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広がった世界

 その後、勇者アカサタは、王様や大臣、海軍の総司令などが出席する軍事会議に参加し、得意の話術を披露ひろうしました。

 会議には、海賊団の団長であるフィヨルド・アクアブルーや娘のマリン・アクアブルーも参加しています。

 そうして、とどこおりなく交渉を終え、海賊団をアルファベ国の海軍の配下に置くという契約を結ばせました。

 これにより、海賊たちには食糧の配給が行われ、生活の心配をする必要がなくなったのです。その代わりに、必要に応じて、近くに出没する魔物退治の協力をしなければなりません。それ以外の時間は自由に過ごすことを許されているので、その間に、いくらでも他の商売ができます。


 海賊団の団長であるフィヨルド・アクアブルーが声をかけてきます。アルファベ国の協力組織に置かれたのに“海賊”というのもおかしな話ですが、便宜上べんぎじょうそう呼び続けましょう。

「よくやってくれた!勇者アカサタよ!まさか、こんなにも上手うまくいくとは!最初は口だけの男かと思ったが、とんでもない!やる時は、やる男だったな!」

 勇者アカサタは、いつものごとく調子に乗って、鼻高々(はなたかだか)で答えます。

「えっへん!だから、言ったでしょう!秘策があると!実は、このオレはアルファベ国の国王とは以前から懇意こんいの仲。王様の命の危機を救ったこともあるほどの英雄なのです!」

 ま~た口からでまかせで適当なコトを言ってます。

 でも、結果的に成功したので、今回はよしとしましょう。


「アカサタよ、本当に娘をよめに取る気はないのか?お前さんのような奴が息子になってくれれば、オレも安心なんだがなぁ」と、フィヨルド・アクアブルーは諦めきれない様子で尋ねてきます。

「いえ、そのお話はお断りしたはずです。残念ながら、この勇者アカサタ、孤高の虎として生きていく所存しょぞんにございますので」と、まるでサムライのような口調になって答えます。

「そうか。それは残念だな…ま、気が変わったら、またいつでも言ってくれ。娘が売れ残ってる限り有効な話だと思ってくれていい」

「ハッ!ありがとうございます」


 さらに、海賊団の団長は続けます。

「そうだ!代わりにといってはなんだが。船を1せき貸し出そう。船を動かすための乗組員と、その指揮を取るマリンも一緒にな。娘が側にいれば、お前さんの気も変わるやも知れんしな」

 こちらの申し出は、こころよく受けることにした勇者アカサタ。

「それは、ありがたい!これで、より遠くの国にも足を運ぶことができます!魔王退治のためにも役に立ちましょう!」

「では、がんばってくれ!娘をまかせたぞ!」

 その言葉を残すと、フィヨルド・アクアブルーは、自分の船へと乗り込み、海賊島へと帰っていきました。


 こうして、勇者アカサタの元には、80人の海賊と船が残されました。もちろん、女海賊マリン・アクアブルーも!

 これで、グンッと世界が広がりました。いろいろと訪れることのできる国も増えたのです。


         *


 そして、その夜。街の酒場にて。

 勇者アカサタの帰還パーティーが開かれています。

「アカサタ!お前、生きてたのかよ!」と、涙ながらにスカーレット・バーニング・ルビーが抱きついてきます。「よかった!ほんとによかった!!」と心の底から喜んでいるようです。


 ゲイル3兄弟もやって来て、アカサタと肩を抱き合います。

「帰りの船に乗っていなかった時には、本当に死んじまったかと思いましたよ!よくぞ、ご無事で!!」

「しかも、1人で海賊団を仲間に引き入れるだなんて大仕事までやってのけて!」

「また、前みたいに一緒につるみましょうや!」


 その様子を酒場の隅から見守っている1人の女性の姿がありました。

「よかった…」

 エメラルドグリーンウェル嬢です。

「アカサタさんが行方不明ゆくえふめいになったと聞かされた時には、胸がけるような思いをしたけれども。無事に帰ってきてくれて、本当に本当によかった…」

 ムチャクチャな生き方をしつつも、意外とモテモテの勇者アカサタなのでありました。

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