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賢者アベスデの転機

 限りなく黒に近い茶色ちゃいろの馬に乗り、賢者アベスデは旅を続けています。

 そうして、数々の街を渡り歩きましたが、いまだに勇者のうつわと認められる人物には出会っていませんでした。

 正確に言えば、そのような者は過去に何人か存在したのですが、それらは全て魔王に説得され、寝返ってしまっていたのです。


 アベスデは、昔のコトを思い返してしました。


         *


 戦場には、いくつもの死体が転がっています。

 そこには、生き残った3人の姿がありました。1人は、賢者アベスデ。もう1人は、魔王ダックスワイズ。そして、残る1人は勇者のようです。


 賢者アベスデの前に立つ魔王ダックスワイズ。

「フハハハハハ!今回も、同じ結果に終わったようだな」

 その言葉の前に、「グヌヌヌ…」とくやしがるしかないアベスデ。

「いいぞ!実にいい!われは、お前より生まれし存在。けれども、その能力は、すではるかに凌駕りょうがしておる」

 黙ったままの賢者アベスデに向って、魔王は続けます。

「アベスデよ。お前は生かしておいてやろう。そうして、これからも役に立つがよい。こうして、新しい才能ある若者を、これからももとに運んでくる役割をになうがよい!!」


 アベスデは、問いかけます。魔王ではなく、たった今、心変わりをしたばかりの勇者に向って。

「なぜだ?なぜなのだ?これまで、“打倒魔王”をかかげ、共に戦ってきたではないか?」

 それに対して、かつて勇者であった者は答えます。

「私は、以前より疑問を感じていたのですよ」

「疑問?」

「そうです。この世界のように。この世界のシステムに。常に疑問を感じ続けていました」

「何を疑問に感じるコトがあるというのだ?」

「だって、おかしいじゃありませんか。世界は、あまりにも不公平だ。懸命に働き、身も心もボロボロになっていく者がいる。そういう者は、いつまでっても決してむくわれはしない。その一方で、たいした努力もせずに、大金をかせぎ、ヌクヌクと生きていく者もいる」

「それは、魔王を倒した後に、世界を変えてゆけばよい」

「果して、そうでしょうか?実際は、逆だったのでは?」

「逆?」と、アベスデは問い返します。

「そうです。その思いは、魔王様に出会い、会話をし、確信へと変わりました」

「どういうことだ?」

「人々を幸せにし、世界を正しい方向へと導いてくれていたのは、実は魔王様の方だったのですよ。そうして理解したのです。あなたの考え方では、決して人々を幸せにはできはしないと!」

「そんな…」


 そこに魔王が割り込んできます。

「フハハハハ!そういうことだ。アベスデよ、諦めるがよい。あるいは、諦めずに、これまで通り新しい勇者を誕生させ続けるか?そうして、我が力をさらに増してくれるか?それはそれでよい。楽しみに待っているぞ」

 そう言って、魔王と、かつての勇者であり新しく魔王の部下となった者は去っていきました。


         *


 アベスデは、過去の回想から戻ってきて、考えました。

 私が間違っていたということなのだろうか?これまで正しいと信じて生きてきたことが間違っていたと?

 ならば、生き方を変えねばならぬということか。これまでと全く逆の生き方に…


 賢者アベスデは、しばらくの間、1人で考え続けました。

 そうして、突然立ち上がりました。

「そうだ!これまでとは全く逆の者を探そう!世界で最も愚かな人間を!世界で最も愚かであり、それでいて世界で最も賢き者となれる可能性を持った者を!その矛盾した存在こそが、魔王を討ち倒すことのできる者なのだ!」

 そう声に出すと、再び“真の勇者”を探す旅へと出発したのです。

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