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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」と盗賊たち
121/129

7-20

初代から追ってた世界樹の迷宮シリーズ最新作にして最終作品?が発売されました

ちょうたのしひ……

みんなもやろう!


3DSで最後って言ってたけど、続編て出るのだろうか?

「さて。コイツだがな」


 壁に突き刺さったままの糞刀を軽く蹴る。アイシャは眉を僅かに動かしただけだが、憎悪の向きは俺でなく刀に向かったようだ。


「俺要らんし、へし折っていいぞ」

『待て待て待て待て待て!』

「よし行け! ゴー! レッツゴー! カモン! ヒアウィゴー!」

『おい貴様! 黙れ!』

「あ? 誰に命令してんだテメエ。俺がへし折るぞクソが」


 脅すと素直に黙った。それでいいんだよ。そもそも道具風情が人間様に逆らおうなんて考えるのが間違いだ。いやいや、そもそも、道具が何か考えたりすんなよ。思考能力があるってことは迷いもするってことだ。剣の方で勝手に「人を殺したくない!」とか言ってなまくらになられても困る。

 道具は道具だ。包丁は料理に使える一方で人を殺せるように、その能力は使い手によって左右されるべきだ。でなければ殺められる側が報われない。

 その境界線をこの妖刀は超えてしまっている。


「色々察したんだがな、ちょっくら俺の考察を聞いちゃくれないか」


 アイシャにそう話を振ってみると、妖刀に向けるのと同じくらい刺々しい視線をこちらに向けた。むっつりと唇は真一文字に引かれたままだが、話を聞いてくれるくらいはあるらしい。へし折っていいって言ったのは俺だから、待ってくれるのはありがたい。いや、ほら。だって俺もこんな糞みてえな武器見たらすぐに壊したくなっちゃうからね。そりゃ話の順番間違えたりもするよね。


「おまえの母親代わりのエルダードラゴンを殺ったのは、俺が殺した使い手じゃない」

「……どうして、私の母親の仇の姿を知っている?」


 ギン、と敵意に満ちた視線に殺意がブレンドされていく。濃密なそれは見て取れるかのようだ。具体的には、俺たちの側までやって来たソフィアが「うっ」と呻いて動きを止めるくらいには。


「さっき『羅針盤』って魔法使ってただろ? アレ、他人の記憶を読み取ったりできるわけ」

「……悪趣味」

「ひどい……」


 アイシャの殺意がさらに濃く、尚且つ冷気が増した。さすがは「氷姫」と呼ばれるだけあるな。ああいや、ソフィアの視線も冷たいわ。俺の心が霜焼けしちゃうからそこら辺でやめて欲しい。


「あくまでも推測と考察だから、本当かどうかはわからんぞ。ただ、たぶん事実だとは思うけどな」


 答え合わせに関しては妖刀本人……本体? に吐かせてもいいし、ソフィアの腰にある聖剣(笑)に吐かせてもいい。


 さて。妖刀だなんだと言われていても、刀は刀。武器でしかない。つまるところ、自身を振るってくれる担い手が必要となる。

 ここでかつての聖剣のことを思い出してみよう。俺は武器がなかったから、本当に仕方なくとはいえ、使うことにした。けれども、何故あのときこいつは放置されていたのか。いくら勝手に喋る駄剣だとはいえ、スター級金属で作られた剣だ。事実、喋りさえしないのであれば、今も俺は使い続けていただろう。そも、メサイアが使わなかったというのも解せない。スター級金属の武器なのだから、剣としてでなく魔法触媒の杖として使うことはできたはずなのだ。

 それができなかった理由。それはつまり、聖剣……武器の側で担い手を選ぶことができるということ。ましてやコイツは先の担い手である「勇者」がメサイアを倒すために使っていたということもあって、魔王相手ではたとえ壊すと脅されても引かなかっただろう。引かなかったはずだ。たぶん、きっと。でないと俺の推論が根底から覆ってしまうので、引かなかったということにしておく。


 下手に武器に意思が宿ったことにより、武器の側で持ち主を選ぶ。これはハッキリとしたデメリットだ。事実として、あのメサイアとの戦いの際、メイが俺に聖剣を持って来ようとしたときに彼女は両手を火傷していた。これは聖剣がメイに持たれることを拒否していたためである。

 あと一応俺も拒否られたっけか? 脅したら使えるようになったけど。そういうわけで、「勇者」だったらオッケーとか、人間だったらオッケーとかいう条件ではないことがわかる。純粋に剣の側で担い手を選別しているのだ。


 さて。では妖刀の場合はどうだろうか?

