7-4
アイシャ・ライオネル。彼女の異名は「氷姫の勇者」。
その二つ名に似つかわしいだけの実力は、ただこうして目の前にいるだけでも感じられる。
それでも——ソフィアは「英雄」としか思えない超常の戦闘能力を持つ「欠落」を知っている。
彼がどれだけ桁外れに強いかを知っている。そしてその背中を追い掛けてきた。けれども、どれだけ自分が経験を積んでレベルアップを果たして強くなっても、それが本当に彼の背中に近付いているのかがわからなかった。
彼はあまりにも遠過ぎて、自分の他に彼を本気で追い掛けている者がいるなんて思いもしなかったから。
けれど、違う。目の前の彼女は、違う。
彼女が「英雄」を追っているかはわからない。
ただ、ひとつ言える。
彼女はきっと、自分がどれだけ強くなったかを調べるものさしのひとつになる。
「『太陽』……あなたの強さを、見せて欲しい。みんなも……たぶん、それが一番よくわかると思うから」
「……うん。受けて立つよ」
不思議と、胸の内から熱いものが溢れ出ていた。気が付けば、自然と口端は弧を描いていて、目は細まり、好戦的にぎらぎらと燃える。
アイシャの反応はソフィアと真逆だった。
戦いたいと告げたのは彼女の方なのだが、それにしてはあまりにも気配が大人し過ぎたのだ。まるで極寒に聳え立つ氷壁のように、その泰然さはびくともしない。「氷姫」の二つ名も頷けるほどの氷点下じみた態度にソフィアは少し不安になる。
果たして――本当に自分は強くなれているのだろうか。
いや、それを確かめに行くのだ。そのためには弱気の虫など気に掛けている余裕は一切ない。
目指すべき頂きは遠く。
そこへ辿り着くためには、がむしゃらにでも一歩を踏み出す以外にないのだから。
◇◆◇◆
仲間たちには冒険者ギルドの事務員から依頼の話を聞いてもらうことにした。何やら、他にも自分たち宛ての相談があるらしい。それだけ「太陽」の名も売れて来たということだ。
ともあれ、回復魔法の使えるメシアと戦闘を見ることを優先したヴィヴィアンがソフィアと共にガルデニス近郊にある荒野へ移動していた。「餓狼」側はというと、ソフィアの実力を確かめるために全員がやってきている。
もっとも話を聞く限り、「餓狼」は大所帯であるらしい。今回の依頼を受けるに当たって参加可能と思われる戦闘力を持つのがこのメンバーだとのことだ。そしてそれでは人数が少ないと思われたため、動けずにいたところ、ソフィアたちを見付けたというのがあの一連の流れだそうだ。
そして「太陽」一行の実力を知るための試験が今、行われようとしている。
「準備……いい?」
「もちろんっ」
ソフィアは腰の聖剣を抜き、しっかりと構える。対峙するアイシャはというと、シシリィの短杖よりももっと短い、ナイフ程度の細棒を構えているだけだ。一番近いものの名を挙げるなら指揮棒だろうとソフィアは思った。
「じゃあ……行く」
「っっ!」
宣言直後、アイシャの姿が消える。
「はあっ!?」
「消えましたの!?」
メシアとヴィヴィアンが驚きの声を上げるが、「餓狼」の面々はにやにやと笑っているだけだ。つまり、これはアイシャの持つ通常の戦闘技能。これに対処できないようでは力足らずと見做されるということ。
冷静さを失ってはならない。
(こっち――!)
