海賊退治
アルファベ国の首都アルファベのすぐ南は、港街になっており、その先は果てしない海が広がっています。
海にも魔物は出没します。が、最近は、それに加えて、「海賊が頻繁に現われるようになった」と街の人たちは噂していました。
今回のアカサタの任務は、その海賊退治でした。
スカーレット・バーニング・ルビーに連れられて、港街ボンボンにやって来た勇者アカサタ。他にも、アゴール・ハゲール・デブールのゲイル3兄弟や、ハープ奏者パールホワイト・オイスターの姿もあります。
「アカサタ!この前のあの技があれば、海賊なんて相手じゃないわよ!」
「アイアイサー!」
スカーレット・バーニング・ルビーの言葉に、海賊っぽく返事をする勇者アカサタ。
「親分!どこまでもついて行きますぜ!」
「オレらも、元々、盗賊をやってた身!海賊なんで屁でもありませんや」
「親分!指令をおねげえします!」
と、ゲイル3兄弟もノリノリです。
「今回の親分は、アネゴの方だ!ルビーの親分!命令を!」
勇者アカサタのセリフに、スカーレット・バーニング・ルビーも調子を合わせます。
「おっしゃ~!者ども!船に乗りこめ~!!」
「おお~!!」と一同、ときの声を上げました。
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今回の任務は、アルファベ国の支援があります。
港街ボンボンは、アルファベ国の一部であり、海賊たちの動きには国民も迷惑をしています。そこで、国自ら軍隊を動かしたというわけです。
アカサタたちが乗りこんだ船は、もちろんアルファベ国の海軍の持ち物です。それ以外にも、国家直属の兵士たちが大勢乗りこんでいました。
それに加えて、アカサタたちのような腕利きの傭兵も数多く雇われていました。いわば、官民一体の一大作戦というわけです。
ボンボンの港には、漁船も多く出入りしていましたが、他の国との交易のために商船も数多く行き交っています。海賊が狙うのは、その商船の方なのです。
なので、海軍の船とはいえ、商品を満載した船に偽装してあります。この船を海賊が襲ってきたところを一網打尽にしてしまおうというわけです。
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甲板では、ハープ奏者パールホワイト・オイスターが竪琴を弾いています。
その周りに集まってウットリとしている男たち。
「いや~、まさかこんな所でパールホワイトさんの曲を聞けるとはな~」
「さすがは、稀代のハープ奏者とうたわれているだけのことはある」
男たちは、そんな風に口々に褒め称えます。
海賊討伐が目的とはいえ、実際に海賊たちが現われるまでは、暇をしています。それに、商船に偽装しているのです。それっぽい演出をしないと。
そんなわけで、甲板では音楽会が始まり、乗組員たちはその周りに集まって、竪琴の音に耳を傾けているのでした。
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パールホワイト・オイスターは、ここ最近、悩んでいました。
自分の音楽に限界を感じつつあったのです。芸術の街ラ・ムーを中心に、各地で演奏会を開くことのできる身となり、その評判も上々でした。けれども、彼女自身は、それに不満を感じていました。
「私の音楽は、ここまでかも知れない…これまでのように、急激な成長を遂げることができなくなってしまった。私は、この先、どうすればよいのだろう?」
そんな風に感じていたのです。
そうして、今回の海賊退治に参加したのでした。
「そうだわ。広く青い海を眺めていれば、何かが変わるかも知れない。もう1度、命のやり取りをする場に立ち合えば、また何かを掴めるかも」
そう考えて、勇者アカサタたちに同行し、船に飛び乗ったのです。
パールホワイト・オイスター自身は、戦闘能力が高いわけでも、戦闘に向いているわけでもありませんでした。
それでも、いくらかの修業は積み、ある程度、敵の攻撃を避けることくらいはできるようになっていました。また、その竪琴の音は、以前よりもさらに冴え渡り、より多くの曲を奏でられるように進化していました。
それらの曲は、戦闘中も、敵や味方に様々な効果を与えるのです。どうやら、今回も、その能力が発揮されそうです。
にも関わらず、彼女は、そこに不満を感じていたのです。
「さらに!さらに!もっと素晴らしい曲を!もっと類い希なる技法を!」と、求め止みませんでした。
ある意味で、パールホワイト・オイスターもまた、求道者であったのです。勇者アカサタたちのような冒険者とは違いましたが、それでも何かを極めようとする姿には、美しさすら感じさせるものがあります。
奏でる曲ではなく、その生き方そのものが、既に人々に感動を与えつつありました。