 まずアイシャの母親を殺した男。続いて、先日俺が殺した痩せぎすの女。アイシャの年齢上、約十年以内として、その間に担い手があっさり変わっている。少なくとも、伝説級の武器で、しかも武器の側で担い手を選ぶというのに、だ。


「俺の予想だけどな。聖剣とかは担い手を選ぶ。その一方で妖刀とかは担い手を選ばない代わり、場合によっては担い手を乗っ取るんだ」

「っっ!」

「まさか……」


 武器に意思があって困るのは前述の通り、担い手を選んでしまうということ。そしてもうひとつがこれである。つまるところ、担い手の浸蝕だ。

 事実、毒魔法でもスキルでも、そういったものは存在する。なら伝説級の武器で魔剣とか妖刀とかおどろおどろしい名前で呼ばれるモノにそういう能力があっても、おかしくはないんじゃなかろうか。

 そうでなかったとしても、意思があり会話可能だということは、それによって思考を誘導できることを示す。俺が今、アイシャをそうしているように。また、ソフィアをはじめとしたこの場にいる連中を唆そうとしているように。


「操っているのが妖刀本体である以上、その技量は間違いなく高いだろう。俺たちでいえば自分の身体を動かすのと大差ないからな。けれど、問題がひとつある」


 おやおや、おかしいなあ? 俺が話せば話すほどに、妖刀のやつ喋らなくなってきているぞ? いや、俺が喋ったら折るつったんだけどな? 話の腰を折るならテメエも折るぞというわけだ。どちらに転んでも痛くない。実に気分が良い。


「担い手の能力自体が上がらない限り、戦闘力には限界がある。そして担い手が生きている間に、次の寄生先を探さなくてはならない」


 アイシャがハッとした顔になる。

 うん、たぶんエルダードラゴンの加護を欲しがったのもそういう理由だろう。こんなんでも伝説級の武器なわけだし、全力を解放すればエルダードラゴンを倒すこと自体はそこまで難しくなかったのだろう。

 が、担い手の人間の方は別だ。人間は怪我もすれば病気にもなる。また痛覚の共通なんてのもしていないだろうから、気が付いたら手後れなんてことも有り得る。だから考え得る限りの強化を人間に施したかったに違いない。

 俺が不愉快なのはコレだ。

 武器と担い手の関係が逆転している。使う側が使われる側になってしまっているのだ。

 そして担い手は意思もなく他者を害し続ける。アイシャのような害された家族はその恨みを担い手の方へ向けることになる——妖刀はフリーのままで。

 高笑いが聞こえてくるかのようだ。実に忌々しい。なので、それは此処で終わりにしよう。俺を不愉快にさせたオマエが悪い。俺の精神安定化のために死んでくれ?


「俺のとこで媚び諂ったのも、どうせ寄生先を俺にするつもりだったんじゃないのか? それなりに話題になるように盗賊団やってたからな。情報を得ていけば、そのリーダーが生半な実力者じゃないってのはわかるはずだ」

「ん? 話題になるように……?」


 ステイ、ソフィア。その話はもうちょっと後だ。今はアイシャとこの糞刀の問題を片付けるターンです。


「んでな、アイシャ。俺が思うに、コイツは他人を次々乗っ取って来たわけよ。だとしたらさ、その部分こそ、コイツが一番自信を持ってるとこだと思うのよ」

「何が、言いたい?」

「いやだからさ。おまえがコイツ手にして、乗っ取ろうとするのを弾いて担い手として認めさせて、その上で『オマエなんか要らんわ』ってへし折ってやるのが一番良くね?」

『待て! 何を考えて——』

「黙らっしゃい!」

『ぶほぉっ』


 柄の部分を蹴りつけると悲鳴が上がる。人間でいえば顔面蹴られた感じ? え、だとしたら顔面握って戦ってる感じ? 気色悪っ!


