7-6 幕間 とある盗賊のお話
俺たち盗賊団が変わってしまったのはどこからだっただろうか、と思い返す。
初めはただの、そこらにいくらでも転がっている盗賊団だった。いや、団だなんて大袈裟なものじゃねえ。ただの盗賊の集まりだった。おっと、盗賊の集まりだからって、ロールが「盗賊」のやつらってわけじゃねえぞ。生業として盗賊ってだけだ。いや、そっちの方がよっぽど悪いのはわかっちゃいるけどよ、やめらんねえんだ。
盗賊に身を窶すってのはありふれてるっちゃありふれた話だが、これはこれで大変なもんだ。世間様は盗賊というと飲んで食って女抱いてあっひゃっひゃと乱痴気パーティを繰り返す阿呆の集まりと誤解しているが、そんないいもんじゃねえ。盗賊である俺自身がそれを声を大にして言える。
盗賊なんて、ロクなもんじゃねえ。
まず収入が基本ねえ。つまり、ある程度は計画的に金を使わなきゃ生きていけねえ。けど計画的に金を使えるような頭のあるやつはいねえ。そうなると、日々糧を求めて――つまりは獲物を探さなきゃならねえわけだ。勤勉じゃないと成り立たねえのさ、盗賊ってやつはな。
商人の頻繁に通るルートを発見し、そこを調査。どれくらいの頻度で商人が通るのか。その商人はだいたいどれくらいの金や物を持っているのか。兵士たちの見回りルートも含めて考えなきゃならねえ。まともにぶつかったら痛い目を見るのはこっちだ。痛い目程度で済めば恩の字。殺されることだってザラだ。あと、他の盗賊団との兼ね合いもある。
まあ他にも考えることは山ほどある。襲っている盗賊側でいうのも何だが、商人たちだって盗賊になんか襲われたくねえから、ルートや時間を変えたりする。そこらもきちんと踏まえていなけりゃならねえ。
まあ何が言いたいかってーと、普通のオツムじゃ盗賊「団」なんてできねえのさ。団って言うからには、それらを計画してきちんとできるやつ……お頭が必要になるのさ。
盗賊の集まりだった俺たちが一応曲がりなりにも盗賊団を名乗れるようになったのは、アネゴが現れてからだろう。
アネゴはとても美人だ。それはそれは美人だ。正直な話、夜の相手になりたい。ものすごいなりたい。こう、俺たちとは違う領域の人間だって感じがする。
けど、女だからって力ずくでどうにかしようとした馬鹿どもがどういう目に遭ったかは知っている。俺は馬鹿ではあるが、底抜けのマヌケじゃねえから、あくまでも目で見て妄想で愉しむだけだ。それくらいは許してくれたっていいだろう?
話が逸れた。ともかく、アネゴは美人なんだ。けどそれだけじゃなくて、とても強い。オツムの出来で俺たちを従えてるわけじゃなくて、力で従えれるだけの力量がある。そのうえでオツムも良いから、俺たちだって素直に言うことを聞いているんだ。
え? ビビっているんじゃねえかって? バ、バカなこと言うなよ……。まったく、困ったもんだ。ビビビビビってなんかいねえさ、ああ、いねえさ。
どちらかというと、アネゴの空気に従わされてるって感じだ。
高貴な人間はこんな感じだって言われたら、なんとなくわかるかもしれない。アネゴはいつも自信満々って感じだから、アネゴが言うとみんなも「お、おう……」みたいな感じで頷いちまう。たぶんリーダーみてえな、そういう空気がある。
アネゴは初めから部下を四人連れていた。それが今の幹部連中だ。
幹部たちは全員野郎で、アネゴが連れていただけあって、みんなアネゴと同じように強い。直接戦ったら、たぶんアネゴでも負けると思う。まあすげえ忠誠心だから、アネゴに逆らったりはしねえけどな。
アネゴと幹部たち合計五人が加わって、ただの盗賊の集まりは盗賊団として活動するようになった。
アネゴと幹部たちの計画の下で行動すれば、これまでの苦労はなんだったのかというくらいすんなりと事が運ぶ。これだけ楽なら文句はねえ。
アネゴたちが加わってそれほど時間が経ったわけでもないけど、みんなもうアネゴの言うことには逆らわなくなった。
