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エピローグ「復讐譚の幕引き」

澱み堕ち

 澱みによる狂暴化の総称。稀に狂暴化を自制できるケースもある。


 夢幻の塔に来て数日が過ぎた。煉こと僕は毎日のように仇敵である弄に叩きのめされていた。ベッドから起きて数分後に再びベッドに押し戻される形で叩きのめされた。召使いらしく振る舞うために、嫌々コーヒーを淹れるが、不味いと苦言を言われて頭を地面に叩きのめされた。気が付けばフロンさんの横顔が見え、僕は……俺は、またベッドに横になっていた。どう対処すればいいかわからない故に何度も頭を叩かれては頭痛も激しい。そんなときはフロンさんお手製の氷袋を作ってくれている。フロンさんは美人だが、既に結婚しているらしく、子どもも授かっているようだ。どのような子が生まれるかは俺にはわからないが、きっとフロンさんに似た可愛い子だと思う。

 一週間は過ぎただろうか。ある程度弄……お嬢様の対応を出来るようになった。本来お嬢様と呼ぶのに相応しいのはサーシャであるが、お嬢様と呼ぶと不愉快にはならないらしい。寧ろそれこそが召使いと言わんばかりに無い胸を誇張していた。そんなことを思ってたからか、いつもの二倍程の威力で頭を地面に叩きのめされた。少し頭の固さが増してきたするが、気のせいだろうか。というより、なんで頭をガッ!ってやってドシャァ!とやるのか全くわからないんのだが……。

 ジェン・ヨウがいる部屋へとお嬢様の許可があったので訪れることにした。部屋というよりかは会議室と言った方がいい。壁にはアーク大陸の大きな地図が広げられ、複数の大きな点が地図に指されていた。俺の存在に気付いたヨウは特に警戒することもなく柔和な笑顔を向けた。塔に来た理由を聞いた。どうやら俺の兆候は今後のアーク大陸を揺るがす重要な事だということ。記憶はないが俺の周りから黒い靄が出ていたという。ヨウ曰くーーそれは澱みと呼ばれる生命の負の念から抽出された物質らしい。澱みは触れた者に強制的に負の念を与え、発狂するほどの苦しさをもたらし、見境なく物に当たり散らしてしまうーーつまり、狂暴化してしまうとのことだ。だが、澱みは妖精樹林と呼ばれるエイレーネ地方の樹林が水の循環のようにサイクルし、澱みを濾過するようにされていたという。が、樹林で濾過しきれなかった澱みが溜まってしまい、いつしか人々に影響するようになったという。これを見てヨウは澱みを持つ俺を塔へ迎えて研究するとのことだ、要はモルモットというわけだ。モルモットと呼ばれて頭にくる奴はいるだろうが、定められてしまったのであれば研究に助力しなければならない。ましてや、俺の研究をすることで他の誰かを治せるのであれば自己犠牲なんて、なんのその。部屋から出る途中でヨウから、澱みについて研究している者がいるからそこに顔を出してくれとのことだ。

 改めてこの塔を見るが……、よく山脈にこのような建物を造れたものだ。雪は積もっているわ風は激しいわで建築材料を運ぶのさえ困難だというのに。壁は山脈の固い層で造られており、床も同様な材料だ。まず、人間では出来ない所業。俺以外の人間はいないのではないだろうか?

 ヨウに言われたように、澱みついて研究している者の部屋へと着いた。とは言っても、部屋という部屋の扉はなく、天井と壁が重なる部分に木の板で~の部屋と書いてあるだけで、壁には魔方陣が張られている。塔の仕組みはこうだ。塔の入り口からある程度螺旋階段を上ると、何も置かれていない空間に着き、幾つかの魔方陣が壁に張られている。それが其々の部屋に繋がっている。螺旋階段はまだ上へと通じているが、俺はまだその権限がないとお嬢様に怒鳴られながら頭を地面に叩きのめされた。

