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欠落の勇者の再誕  作者: どんぐり男爵
「欠落の勇者」と盗賊たち
111/129

7-10

 順調とはとても言えない先行き不安な旅立ちだったが、意外にも「太陽」パーティと「餓狼」パーティ+リンの構成は上手くはまっていた。もっとも、シシリィが頭と胃を痛めながら考えた連携にリンが新しく加わっただけなので、そこまで問題はなかったりもする。そもそもリンは護衛対象なのであり、あまり戦闘で前に出させないようにするので混乱はそれほど起こらなかった。


 うまく連携が組めたのは、偶然にもロールが被らなかったということが大きいだろう。斥候役として「盗賊」のグラジオと「怪盗」のアリアが事前に索敵し、「武闘家」と「ウォリアー」のジーンが二人の護衛兼先陣を切る役割を果たす。

 同じ「勇者」ロールであるソフィアとアイシャにしても、「勇者」自体が万能型なロールであることに加え、ソフィアは前衛向き、アイシャは後衛向きなスキル構成をしていることも大きかった。

 また後衛ロールもメシアが「賢者」、ルミナークが「魔法使い」、シシリィが「魔導士」兼「射手」ということもあり、あらゆる属性の魔法が揃う。防御の薄い彼女たちを守るように「聖騎士」であるエイリークに「聖騎士」兼「守護者」、さらには「舞踏家」のアイリーンがいるため、三人は敵の存在をまるで気にする必要がない。

 中衛役としてソフィアとアイシャがいるが、それ以上に役立つのがヴィヴィアンだった。彼女は「観測士」と「戦士」のダブルローラーだ。

「観測士」は幅広い視野を持つ〈鷹の目〉というパッシブスキルや、標的をロックし、確実に次手の攻撃を着弾させる〈梟の目〉といったアクティブスキルを修得する。〈梟の目〉はロックした相手への確実な攻撃を他者へ譲ることもできた。

 また「戦士」は何かひとつの武器の扱いに突出しない代わりに幅広い武器で発動可能なスキルを修得する。そのため、場合に応じて武器を柔軟に変更して戦うことができ、ヴィヴィアンは武器を使いこなす器用さも持ち合わせていた。

 普段のヴィヴィアンは「太陽」パーティに足りない貫通火力を補うために突撃槍を持っているが、今回は人数が揃っているために改良型モーニングスターを腰に佩いている。それを目にしたアリアが「貴族とは一体……」と呟いたのは余談である。



 順調に移動は続く。散発的にモンスターがやってくるものの、優秀な斥候役が地上であろうと空からであろうと地中からであろうと敵の存在を把握し、全体へ知らせてくれるので奇襲という奇襲がない。またジーンが張り切り過ぎているせいか、後衛が魔法を発動する必要もないため、魔力の消費も抑えられている。強いて問題を挙げるなら、時折リンが前線で敵を切りたがることくらいだった。


 そうして野営をちょこちょこ挟んで三日ほど。ようやく盗賊団のアジトがあるとされているエリア付近に到着する。


「崖だね」

「隘路」

「マズいね」

「是」

「ん」


 よくわからない空気で仲良くなり、ここ数日は周りから触れられていないソフィア、アイシャ、リンの三人は目の前の峡谷を見て呟いた。口さがない某「怪盗」からは「あいつらヤバいよ未来に生きてる」と言われていることなど誰も夢にも思っていない。


 それはともあれ峡谷である。

 切り立った岸壁が覗く道というのはアールグランド大陸においてまま見られる光景だ。これは日中と夜間での寒暖差が作り出した景色ともいえる。日中に染み込んだ僅かな水分が夜間の気温によって凍結し、体積を増やす。そして日中になれば溶け出して、また染み込む。このサイクルが繰り返されることによって岩が脆くなり、崩れやすくなっているのだ。

 そういった事情で珍しくない峡谷だが、今回の場所に関してはまた話が別。崖と崖の間が狭い隘路となっているのだ。具体的には馬車がすれ違えないほどの幅である。人が一人いるだけで、馬車は運行速度を遅めなければならないだろう。