逆らえないんじゃなくて、逆らわないんだ。そこんとこ誤解されちゃ困るぜ。
けど、そんなアネゴたちにも文句がひとつだけあった。
というのは、女を抱けねえってことだ。これはアネゴが女だからかもしれねえが、襲った奴隷商人や弱い冒険者とかでは女もいる。俺たち盗賊団はアネゴを除いて男所帯だからみんな女に飢えてる。
なもんで当然のようにそいつらをみんなで輪姦そうとするわけだが、それをアネゴは絶対に認めてくれねえ。
殺すか、奴隷として売るか。
その二択しか許してくれねえんだ。
これには俺たちも文句があった。けど、一応はアネゴも解決策を用意してくれていた。
つまりは女が捕らえれたときの襲撃でよく働いたやつ。そいつらは時々金をもらってどっかの町や村に行ける。その金はどう使ってもいいんだ。つまり、それで好きな物を買おうが、娼館に行こうが自由だってことさ。
無理矢理犯すのが良いってやつらは最後まで反対していたが、そういうやつらは最終的にアネゴたちに殺されたし、それ以前に盗賊団から出て行ったりした。アネゴはそれを留めようとしないからどうしてだろうって思っていたが、あとになってわかった。
盗賊団を辞めたからって、そいつは盗賊のまんまだ。今更マトモな生活なんてできやしねえことは俺たちがよーくわかってる。アネゴのおかげで楽に稼げるようになったしな。
つまりは他の盗賊団に入ったわけだ。そこでアネゴの話とかをして、連中をこっちに誘き寄せてくる。普通ならアジトやら罠やらがバレてるわけだから一網打尽にされるところなんだが、アネゴは違う。それを利用してむしろ相手をハメて、連中を皆殺しにする。そして連中の財宝やら食料やらを全部奪っちまうんだ。
正直、震えたね。なんでこんな盗賊団のお頭やってんのか不思議なくらいだ。
美人だし、頭も回るし、強いし。普通に冒険者やってりゃいいと思うんだが。
ああ、そうだ。冒険者、冒険者ね。
俺たち盗賊団がさらに変革したのは先月のことだったか。最近よく名前を聞くようになった冒険者グループが俺たちのとこにやってきたんだ。
ただ、まあ、なんというか。予想外というか想定外というか、世の中上には上がいるというか……。
ともかく、とんでもねえのは常にとんでもねえのを呼ぶってことなのかな?
すげーのが来た。そして、そのリーダーが今の俺たちのお頭だ。
アニキって呼ぶと怒られる。なのでお頭呼びだ。お頭は怒るとすげえ怖いから、絶対にアニキだなんて呼べない。けど、心の中でアニキって呼ぶやつは結構いるんじゃねえかな。
色んな意味でアニキはアニキだ。
そんなわけでお頭だが、遠目に見る分には強そうに見えないだろう。
中肉中背で、隻眼で隻腕だ。それだけでとんでもなく不利だし、本当に強いやつってのは五体満足なもんだってみんな思ってるから、初見では舐めちまうだろう。
けど正面から会って話してみると、とんでもない人物だってのがよくわかる。今でも俺はお頭と二人だけで話すことがあったら震えてる。そんな機会はできるだけないことを望むがな。身内からもビビられてるくらいだから、お頭はマジでやべえ。尊敬されてるけど、それ以上にビビられてる。やべえ。
まず目がヤバい。蛇みたいな目だ。常に相手の隙を狙ってる感じだ。ニヤニヤしてるし間違いねえ。いつでも相手を陥れようと考えてるに違いない。下手するとヤクやってんじゃねえかなって思える。お頭だとやっててもおかしくねえ。それでいて副作用もないに違いない。人間なのかな……?
そんでもって、なんでか知らねえけど、話してると的確にこっちの胸を抉ってくるようなことを言ってくる。どうしてそんなに人を傷付けることに長けてるのか、俺にはまるでわからない。
そしてそれは言葉だけに止まらない。お頭は口だけでなく、腕の方も滅法立つ。
お頭が戦ってるところは意外なようだが、アジトでしか見られない。というか、襲撃ではまずお頭は出て来ない。アネゴの幹部たちみたいに、お頭の連れてた仲間たちは一緒に襲撃に出て来るけど。
じゃあお頭はアジトでなんで戦ってるのか?