『憐れなものですね——ヘヴォッ!?』

「誰が喋っていいつった? おまえも同じだろうが駄剣の分際で」

「ちょっと『欠落』さん! 今はわたしの剣だよ!?」

「しらんしらん。それならちゃんと躾けとけ。粗相したら飼い主の責任だぞ」

『ペット感覚ですか!? 私、一応伝説級なんですケド!?』

「じゃあ伝説級のペットってことでいいだろ」

『よくないです!?』


 うるさい。どうでもいいんだよおまえなんて。錆びろ。そんでもって忘れ去られろ。溶岩か肥だめの中に落ちてしまえ。


「そんで、どーする? すぐさまへし折ってもいいし、プライドずったずたにしてからへし折ってもいいぞ。なんなら肥だめに漬けて熟成させるか?」

『やめろ! それだけはやめろ!』


 懇願できる立場じゃないんだ、黙ってろ。


「一体、これはどういう……」

「アイシャ……?」


 お、ぼちぼち戦闘が終わったみたいだ。トールやメイたちと戦っていた連中や、俺の相手していたのもこっちに集まって来た。俺たちの会話というか、アイシャの様子を見て戦闘どころじゃないと思ったのかな? まあどうでもいいが。

 全員の視線を受け、アイシャは瞑目していたのだが覚悟を決めたようだ。


「あなたが壊して」

「ほう? おまえ、自分の手でやらなくていいのか?」


 意外だ。あれだけ復讐心を露わにしておきながら、トドメを俺に任せるのか? 完璧に想定外です。どうしよう。ちょっとこの子、何考えてるかわかりませんわ。


「……必死で、頭を冷やして考えた。私が壊せるものなら壊したい。けど、私じゃたぶんできない。…………力が、足りない……」

「あー」


 そういうことか。まあ二〇〇ちょいくらいのレベルじゃ無理かなあ。スター級だもんなあ。


「壊せるレベルになるまで待ったら?」

「それも嫌。一分一秒でも早く、コイツがこの世から消えてくれた方がいい」

「なるほどなるほど、りょーかい」


 合理的だ。いや、感情的でもあるから合理的でない? どちらでもいいか。性格の違いでしかないだろうし。自分の力でやりたいと俺が思うのは、それだけの力があるからだ。力がないなら、それを持つ誰かに頼る。まったくもって妥当な判断である。冒険者という職業自体が正しくそれなのだから。


「それなら俺がやろう。んー、ついでに……。おまえら、ちゃんと見てろよ? 瞬きしてて見逃したとか許さんぞ。目ぇ見開いて刮目せよ!!」

「旦那さま、意味が二重になってしまっています……」

「わざとだ!」

「いや、あれきっと素よ絶対」


 素じゃねえよ! そこまで馬鹿じゃねえよ! というか俺は馬鹿じゃねえよ!! 天才だわこんちくしょうが。


 まったくとため息をひとつ零し、ぞろぞろと雁首並べる阿呆どもを背にして、俺は視線を壁に突き刺さったまま身動きひとつ取れない糞刀へ向ける。俺があれだけ黙れ黙れ言ってるのに、まーだ性懲りもなく喚いてやがる。命乞いだろうが、そんなもん救ってくれる可能性が万に一つもある相手にしか意味なかろうに。こっちは壊すと決めている。ましてや俺からすると武器が喋るというのは不愉快極まりないのだ。んでもって担い手に寄生して乗っ取るとかもう駄目、耐えらんない。壊したくて仕方がない。


 さてさてさて。

 俺が連中にしっかり見てろと言ったのは、単に俺がどれだけの力を持っているか知らしめるためだ。


 計画は順調とは言い難いが、まあそれなりといったところ。時間を掛ければ掛けるだけ、”敵”は強大になっていく。現時点の能力を予想しようとしても無理だが、たぶん、まだ俺の力は超えていないはずだ。けれど、さらに時間を掛けたらどうなるかわからん。

 そういう意味では、このタイミングでソフィアたちがやって来たのは良かった。俺のステータスで運は結構高いが、ソフィアたちも高いのやもしれん。

 連中をこちらの陣営に引き込むためにも、力を見せつける必要がある。先程のようなおままごとのような戦闘ではない。見せるのは戦闘力ではなく、瞬間火力だ。

 その力を見せた上で、「おまえたちの力が要る」って言ったらもうこっちのもんよ。もうびしゃびしゃの濡れ濡れですわ。アヘ顔ダブルピースが目に浮かぶ。いや、見たことないけども。


 使う魔法は単純。最高火力ではないが、わかりやすく派手な光属性。それでいて強力ということで「曇天祓う光の極槍」をチョイスする。最高火力を出さない理由は、この盗賊団のアジトが洞窟だから。俺の魔法で強化してきちんと固めてはいるが、さすがに最高火力出したら普通に崩壊する。

 しかし普通に光槍を放ったところで、いくら俺の魔力でも単発でへし折ることは不可能だろう。スター級金属の硬さは俺がよく知っている。かつては武器も鎧もそれで戦っていたからな。

 なので、そこにスキルを乗せていく。何回も魔法撃ちゃ壊れるだろうけど、なんかカッコ悪いじゃん? こう、やはり一撃で壊すのがカッコいいじゃん?


