ、やっこさんサキュバスなだけあって、いつも激戦なのだが。八割くらい俺負けてるし。無念ではあるが悲しくはない。こういう戦いが世の中に広まれば世界平和も無理じゃないと思う。無理か。無理だな。

 嗚呼、斯くも難しひ、世界平和 字足らず


「なんで? 『欠落』さんが参謀なんじゃないの?」

「違いますぅ。なんでもかんでも俺に頼られても困りますぅ」


 顎を突き出しながら白目剥いて言ってみた。「うわあ……」て顔されるけど知らぬし媚びぬ。俺は休むと決めたら休むのだ。それこそ大の字で横たわる勢いで。あいたっ、頭打った。仕方ないからあの生臭いワニキャップを枕にしよう。


「俺が参謀として認めたやつがいるからな。そいつに任せる」

『あったりまえヨー! ワタシに任せんかーい! ヌフフフフー、マスターに色々教えてもらっちゃったからネ。こんな風な愉しみ方は知らなかったのサー!』

「うわっ! なんじゃこれ! 虫!?」

『誰が虫カー!』


 エミリーを知らなかったやつらがびっくりしておるわ。それにしても虫て。羽あるだろがよく見ろ。そいつは羽虫だ。


「ご主人様ぁ。ほんとにエミリーさんでダイジョブなのです?」

「おまえね。ちったぁエミリー信用してやれよ。普段から一緒にいるだろうが」

「一緒にいるからなのです……」


 ああ、ドジやってるところよく見るもんね。ケーキに頭から突っ込んで抜けなくなったことあったもんな。ヌガーたっぷりのケーキによくもまあ突っ込むもんだ。馬鹿か。


「まあ安心するといい。精霊……妖精どもの嫌がらせときたら天下一品だ。何しろ趣味だからな。妥協しないぞー」

「……う。迷いの森のことを思い出したのです……」


 アレ、嫌がらせどころのレベルじゃなかったしな。それでいて、アレが嫌がらせのレベルだというのだから恐れ入る。基本的に領域に入ったやつは生きて出さないって頭おかしい。


 そんなエミリーだが、彼女は本来王宮守護隊長だったらしい。だったっけ……? 命欲しさに俺に寝返ってたんだけど……。

 まあともかく、そういう感じの役職だったわけで。意外にも、彼女は統率系スキルを覚えている。守護系スキルもだ。性格に合わないから普段は使おうとしていないみたいだけども。俺がメイに普段付かせているのもそれが理由だったりする。

 そして元雪の精霊として悪戯ばかりやってたわけだが、今回盗賊団のアジトの入口に罠を仕掛けまくったのも彼女である。俺も半分くらい手伝ったが。俺の出すアイデアで採用されなかったものもあれば、採用されてさらに昇華されたものもある。さすがに手際が違うなあと感心した。

 なので御褒美ということで、このアジトにはちょこちょこと氷塊が置かれているのだ。加護を起動して生み出した氷だから、たぶん溶けてなくなるのには数年掛かる。ついでに涼しくなったし一石二鳥である。

 不愉快なことに、エミリーは俺が真面目に御褒美を寄越すと思っていなかったようで、目ん玉落としそうなほど驚いていた。御褒美だから不愉快なのは我慢したけど。


 閑話休題。

 今回ガルデニスに攻めるのは一応戦争である。であるからには少人数で当たるのは愚策なのだが、それはもう仕方ない。かといって、質で補うにも限界がある。なにせ、あちらは「万軍の鎧」という最上の質を持った兵が現れるのだから。

 それに対処するには俺たち高レベル組が必要で、じゃあ他の一般兵とかはどうすんの? という話。そこをこの盗賊団の連中や近衛兵とかに担当してもらうのだけれど、多勢に無勢だ。いくら俺がここ二、三ヶ月鍛えたといっても無理がある。

 なので、それを補うために二つ策を用意した。策っていうほどのものでもないが。


『ワタシたちだけで戦うのはムボーよムボー! アホのやることヨ! だから、まずは仲間を増やしマス!』

「仲間って……」

『ドワーフなのヨサ! なんせガルデニスの裏にあるらしいし? ぴったりジャーン!』


 ドワーフの話を聞いて驚く面々。誰も知らなかったようだな。まあ知らんわな。どこからともなくぴょっこりと現れるのがドワーフだもんな。雑草みたいだな。大差ないか。生命力高そうだし。


