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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」と盗賊たち
120/129

7-19

あらすじ編集してみました

こっちのがわかりやすいかなー、と



どうなんでしょう? 自分ではさっぱりわかりません

 エルキア大陸北西部に位置する銀嶺の一カ所、山間には小さな村があった。村の端には切り立った断崖があり、山崩れか何かで開けた場所であることがわかる。古くは氷雪花と呼ばれる薬草の栽培地として名を馳せた村だったが、今ではその代用品が平地でも栽培可能となり、ほとんどの者の記憶から忘れ去られた地でもある。

 けれども、その小さな村はそれで良かった。完全に自給自足で成り立つ村であり、年間の半分もが雪に閉ざされるということもあって、モンスターからの被害もほとんどなかったからだ。あったとしても、雪下ろしなどで鍛えられた村人は十分にモンスターを撃退することができる程度には鍛えられていた。

 つまるところ、その村は完全に閉ざされ、孤立し、完成された箱庭だったのだ。


 そんな村で、「勇者」アイシャは生まれた。


 アイシャが乳幼児を脱し、両親や兄姉の顔と名前を覚え、舌足らずながら呼べるようになった頃、村を大きな雪崩が襲った。さながら、山そのものが崩れてしまったかのようだったとアイシャは朧げながら記憶している。

 それは夜のこと。ドン、という強烈な爆発音の後、巨人が群れを成して駆けてくるかのような音が轟いた。灰と黒の入り交じった空模様に散り混じる雪の白。それだけが、今のアイシャが覚えている村の最期だった。


『申し訳ないことをしてしまったようだ』


 村は雪崩によって完全に崩壊した。その中、唯一アイシャが生き残ったのは純粋に運と言う他ないだろう。まだ「勇者」というロールが定着していない年齢にも関わらず、彼女はその運で生き残ったのだ。

 とはいえ、まだ自我も確立したとはいえない年頃の子供一人が雪山に放り出されて生きていられるはずもない。それを救ったのは奇しくも、村を崩壊させるに到った存在の片割れだった。


『私が貴様の母となり、父となり、慈しみ育てよう。それがこの村への償いだ』


 アイシャを救ったのは氷属性のエルダードラゴンだった。彼の存在はエルダードラゴンの加護を狙って世界中いたるところを襲撃して回る「強欲の魔王」配下の魔王軍幹部と戦い、その余波で村は雪崩に飲み込まれてしまったのだ。

 そのエルダードラゴンは優れた人格を有していた。アイシャを育てるに当たり、先ず最初にしたことが、己の加護を与えたことだ。それも自身の能力を削って分け与えるという上位の加護をである。ただ、そうでもしなければ、幼いアイシャはこの地の寒さで死んでしまうことが明白であった。エルダードラゴンの中でアイシャを育てるに当たり、上位の加護を与えることは考える余地もなく当然のことだったのだ。


 エルダードラゴンの庇護の下、アイシャはすくすくと育った。いや、多少食事に難があったためか、痩せぎすではあったかもしれないが、それでも健康かつ健全に育った。長命であるエルダードラゴンは人間の価値観や常識もそれなりに有していたため、アイシャは人間と関わることが皆無ながらも、いつ人間と知り合っても問題ないように育てられていた。


 そして、運命の日がやって来た。アイシャが十三歳になった頃のことだ。

 突然、エルダードラゴンはアイシャに言った。今すぐ山を下り、人間と混じって暮らすようにと。

 唐突な宣言にアイシャは拒否するものの、エルダードラゴンは彼女のことを「もう娘とは思わない」と告げ、飛び去ってしまった。当然ながら「はいそうですか」と諦めて山を下りることがアイシャにできるはずもない。彼女はエルダードラゴンの後を追い、そして見た。


『我に貴様の加護を与えよ』

『は、は。巫山戯た事を抜かす輩よ。何故貴様の様な傀儡に私の加護を与えねばならぬと言うのか』

『であれば、もういい。他を探すだけだ。……ち、この器ももうじき限界か』


 男の持つ刃は酷く陰惨で、負の魔力を纏っているように見えた。そしてそれは一瞬の時間をかけて、アイシャの母であるエルダードラゴンの首を切り落としたのだ。


 アイシャの後悔があるとすれば、この時この瞬間。

 頭が真っ白になり、事態を理解できず、その場で硬直してしまったことだろう。

 当然その当時のアイシャであれば男を倒すことはできなかった。無闇に発狂して挑んだところで、切り殺されて終わるところだった。

 それでも、自分は激昂して切り掛からねばならなかったのではないか、と。

 それが今も尚、アイシャを苛んでいる。


 だからアイシャは母の仇を探している。

 闇色の魔力を纏う刀を持つ男を。


☆★☆


 あー、うん、そういうこと。なるほどね、理解した理解した。

 とりあえず、アイシャは着痩せするまでもなく見た通りのおっぱいで、実はソフィアのおっぱいに嫉妬してるってわけね。わからんでもない。ソフィアのおっぱいは前に揉んだけど、ありゃあ大したもんだと思う。滅茶苦茶デカいというわけではないが、十分に巨乳といえるサイズではあるし、なんじゃこれってくらい柔らかいのにハリがあったしな。うん、アレは同じく女性であれば、嫉妬するに足る逸物だろう。


「でも、おまえもそんな捨てたもんじゃないと思うぞ? 貧乳かもしれんが、そこのやつみたいに絶壁じゃないし——おわっ!?」

「殺——!!」

「ちょっ、タンマ! 待て待て! 話せばわかる……!」


 ふう、なんて危ないやつなんだリン。もう効かないとはいえ邪眼全開で俺を睨みつつナイフを振るうとか、殺意一〇〇%だな!

