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童話

嫌われものの冬の女王様

作者: 三の木


これは少し変わった国のおはなし。


この国には、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおります。

女王様たちは決められた期間、交替で塔に住むことで、その国に季節を呼び込んでいるのです。

その不思議な塔は人々から「季節の塔」と呼ばれていました。




人々は廻る季節をとても楽しみにしておりました。


春の女王様が塔にいらっしゃる期間はどんな季節?

暖かく柔らかな陽射しに、たくさんの花々が咲き誇る季節になります。人々は花の香りや姿を楽しみ、穏やかな時間を楽しみます。


夏の女王様が塔にいらっしゃる期間はどんな季節?

太陽がギラギラと輝き、虫や動物たちが元気に動き回る季節になります。人々は汗をかきながら太陽の光をいっぱいに浴び、虫たちに負けないくらい元気に動き回ります。


秋の女王様が塔にいらっしゃる期間はどんな季節?

たくさんの美味しい食物が実りだし、収穫を迎える季節になります。人々はたわわに実った食物を収穫し、その味に舌鼓をうちます。


人々は廻る季節をとても楽しく過ごしています。


ただひとつーー冬を除いては。


冬の女王様が塔にいらっしゃる期間はどんな季節?

お空は曇りがち。しんしんと降る雪が国中を真っ白に染め、凍えるような寒い季節になります。虫や動物たちは眠りについてとても静か。食物の実りもありません。人々は家の中で暖をとり、蓄えた食物を少しずつ消費しながら春の女王様を待つのです。


