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東方の街イル・ミリオーネ

 さて、勇者アカサタたち旅の一行は、その後もいくつもの街を通り抜け、旅を続けました。

 そうして、ついに東方の街イル・ミリオーネへと到着したのです。


 そこは、和風と洋風の織り混ざったような建物が乱立する街でありました。

 アカサタが元々住んでいた世界でいえば、明治か大正時代の日本のようです。外国から新しい文化が入ってきて、モダンな建物が次々に建てられていく。それでいて江戸時代以前から残る和風の建築物も数多く残っていた、そんな時代。その頃に似た雰囲気を持っています。


 ここまで預かり物の茶器を、大切に守ってきた少年ミケナルドが言います。

「ようやく、ここまで来ましたね!」

 アカサタも答えます。

「ああ、そうだな!イロハ・ラ・ムーさんは『大した仕事』じゃないなんて言ってたけど、今回もかなり大変な任務だったぜ。だが、ここまで来たら、もう一安心ひとあんしん!さっさと、“百渓ひゃっけい”って奴の所へ行って、面倒なコトは終わらせようぜ」


         *


 百渓…

 それは、この時代において、名のある茶道家であり、同時に数多くの美術品を集める美術品収集家でもありました。

 百渓は、このイル・ミリオーネの街に、広大な庭を持つ“百渓園ひゃっけいえん”という場所を作り、そこにきょを構えていました。


「チワ~ッス!」

 百渓園の入り口で、勇者アカサタがあいさつをします。

 けれども、敷地しきち広過ひろすぎて、聞こえないようです。誰も出てきません。仕方がないので、ズカズカと無断で庭園の中へと入っていきました。


 アカサタと一緒にやって来たのは、茶器を手にした少年ミケナルドだけです。商人たちは街で商売をし、商人を守っていた護衛団の面々は、おのおの勝手に街へと散っていきました。

 アゴール・ハゲール・デブールの3人も、ここにはいません。

「茶道~!?なんか、めんどくさそうっすね」

「ああ~、そういうの苦手なんで、兄貴だけで行ってくだせえ」

「オレらは、そこの酒場で飲み食いしながら待ってますんで」

 そう言って、サッサと酒場の中へと消えていったのでした。

「オレだって、そうしたいよ…」

 そう文句を言いつつも、仕方がなしに、百渓園まで足を運んだ勇者アカサタでありました。仕事を依頼されたのは、少年ミケナルドではなく、アカサタの方なのです。一緒に来ないわけにはいきません。


         *


 広い広い庭園の中を進んでいく勇者アカサタと少年ミケナルドの2人。

 庭園には、人工的に作られた巨大な湖や、ちょっとした森まであります。全部でどのくらいの広さがあるのか見当もつきませんが、500メートル×500メートルくらいはありそうです。

 一体、どれほどのお金があれば、このような土地を購入できるのでしょうか?


 正面の門から入って、庭園の中の道を進んでいくと、やがて1軒の小さな小屋へとたどり着きました。小屋とはいっても2階建てになっており、中もなかなか小綺麗こぎれいにされています。

 小屋の側には、1人のおじいさんが座っていて、何やら作業をしています。どうやら植木道具の手入れのようです。この人が、百渓さんでしょうか?

「チワ~ッス!」

 勇者アカサタが気軽にあいさつをします。まるで、宅急便かお酒の配達みたいです。

「こんにちは。百渓さんはご在宅でしょうか?」と、ミケナルドも続けてあいさつをします。こちらは、実に丁寧な対応です。

「どのようなご用件ですかな?」と、おじいさんは尋ねてきます。

「実は、こちらの品をお届けにあがりまして…」とミケナルドが答えます。

 アカサタの方は、めんどくさそうにしています。

「ほうほう、なるほど。では、こちらで少々お待ちください」

 そう言われて、小屋の縁側えんがわをすすめられました。


 2人が縁側に座ってしばらく待っていると、先ほどのおじいさんが1人の男性を連れて帰ってきました。

「こんにちは。私が、ここのあるじ、百渓だが…」

 そう口を開いた男性は、肩幅が広く、恰幅かっぷくのいい人でした。年の頃は、50歳前後といったところでしょうか?

「イロハ・ラ・ムーさんから、これを預かってきたんっすけど」と、勇者アカサタがミケナルドが手に抱えている箱を指さしながら、答えました。

「ほう!では、君がアカサタ君だね」と、百渓さんは一目見ただけ言いました。

「アレ~?おじさん、オレのコト知ってるの?」と、まるで友達に話しかけるかのような言葉づかいの勇者アカサタ。

「もちろん!もちろん!話は、いろいろと聞いているよ。とりあえず、ここではなんだから、お茶でも飲みながらにしよう」と、百渓さんの方もくだけた話し方になって答えました。そうして、クルリと方向転換して歩き始めます。

 勇者アカサタと少年ミケナルドは、その後をスタスタとついていくのでした。

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