 魔方陣へ入ると、書物やら実験器具やらが大量に散乱してある部屋に繋がっていた。衝撃で陳列していたものが雪崩となって下にいた者に被さったようで、蠢いた書物から少女が這い出てきた。彼女はリン・シューリンギア。妖精樹林に住んでいた魔女らしく、親友を助けるためにも澱みについての研究を昼夜問わずしているそうだ。そこで俺が来たことで研究が進めばいいのだが……。まずは彼女の状態を不健康から健康にしなくては……目の隈が凄い、肌もカサカサ、立ち回りもよぼよぼしい。三徹明けの人間じゃないか!

 二、三日リンのメディカルチェックを行い、なんとか見た目を少女の姿に戻すことが出来た。よほど親友を助けたいのだろうが、自分がそのような体で親友に会ったら親友が哀しんでしまうだろうに。もっと自分のケアを大切に、とリンに忠告した。

 リンによれば、澱みの抽出は自作魔法というもので抽出には成功しているとのこと。そして、澱みを粉末化させることまでは出来たが浄化にまでは至らなかったという。寧ろ、抽出するだけでもかなりの進歩だと俺は思うのだが……。俺の中にある澱みも抽出してくれたようで、気分は大分楽になった方だが、お嬢様に対しての憤りというものは隠せない、故に澱みは再び身体に溜まっていくとのことだ。この澱みの粉末をどのように扱うかは今後の研究によるそうだ。俺は定期的にリンの部屋を訪れ、研究の手伝いをするようになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 暫くして、ヨウは皆を会議室という名の自分の部屋に集合させた。ヨウを筆頭にリン、弄、煉、フロン、そして煉は初めて顔を合わせるライと終鬼、ジンが現れる。

「今日皆を集合させたのは他でもない。バスティーユの監獄獣、色欲のアシッドについてだ。」

「色欲のアシッド……。」

「これを塔に迎えようと思う。」

「え!」

 第一声は煉であった。声を出したのは、暴食のグルグを倒したことも相まって発してしまったのだろう。

「これ、少し黙っとれ。」

「お嬢様、不躾で申し訳ない。だが、俺はグルグを倒した経験があるが、このアシッドという監獄獣を迎え入れるのなんて正気の沙汰じゃないぞ!」

「ほぅ、グルグを倒したのはお前であったのか。」

 金色の毛並みを靡かせる獅子、ライが話し掛ける。フロンの夫である。

「あの暴れん坊を倒すのであれば並々ならぬ力を持っているのだな。」

「あ、いえ……。俺一人じゃ出来ませんでしたから、倒したといっても俺たちです。」

「細かい事は気にすんなっつの。」

 黒色の大きな体に橙色の虎パンツを穿いた終鬼が物申す。

「倒したってことは変わらねぇ。寧ろ誇ってみろって。」

「鬼は外。」

「あぁん?」

「はいはい、お二人はよそでやりましょうね。」

 睨み合う二人をフロンが宥めている。煉からすればそれはひどく困惑した状況であるが、ここでは日常茶飯事である。

「して、ヨウ。このアシッドとかいう奴にテスティアは兆しを見たのか?」

 終鬼より小柄だが、着物の隙間から覗く筋肉の流動が素晴らしいジンが喋る。ヨウの実の父親である。

「うん。それをアシッドは理解しているかはわからないけど、確かめにいく必要がある。そして、この塔に迎え入れる。」

「質問がある。」

 ヨウに向けて煉が異議を唱える。先程の態度が気に入らない弄は今にも煉の頭を地面に叩きつけそうになっているが、なんとかリンが必死に両手で片手を掴んで抑えようとするが、暖簾に手押し状態だ。

