日々の努力の積み重ね
さて、東方の街イル・ミリオーネから帰ってきた勇者アカサタは、また以前のようにノンビリと暮らすようになりました。
…とはいえ、“気の力”の修業は欠かしません。
勇者アカサタは、無駄な時間の使い方が嫌いでした。意味のない単純労働が大嫌いでした。
その一方で、そこに「意味がある!」と感じたり、「目標を達成する為に必要だ!」と思った時には、努力を惜しみません。
そんなに長い時間ではありませんでしたが、毎日、ちょっとずつ小さな努力を積み重ねていくのです。
今回も、そうでした。
風揺葉と対戦したコトが効いたのでしょう。
「いつか、アイツを超えてやる!アイツを倒してやる!」という思いもあって、ゲイル3兄弟に言われた練習メニューを、毎日、マジメにこなしているのでした。
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街のはずれにある空き地で、勇者アカサタが、今日も日課の訓練に集中しています。
そこへ、アゴール・ハゲール・デブールのゲイル3兄弟がやって来ました。旅の途中で出会った彼らも、一緒にここまでついてきて、アルファベの街に住み着いているのです。
「兄貴~!アカサタの兄貴~!」
デブールが大声を出しながら手を振って近づいてきます。
「よう!デブール!元気にしてたか!」
「はい!兄貴の方も、お元気そうで!」
「修業の方も、マジメに続けているみたいですね」と、ハゲールも声をかけてきます。
「…ったりめぇよ!オレは、これまで以上に強くなってやる!それで、あの風揺葉の奴をブッ倒してやるのよ!!」
「先は長そうですね。けど、高い場所に目標を設定するのはよいコトです」と、ハゲール。
「そろそろ、一番最初の基本も身についてきたようですね。完全に気を消すというまでには至らないまでも、だいぶよくなってきましたよ」と、アゴール。
「お?そうか?」
「では、そろそろ、次の段階へと進みましょうか」
そうアゴールに言われて、アカサタは飛び上がって喜びます。
「オッシ!やったぜ~!!」
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次の訓練が始まりました。
「いいですか?次の訓練は、前回とは逆です。全身の気を消すのとは反対に、一気に放出します。ただし、一瞬だけ。いいですね?一瞬だけ全力を出して、すぐに抑えてください」
そう、アゴールに言われますが、そう簡単にできたりはしません。
全然、気を込められなかったり、無駄に気を使って垂れ流しになってしまったり。
「ま、最初から、そう上手くはいかんでしょう」と、ハゲールも励ましてくれます。決して、ハゲ増すわけではありません。そもそも、これ以上抜けてしまう髪の毛も残されていないのです。
「これが終わったら、部分的に気を込める訓練です。拳だけとか、足の先だけとか、一部分のみに気を集中できるようになってください」
アゴールに、そう言われて、ちょっとばかし不平を漏らす勇者アカサタ。
「お前らみたいに、必殺技を繰り出せるようになるのは、いつになるんだ?」
「あんなものは、まだまだ先ですよ。今のペースで続けていって、何年も先になります」
「ゲ~ッ!!何年も!!気が滅入るぜ…」
いくら目指す目標があるとはいえ、やはり、アカサタはこういうのは苦手なのです。長期に渡って、同じ作業を繰り返すという行為は。
それでも、毎日ちょっとずつ別のメニューをこなすことで、どうにか続けていけそうでした。
「…とはいえ、兄貴は飲み込みが早いっすよ。筋がいいとでも言えばいいんっすかね?向いてない者だと、ここまで数ヶ月かけても全然できないっすから」
デブールのその言葉に、アカサタも鼻高々です。
「だろう~?そりゃ、オレ様は天才だからな!」と、相変わらず、こういう所は変わりません。すぐに調子に乗ってしまうのです。けれども、その自信の強さが、成長性に影響していることも、また確かでした。
いつまでもオドオドとしていて自分に自信が持てないよりも、このくらい強い自信を持って生きていく方が、速いスピードで成長できたりするものです。
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それが終わると、今度は格闘の訓練です。
勇者アカサタは、武器を持って戦うという経験は、それなりに積んできましたが、格闘技に関してはサッパリでした。そこで、ゲイル3兄弟に協力してもらって、格闘の能力も上げておこうとしたのでした。
気の力は全く使用せず、純粋に肉体のみを用いて戦います。もちろん、本気で傷つけ合うわけではないのですが、それでも集中してやってると、自然と汗もかいてしまいます。
もう季節も冬に入りつつあるというのに、この状態です。まして、真夏にこの訓練を行ったら、どうなることでしょう?
そんなこんなで、一通り汗を流し終わると、今度は酒場へ直行です。
まだお日様が照っている時間から、街の酒場で大騒ぎ。周りのお客さんにも迷惑をかけまくり。
これから数ヶ月、こんな日々が、しばらく続くのでした。