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第一話「崩壊した村」

 「あいつら腹を空かしてないだろうか…。急いで帰らないと!」

 エレボス地方は夢幻山脈によって日の入りが早く、夕焼けは山脈に溶け込むように消えていく。夕暮れ時、一人の青年は大きな紙袋に大量の食糧を携えながら道中を歩いていた。彼の住む村には彼を待つ家族がおり、生きる為にも彼は遠い所へと仕事をし、その帰り際に食料を調達した帰りであろうか。

 「今日は干し肉が安くて結構買ったから豪華な夕食になるだろうな~。」

 大量の食糧を見せて喜ぶ家族、それを想像しただけでも彼の表情は緩やかなものになる。ふと、夕焼けの空に一筋の黒い線がたゆたっていることに気付いた。

 「…?変だな、この時間なら薪を焚くのには遅いな。」

 訝しがるが、気にせずに村がある方へと歩いていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「な…。」

 青年が村に着いた時、悲惨な光景が目の前に広がっていた。崩れた家屋から轟々と燃え盛る木材、ひび割れた壁にべったりとこびりついた血の数々、引きずられた痕が真新しい人の死体。彼が住んでいた村は瞬く間に崩壊していった。震える手、空いた口が塞がらず紙袋は地面に投げ出され干し肉やパンなどが外へと飛び出す。

 「な、何が…。あぁ!」

 崩れた家屋や大量の死体を見るや否や自分の住む家屋がある場所へと走り出す。走って行く最中、付き合いのある友人や村の人の家屋や死体が嫌でも目に飛び込んでいく。思わず目を閉じて走る。見たくない、見たくない。こんなことがあってたまるか、と自分に言い聞かせながら走っていく。

 「…あぁ、そんな……。」

 辿り着いた家屋。それは自分が住み慣れた我が家に他ならなかった。だが、その姿は無残に崩され、玄関には破られた痕があり、中から火の揺らめきが見てとれた。辺りを見、家族の安否を確かめる。生きていてくれ、頼むから…久しぶりに帰ってこれたのだ、元気な顔を見たいのだ!

 「…!」

 崩れた家屋の瓦礫が僅かに動いていた。急いで駆けると、瓦礫に挟まれた少年が苦しそうに呻いている。

 「澪!今助けてやるからな!」

 澪と呼ばれた少年の上に被さる大きな瓦礫を手に持つ。しかし、何かに挟まっているのかびくともせず、力を込めても青年の力では持ち上げることができない。

 「うぅ…煉、兄ちゃん…?」

 「澪!しゃべるな、すぐに兄ちゃんが助けてやるからな!」

 いくら踏ん張ろうとも、瓦礫は上下運動をするだけでどかすことは適わない。

 「くそぉ…どけよ、どけよおぉ!!」

 「兄ちゃん…無理、だよ…。」

 「うるせぇ!くそ、くそおおお!」

 と、崩れた家屋の奥で燃え盛る火が爆発を起こす。爆発の衝撃で煉と呼ばれた青年ははじき出される。衝撃は瓦礫を更に崩す方向へと進み澪と呼ばれた少年の上にも瓦礫が降り注いでいく。

 「うっ!れ、澪!!」

 助かる見込みがないと思いながらも手を延ばす。その行為に意味はなくとも繋がっている家族であり、弟なのだ。崩れる家屋に潰されそうになる弟も縋る気持ちで手を延ばす。が、虚しくもその手が煉に届くことはなく、瓦礫に埋もれていく。

 「…ぁ、ぁあ…ぁああ!!あああああああ――――!!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「いいんですかい?ここはあんたの故郷なんですぜ。」

 そう疑問を投げかけたのは腰が九の字ほど曲がっている老人であった。

 「全員を埋葬するのは時間が掛かる。あなたの魔法であれば直ぐに皆を弔うことも可能です。」

 「ひぇっひぇっひぇ。随分と高く買われたもんですね。まぁ旦那の頼みであれば仕方ないですぜ。」

 古めいたアズレ・バームの杖を持ち上げ、浅めに突き刺す。

 「大地の鼓動に耳を傾け、生命の胎動を享受せん。アース・クラフト。」

 杖が緑に輝くと地面が盛り上がり、複数の人型が土で形作られる。形が完成すると、無言のまま前方の崩れた村へと歩いていく。

 「今のは?」

 「大層な土を運んでいるゴーレムと思えばええ。それぞれが位置に着いたと同時に大量の土が地面から湧き出て、早々にこの窪んだ土地を平面にしてくれるじゃろう。」

 と、話している内に土人形はそれぞれの位置に着いたようで、魔法の効力が切れ、人形の形はみるみるうちに盛り上がる土に埋もれていく。

 「これで澪達も報われます。ありがとうございます、黒鵜さん。」

 「同業者同士仲良くせんとな。のぅ、煉の旦那。」

 「あなたに比べたら俺なんてまだまだですよ。この恩は後々……。」

 「今度一杯奢ってくれるだけでいいさ。さぁ、互い仕事に戻ろう。今雇われている屋敷の嬢ちゃんの機嫌を損ねたくはないじゃろ?」

 「はは、確かに。一時の休暇だったので直ぐに戻らないといけない……。」

 完全に埋没した村へと目を閉じて合掌。目を閉じると嘗てあった日常の光景が蘇る。幼少の頃に暮らしていた村、皆いきいきとしていた。普通の日常を過ごせることに平穏の神に感謝をしていた。その光景はもう取り戻すことはできない。ならば、胸の内に仕舞い込み、いつでも想うことにしよう。