ソフィアは直感的に、どうも身体がぞわぞわする方向へ剣を振るう。キン、と澄んだ音を立てて何かに刃が接触して火花が散った。そしてその先には、ほんの僅か、微笑を湛えたアイシャの姿が現れている。
今度は「餓狼」の面々が驚く番だった。
「おいおい! アイシャの〈屈折〉を見破りやがったぞ!?」
「しかも初見で、だぞ? ジーンはあっさりやられていたな」
「鼻も利かなくなるとか想像しねえだろ! でたらめなスキルなんだから!」
「黙ってろ!」
どうもアイシャのこれは〈屈折〉というスキルの効果によるものだと理解する。それはソフィアもそうだが、ヴィヴィアンもメシアも聞いたことのないスキルだ。
ただ、それがどういった効果を持つのかは十分過ぎるほどわかる。姿を隠し、匂いすら漏れないようにする隠蔽系スキルだ。
「なる、ほど……。〈屈折〉は効かない、か……」
「冷たっ! てことは……氷を生んで光を屈折させた?」
「正解」
剣戟の音が鳴った瞬間、アイシャはその姿を現していた。同時に冷気がソフィアを襲ったことと事前に彼女の二つ名が「氷姫」であることを知っていたため、そのスキルの正体に気付けた。
だとしても、完璧に場所を察知して対抗するのは難しい。それがどれだけ恐ろしいか。
「小手調べは……おしまい」
「臨む、ところだよっ!」
ソフィアとしても、この程度で終わらせてたまるかという気持ちがある。
まだ彼女が為したのはアイシャの〈屈折〉での攻撃から身を守ったというだけ。それだけでも「餓狼」たちからすれば驚嘆に値することではあるようだけれど、それではソフィアがどれだけの強さを持っているか示せていない。
そもそも、それではアイシャが完全にソフィアより格上であるかのようだ。
たとえそれが事実であったとしても――それで良しだなんて、彼女には言えない。
越えるべき頂きは、その程度の覚悟で辿り着けるものではないのだから。
相手が格上なんて承知の上。
それに対し、どれだけ抗えるか——否、どうやって勝ち得るかがソフィアの問題なのだ。
「〈雷霆閃〉!」
聖剣に魔力を纏わせ、それは聖剣自体の魔力も合わさり、白色の雷を放つ。
振るわれる白刃。一拍遅れて轟く雷鳴。
破壊された土塊が宙を舞い、雷撃が周囲へ円状に拡散される。
「っ!」
しかし手応えはない。回避されたと理解した直後、土塊の影から一瞬の煌めき。
ソフィアは反射的に身を捻ってその一撃を避けた。
「ちっ、と、うわっ!?」
刺突は一撃で終わらない。次から次へと繰り出される刺突の雨はソフィアの体勢を崩すことにのみ集中しているのか、威力はそこまでではないようだが、いかんせん速い。そのうえ足や手といった箇所を狙われるため、体勢を崩してでも回避せざるを得ない。
さながら豪雨のような刺突連撃に、ソフィアはいかんともし難く後手に回った。
いや、回らざるを得なかった。
「どういうカラクリでっ!?」
「それを説明する義理は……ない」
アイシャが手にしているのは指揮棒じみた短杖。明らかに間合いの外からの刺突であるのに関わらず、確実にその突閃はソフィアへ伸びてくる。魔法か何かかと思ったが、詠唱している様子もない。
彼女が繰り出すは刺突の雨であると同時に、不可視の突閃でもあった。
「つっ」
刺突の連撃にだけ注意を向けて短杖に意識を割けば、アイシャは軽く手首を返す。すると不可視の斬撃がソフィアの頬を切り裂いた。舌打ちし、反撃に一歩踏み出そうとするものの、アイシャはあっさりと後退して距離を詰めさせようとはしない。「氷姫」の異名が憎たらしいほど似合うクレバーさだ。
「何が……?」
『氷ですよ主人! あの杖の先端から針のような氷を作ってるんです!』
「っ!?」
アイシャが瞠目し、警戒したのかさらに大きく飛び退った。
驚いたのはアイシャだけでなく、「餓狼」の三人も同じだ。
「な……剣が喋った!?」
「そんな馬鹿な。妖精か?」
「いや、そんな気配はなかった。喋る剣ということは……伝説の四宝剣、か?」
「四宝剣って――聖剣か!?」
そうした外野の反応を聞いて理解したのか、アイシャも平静を取り戻す。
「聖剣……本物?」
『私みたいな剣がそうそう居てたまりますか!』
「セイちゃんちょっと黙っててね。助言はありがとうだけど」
『酷い!』
構えを戻し、ソフィアはじっとアイシャを見た。彼女の方もソフィアの手にあるのが聖剣であると聞き、迂闊に攻勢に出るのは危ないと判断したようで、しばし睨み合いの時間が続く。