これは単純な話で、訓練だ。そうそう、アネゴのときからもあったけど、お頭も訓練を俺たちにさせるんだよな。お頭もオツムの出来が俺たちとは比べられねえくらい良いみたいだから、やっぱそういう人たちは訓練を大事にするんだろう。騎士団とか兵士とかも訓練するし、やっぱ大事なんだなーと思うばかりだ。
けれど、おかげさまで仲間の盗賊たちみんな腕が立ってきた。それなりだが、死ぬことは減った。怪我をしても、仲間内でフォローできるようになった。これらは全部訓練の賜物だ。
訓練が死ぬほどキツいことに目を瞑れば、とてもとても感謝している。
訓練の最中は死ぬほど恨んでいる。
お頭が連れていたのは全員女だ。ちょうどアネゴと逆だな。なんで男はいないのか聞いてみたところ「野郎を連れて旅して何が楽しいんだ」って言われた。納得だ。
けどそのあとで「おまえらも本音を言うと全員殺してハーレム構築したいが、まあお情けで生かしてやってるんだから働いて返せよ」って言われた。実に鬼畜だと思う。頭おかしいんじゃないか。やっぱ人間じゃねえ。
以上のことからわかると思うが、悲しいことにというか悔しいことにというか、アネゴは今やお頭の女になっちまった。夜に耳を澄ませば、お頭の寝室からアネゴの嬌声とか、お頭の連れてた女騎士の嬌声とかが聞こえてきて非常に良くない。
ああ、そうそう。お頭が連れてた仲間だけど、まともな女はその女騎士だけだ。清楚な感じで、別に甲冑着てるわけじゃねえけど、女騎士っていったらこんな感じなんだろうなって人だ。話してみると優しい人だとわかるんだけどな。みんなあの人には、お頭やアネゴとは違う意味で逆らわねえ。勿論、俺もだ。
じゃあ他にはどんな仲間がいたのかというと、一人はちっちゃなガキンチョだ。いわくお頭の奴隷らしい。話を聞いて、素直に納得した。お頭の性格上、むしろ奴隷がいないと言われた方がビックリする。
けど今じゃ盗賊団内のマスコットみたいになってる。ファンも多い。かくいう俺もその一人だ。いや、なんだろう。いつも元気一杯で「がんばってます!」って感じだから、ついつい応援したくなっちゃうんだよな。そんでもってお頭や仲間の一人に揶揄われたり弄られたりして涙目になってるときとかマジでたまらんね。壁際からこっそりと、みんなで「がんばれ! 負けるな!」ってエールを送りながら見てる。
そんなマスコットちゃんをお頭と一緒に弄ってるのが、これまた常識外の存在である妖精だ。精霊だったか? まあどうでもいいか。
手のひらに乗っかるくらいちっちゃいが、気は強い。そして油断すれば俺たちを落とし穴なりなんなりでハメては黒く高笑いをする。憎たらしいが、たまに酒の席で一緒に盛り上がっていると、まあそれも愛嬌のひとつかなと思える感じ、俺たちも毒されて来ているんだろう。
この妖精のおかげでアジトの防犯レベルは遥かに上がったな。まあお頭はその妖精でもドン引きするような罠を思いつくわけだが、お頭の悪辣非道な雰囲気を見ていると納得だ。まるで違和感がねえ。やっぱり色んな意味で人間じゃねえ。悪魔と言われても頷けるくらいだ。
お頭はアネゴのときとはまた違う形で襲撃する相手を選んでいた。
俺たちが基本的に狙ってるのはガルデニスから大きく迂回して色んな町や村を巡るルートなんだが、お頭は直通ルートを狙わせる。
ちょっとわかりづらいか。ガルデニスからAの町、そこからBの村、さらにCの町を経由してガルデニスへ戻るのが迂回ルート。もう片方はガルデニスから直接Aの町に行き来したりするルートだ。
商人たちは基本的に迂回ルートを通る。日数はかかるけど色んなところを巡るから、一度で大量に売買できて大儲けってわけだ。けど、お頭はこっちを選ばない。
なんて言ってたかな。ああ、そうだ。思い出した。