 煉は踵を返す。黒鵜と呼ばれた老人も次いで歩いていく。

 「Revenge is upon me.」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 煉はエレボス地方とエイレーネ地方を又に駆けて傭兵の仕事をしている。ある時は農民、ある時は猟兵、ある時は暗殺なども受け持っている。そのような仕事を経営としているのが、エレボスとエイレーネの間に位置する夢幻山脈の麓。古風な二つの国と違い、ここはまた別の国のような形態をしている。

 合流都市ゲン・ガン。様々な種族が行き交う巨大な商業都市。ここにはエレボスにしかないもの、エイレーネにしかないものなどが商業を通して交易がされている。その分、ゲン・ガンに住んでいる人々は非常に裕福な生活を営んでいる。それが、表面上では成り立っている。

 「…。」

 都市の大通りは食料や武器防具を売る商人の活気のいい声が飛び交い、平和そうにも見える。煉はそう思いたいとつくづく願っているが事実、自身が行っていることは平和を成り立たせる為に必要な仕事なのだから。大通りから外れ、煉は一通りの少ない道へと入っていく。黒鵜も煉の後ろに付いて行く。

 「最近は食料の交易が盛んじゃな。酒場にいい料理がくるかもしれんのぉ。ひぇっひぇっひぇ。」

 「そうですね。」

 「なんじゃ、まだ未練があるのか?」

 「いえ、仕事で殺めた者達に家族がいたらと思うと、その時の心境になってしまっていました。」

 「旦那らしいが、その感情は仕事に不必要なものじゃ。そいつを殺さなければ他の者が死ぬのじゃ。わかれ。」

 「ええ。」

 ある程度小路を進むと視界が開けた広場に大きな館が現われる。エレボスとエイレーネにはギルドと呼ばれる雇用所がある。正規に仕事として確立されてあり、様々な依頼を請け負っている。ゲン・ガンにも営利目的でギルドはあり、煉はゲン・ガンに所属していた。その大きな館こそがゲン・ガンのギルドであった。

 大きな扉を開けると誰かが入ってくると知らせるように鈴が鳴る。

 「お、おかえり。」

 迎えて来たのはバーテンダーの服をした大柄な男性であった。シックなジャズが流れているギルド内は、風情を感じさせるバーのようだ。

 「景気はどうじゃローパー。今日は客がそんなきてなさそうじゃが。」

 「はっはっは、最近は常連さんしか入ってこないよ。辺鄙なとこにギルドがあるから知っている人も多くはない。」

 「それもそうか。なら、残飯ぐらいあるか?わしは腹が空いた。」

 「アズレ・スピゼィスのコーヒーと簡単なトーストぐらいなら。」

 「夕食にしちゃあ少ない品目じゃな。」

 カウンターの席に曲がり切った腰を据える黒鵜にカラフルな具材を乗せたトーストとアズレ・スピゼィスのコーヒーを淹れてカウンターへと丁寧に置く。

 「今作ったような出来ばえじゃあないか。うむ、美味い。」

 「それで、煉は何をしに来たんだ?まだ依頼の途中だろ?」

 ローパーは黒鵜の横に座る煉へと視線を向ける。年齢的にもローパーが上ということもあり、黒鵜との態度は歴然だ。

 「そうなんですが、少し買い物をしに来まして。」

 「例のお嬢様の要望というやつか。」

 煉の横には紙包みがあり、ローパーは直ぐに察することができた。大きさは小さい為小物か何かを想像できる。ローパーはその令嬢の情報を一切聞いていない、というより煉の依頼に関する情報に一切手をつけていない。

 「そうですね。では、また何かが寄りますので、黒鵜さんも。」

 僅かな時間しかいなかったが、煉は席を外し、小包を持ち踵を返す。

 「力が必要な時は呼んでおくれよ~。」

 黒鵜が飄々と言い、煉は僅かに頷き呼び鈴を鳴らしていった。煉がいなくなったギルド内。賑やかさを感じさせず、静かにクラシックジャズが聴けるバーへとなった。グラスを拭いているローパー。夕食に勤しむ黒鵜。ゲン・ガンのギルドというのは閑静さではどこのギルドにも負けてはいなかった。

 「煉には厳しいな。ローパー。」

 「厳しくないと、しめしがつきませんから。同じ道を辿る先輩としては……。」

 それから二人は特に会話もせずに、只々ジャズだけが流れていた。

 第一話を読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。

 大分遅れての更新ですが、これからちょくちょく書き進めていこうと努めますので……。

 では、次回のお話であいましょう。

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