「なんだい?」

「リンから聞いた話だけど、兆しっていうのは神格化のことを指すんだろ?」

「そうだね。神格化した生命は能力も飛躍的に上昇するし、周りにかなりの影響をもたらす。」

「だったらまとまって殺せばいい話じゃないのか?仲間にするような奴じゃないはずだ。」

 至極真っ当なことを自信を持って言う煉であるが、周りは違うようだ。ヨウの野望を知っているからこそ縦に頷く者はいない。

「殺してしまっては抑止力にはならないんだよ。」

「……?抑止力?」

「神格化した生命を用いて二つの国の抑止力とする。そうすれば、二つの国の和平も早まるはずだ。」

 壁に貼られたアーク大陸を眺める一同。山脈に分かたれた二つの国は未だに戦争を続け、一つの国にするという悲願が根付いている。だからこそ、その根源に楔を打たんと、ヨウは抑止力となる神格化した生命を集めているのだと述べる。

「だ、だけどここにいる皆の内、神格化しているのはお嬢様ぐらいじゃないのか?」

「ふむ……気付いていないようだが。」

 ジンが話に割り込んでくる。

「お前さんにも兆しはあったんだぞ?」

「……俺が?」

「あぁ、だがその兆しも澱みによって殺がれちまったがな。神格化の反対だから澱み堕ちとでも呼ぶか。」

「澱み堕ち……。」

「一度狂暴化した奴は死ぬまで澱みに蝕まれちまうが、運よくお前さんは狂暴化を自制出来るようになった。稀なケースだ。」

「だからこそ、リンちゃんの研究にも繋がるから君をこの塔に迎え入れた。勿論、戦力としても考えているけど、弄がちゃんと鍛えているかによるね。」

「だ、大丈夫じゃ!この奴隷はしっかりわしが……。」

「奴隷用語禁止。」

「あぅ……召使いはしっかりわしが見ておるからの。」

 少しぶすくれた弄を横目に煉も静かに座る。

「さて、話を戻すけど。色欲のアシッドは僕とフロンさん、終鬼でいく。皆はゆっくりしていてくれ。」

「テスティアはどうした?」

「ティアは別の所にいるよ。何かあったら父さんが向かうはずだから。」

「息子は父親を濃き使いやがるなぁ。がっはっは!!」

 会議は終わり、各々が部屋を出ていくが、弄と煉はまだ残っていた。先程までの態度などに文句を言いたそうだ。

「さっきの態度はなんじゃ。」

「気になったから聞いてみただけ。」

「付け上がるのも大概にするのじゃ。それでもわしの召使いか?召使いは召使いらしく静かにしておればよいのじゃ。」

「お嬢様は正しき召使いの在り方を知らないでいる。」

「なんじゃと?」

「召使い……もとい、執事たる者は。主を正しき道へと行かせるのが務め。道を違えようとすれば正す。それが召使いの在り方です。ですが、ジェン・ヨウは主ではない。」

「わしの主であるからこそ、お前の主でもあるのだぞ!」

「そう言われましてもヨウから言われたのです。」

「き、貴様……!ぬけぬけと、呼び捨てで呼ぶなど……!」

「呼び捨てでいいし、友達感覚で接してくれて構わない、と。」

「!……ぬぐぐ。」

 耳や尻尾が逆立ち、歯をギリギリしながら俯く弄。どうだ、と胸を張る煉であるが、見た目が幼い少女であるが故に多少後ろめたさが出てしまい、胸を張るのを止め、下から弄を覗き込む。

「あの……お気に障りましたか?」

「ぐぐぐ……羨ましすぎるのじゃあああ!!」

「ぐほぉ!!」

 塔に煉の断末魔と鈍い音が響き渡るのであった……。

 エピローグを見て下さりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。

 さて、こうも連続で投稿できるようになったのは、職場の環境が変わったことが関係しておりまして、アプリ系統のものが殆どできないのですよ(電波がゼロ……ポケットWi-fiワンチャン?)故に小説を休憩の合間に書けるようになったので、ポジティブに考えております。

 次回作はエピローグでも語っていた通りですので、お楽しみに。ではでは……

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