 ちなみに。どれだけ言っても聞かないので、殴って黙らせました。ほら、肉体言語って言うだろ? 俺はきちんと対話したのだ。そういうことなのだ。

 メイを殴るときだって三言くらいは気持ちを込めて殴ってる。四言になると、メイの振ればちょっと良い音を奏でそうなくらい小さな脳みそでは理解できないので、三言に抑えている。実に良い主人だよな、俺。もしこの世に「奴隷のご主人様グランプリ」とかあったらぶっちぎりで優勝できる自信があるんだがどうだろう?


 まあそれはともかく。アイシャが俺を殺そうとして来た理由がわかった。

 うん、リンと同じく誤解だな。俺はアイシャの母親代わりのエルダードラゴンとか知りません。そもそも、「強欲」と戦った時点で氷属性の加護は持ってたし。同属性の加護はより上位でないと上書きできないため、俺の加護の上書きはほぼ不可能なのだ。ちょっと俺の冤罪が最近多いんだがどういうことよ? 悪いことなんて何もしてないのに。ステータス見ても、俺の運値、悪くないんだけどな……。


 アイシャに施したのは毒属性の魔法である「羅針盤」。細い糸状にした魔力を耳あるいは鼻とかから侵入させて脳を犯す超危険な魔法だ。禁呪扱いでも良さそうだが、精神的な病気を患った者の治療にも使えるので、修得が超絶に困難なことを除けば普通の魔法である。使いどころが限られる上に、戦闘中に使うことはほぼ不可能なので、スキルレベルはほとんど上がっていない。今みたいに相手を拘束してれば使えるが、それなら普通に殺した方が早いしな。あるいは脅迫。


「羅針盤」は相手の脳を犯すことにより、個人の情報を収集することができる。内心で思っていることのような表層部分だけでなく、記憶の隅にほこりのように積もり重なった感情や、思い起こすことのなくなった記憶すらも。俺が可能なのは読み取りだけだが、スキルレベルが上がっていけば、身体を操作したり、傀儡のようにすることも可能なようだ。さすがに、そこまで上げる気はないが。「勇者」として上げたらいかんでしょって気もするし。


「さて。お話の時間だ」

「何、が……っ!」


 起動させていた加護を解除する。加護に流れていた濃密な魔力が身体にフィードバックし、非常に気持ち悪い。吐きたいくらいには気持ち悪い。感覚としては、重度の二日酔いの隣でシンバルをケタケタ嗤いながら鳴らされている感じ。もちろん、俺の優位性を崩さないためにも、気持ち悪いのを悟られないようポーカーフェイスを意地でも維持する。……悪魔が居ない! 誰か笑ってくれてもいいのよ?


「単刀直入に言ってしまうと、リンと同じく超誤解。俺悪くない。冤罪。オッケー?」

「馬鹿言うなっ! なら、アレはどうなるっ!」


 怒鳴り、アイシャはレイピアの先で壁に突き刺さってるモノを示す。うん、アレが誤解の元だな。別名、諸悪の根源。


「えと……『欠落』さん、どういうこと?」


 ソフィアが恐る恐る訊ねて来る。駄剣は手にあるものの、最早構えてすらいない。現時点では依然として敵対関係なんだから、既知の存在とはいえ気を抜き過ぎではないかと思うのだけれど。まあおっぱい大きいからしゃーねーな! 許すしかなかろう!


「超要約すると、『羅針盤』って魔法でアイシャの記憶を読み取った。んでアイシャの育ての親だったエルダードラゴンが殺された。そのとき、殺してたやつが持ってたのがあの糞剣……刀なわけ。だからアイシャは俺が親の仇だと誤解して殺そうとしてるってわけよ」


 鼻をほじりながら告げつつ、壁に突き刺さったままの糞刀へと向かう。アイシャが俺にレイピアを突き付けつつ、ゆっくりと付いて来るのを感じるが、まあこのレベルでは放置していいだろう。せめて三〇〇レベルは超えてもらわないと、警戒域には入らない。いくら隻腕でステータスガタ落ちとはいえ、本気を出すなら問題ないのだ。