伝説に近い四宝剣。その最大の特徴は喋ることだが、ただ喋るだけでは能がない。
四宝剣を得物とすることの最大のメリットは、人間では到達できないほど多量の戦闘経験から成る状況把握能力。
相手が何をしているのか、どういう攻撃なのか、どうすれば対処できるのか。そういった情報を担い手へ知らせるアドバイザーとしての能力こそが持ち味だ。
そのうえ、単なる武器としても破格の性能を誇るのだから、世界中の冒険者が欲するのも理解できる。
ソフィアは聖剣の助言でアイシャの放つ不可視の攻撃を理解する。
あの短杖の先には細い氷が伸びているのだ。おそらくはそれも先程の〈屈折〉というスキルを使って不可視にしているのだろう。つまり、彼女の得物はレイピアと解釈した方が良い。斬撃も一応繰り出すことはできるが、基本的には突きの攻撃が主となるはずだ。
「四宝剣が一角、聖剣……。それをどこで手に入れたの?」
「……知り合いからもらった。要らないからって」
「…………信じられない」
「まあ私も我ながら信じられないけど……」
アイシャが半眼になるが、それも無理はないとアイシャも思った。
四宝剣。喋る武具は他にもあるといわれているが、それでもこの四振りが一際有名なのはその鍛治師が伝説上の人物だからだろう。その人物の最高傑作とされるのがこの四振りの霊剣なのだ。
聖剣、魔剣、聖刀、妖刀。この四振りは魔王ですらも入手していないとされる。というのも、魔王たちが手にしていたなら魔王同士の戦争が起こっていておかしくないからだ。
四宝剣はどれもスター級金属で作られていて非常に優れた武器なのだが、それ以上に剣として重要なのは持ち主を選ぶということ。そして持ち主の力を増幅するとされている。
事実、聖剣を手にしてからソフィアの放つスキルはすべて強化され、なおかつ魔力消費量は下がった。これは聖剣がソフィアのことを『主人』と呼ぶ通り、彼女を持ち主として認めたからだ。
だからこそ、魔王という世界最高峰の存在がそれを手にすれば、他の魔王と戦争を起こすのは確実視されているのである。
現在その行方は一振りを除いて不明とされている。その一振りとは魔剣。その主人は単独で「嫉妬の魔王」を倒し、「英雄」を継ぐ者とすら謳われる「神託の勇者」だ。ゆえに他の魔王たちも手が出せずにいるのである。
「……その知り合いは、聖剣を使いこなせなかったと、いうこと?」
「え? ううん、どうだろう……どうなの?」
『あんなのサイテーです! 嫌です! なのに逆らえないんです! チクショー!』
「最近口悪くなってない? セイちゃん」
アイシャはその人物を知らないが、ソフィアは当然ながらよく知っている。彼女が尊敬している「欠落」だ。
正味な話、彼が「聖剣」を使いこなせないとはとてもじゃないが思えなかった。そもそも、彼は聖剣を指して「駄剣」と呼ぶのである。しかも話を聞く限り、彼が気に入らなかったのは勝手にお喋りするというただ一点だったようだ。
普通なら、聖剣ほどの武器を手にすればそれくらい吞み込む。それ以上のリターンがあるからだ。
けれど、「欠落」は普通ではない。絶対に違う。あんな色んな意味で桁違いの人間が普通であっては宇宙の法則が乱れる。
ゆえに、彼にとって武器にお喋り機能は必要ないどころか害悪だったのだろう。それがなくても問題ないほどの戦闘力や経験を持っているということでもある。
「聖剣を使えるのに……あっさり手放した……?」
「うん。なんか喋るのが気に喰わなかったらしいよ」
「…………理解、できない……」
「だよねえ」
アイシャは首を横に振り、意識を切り換えたようだ。
ソフィアへ向ける視線は強くなり、全身から吹き荒れる魔力の渦も濃くなった。
『主人、あの人、相当できますよ』
「……知ってるよ」
ぞわり、と背筋を悪寒が走る。アイシャが本格的にこの模擬戦へ力を込め始めたのを、ソフィアの本能が鋭敏に感じ取ったのだ。
「凌いでみてね」
「――――っ!?」
ぽつりと呟かれたその台詞は何故か頭の内に広がるようで。
水面に落ちた水滴が生んだ波紋の如く、ソフィアの全身に緊張が走った。
宣言直後、アイシャはその細い肢体からは想像付かないほどの速度で一気にこちらへ突っ込んで来る。
他者からすれば、限界まで引かれた強弓の一射を彷彿するそれは地を抉り、風を切り裂く魔弾そのもの。