「——集え、極光」


 宣言と同時にスキルをアクティベート。仙人の下で取得した〈魔力誘引〉だ。

 人であれモンスターであれ、生きてさえいれば魔力を持つ。大気中のそれを吸収して誰もが生活しており、レベルが上がればそれをより強力にして魔力を回復しやすくすることもできる。

 けれどもこのスキルは別だ。〈魔力誘引〉という名前は詐欺みたいだ。〈魔力簒奪〉とでも名付けた方がいいかもしれない。つまるところ、他者から強制的に魔力を奪い取るスキルである。普段から起動してたら目立って仕方ないのでやってない。そもそも、そんなの必要になるほど魔力に困ってない。前はソロだったし激戦だったから必須だったが。

 とはいえ、強制力はそこまで強くない。その代わり、条件を付けることでその強制力をより強めることができるのだ。今回でいえば、俺は「極光」と告げた。つまるところ、光属性の魔力を集中的に俺に集めていく。そしてその魔力は俺の体内に取り入れるのではなく、そのまま放つ魔法に上乗せすることができるのだ。こうすることで、俺が解放できる魔力量のさらに上をいくことができる。


「……ありがとう」


 魔力が抜かれていることで困惑するメンツの中、アイシャは俺の意図を読み取ったようで、素直にかつ大量の光属性の魔力をこちらに回してきた。〈魔力誘引〉を使うことで、間接的に彼女も妖刀破壊に一噛みできるのだ。


 続け、魔法攻撃を物理衝撃へ変換するスキル〈魔光〉をアクティベート。でないと極槍が妖刀以外に当たる部分が無駄になる。これで槍の先端が触れた瞬間、そこにすべての負荷が掛かる。一点集中化させるスキルともいえるが、これによって生物などへダメージは入らなくなる。喰らっても激しく吹っ飛ぶだけだ。吹っ飛んだ後の被害は知らんが、魔法自体のダメージはゼロになる不思議ちゃんスキルでもある。

 主に城とか壊すときに使うみたいなのだが、俺は普通に魔法ぶっ放した方が早いからスキルレベルは一のまま。偶然修得したのだが、あってよかった無駄スキルといえよう。


 続きましては、〈魔光〉と同じくスキルレベル一の〈魔力圧縮〉。チャージ系スキルで本来「勇者」は修得しないスキルなのだが、これも仙人のとこで修得した。あのクソジジイは説明せずに見せるだけ見せて後は自分で覚えろというスタンスだったのだが、そこから察するに、仙境とは各ロールのスキル修得制限を解除する場所なのではなかろうか。でなければ、俺が〈魔力圧縮〉を覚えられた理由がわからない。

 いやまあ、覚えたところで〈星光の牙〉のブーストのが強いから使わなかったんだが。ただあちらと違い、こっちはデメリットが魔力圧縮中は動けないというくらいなので、使おうと思えばポンポン使えるスキルではある。……ソロじゃなければ、だが。「魔法使い」が修得するスキルなので仕方なくはある。実際は〈魔力圧縮〉による魔法は反動が最大化されるというデメリットがあるけれど、それは「勇者」である時点でデメリットでもなんでもなくなる。ぜーんぶ反動値最大だからね!


『な……なんだ、その膨大な魔力は!』


 おーおービビってるビビってる。

 けど、まだ足りない。その程度の恐怖じゃ、足りなさ過ぎる。


 オマエ、どれだけの人を、モノを殺めて来た?

 どれだけの血を啜って来た?

