親近感
思わず彼女の笑顔に見とれて誘いに乗ろうとしてしまった。
「やっ……やっぱり止めとく。今日はこれから用事があるの。」
「そっか…。じゃあ、また今度。それじゃ。」
そう言って麗花は去っていった。本当は心のどこかで麗花と仲良くなれたらと思っていた。しかし、あとから出てくる感情は人気を取られた悔しさだった。もっと素直になれたら良いのに……。エミはいつも最後には後悔していた。
翌日、エミは昨日、麗花に自分が腐女子という事を口止めしておく事をすっかり忘れていた事に気づいた。
「藤田さんに腐女子って事バレたの?」
「うん…。それで皆には言わないでって言うの忘れて……。あー、どうしよう!皆に言いふらされたら、私もうこの学院に顔出せないよ〜。」
「別にそこまではないと思うけど…。まぁ、藤田さんあんまり喋らない感じだから言いふらす事は無いんじゃないの?」
「……その可能性に今はかけるよ。」
ちーちゃんはあぁやってなんとかフォローしてくれてるみたいだけど、私は今は不安しかない。
教室に入ったら藤田麗花がいた。いつもは机に座って本を読んでいるのに、エミが教室に入った途端に麗花が近づいて来た。
「本田さん、これ良かったら。」
「え?な……何これ?」
袋に入っていたのはBL本だった。しかも相当マニアックなやつ。
「な……何故これを?」
「昨日、アニメイトで買ってたじゃん。そういうの好きって分かったから。これ私のオススメなんだ。良かったら感想教えてよ!」
「ちょっ!!何言って……。」
エミが気づいた時にはもう遅かった。クラスの女子がエミの趣味に意外性を感じ教室が一気にざわめき始めた。もうおしまいだ。何もかも。明日からはこの教室は愚か、学院に顔出し出来ないとエミは思った。
「エミちゃんと麗花ちゃん……そのマンガ読んでるの?」
1人の生徒が尋ねた。
「わっ……私は違っ……。」
もう誤魔化しても仕方ないのにエミは誤魔化し続けようとした。
「私も実はそれ読んでるの!よかったー。その作品について話できる相手がみつかって!」
「……え?」
エミは驚いた。自分が腐女子という事がバレたら確実に引かれると思っていたのに親近感を湧かれているから。
「……引いたりしないの?」
「引いたりなんかしないよー。むしろ話しやすくなった。エミちゃんも麗花ちゃんも人気者だから。私、本当は2人と話したいって思ってたけどなかなか勇気出なくて。でも私と同じ趣味って事だったら話しやすくなった!」
周りの生徒達も彼女の言葉に頷いていた。エミは今更ながら、自分の好きなものを隠す必要はどこにもなかったっという事に気がついた。
「私、いつもアイドルみたいに可愛い本田さんよりも、そうやって自分の好きなものに没頭してる本田さんの方がずっと好きだよ。」
そう言ってくれたのは麗花だった。