『で、それとは別にガルデニスに入り込んで、色々仕込んでおく面々も必要ヨネ! かといって全員を二手に分けても人数多過ぎて目立つし、ここに待機する後方支援も含めて三班に別れるわヨ!』


 ガルデニス組は主に「餓狼」の面々だ。シシリィだけは用途があるのでドワーフ組に連れていく。また色々仕込みが必要なのでエミリーもこっち。

 ドワーフ組は俺と「太陽」の面々。それに加えてガルデニスに戻すわけにもいかないリンもだ。ドワーフたちに協力を求めるための旗頭が不在なわけにもいかないから、リリアもこっち。近衛も二人付かせる。

 待機組は盗賊団の残りだ。そこに近衛の余り二人と全体統括としてトールを置く。


『んじゃマスター、最後の一言ヨロシク!』

「なんかまだ飲み込めてないみたいだけど、いいのか?」

『こういうのをすぐ飲み込むのは無理ヨ。混乱してやってるうちに引き返せなくなって諦めさせるのが一番イイノ!』


 すごい良い笑顔だけど、後ろの連中の顔引き攣ってるぞ。いいのか? まあいいか。引き込むのは絶対だしな。嫌って言ってもやらせるしな。


「んじゃま、明日から動くぞ。時間的猶予はそれほどないからな」

「え? それほど? 『欠落』さんは動くんでしょ?」

「そりゃあ当然。けど、おまえら甘く見過ぎだろ」


 俺の戦闘能力はつい先程、身に染みて理解させたから、そういう反応をするのもわかるが。


「『万軍の鎧』は対神兵装とかいうだけあって、相当ヤバいぞ。あと、『強欲』の魔王軍配下ってのを舐めるな」


 ヤツの配下の兵全員が一騎当千とは言わない。そんな軍あってたまるか。

 けれども……「力こそすべて」と言い放つ最強最悪と呼ばれた男の配下たちだ。弱卒など一人として存在しない。

 早く仕掛ければ、高レベルの人狼の群れと当たることになる。遅く仕掛ければ、高レベルの人狼たちをも吸収した「万軍の鎧」は本格的に手が付けられなくなる。

 後者よりは前者の方がまだ勝ち目はある。けれど、後者で手後れに陥った場合、勝ち目はそれこそ、俺がまた悪魔といくつか契約する以外になくなるだろう。

 俺が出たら勝てるんじゃない。

 俺が出ないと、もう勝ち目は存在しないのだ。


☆★☆


 目を閉じれば思い出す。網膜の裏に焼き付くのはかつての日々。黄金の月日は隆盛を極めに極め、天に瞬く星々にすら手が届くのではと思えるほど。

 揺れる稲穂、耳に優しい清流、深い森の湿った匂い。地を駆る手足は未来への不安など一切持たず、あまりにも軽やかだった。

 望めば望んだだけ、己の手足が届く範囲がすべて思うままだった。それが有り得ない未来だったからこそ、それを手にしたかつての日々は黄金に光り輝いていたのだろう。


 人狼という種族は古来エルキア大陸において、それほど強い種族というわけではなかった。魔族の中では中の下といったところだっただろう。オーガと同じ程度だ。

 けれども遥か昔、「強欲の魔王」が現れた頃まで時は遡る。彼の存在が覇を謳うと共に、人狼たちはその地位を上げていった。そういう意味では、人狼は「強欲」と常に共に在ったともいえるのかもしれない。


 「強欲の魔王」は「力こそすべて」と言った。けれども、それは戦闘能力に限った話ではない。どんな分野でも突出した何かがあればよく、それに相応しい戦場で戦えと告げたのだ。