 それほどの狭さなため、武器も扱うことを考えると理想は一人、現実的には二人程度しか横に並び立つことができない。また、後衛ロールの三人や「勇者」二人は魔法を思うように使えなくなる。そうでなくとも脆い岸壁であるため、あまりに火力の高い攻撃は前衛ロールであっても危険だ。崖崩れが容易に予想される。


 そんな光景を見て、なるほどとソフィアは納得する。これは盗賊が狙うわけだ、と。

 商人たちも冒険者たちに依頼をして護衛をしてもらうわけだが、この隘路では冒険者たちも全力を出すことができない。対する盗賊たちは初めからこの場で襲うことを念頭に置いているわけだから、地の利を完璧に活かせるというもの。隘路であるため、前後から挟撃されることだって当然のように有り得る。


「最後尾にアリアさんが移動した方がよろしいですわね。わたくしもそちらへ行きます。全体指揮はシシリィさんにお願いしてもよろしくて?」

「結構だ。あと、アイリーンさんとエイリークくんも前後で別れた方が良いだろうね」

「みたいだね。リンちゃんの護衛もあるし、あたしは後ろに行くよ」

「わかりました。前はお任せを」


 隘路に入ってから隊列を弄るのは難しいため、この段階でそれぞれ配置を変えることになる。それに際してアリアはポーチからいくらかの薬品をグラジオへ渡し、またグラジオから彼女も受け取る。どうしても火力に劣る斥候役はそうした物品が必要になるのである。


「うわ、毒。やっぱり『暗殺者』なだけある」

「おめえのこれもひでえな。『魔術師』か何かかよ……」


 グラジオが渡すのは敵を状態異常に陥れる毒物で、アリアが渡すのは敵の能力を減衰させる魔法薬。互いに互いの薬品に関してドン引きするのだが、その光景を見ていた他のメンツの内心は一様に「おまえが言うな」で揃っていた。

 火力を補う形で薬品を扱うためか、彼ら斥候役の戦法というのは基本的に”厭らしい”ものになるのだ。


「はー。嫌になるわね、この地形」

「そうですね……。単純に狭いというだけでも圧迫感があります」

「相性が悪いね。私の弓もこういった場にはそぐわないし」


 後衛ロールの三人はこういった環境下ではどうしてもその力を活かせない。シシリィは「射手」のロールも持つため弓も装備しているが、基本的に遠距離では魔法、ある程度近付かれれば弓矢という形だ。そのため、持ち運びも踏まえて短弓を装備している。長距離を狙う弓なら弧を描いて敵を穿つ曲射も使えるが、短弓ではそれもやや難しい。短弓で曲射するといった場合、事態は近接戦闘に移っているため、味方への誤射の危険性が高まり過ぎるのだ。


