海賊島
何時間か船の底に放置され、グルグルに全身を縄で縛られたまま、他にするコトもなかった勇者アカサタは、グ~スカピ~と眠って過ごしました。
“休める時に休んでおく”
アカサタが普段から座右の銘としている言葉通り、ここでも休息を取っていたわけです。この後、いつ海賊たちと戦闘になるかわかりません。
もしかしたら、このまま処刑されてしまう可能性もありましたが、その時はその時です。
「できる限りのコトをしておこう!今できるのは、寝るコトくらいだ」と、心を決めたのでした。
*
突然、上部から眩しい光で照らされて、勇者アカサタは目を覚ましました。
それは、太陽の光ではなく、タイマツの明かりでした。どうやら、辺りはすでに夜になってしまっているようです。
「オイ!起きろ!」
それは、マリン・アクアブルーではなく、男の声でした。
「なんだマリンちゃんじゃないのか…」というアカサタの言葉に、男は半分怒ったような荒々しい口調で答えます。
「寝ぼけてんじゃねえぞ!さっさと船を降りろ!」
徐々にハッキリしてくる意識の中、勇者アカサタは周りを確認しました。周囲は、何人もの男に取り囲まれています。
元々、海水で濡れていたせいもあったのでしょう。お漏らししたコトは、とがめられはしませんでした。
足の縄を解かれたアカサタは、命じられるままに階段を登っていきます。そのまま部屋の天井の扉を抜けると、そこにはさらに数人の海賊たちが待っていました。
その中の1人は、あの女海賊マリン・アクアブルーでした。
「やあ!マリンちゃん、おはよう。お目覚めのキッスでもしに来てくれたのかな?」
アカサタがそう言った瞬間、バチ~ンと平手打ちが飛んできました。
「いい加減にしなさいよ!」と、マリン・アクアブルーが厳しい口調で叱咤してきますが、勇者アカサタは、どこ吹く風です。
「アイタタタ…これは、また激しいプレイから開始するんだな。おかげで、完全に目が覚めたぜ。ありがとよ」
左の頬に真っ赤な紅葉をつけたまま、そう答えました。
「船長!もう、やっちまいましょうぜ!」と、海賊の1人が言います。
それに対して、女海賊マリン・アクアブルーは、
「まだよ!まだ、こんなものじゃ駄目!アタイの気が収まらない。それに、お父様が呼んでるの。コイツを連れて来いって」
「団長が…じゃあ、仕方ないっすね。さっさと連れて行きやしょう」
そう言われて、無理矢理に引っ立てられていく勇者アカサタ。
そのまま船を引きずり降ろされると、そこはどこかの島のようでした。
*
洞窟の中、勇者アカサタの周りを何十人もの海賊たちが取り囲んでいます。これでも、全員ではないようです。海賊の中でも主要なメンバーだけが、ここに集められているようでした。
アカサタは、相変わらず縄でグルグル巻きにされたままの状態で、座らされています。
「よう!やってくれたな」と、野太い声が言います。
海賊たちの中でも、一際偉そうに座っている男です。どうやら、この人が、この海賊団の団長と呼ばれている人物のようです。
「やってくれたって?何をやってくれたって言うんだ?」と、アカサタが尋ねます。
すると、野太い声の男は答えます。
「オイオイ、この期に及んでトボけんじゃねえぞ。オメエさん、このオレの娘の胸を揉んだそうじゃねえか。それも、モミモミモミモミ思いっきり」
その言葉を聞いて、女海賊マリン・アクアブルーは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしています。
ははぁ、なるほど。コイツが、マリンちゃんのお父さんってわけか。だったら、丁寧な対応をしないとな。
そう考えたアカサタは、口調を変えて話し始めます。
「これはこれは、マリンお嬢様のお父様であらせられましたか。大変失礼いたしました。ワタクシ、勇者アカサタと申します。以後、お見知りおきを。このたびは、戦闘中の不可抗力により、お嬢様のお胸にちょいっとばかし触れてしまい、申し訳ありませんでした」
ほう、という顔をして、マリン・アクアブルーの父親は尋ねます。
「戦闘中の不可抗力だとよ。そこんとこ、どうなんだ?マリン?」
「何が不可抗力なもんですか!わざとよ!わざと!完全に狙ってやったに決まってるわ!」と、マリン・アクアブルーは激しい口調でまくし立てます。
「娘はそう言っておるが?勇者アカサタとやら」
マリン・アクアブルーの父親に問われて、アカサタは即座に返答します。
「とんでもない!とんでもないったら、ありゃしません!完全に!不可抗力!わざとなんてコトありませんよ!お天道様に誓って告白いたします。天地がひっくり返っても、そのようなコトはありません」
もちろん、その言葉は嘘八百。嘘も嘘、大嘘に過ぎません。わざとおっぱいを揉んだに決まっています。なにしろ、そういう技なのですから。
フ~ム…と、考えてからマリン・アクアブルーの父親は、ハッキリとした声でこう断言しました。
「縛り首だな!」
さて、あわれ勇者アカサタは、このまま海賊たちの手によって、縛り首となってしまうのでしょうか?