『遠回りなんだから護衛だって強いだろ。それに食料だって小刻みに補給できるんだから大したもんは積んでない。だいたい、多くの商人が使うルートを襲ってばかりいたら、こっちが狙われるだろう? 有名になったら問題になることばっかだ。相手は油断してくれた方がいいんだよ』
一攫千金じゃなくて、コンスタントに稼げる相手を狙うべきだってお頭は言ってる。
それになによりも、お頭がその後に行った一言が最高だった。
『奴隷商人とかが一般的なルート使うと思うか? 貴重で高い奴隷だぞ? できるだけ一目に付かない、普通じゃないルート使うに決まってるだろ。え、なに? 女を抱けない? なんじゃそれ。いいよいいよ、抱けよ。勿論美人はまずいの一番に俺が愉しむが』
女日照り解禁宣言だった。
曇天に光が射すかのようだった。
お頭の剛直は俺たちの未来までも切り開いてくれたんだ。
ただこれにはアネゴが強固に反対した。アネゴの部下だった幹部たちもだ。
お頭は嫌そうな顔をした後で、別の提案をした。
『じゃあ、無理矢理はなしな。逃がしてはやれんが、炊事洗濯やらの仕事をしてもらう。そんでもって、抱きたいならなんとかして惚れさせてモノにしろ。そうすりゃ何も問題はない。女が欲しけりゃ自分でなんとかするんだ……!』
少し面倒だったけど、アネゴのときと違って、お頭は俺たちだって女を抱けるように提案してくれたんだ。
それだけでみんなのやる気が天元突破したね。それに料理洗濯をやってもらえるってだけでも良かった。アネゴは「女性軽視だ!」って騒いでいたけれど、今の俺たちのお頭はお頭なんだから、問題はなかった。そもそも、アネゴだってお頭が一晩したら文句を言わなくしてくれたしな。
そんなこんながあって、お頭がやって来て一ヶ月ちょっと。俺たち盗賊団の生活は結構良くなった。
周りに女がいるってなると、やっぱみんな少し変わる。身だしなみとか、気にするようになる。
普通の盗賊団だと荒くれ者の集団みたいなイメージがあると思うけど、俺たちは割とみんなこざっぱりしている。これはお頭の言ったルールからだ。女を抱きたきゃ惚れさせろってやつだな。
無理やり襲ったなら、後で殺される。我慢できない馬鹿が一人死んだしな。予想外だったのは、それで何人かの女たちがお頭に抱かれるのを希望したってことか。もっとも、アネゴや女騎士に比べたらそこまで美人じゃなかったから、断られていたけれど。
ちなみにその女を慰めてた一人がめでたくその女と付き合うことになった。幸せ絶頂ってな感じで毎日デレデレした顔をしていて不愉快だ。ゆるせねえ。また今度リンチしようとみんなで計画している。
ああ、そうそう。お頭は面倒臭がってやってくれないが、お頭のおかげでアネゴに時間ができたからだろうか。アネゴや幹部の人たちが色々と勉強を教えてくれるようになったんだ。おかげさまで、俺たちはちょっとばかしオツムが良くなった。
やるやらないは完全に個人の自由ってのがまた良い。けど、参加率は非常に高い。
普通、勉強なんてもんは金がかかる。けど俺たちの場合はタダだ。それだけでも参加しようかというやつらは多いが、そこにはマスコットちゃんもいる。この子はお頭の命令で強制参加だ。たまに抜き打ちでお頭が勉強会に顔を出す。そのときにきちんとやっていないと、マスコットちゃんは酷い目に遭うので必死だ。
ちなみに俺たちも必死だ。お頭から猛毒を吐かれるからな。お頭は俺たちの名前を覚えてない癖に、「ゴミ」「カス」「ブサイク」とかそういう侮蔑語で呼んでくる。そして何故かそれぞれ一致している。ひどい。
俺の場合は……やめよう。なんで人の子供の頃のトラウマになった思い出をピンポイントで名前扱いするんだ! どうしてそんなのをわかっちまうんだよう……! あの子に振られたのはアレが理由じゃないんだ……違うんだ……絶対違う……はず……。
そして、今日。アジトに来客があった。とんでもなくヤバそうなヤツだ。