「ズルいよね、こういうの」

「否。狡猾」

「リンは、こう言ってる」

「まあそうなんだけどね。でも言いたくなるじゃない?」

「わかる」

「是。汗」

「なんで今ので言いたいことわかるんだい、あんたたち……」


 ソフィアとアイシャは何故かリンの言いたいことを八割以上の確率で読み取れるようになっており、リンの護衛として側にいるアイリーンを戦慄させていた。


 やがて配置変えも完了し、シシリィとヴィヴィアンを通じて全体が改めてそれぞれの役割を把握した頃、ようやく一行は隘路へと進行することにした。

 峡谷はさながら魔物が開けた口のように、一行を吞み込む。


□■□■


「アニキー! アニキー! アニぶへえっ!?」

「誰がアニキだ馬鹿野郎。何があった?」

「て、敵襲だ!」

「敵襲? またどっかの盗賊団か?」

「違う! 冒険者どもだ!」

「へえ……。今度はちったあマシな連中が来たかな? 数は?」

「一一人なのです! ちゃんと見て来たのです!」

『そーヨ! ワタシのこのクリクリお目目で見て来たんだカラ!』

「そこそこの数だな。商人の護衛とかそういうのではなく?」

「冒険者たちだけだ!」

「ソフィアさんたちなのです!」

「…………ゲッ」

「ご主人様?」

『マスター?』

「アニ——ぐはあっ」

「んーーーーーー。ま、いっか。それはそれで、役に立つだろうし」

「じゃあ作戦通りやるのです?」

『やっちゃうヨ? ワタシ張り切ってるんだからネ!』

「ああ、やってくれていい。ウチの冒険者どもはどうしてる?」

「準備完了って言ってたのです」

『楽しそうだったわネ! まあそりゃそーヨ。ここの生活、盗賊団って感じしないモノ』

「馬鹿言え。今の俺は盗賊王だぞ。世界中の物は俺のもの。俺のものも俺のものだ」

『ヒュー! あっくやくゥ! 真っ黒に輝いてルゥ!』

「はっはっは! そう褒めんでいい。自覚している! いつだって俺はどんな立場でも輝いてしまうんだってな……!」

「ご主人様、嬉しそうなのです……黒色でもいいのです?」

「いいのいいの!」

『いーノいーノ!』


□■□■


 ソフィアたちがある程度隘路を進んだ頃だった。

 それも、ちょうど張り詰めていた神経が切れやすくなる——謀ったが如きタイミングだ。


「なっ!?」

「なんだっ」


 ドン、と爆音が突如として轟く。それも一度ではなく、二度三度と連鎖されている。聴覚の良い獣人であるジーンとリンは二人とも眉をしかめて奥歯を強く噛む。人間であるソフィアたちですら顔を歪めてしまうくらいの轟音だ。ソフィア以外の面々も何か口を開いて叫んでいるのだが、何を話しているのかさっぱりわからない。この連続して鳴り響く轟音で掻き消されてしまっていた。

 これに真っ先に対応したのはヴィヴィアン。続いてアイシャ、アリア、エイリークの順だった。

 彼女たちは声を発しても届かないことを理解し、音の方角を指差すことで示す。


「っっ!!」


 指差された方角では切り立った岸壁の上から爆発が次々と起こっているのがかろうじて見えた。続いて、後方からは濃い白煙が立ちこめて来る。咄嗟にメシアとシシリィが風属性の魔法を使ってそれを押し返すものの、今度は前方からも白煙がやって来た。


「————ッッッ!!」

「————っ!」


 その瞬間だった。

 ソフィアとアイシャは共に厭な予感を感じ取り、咄嗟に顔を上げた。


 意識を爆音と、前後からの白煙に向けさせての——落石。それも、爆発が起こっているのとは真逆側からのもの。

 考えるまでもない。

 盗賊たちの策略だ。


 咄嗟に叫ぶが、絶えず炸裂し続ける爆音によってそれも遮られ、いまだに落石に気付かない仲間もいる。

 気付いた者から対処するしかなかった。


「〈————〉!」

「〈————〉!」

「『————』っ」

「〈————〉!!」

「『————』っっ」


 落石に対応できたのは五名のみ。正確には、対処として何らかのスキルを使えたのが五名のみというべきか。アリアやグラジオは斥候役だけあって気付けはしたが、落石を妨げるようなスキルを持たないため、気付いていない他のメンツの肩を叩いて気付かせるという形で対応する。


 爆音に掻き消されて聞こえないはずなのに、ソフィアは巨大な岩が岸壁を蹴って自分たちへ降り掛かる音を聞いた気がした。

舞台裏


欠落「こういう形で、反応できてもどうしようもねーよって形で敵をハメるから」

盗賊(絶対この人『勇者』じゃねえ……)

エミリー『普通にやったら岩重過ぎナイ?』

欠落「俺が土魔法で作っとくから大丈夫」

エミリー『ナルホド』

盗賊(魔法便利過ぎだろ……)



商人をハメる場合は倒木(魔法製)を置いたりして挟撃したり、今回のように冒険者集団相手では落石で対処したりした模様

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