 人狼は中の下ほどの戦闘能力しか持たない。純粋な狼の魔族と比べれば筋力も敏捷力も劣る。けれどもその分、知能に優れた。そして狼以上に連携に優れていたのだ。

「つまるところ、人狼とは人間の上位互換のようなものだ」と彼らが永遠の忠誠を掲げた主人は言った。

 魔王は当然として、四天王たちのような圧倒的な力は、たとえ集団でも持ち得なかった。けれども、それはそれでいいと魔王は笑った。求めているものが違うのだ、と。


「あいつらは単独で戦える。それでいい。おまえらは集団で戦える。そこにあれらほどの戦力を放り込んでも邪魔なだけだ。戦争ってのはな、突出した連中よりも、大多数を構成する連中のが余程大事なんだぜ?」


 考えてみれば当たり前の話だ。

 如何に突出した存在がいたとして、彼らが葬る敵数と雑兵すべてが葬る敵数を比べれば、母数が違う分後者が勝る。小競り合いなら前者が勝るかもしれないが、戦争という規模であれば確実に後者だ。


 その言葉は彼らにとって福音だった。「群れねば大したことなどできぬ」と侮られていた自分たちを救済してくれた一言だ。群れねば大したことができないのではない。群れることでその真価を発揮する、と。

 それだけで忠誠を誓うに値する。だというのに、彼の主人は忠誠を誓った後にそんなことを言うものだから、人狼の一族はただの一人も残さず、全員が「強欲の魔王」のために命を捧げる死兵になる覚悟を決めた。


 だから、あの厄災の日は最低だった。

 彼らの黄金の日々が、まるで鉛へと豹変した日。

 太陽が西から昇って東に沈むように、有り得ない事が起こった日。

 彼らのあんなにも軽やかだった手足が不安と怒りという名の枷で縛られた日。

 ――彼の主人が住まう城から、夜空を洗い流す純白の極光が放出された日。



「絶対におまえらは来んな。邪魔にしかならん。アレはオレしか相手できん」


 これ以上なく「戦力外だ」と言われたあの日の哀しみ。それでも、人狼たち全員であの殺戮者へ向かえば手傷のひとつでも負わすことができたのではないかと、今でも思う。

 そうすれば、もしかしたらと、どうしても思ってしまうのだ。


 人類が生み出した歴代最高の殺戮者たる者の名は「英雄の勇者」。

 単独で、戦闘能力特化である四天王をすべて撃破した凶星。

 黒髪黒目にして隻眼隻腕の悪夢。

 彼を前にして生き残った魔族はおらず、世界最高峰たるスター級金属で作られた刃はまるで自分たちを「汚穢おわい」と断じているかのように、すべてを漂白していく。


 だというのに、魔王は言った。「どちらが勝っても手を出すな」と。

 それはつまり、自分が負ける可能性があると吐露したのと同意だ。そんなことをこれまで一度として言ったことはなかった。だからこそ、信じられなかった。不安になっているのかと思った。

 けれど、けれど、違った。


「いいか、『力こそがすべて』だ。オレに勝つほどの強者が、力を使い果たした後であっさり暗殺されました、じゃ負けたオレがアホみてえだろ? だから、もしヤツが勝っても手を出すな、絶対に。もしも手を出すなら、ヤツが全快してからにしろ。そっからならどんな手を使おうとも構わんよ」


 ニタニタと嗤う魔王の顔は今でも思い出せる。

 そう。だからこそ、今――その真価を問いたいのだ。




「『英雄の勇者』は必ず来る。その時、我らが総力を挙げてヤツを倒すのだ。それが魔王様への忠誠なるぞ。なに、もし我らが力足らず死したなら、それはそれでいい。あの世で魔王様へ言おうではないか。『「英雄」は流石でしたな』と笑いながらな」


 応、と皆が笑みを浮かべて陣へ入っていく。泣き叫ぶ獣人や人間をその手に抱えて。

 赤黒く輝く陣が一際強い光を放った後、そこには人数分の宝石が残されていた。



 「宝晶鎧」が取り込んだ宝石の数、現在14782個。

難産でした。ぶっちゃけ考えるの放棄して別のもの書いたりしてました。ごめんなさい。

書き始めとか途中はいいけれど、〆るの難しいよ、難しいよ。


気が向いたら別に書いてたの投稿するかもです。だいたい「欠落」の各一章分くらいで完結の話です。もう書き終わってるので、投稿したらば連日か隔日かなあと。

もしも来週(10月23日)に「欠落」の更新がないなら、そっちが更新されてるかもです。

予定は未定。明日はどっちだ。

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