海の巨大怪物、現る
茫然と立ち尽くす女海賊マリン・アクアブルー。
突然、背後に回り込まれた勇者アカサタに胸を揉まれ、放心状態の頭の中でボンヤリと考えました。
「もしかして、これって恋?」
違います。
けれども、そんな風に勘違いしてもおかしくはありません。なにしろ、胸の辺りから全身に電撃が走ったような感覚に陥ったのですから。というか、実際に微弱な電撃攻撃を食らったのですが…
それに、恋というのはそういうもの。勘違いから始まるものだったりもするのです。
そこへ、巨大な怪物が姿を現しました。タコ…いや、イカでしょうか?超巨大な軟体動物の化け物です。
「ハッ!」と気を取り直して、命令をくだすマリン・アクアブルー。
さすがに、この辺は、船1隻の指揮を任されているだけあります。いわば、この海賊船の船長なのです。
「全速前進!!逃げるわよ!!」
けれども、どうしたことでしょう?船は全然前に進みません。
それもそのはず。なんと、その船体には巨大な触手が絡みついていたのでした。
*
一方、パールホワイト・オイスターは、アカサタとは別の海賊船に飛ばされていました。ゲイル3兄弟の1人、アゴールと同じ船です。
パールホワイト・オイスターは、その奏でる竪琴の音で、敵を混乱させます。
“コンフュージョン・ノイズ”
この曲は、竪琴から発せられる不協和音により、対象者を混乱状態に導きます。この技で、次々と海賊たちを行動不能に陥らせるパールホワイト・オイスター。
その隙を突いて、海賊たちに斬りかかったり、海に突き落としたりするアルファベ国の兵士たち。
もちろん、アゴールも、得意の“気の力”を使って、バッタバッタと敵をなぎ倒し、大活躍です。
そんな時でした。甲板上に、巨大な丸太が降ってきたのは!
いえ、丸太ではありません。生き物の触手です。大きな吸盤がついた超巨大な軟体動物の触手が、船の甲板を襲ったのでした。
*
商船に偽装されたアルファベ国の軍艦が1隻。それに加えて、海賊船が5隻。合計6隻の船の内、2隻が巨大な軟体動物に襲われています。
スカーレット・バーニング・ルビーが呟きます。
「クラーケンね。こんな時に、やっかいなモノが現われたものね…」
クラーケン。それは海の怪物。巨大なイカやタコのような姿をしていて、航海中の船を襲う化け物として知られています。
複数の触手を持っていて、それらを使って船を絡め取るのです。
このような緊急時に、お互いが争い合っている場合ではありません。
「ここは、一時休戦といくか」
「仕方がない。我々も、かなりの被害が出ている」
「先に、あの化け物を始末しないとな」
「けど、どうするよ?」
などという声に従って、その場にいた人間たちは、戦いをやめ、クラーケンの方へと向き直りました。
そんな声を余所に、いきなり斬りかかっていく人物がいました。勇者アカサタです。
「ウオリャアアアアアアアアア」
アカサタは、乗っていた海賊船に絡みついているクラーケンの巨大な触手に向って剣を振りおろします。
ズバッ!という音と共に切り裂かれる触手。
けれども、傷は浅いようです。というよりも、相手があまりにも大き過ぎるのです。その巨大な丸太のようなぶっとい足に対して、人間の持つ小さな剣では限界がありました。
それでも、人々は、勇者アカサタに続き、次々と剣や斧で斬りつけていきます。
1つ1つの攻撃は、あまり効果は大きくありませんが、それでも全員で同じ場所を何度も斬りつけることにより、徐々に傷口は広がっていきます。
さらには、弓矢や魔法攻撃でクラーケンの巨大な目を狙います。
そうして、片方の目を潰すことに成功しました。
それまで、どんなに攻撃を食らっても痛みを感じる様子はなく、めんどくさそうにしていた巨大な怪物も、さすがにこれには参ったようです。
いきなり大きく体を揺らすと、そのまま海中深くへと潜っていきました。その際に、触手が絡みついていた船は大きく左右に傾き、甲板上に立っていた者たちのほとんどは、大きく海へと投げ出されてしまったのです。
勇者アカサタも、そんな中の1人でありました。