目を離していなかったにも関わらず姿が掻き消える。間違いなく〈屈折〉を用いたものだ。
存在そのものが不可視の一矢と化したアイシャではあるが、ソフィアは彼女の姿を確実に追っている。
〈屈折〉は非常に厄介なスキルだ。自分に向けられてみて、ソフィアはそれをこれ以上なく実感している。なにせ正面からの不意打ちを可能とさせるのだから。
嗅覚で敵を感知することなどソフィアにはできないが、犬獣人であるジーンが言うにはそれすらも不可能だというのだから、余計に厄介なものだと思う。
これが不可視の魔弾なら、まだいい。直線で飛来するというなら、自分が横に避けるなり障壁を展開するなりして避けることができるのだから。
しかし、アイシャの〈屈折〉は自分自身を透明化させるのだ。そして彼女の身体能力はこの僅かな時間でも、十中八九自分と同レベルかそれ以上だということを示している。
ソフィアの現在のレベルは二一〇。自分が世界最高峰だとは思っていないが、それに比肩する「勇者」がそう多くいるとも思っていなかったがゆえに、驚きは隠せなかった。
「そこだっ!」
「っ!」
――が、ソフィアは自分より遥かに強大な勇者を知っている。「英雄」のような姿形もわからないあやふやな存在でなく、はっきりとした存在で。
だからこそ、同格以上の相手がいるということに驚きはしても、それ以上はない。
そして、そういった相手が居た際の対処法も身に着けている。
ひとつひとつ、コツコツと、確実に拾える敵の情報を見定めていくというものだ。何よりも、それこそ彼女の尊敬する「欠落」からの忠告だというのだから、身に着けていて当然の話。
『そも、初見の相手と戦うなんざ当たり前のことだろ。なんだって油断ができるんだ。こっちはよーく相手を見て、何をしてくるのかとにかく予測する。そして相手の行動やその余波をよーく観察する。ぶっちゃけこれを守るだけで、一対一で負けることは、余程実力差がない限り、ありえない。でも裏を返せば、常に初見の相手には殺されかねないってことだ。だから、油断なんてありえない』
今の環境とは真逆の、雪に囲まれた迷いの森で、そんな風に「欠落」は言っていた。
しかして実際、それができる者がどれだけいるだろうか。誰だってレベルが上がって強くなれば、相対的に弱い者を相手にすることの方が増える。そうなれば慢心する。だというのに「欠落」はどんな相手と戦うにしても、油断はしないというのだ。
言葉にすれば容易いが、それを実行できる者がどれだけいるというのだ。
けれど。それでも。
その背中に追いつき、並び立ちたいと希うソフィアにとっては、それを実行に移すというのは絶対。
ゆえに、見ていた。
アイシャの行動をじっと見ていた。
そしてその余波を。
斯くして現在、ソフィアはアイシャの背後からの一撃を防いだ。
「姿が見えなくなっても、いなくなるわけじゃない。私たちくらいのレベルになると、本気で動けば地面も抉れるってものだよ」
「……なるほど」
そう。ソフィアはアイシャに対して一切の油断を排していた。そもそも格上が相手だ。油断なんてできるものではない。
ではアイシャの方はどうだろうか?
油断はしていないと彼女は言い張るかもしれない。レベルもあいまって優れた身体能力と〈屈折〉による透明化。これだけで正面から不意打ちが可能なのだから、それで大抵の相手は完封できる。たとえ格上が相手であろうと、正面から顔面に刃を突き入れて脳を抉れば勝利が手にできる。
それだけ破格のスキルだ。ゆえに、慢心が生まれた。これがもしも「欠落」であったなら、白煙を生じさせたりなんなりして、透明化した己を気取られぬようにしていただろう。そのことは仲間内で「ストーカー」と不名誉な呼び名をされるほどのソフィアとしては当たり前に思う。
これ以上なく傲慢な性格をしている「欠落」だが、一度相手を「殺す」と判断すれば、徹頭徹尾自分の長所を活かし、相手の短所を突き詰めて敵を倒す。傲慢な普段の性格からはとても想像付かないほどに油断も慢心もなく相手をいやらしいほど徹底的に叩きのめすのだ。蛇の狩りのように。
その点のみにおいていえば、彼以上に几帳面で神経質な人間をソフィアは知らない。
ソフィアは一時期「欠落」から修行を受けていた。ゆえに、自分の短所を浮き上がらせるような戦法を用いられることで、短所をできるだけ潰せるようにしている。