 それはいい。別にいい。けどな、その責任を他の誰かに押し付けてんじゃねえよ。


 命を奪うというのは残酷な行為だ。息をするように命を奪うことに慣れ親しんだ俺だって、それでも、それが罪深い行為だということは理解している。

 だからこの手を血で汚しても、それが他の誰かの所為だなんて言わない。

 恨まれるならオマエが恨まれろ。担い手にすべてを押し付けるなんて、それは殺めた命に対する侮辱でしかない。


 ソレを強者の理論として捨て置くのなら、まだ、いい。感情的には納得できないが、理屈としては理解できる。たとえば「強欲の魔王」とかがそうだった。

 けれど、妖刀、オマエは違うだろう。その責任を担い手に押し付けて、無様にも今こうして命乞いをしている。

 それは、許せない。


「じゃねえと俺がアホみてえじゃねえか」


 ぽつりと呟き、魔力を一気に収束。圧縮による圧縮で、俺の手のひらに浮かぶ光球はまるで真夏の照り付ける太陽を直視するかのようだ。


「千々に砕けて灰になれ——『曇天祓う光の極槍』!!」


 そして万象を貫き、かの「強欲」を仕留めた光槍が放たれた。


◇◆◇◆


「さて、待ち望んでいた新人どもがやって来たぞ。そんでもって、我らが盗賊団最後の大仕事の時間だ」


 盗賊団の全員を集め、ソフィアたちも集まった前で俺は告げる。盗賊たちは盛り上がっているが、ソフィアたちは盛り下がっている。解せぬ。俺の手足として扱き使ってやるというのだから泣き叫んで喜べよ。トールなんかたぶん尻尾出してたら犬みたいにぶんぶん振ってるぞきっと。

 まだ連中に概要を伝えはしていないが、俺が助力を請うた瞬間、全員目を引ん剝いて驚いてたな。いや、面白かった。ルミナークとかは全力拒否の姿勢だったが、ソフィアが話を聞いてからと説得してくれて助かった。ひとまず、俺が話を終えるまでは黙って聞いてくれるらしい。

 それでいい。詳しい話を聞けば、ソフィアなんかは絶対食い付いてくるに違いない。アイシャたちは微妙ではあるが、今回の妖刀の一件で俺に貸しができたということで参加してくれる可能性が高い。まあパーティに犬ッコロもいるみたいだし、話を聞けば聞くほど参加せざるを得ない空気になっていくだろう。

 一方で、メイとエミリー、トールはやや緊張している。こいつらには”敵”の詳細を教えているからな。緊張するのも当然という話だ。ああいや、トールに関してはまた別の理由もあるかもしれないな。なにせ……ある意味で宿敵でもあるのだから。


「俺たちが最後に狙うのは——国だ」


 ざわめきが生まれる。双眸を見開く者、ぽかんと口を開けたままにする者、顔から色が抜けた者、怪訝そうにしている者など様々。


「王なき国、宝晶国ガルデニスを奪う。国取りの時間だ」


 理解を深めさせるため、再度大きな声で告げる。混乱しているところへもう一声。


「既にガルデニスは人間の治世する国じゃなくなっている。『強欲』の魔王軍の残党どものうち、人狼と呼ばれる連中が国を乗っ取ってるんだ。だから、まあ……国取りとは言っても聖戦と言い換えることもできるかもしれないな」


 言葉を尽くす。でなければ伝わるものも伝わらない。伝えたいことがあるのなら、伝わるように伝えなくてはならない。

 尚且つ、言葉をきちんと使い分ける。そうして、心の中の責任感などを解きほぐす。ただむやみやたらと国を襲うのではなく、魔王軍に乗っ取られた国を解放するのだと。そうすれば多少なりとも戦意は高揚するし、ソフィアたちを仲間に引き込む公算も上がる。


「信じられないやつもいるだろう。だから、ここからはリリアーヌに説明してもらう。いいな、リリア」

「わかってるわ」


 俺に代わって前に立ったのはリリアーヌ。数ヶ月前ガルデニスに滅ぼされた姉妹国である結晶国ウィリデニスの姫様だ。

 ガルデニスの王が新しくなったのが去年のこと。その新王というのが人狼どもだ。やつら〈擬態〉スキルを持ってやがるから、それで王族に成り代わったのだろう。

 連中はウィリデニスへ宣戦布告もなしに攻め込んだ。エルキア大陸の作法では宣戦布告とかあったもんじゃないから仕方ない部分もまああるか? いや、攻め込む方が悪いに決まってるか。

 ともかく、それでウィリデニスは滅んだ。その際に彼女は近衛兵四人を連れ、命からがら脱出したらしい。そしてここの盗賊どもを襲い、頭になった。復讐のために兵が必要だからと、とりあえず生活していく拠点が必要だからだろう。姫様が盗賊まで身を窶すというのも、なんというか、物語みたいだな。そこにスーパーヒーローとして俺が参上するわけだが。