手にしていたのは変なオーラを放ってる刀。おどろおどろしい女の雰囲気とピッタリな得物だと思った。
全身黒い襤褸切れみたいな服を着ていて、長い黒髪はどれだけ長いこと洗っていないのかわからないくらい。痩けた頬にぎょろりとした目玉。本当に女かと言いたくなる容姿だった。俺たちより何倍も盗賊っぽい。まあそれ以上に乞食っぽいが。
話を聞いてみると、お頭の強さに憧れたとのこと。そんで仲間に入れて欲しいってことらしい。
相手がこんな女だが、お頭は実力を褒められて自慢げだった。鼻高々って感じだ。
俺たちはこんなのが身内に加わるのは正直嫌だった。だって、暗がりからこいつが出て来たら絶叫する自信がある。けど、どうもお頭はそこら辺頓着しないようだ。まあこの人良くも悪くも頭イカれてるからな。もうわかってる。この人は人間じゃないって断言できる。口にしたら殴られそうだから言わないが。
『俺の部下になりたいなら頭を垂れろ。その具合でどれくらい部下になりたいのか見させてもらう』
お頭はそう言った。女は躊躇なく土下座した。
ああ、これは身内入り決定か――と俺たちが思ってたところだった。
『隙ありーっ!』
お頭は凄い早さで女の側に来たかと思うと、その首をスパッと切り落とした。凄まじい早業だった。そして悪辣にも程があった。このために土下座させたわけだとみんなが一目で理解した。
ただ、理解できなかったのはその後の行動だ。いや、なんでいきなり仲間になりたいってやつを殺したのかも理解できなかったけど。
お頭は女が持ってた刀を蹴って、さらに踏んづけたのだ。
『武器の分際で俺を乗っ取ろうとしたのか? やっぱり四宝剣ってのは駄剣しかり使えない物の集まりだな』
『おのれ……! 何故気付いた……』
俺たちはびっくりした。そして震えた。幽霊だと誰かが叫ばなかったら、俺が叫んでいたかもしれない。ちなみに叫んだやつはお頭に「うるさい」と石を投げられて気を失うことになった。なんて剛速球だ。たぶん世界を狙える。
そこでアネゴが俺たちに説明してくれた。アネゴもお頭の行動に驚いていた様子だったけど、さすがに賢いだけあって、俺たちより冷静になるのが早かった。
『この世には四宝剣っていう……まあ凄い剣が四つある。けど、その四つとも人格があるのさ。アレがどうも、そのひとつで妖刀らしいね』
俺たちではどうにも理解できなかったが、まあそういうことらしい。
そんでもって、あの女が持っていたのがその妖刀。その妖刀は持ち主を乗っ取ることができるみたいだ。で、あの女を利用して、より良い器を求めてた、と。
どうしてお頭は気付けたんだろうかと思ったが、考えるだけ無駄なのでやめた。お頭だからな……。そういうあくどいことを考えさせたらお頭の上を行くヤツはいないってことだろう。
『ハーッハッハッハ! ふざけやがってクソが! おら折れろ! すぐ折れろ!』
『やめろおおおお! 貴様! 我を何だと思っておる!?』
『鋳潰されて鉄屑になる運命を辿る予定の材料』
『武具としてすら見ておらんのか貴様は!!』
まあ、お頭にかかれば妖刀もなんのそのという話らしい。
余談だが。お頭が妖刀を蹴ったり踏んだり壁にぶつけたりしている間、ずっと高笑いをしていたせいで、俺たちもお頭の仲間たちも、みんなブルブル震えることを余儀なくされたのだった。
マスコットちゃんは漏らした。ぶっちゃけ仕方ないと思う。
俺も漏らした。ぶっちゃけ仕方ないと思う。
ガルデニス周辺に存在する、悪逆非道の盗賊団のお話でした。
章タイトルに当たる「盗賊たち」とは彼らのことです。
この「お頭」というのが物語構成上とても重要な役割を果たすキャラなのですが、果たしてこの正体が本編で判明するまで、読者の方々は見抜けるでしょうか。
作者からの挑戦状というやつですね(露骨な感想要求)。