彼の方向性は理解している。相手に勝てるレベルで挑む、だ。であるから長所を伸ばすのではなく、短所を潰すことで、どんな相手とでも戦える戦闘技術を身に着けている。
これは普通なら有り得ない話だ。自分に短所があるなら、それを補える仲間とパーティを組むというのが普通の冒険者の考え。「戦士」が「魔法使い」や「僧侶」を仲間にしようとする、といえばわかりやすい。
これは短所を潰すのみならず、長所も伸ばせるからだ。この例でいえば、「戦士」は近距離でしか戦えないという短所を「魔法使い」という存在で補える。また「魔法使い」は「戦士」という盾役のおかげで安心して敵を狙い撃てる。また直接戦闘能力に劣る「僧侶」は安全に敵を倒せることになり、「戦士」は怪我をしても即座に回復してくれる仲間がいることで、多少の無茶が可能になる。
「欠落」の考えは完全にソロで行動している者の判断だ。
長所を伸ばしても、それを上回る同系等の相手がいれば上から叩きのめされる。それならば短所を潰し、単純に自身のレベルを上げることで、どんな相手とも互角以上に戦い得る技術を身に付けるというもの。
孤高な考えだ。
孤独な判断だ。
人によっては「仲間を信用していない」とも「傲慢だ」とも言うだろう。
けれども、考えてみれば、それが「勇者」というロールの持ち味ではないだろうか。
「勇者」は全属性の魔法を扱える唯一無二のロールである。そしてスキルにおいても単体向けと全体向けの双方が揃っている。オールマイティなロールであり、器用貧乏なロールでもあるのだ。
ゆえに、ソフィアは思う。
「勇者」というロールを突き詰めた存在こそが「欠落の勇者」という形ではないのか、と。
何か一芸に特化しているわけではない。けれど、何かが劣っているわけでもない。
相手に応じて状況に応じて臨機応変に行動し、長所を活かして短所を穿って敵を屠る。それこそが「勇者」という存在なのだ、と。
だから、ソフィアもまたそれに倣う。
幸いなことに、自分の仲間たちはそれ自体でも完結している。
近接アタッカーとしてヴィヴィアン。盾役としてアイリーンとエイリーク。魔法攻撃としてルミナーク。魔法攻撃兼回復薬としてのメシア。遊撃としてのアリア。
ではその中でソフィアの役割とは何か?
答えは簡単だ。アリアと同じ遊撃の役割。そしてアリアと違い、単独での戦闘能力のある自身の本当の役割は、敵のリーダーを単独で押しとどめ、可能なら倒すこと。
だから――こんなところで負けるわけにはいかない。
リーダーを止めるのが自分の役割なのに、その自分が敵に破れるわけにはいかないだろう。
「〈星光の牙〉!」
「っな……!?」
ソフィアが用いたスキルは「欠落」から伝授されたもの。正確にはギフトである〈ハイパーラーニング〉で取得したものだ。一時的に身体能力を上げ、次手の攻撃の威力を数倍以上に跳ね上げるという破格のスキル。
スキルレベルが上がった際のボーナスで、その方向性をソフィアは選べた。攻撃の威力をさらに上げるか、身体強化の度合いを変えるか、効果時間を伸ばすか、消費魔力量を控えめにするか。
彼女が選んだのは、反動軽減。つまり、攻撃後の隙を失くす形だ。そうすることでスキル自体の使い勝手を上げ、スキルの経験値を溜めることができた。
純白の輝きがソフィアの身を包む。そのスキル名に聞き覚えはないものの、身体強化系スキルと看破したアイシャは即座にソフィアから距離を取ろうとした。
「――――っ!!」
だが、それは叶わない。
元より人の身体は後退より前進の方に適した構造をしている。ましてやソフィアは〈星光の牙〉で身体能力も強化されている。如何にレベル差があろうと、それは強化系スキルひとつで埋められる差に過ぎなかった。
「〈雷霆――」
「『絶対零度の――」
ソフィアはアイシャの側面へ。既に上段に構えられた聖剣には大量の魔力が纏わされ、紫電を放っていた。
対するアイシャも歴戦の士。予想外の事態が起こったことに驚きはしても、動揺にまでは繋げない。すかさず反射に等しい速度で自身を守る絶対不和の障壁を紡ぐ。
「――閃〉!」
「――氷壁』!」
共に二〇〇レベルを超えた、稀代の「勇者」同士の攻撃が地を穿った。
ソフィアさんめちゃくちゃレベル上がってます。
同時に仲間からの困ったちゃんレベルも上がってます。
そりゃ150レベルくらいのが相手とはいえ、ドラゴンハンターやってたら周りは嫌がる。
たぶん彼女には効率厨の適正があります。