 んでもって、復讐兼ウィリデニス復興という名の国取りの協力をする見返りとして、俺は彼女の身体を求めた。ビックリしてたし近衛兵たちは殺気だっていたが、実力を見せれば黙ったな。物理的に黙らせたともいう。

 ……この時点では、まだどうでもよかった。元々ガルデニスには寄る予定だったし。

 けれども、ウィリデニスにあった国宝を連中が奪ったと聞いて、話が大きく変わってしまった。俺がいまだに攻勢に出ていないのはそれが理由でもある。


 俺が求めているのは——要するに呪いを解くための交換アイテムなわけだが——ガルデニスの国宝である「宝晶鎧」だ。けれども、これにはセットになるアイテムがある。それこそ、ウィリデニスの国宝であった「創稀石」。この二つが揃ってしまったことが大問題だ。

「宝晶鎧」と「創稀石」。この二つが揃った場合、「宝晶鎧」は名を改める。

 その名も——「万軍の鎧」。装備者のステータスを、装着時から外すまでの一時に限り、アホほど強化させる装備だ。その強化具合は変動する。それは何故か?


「宝晶鎧」はぶっちゃけ見た目が派手なだけの鎧といえよう。しかし魔具でもあり、効果は内に取り込んだ宝石から魔力を引き出し、装着者のステータスをアップさせるというもの。「万軍の鎧」の効果そのままでもある。

 けれどもここに「創稀石」が加わることで話が変化する。

「創稀石」自体は魔具とはいえ石なので「宝晶鎧」に加えることはできない。あくまでも宝石しか入れられないのだ。

 そして「創稀石」の効果だが……「創稀石」を中心として、周囲一定範囲に居る生物を取り込み、その魔力や能力を蓄えた宝石を生み出す。


 つまり——「創稀石」によって犠牲になった者たちのステータスをすべて「宝晶鎧」は飲み込むことができるのだ。それを装備した者は万の軍の力を一手にできる。ゆえに「万軍の鎧」。


 宝晶国に集められている獣人奴隷の話は俺も聞いている。だから、盗賊団では奴隷商をメインで襲わせた。敵の戦力をこれ以上上がらせないためだ。なおかつ、こちらの戦力向上にも繋がる。一石二鳥作戦なのだが、別に「創稀石」は獣人でなくてもいいので、あまり効果はなかったかもしれない。


「信じてもらえないかもしれませんが、事実です」

「そんな……」

「てことは……」


 ああ。そういえばソフィアたちが受けた依頼主の話聞いたけど、怪しいな。奴隷を雇った上で厚遇するとか意味わからん。それならさっさと解放してただの従業員にすればいいのに。ウダウダと理屈をこね回したらしいが、解放したいならすればいいだけの話だ。それをしていない時点で、やる気がないのと同じである。

 まあ獣人は素のステータスが高いからな。魔法とかは向かないけど。下手に暴れられないよう、一旦そこで牙と爪を抜いてしまうのだろう。そうして従順になった連中を一カ所に集め、「創稀石」を起動させる。時間は掛かるが、安全かつ騒ぎにならないというメリットはある。ついでに人望も手に入るとなれば良い言尽くめというわけか。


「ああ、情報の確度だがな。リンの弟はずっと怪しんでいたらしい。んで逃げ出したところを襲われて命からがら脱出したんだと。『創稀石』は死んだやつには意味がないから、相手も完全に追手は出さなかったんだろう。死に到る傷を負わせれば問題ないからな」

「…………」

「獣人だからか、耳が良かったのかな? そんで俺のところへ来た。情報を俺に伝えた後で、もう助からないからあっさり殺した。無駄に生かしておいてもしんどいだけだからな」

「………………感謝、する」


 リンの眉根が寄り、涙を流しながらも殺気を露わにする。自分が騙されていたこと、自分の飼い主が弟を殺した犯人でもあると知り、頭の中はもうグツグツだろう。


「ま、そーいうわけ。だからこの国取りは正当なお仕事だぞ? 魔王軍から国を取り返すっていう聖戦なのもそーゆーワケ」


 わざと軽い調子で告げる。そして全員を見回し、口角を持ち上げた。


「ガルデニスを滅ぼし、ウィリデニスを再興させる。なあに、こっちにゃお姫様がいるんだぜ。大義名分はこちらにある。さあ——亡霊どもを殺しに行こうか」

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