 俺が話した内容でソフィアや他のメンツは混乱してるようだ。「羅針盤」の効果を疑ったり、アイシャのやってることが本当なのか疑ったり、俺のことを疑ったりなどなど。人を信じられず疑うばかりってやーね。自分に自信がないからこうなるんだな。あー、やだやだ。みっともないったらありゃしない。


 所詮、この世は常に弱肉強食だ。故に、生き残る為には己を強く保つしかない。弱くて良いなどというのは弱者の逃げ道でしかない。その考えに縋るなら縋ればいい。そうして死んでいけばいい。後悔は先に立たない。かつての己を恨みながら死ねばいいのだ。

 そもそも、「弱くて良い」などという言葉は自身に投げ掛けるものではなく、他者に投げ掛けるもの。そして、それを投げられる者は総じて強者であることが多い。

 高レベルであり強者たる俺だからこそ言える。ああ、確かに、弱者で良いメリットが無いわけではないだろう。けれど、得てしてそれは強者であるメリットに比べれば遥かに小さなメリットでしかないことの方が多い。

 弱いからこそ、弱者の気持ちを労ることができる? 強者が労れないなどと誰が言えるのだろう? 強者が労ることの方がどう考えても良いだろう。弱者が労っても傷の舐め合いで終わるが、強者が労った場合、奮起して強者足らんと努力する者が生まれる余地がある。本気で弱者の場合、強者を妬んで終わりなのだろうけど、そういった人間はそこで終わりだから結局何も変わらないままだ。


 要するに、人間は変わろうとする気持ちこそが重要なのだ。そしてそれが強い気持ち、つまり強固であればあるほど良い。

 単純な例えを挙げよう。筋トレである。毎日続ければ、いつかは強固な筋肉を手に入れられる。自身の肉体に宿る力なだけに、嘘はない。それは己の研鑽が積んだ刃であり鎧だ。ガタイが良くなればアホに絡まれる機会も減るし、絡まれたところでなんとかなるかもしれない。鍛えなければそこで終わりだ。


 変わろうと思い、一歩を踏み出すこと。

 そしてそれを維持し、歩き続けること。


 それこそが肝要なのだ。歩かなければ、人の景色は其処で止まる。新たな何かが入って来ることはない。

 受け身ではいけない。何か変革を望むのであれば、己からその足を動かす以外にないのだ。受け身でいて好転するのは運が良い人間だけだ。そんな人間はそうそういない。そもそも、受け身でいて都合の良い未来が来ることを望むような人間は、既に運が良くない。それくらい運が良い人間なら、大して悩まず人生を謳歌しているはずだから。


 ただ、そうだ、そうだろう。

 歩みを出すことなく停滞した人間の——何か切っ掛けさえあれば歩みを続ける意思を持つ人間の——背中を押す強者が居たっていいだろう。


 だって、見ていてイライラするんだ。

 おまえはもっと前に進めるはずなんだ。自暴自棄になって。自縄自縛になって。勝手に未来を闇に閉ざして。可能性を狭めて。己を捨て鉢にして。

 人間は非常にか弱い生命だ。けれど、弱い生命であるはずがない。か弱い生命と、弱い生命だということはイコールじゃない。

 弱い生命だとしたら、人はこんなに栄えていない。とっくの昔に奴隷として暮らしている。いくら「勇者」だとはいえ、単独で魔王なんかに勝てるわけがない。

 それを為したのが才能があるから? たしかにそれもあるかもしれない。けれど、同じく”人間”なのだ。できないわけがない。


 人は無限の可能性がある、とは言わない。けれど、自分で思っているよりも可能性は広いはずだ。

 その背中には見えないし触れないけれども、翼があるはずなんだ。

 そのことを俺はよく知っている。自由に生きている人を知っている。自分で自分を縛って誰かに隷属する人も知っている。同じく、同じ人間だっていうのに。


 人は賢い。そして同時に愚かであるのだろう。

 だから自分の可能性を信じ、また同時に見失う。

 何だって見る者次第。世界が綺麗に見えるのなら、その人の心が綺麗だから。世界がクソに思えるのは、その人の心がクソだから。

 それもまた、一歩を踏み出すだけ。たった一歩踏み出すだけで景色は変わる。そしてそれを連ねることで己の歩みは轍となり、道となり、過去となり、未来へ続く。

 水の一滴だって連ねることで岩を穿つ。なら、人の意思で穿てるのはこの大地か、あるいは未来か。


 今日が雨でも明日は晴れるかもしれない。なら雨が止むのを待つのか? それは悪手だろう。

 明けない夜はないが、陽が差したところでいずれは夜が来る。

 それなら自分から向かって行け。雨が止むのを待つのではなく、その只中を走って行け。


 だからこそ、俺がその背中を押そう。

 未来への道を切り開くための濁流となろう。

 それこそが「英雄」を失い、「欠落」となった今ですら続く、”俺”という存在の残滓なのだから。

話数でわかると思いますが、もうじき7章終了です

エピローグ含めて2話かな?


8章序盤は実験的な意味合いかつ、書ける表現の幅を広げるために、日常回的な話が多いかも?

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