表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/324

世界で最も愚かであり、賢き者

 賢者アベスデは、世界を旅して回り続けました。

 “真の勇者”を探して。


 そうして、当然のように勇者アカサタのうわさを耳にします。

 アベスデは、伝説の画商イロハ・ラ・ムーや、東方の街イル・ミリオーネに住む百渓ひゃっけいさん。それから、マービル摂理教の落水木らくすいぼく風揺葉ふうようようとも顔見知りでしたので、それらの人々からも話は聞いていました。

 けれども、最初はアベスデの興味を引きませんでした。人によって、その姿、その反応が違っていたからです。勇者アカサタが一体どういう人物であるのか、どうにも要領ようりょうません。

 賢者アベスデが思ってきた“理想の勇者像”とは程遠ほどとおいモノに感じてしまっていたのでした。


 それが、ある日、突然、変わりました。

「そうか。私が間違っていたのか。真の勇者とは、完全無欠の存在ではなかったのだ。理想に燃え、世界を平和にみちびこうとするだけの者、それではいけなかった」

 そのような考えに変わったのです。

「その姿がわからないから、人によって評価が違うからこそ、たぐまれなる存在なのかも知れない。それこそが、特別な者。実は、理想の存在であったのだ。探すべきは、世界で最もおろかであり、かしこき者だったのだ」

 アベスデが、自分の考えをそのように変えた瞬間、全てが見え始めてきました。まるで、これまで月のかげに隠れていた太陽が顔を出したかのように。


 それから、賢者アベスデは、急いでアルファベの街へと向いました。勇者アカサタが、その街を拠点としていると聞いたからです。

 そこは、同時にアベスデの故郷でもありました。アルファベ国が、まだ今のように大きな国ではなかった頃。街も今ほど活性化していなかった時代。アベスデは、アルファベ国の王族の1人として生まれました。

 もちろん、今となっては、そんなコトを覚えている人は誰1人としていません。アベスデ自身も、そんなコトはどうでもよいと思っていましたしね。


         *


 勇者アカサタが目を覚ますと、そこには自分を介抱かいほうしてくれている老人の姿が目に入ってきました。

「じいさん。あんた、つええな…」

 アカサタが最初に発した言葉は、それでした。他の一切を捨てて、ただ心に浮かんだ思いを言葉にしてみたのです。

「そうかい。それは、ありがとうよ」と、賢者アベスデは答えます。


 それから2人は、荒野の真ん中に座って、話をしました。何時間も何時間も。

 主には勇者アカサタが喋って、アベスデの方が聞き役です。それでも、時折ときおり、ちょっとした助言をしたり、自分の過去の話をするコトもあるアベスデでありました。

 もしも、その光景を遠くから眺める者があったとすれば、「2人は孫と祖父のような関係なのではないか?」と思ったことでしょう。

 それくらい親密で、微笑ほほえましい姿であったのですから。


         *


 どれくらいの時が経過したでしょうか?

 気がつくと、日は沈みかけ、大地はあざやかなオレンジ色にまりつつありました。

「どうじゃ?勇者アカサタよ?私の元で修業してみんか?そうすれば、いずれ魔王を倒すだけの知識と能力をも身につけられるやも知れん」

 その誘いに対して、アカサタはハッキリとした言葉で、こう答えます。

「いや~だね!オレは、修業とか努力とか、そういうのがだいっ嫌いなんだ!!大大大大ダ~イキライッなんだよ!」


 その言葉を聞いて、賢者アベスデは考えます。

 フム。そうきたか。なるほどな。確かに、コイツなら、そんな風に答えそうなもんじゃて。

 はてさて、一体、どうしたものか?実際に立ちおうてみて、話を聞いてみて、「コイツは、世紀の逸材いつざいかも知れん」という思いは確信に変わった。

 じゃが、このワガママさ。それが、才能でもあるのやも知れんが、同時に最大の欠点でもある。これを、いかにするか?


 そこで、賢者アベスデは、こう答えました。

「わかった。修業はなしじゃ。代わりに、勇者アカサタよ、お前の旅に私を同行させてもらえんかな?それで、なにかしら助言の1つも与えてやれるじゃろう。成長のヒントの1つくらいには、なるのではないかな?」

 これには、勇者アカサタも同意します。

「いいぜ!その代わり、オレはオレの好きにさせてもらう!自由に生きさせてもらう!魔王を倒すにしろ、倒さないにしろ、生き方自体は自由気まま!誰にも邪魔はさせはしねえ!それが、この勇者アカサタ様の生きざまよ!」


 こうして、旅の仲間に、賢者アベスデという強力な助っ人が加わったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