スカーレット・バーニング・ルビーとの対決
そんなこんなで、4ヶ月ほどが経過しました。
季節は、もう春です。梅の季節が終わり、桜が咲き始めています。
いつものように、街のはずれの空き地で修業をしている勇者アカサタ。どうやら、マジメに“気の力”の修業を続けていたようですね。
さすがに、雪が降ったり、寒さが厳しい時期には、街の道場を借りて室内で体を動かしていたアカサタでしたが、この時期になればもう問題はありません。ポカポカと春の陽気が心地よいくらいです。ちょっと体を動かしただけで、すぐに汗ばんできます。
空き地の中、1人、精神統一している勇者アカサタ。
そこへ、炎系の魔法の使い手スカーレット・バーニング・ルビーが通りかかります。
「よう、アカサタ!一生懸命やってるじゃないの」
「あ、ルビーのアネゴ!チーッス!」と、アカサタも返事を返します。
「ここ最近、メキメキ腕を上げてるって、街でも噂になってるわよ」
「そんな~!いやいや、それほどでも…ありますけどね!」
「あるんか~い!」
アハハハと笑い合う2人。
「じゃあ、あたしがちょっと見てあげるわよ」
そう言って、持っていた荷物を降ろすと、準備運動を始めるスカーレット・バーニング・ルビー。
「え?アネゴが?大丈夫っすか?」
「これでも、いくらか格闘の経験はあるのよ。普段は、後衛で魔法ばっかり使ってるけど」
スカーレット・バーニング・ルビーも、この世界で生きていく冒険者の端くれです。凶暴な魔物たちと戦って生き残っていくために、格闘術の基本くらいは身につけているのでした。
達人相手ならばいざ知らず、そこら辺の素人では、とても歯が立ちません。
仕方がなしにアカサタの方も、戦いの体勢に入ります。
お互いに武器は持っていません。己の肉体のみを駆使した立ち合いです。
「さあ、来なさい!」というスカーレット・バーニング・ルビーの言葉に、勇者アカサタは静かに返します。
「どうぞ、アネゴの方から」
「じゃ、遠慮なく」
そう言って、スカーレット・バーニング・ルビーは、一瞬にして間合いを詰めます。そうして、そのままの勢いで、真っ直ぐにパンチを繰り出します。
けれども、その攻撃はヒラリとかわされてしまいました。
「!?」
驚くスカーレット・バーニング・ルビー。続けて、連続で拳を突き出します。さらに、右足での回し蹴り!!
ところが、それらの攻撃も全て、サラリサラリと風のようにかわされてしまうのです。それは、まるで風揺葉がアカサタの前で見せた動きそのままです。いえ、まだそこまで完璧なものではありません。けれども、曲がりなりにも、勇者アカサタは、あの時の動きをトレースしてみせているのでした。
「こんな…」
あまりの衝撃に、スカーレット・バーニング・ルビーは、言葉が続きません。
上達していたとは聞いていたけれども、まさか、ここまでとは!ある程度の力の差は覚悟していたけれども、ここまでとは…
そう、スカーレット・バーニング・ルビーは思いました。
「では、次はこちらから…」
静かにそう呟くと、勇者アカサタは音もなく、背後へと回り込みます。そうして、そのままスカーレット・バーニング・ルビーの背中からガシッと両腕を回し、体を捕らえます。さらに両の手で、ワシワシと胸を鷲づかみにし、モミモミと揉み始めたのです。
「いい加減にしなさいよ!」という叫び声と共に、肘打ちが繰り出されます。
シッカリと抱きついているアカサタにはかわしようがありません。そのまま見事、顔面にクリーンヒットしました。
カンカンに怒っているスカーレット・バーニング・ルビー。その場に倒れ込み、気絶してしまった勇者アカサタ。
「けど、今の動き。常人のそれではなかった。全く動きが読めなかった。どうなってるの?このわずかな短期間の内に、そこまで成長を遂げたというの!?信じられない。まるで、魔法みたい…」
倒れているアカサタを見ながら、冷静に戻ったスカーレット・バーニング・ルビーは、そう呟きました。
「この成長度。これならば、もしかしたら…もしかしたら、本当に魔王を倒してしまうかも知れない。それは、単なる夢物語なのではなくて…」
こうして、現実味を帯びてきた魔王討伐の可能性に驚愕し、その場に立ち尽くすことしかできないスカーレット・バーニング・ルビーでありました。