人々は王様に言いました。


冬の季節はいりません。

冬の女王様にはこの国から出て行ってもらいましょう。


王様は人々の声を冬の女王様に伝えました。


「なぜです? 王様、なぜわたくしが国を出て行かねばならないのですか?」


冬の女王様は王様に問いかけました。


「許せ、冬の女王。国民のみながそれを望んでおるのだ。国民の意思を汲むのが王の務め。今年を最後にこの国から冬はなくそうと思う」


王様はそう答えました。


冬の女王様は涙を流しました。




いよいよ冬の女王様の最後の期間がやってきました。


人々は喜びました。


ああ、これで寒い季節は廻ってこない。

ああ、これで静かで寂しい季節は廻ってこない。

ああ、これで実りのない季節は廻ってこない。


人々の声を塔で聞いていた冬の女王様はたいへんお怒りになり、そして悲しまれました。


「どうして? わたくしは必要のない季節なの? 今までわたくしはなんのために冬を運んできたというの?」


冬の女王様は塔の中でひたすら涙を流し続けました。


そして、とうとう春の女王様と交替の時期がやってきました。


しかし、冬の女王様は塔から出てきません。


「どうした冬の女王よ。そなたの務めはもう終わりだ」


騒ぎを聞きつけ塔まで駆けつけた王様は冬の女王様にそう言いました。


「わたくしはここから出るつもりはありません」


冬の女王様は答えました。


「なぜだ?」


王様は問いかけました。


「わたくしは誰からも必要とされない季節を運ぶもの。この国を出てもそれはきっと変わりません。それならこの国を凍てつかせ、わたくしもこの塔で眠りにつきます」


それは冬をいらないと言った人々への怒りと悲しみからの行動でした。


そしてーー。

冬の女王様は季節の塔から出てこなくなってしまったのです。


雪はどんどん深まり寒さは厳しさを増しました。

食べ物の蓄えもどんどんなくなっていきます。


王様はほとほと困ってしまいました。


冬の女王様を無理やり追い出してしまってはまた国が混乱してしまうかもしれない。

なんとか冬の女王様も納得する方法で春の女王様と交替する方法はないものだろうか。


王様は一生懸命頭を悩ませましたが、答えはでませんでした。


そこで王様はお触れを出すことにしました。



『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

季節を廻らせることを妨げてはならない。』



このお触れを見た人々はなんとか冬の女王様を春の女王様と交替してもらおうと手を尽くしました。


ある者は光輝く宝石を贈り、ある者は冬の女王様を称える歌を歌い、あるものは少ない食物を使ってごちそうを作りました。


ですが、冬の女王様は塔から出てきませんでした。


困ってしまった人々の中で、冬を楽しんでいる者が1人おりました。


マオという1人の少女です。


マオは冬が大好きでした。

マオは真っ白い雪がキレイで大好きでした。

マオは雪が積もった静かな世界が大好きでした。

そしてなにより、マオは夏には溶けてしまうチョコレートが外でもおいしく食べられる寒さが大好きでした。


マオは冬の女王様のいる季節の塔へ行きました。


「冬の女王様、冬の女王様」


マオは塔に向かって呼びかけました。


「わたくしを呼ぶのはいったいだあれ?」


塔の中から冬の女王様が答えます。


「わたしはマオっていうの。わたしは冬が一番好きな季節なの。ここのところずうっと冬が続いているからお礼を言いに来たのよ」

「周りの大人たちは冬が長いのを嫌がっているのではなくて?」


冬の女王様は少し困ったようなお声で尋ねました。


「わたしは不思議でならないわ。どうして早く冬が終わってほしいのかしら。冬はとってもステキな季節なのに」


マオは素直にそう答えました。


「ありがとう。あなたのようにみんなが冬を好きになってくれたなら、わたくしはどんなに幸せでしょう」


冬の女王様は涙声で言いました。


「泣かないで。冬の女王様。わたしがみんなに冬のいいところを教えてくるわ」

「ほんとうに?」

「うん!」


マオは大きく頷くと季節の塔を後にしました。


マオは考えました。


いったいどうすればステキな冬をみんながわかってくれるのでしょうか。


マオは雪をキュッキュッと両手で握って丸めました。

雪は固まってまんまるになりました。


マオはひらめきました。


「雪を使っていろんなものを作れないかな!」


マオは急いで人々のもとに向かいました。


「ねえ、みんな! 雪でいろんなものを作ろうよ! それを飾って冬のお祭りをひらこう!」


マオは人々に言いました。


困り果てていた人々は、マオの提案を聞きお祭りをすることにしました。


人々はいろんなものを作りました。


雪の花、雪の虫、雪の動物、雪の食物、雪の家。


そして、そこに灯りを灯せばーー。

なんということでしょう。そこにはとても美しい世界が広がっていました。


人々はたくさんの雪のオブジェの美しさに目を奪われました。

雪の家の中は温かく、そこで食べる食事はとてもおいしく感じられたのです。


人々は知らなかった冬のよさに感動し、冬の女王様に謝りました。


ああ、ごめんなさい冬の女王様。

冬にこんなにもたくさんの魅力があったなんて知りませんでした。

あなたはとても大切な季節を運んで下さるお方です。


その言葉を聞いた冬の女王様は涙を流されました。


「わたくしは、この国にいてよいのでしょうか?」


冬の女王様は問いかけました。


「もちろんよ! 冬の女王様! だって冬はこんなにステキな季節なんだから!」


マオが元気よく答えました。


人々も口々に「そうだ、そうだ」と言いました。


「その通りだ。冬の女王よ。ひどいことを言ってすまなかった」


王様も冬の女王様に謝りました。


こうして無事、冬の女王様は春の女王様と交替することになったのです。


この出来事以降、冬の女王様が塔にいらしたときには必ず冬のお祭りが行われるようになりました。


ちなみに、冬のお祭りを提案したマオは王様から褒美を受け取りました。


マオがお願いしたのは、甘い甘いチョコレートだったそうですよ。



おわり




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― 新着の感想 ―
[良い点] マオが可愛いですね。 最後の一文に、マオの魅力が表れているような気がしました。 [一言] 拝読いたしました。 私も冬童話に参加しており、私の作品も、冬=嫌われもの、という扱いにしていま…
[良い点] 要点をおさえた丁寧な童話でした。冬の女王が国民に出ていけといわれて傷つくシーンは胸に刺さりました。 [一言] 冬の女王が天岩戸方式で対抗する動機の部分を、もう少し丁寧に描写すると、ラストの…
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