アカサタの秘策
そんな風にして、酒盛りの日々が何日か続きました。
結婚こそしなかったものの、アクアブルー家の中では、もはや勇者アカサタは家族も同然です。特に、家長のフィヨルド・アクアブルーは、アカサタのことを大層気に入って、まるで息子のようにかわいがってくれました。
「まあ!飲め飲め!お前さんも、いける口なんだろう?」
「ハッ!では、遠慮なくいただきます!」
などと言って、盃を受ける勇者アカサタ。
「アカサタ、お前、ほんとにマリンと結婚しちまえよ」と、長男のウェーブ・アクアブルーも話しかけてきます。
「いや、それはちょっと…」と断る勇者アカサタ。
「で?どうだったよ?妹のおっぱいの触り心地は?」
次男のスカイ・アクアブルーの質問には、こう即答します。
「ハイ!最高でありました!」
ドッ!ワッハッハッハと盛り上がる一同。恥ずかしそうにしながら、うつむいているマリン・アクアブルー。
勇者アカサタは、完全に海賊たちと打ち解けています。さらには、得意の“おっぱい牧場”の話などを披露して、場はさらに盛り上がります。
半分冗談交じりに、こう言い出す勇者アカサタ。
「いや~!でも、正直な話、オレも魔王退治をしなきゃならなくて、結婚どころじゃないんっすよ~」
そこで、急に静まりかえる宴会場。
「魔王か…」と、会場の誰かがポツリと呟きます。
「え?どうしたんっすか?なんか急にお通夜みたいな雰囲気になっちゃって」
アカサタ1人がテンションが高いままです。
マジメな顔になる団長のフィヨルド・アクアブルー。
「いやな。魔王のヤツがいなければ、オレたちだってこんな生活をせずに済んでいたかも知れないと思うとな…」
その言葉を補足するように、フィヨルド・アクアブルーの父親タートル・アクアブルーが語り始めます。
「ワシらの時代にゃ、まだ、ここにおる者たちも、皆、漁師をして暮らしておったものよ。それほど裕福とは言えんかったがね。それでも懸命に生き、魚を捕ったり、貝を掘ったりして、それなりに幸せに暮らしておったもんじゃ」
「それが、変わった?」と、アカサタ。
「ああ、そうじゃ。ある日、突然とまではいかんかったがね。陸地に魔物があふれても、海の方はまだ平和じゃった。が、それも時と共に変わっていったのじゃ。しだいに海の方にも魔物が増え始めてきた。そうなると、もう漁どころじゃなかった。魔物退治の傍ら、魚捕りでは、とても割が合わんて」
「それで、海賊に?」
「ま、そういうこったな。オレらが命を賭けて戦って、働いて、それでもスズメの涙ほどの収入しかねえ。それに対して、商人の奴らは楽して儲けやがる。1度の航海で大儲けよ。そんな奴らから奪い取って、何が悪い?」と、フィヨルド・アクアブルーが答えます。
「アタイらだって生きていかなきゃならないの。わかるでしょ?アカサタ?」と、マリン・アクアブルーも言ってきます。
シ~ンと静まりかえる海賊たち。さっきまでの盛り上がりはどこへやら。
そこで、1人の男が立ち上がります。もちろん、勇者アカサタです。
「オッシャ!わかった!そういう事情なら、なおさらのこと、このオレががんばらないとな!まかせとけって!この勇者アカサタ様が全部まとめて、どうにかしてやらぁ!!」
うおおおおおおおおおおおと再び盛り上がる一同。
「ようし!飲め飲め!勇者アカサタに希望を託して、今夜も酒盛りじゃああああああ」
実は、この時、アカサタの頭の中にはあるアイデアがあったのです。さっきは口からでまかせで発した“秘策”でしたが、この時には既にその案が具体化しつつありました。
アカサタは、こういうのが得意でした。とりあえず、ハッタリでも何でも構わないので、言葉にして言っておく。後から、それを実際に考え、実行する。
まさに“嘘から出た、まこと”あるいは“ひょうたんから駒”
最初は嘘でも、でまかせでも、何でもいいのです。最終的に、それが現実になりさえすれば、それで!




