アルファベ国王との交渉
さて、ここでひさびさにアルファベ国の王様の登場です。
長い間、出てきませんでしたが、決してこの物語の作者が、その存在を忘れていたわけではありません。決して!断じて!いや、たぶん…
謁見の間で、王様がきらびやかに飾られた豪華なイスに座って待っています。
そこへ1人の男がやって来ます。それは、女海賊マリン・アクアブルーにこの街まで船で送ってもらった勇者アカサタでありました。
王様は、こう切り出します。
「おお~、ひさしぶりだな、勇者…え~っと、勇者…勇者なんであったかな?」
「勇者アカサタにございます」と、アカサタが自分で答えます。
「おお!そうじゃ!そうじゃ!勇者アカサタよ、見違えたぞ。随分と立派になって」
「ハッ!国王様、ありがとうございます」
「して、用件はなんじゃ?」
アカサタは、王様の前なので、最大級に丁寧な言葉づかいで答えます。
この交渉が失敗してしまうと、1000人近くの海賊たちとその家族が路頭に迷っていますのです。そういう重要な任務を背負っていることを重々(じゅうじゅう)承知していました。
「はい!本日の用件は、この辺りを荒らしている噂の海賊団についてでございます」
「フム。海賊団とな。話は、いろいろと聞いておるぞ。おぬしも、その戦いで大層活躍し、一時は行方不明にもなったそうじゃな」
「おかげさまで、どうにか命拾いいたしました。実は、この命があるのも、その海賊どものおかげなのでございます」
「ほう。海賊どものおかげとな?」
それから、勇者アカサタは、海賊たちに聞いた話を王様に話しました。
魔王が現われても、最初は海が平和であったこと。しだいに海にも魔物が増えていったこと。そうして、魚捕りどころではなくなってしまったこと。仕方がなく海賊家業を始め、商人の船を襲い始めたこと。
さらには、この世界の不公平さについても。一生懸命に働き続けている者が、いつまで経っても貧しいままというのは、おかしいのではないか?と。
アルファベ国の王様は、勇者アカサタの話を一通り聞き終わり、ウンウンと頷きました。
「なるほど。話はよくわかった。で、そちは、余にどうして欲しいと?」
「はい。ここでワタクシに1つ提案があります」
「提案とな?」
「そうです。海賊どもを、このまま野放しにしておくのは大変危険でございましょう。ですが、それらを退治するために軍隊を派遣するとなると、また費用や物資が必要となります。被害もゼロでは済みますまい。大勢の死傷者が出ることが予想されます。そこで…」と、1度アカサタは言葉を切ります。
「そこで?」と尋ね返す王様。
「そこで、いかがでしょう?海賊たちを雇い入れてみては?」
「雇い入れるとな?」
「そうです。とはいっても、そこまで大した報酬は必要ありません。ただ、食わせてやるだけでいいのです。海賊とその家族たちに質素な食事と少々の酒でも送ってやる。それだけで、この近辺の治安は守られ、さらには魔物退治などにも利用できる。これならば、安いものではありませんか?」
王様は、しばらくの間、考えます。
「フ~ム…」
その話を横で聞いていた大臣も助言します。
「王様。なかなか、よいアイデアではないでしょうか?この辺りの海を悩ませていた海賊どもを一掃し、さらには我が国の軍隊も増強できる。維持費も、それほどはかかない。となれば、採用してもよい案なのでは?」
「そうじゃな。ヨシッ!では、1度、会議を開いてから決めるとしよう。勇者アカサタとやら、そちも会議に参加するがよい。そこで、もう1度、今の説明をしてみよ」
「ハッ!おおせのままに!」と、勇者アカサタはかしこまって答えました。
こうして、見事に勇者アカサタは、国家の会議に参加する権限を得ることまで成功したのでありました。