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風揺葉の意図

 風揺葉ふうようようは考えました。

 師匠である落水木らくすいぼくが、なぜ、せっかくらえた4人を解放するコトにしたのか?

 あの勇者アカサタという男は、部外者である。確かにこの寺に潜入してきたが、それは大した罪ではない。悪意があったわけではなく、仲間を助けようとやって来たに過ぎない。元々、その罪は問われなかっただろう。

 問題は、残りの3人。アゴール・ハゲール・デブールである。

 彼らは、我が門下にある者たち。それが、この寺を逃げ出した。しかも、外部で悪事を働いていたと聞く。これは、当然、罪に問われてしかるべき。命を取れとまでは言わぬが、それ相応の罰は与えなければ。

 だが、そんな3人を追ってきた者がいる。それも、命の危機に陥るかも知れぬという状況下。3人の方も、あの男をしたっているようだ。この短期間に、一体、何があったのか?それ程の魅力のある男なのか?あの勇者アカサタという者は。


 風揺葉は、それを確かめたかったのです。

 達人同士は、こぶしと拳をぶつけ合うだけで、その心理や人間性を見抜くと言われています。剣と剣を交え合う者同士も、同じ。

 そのために、わざわざ「腕を見ておきたい」などと言ったのでした。


         *


 風揺葉は、ゲイル3兄弟に向って言い放ちました。

「まずは、お前たちからだ。3人同時にかかってこい」

 模擬戦ゆえに、刃のついた武器は使用しません。先が丸くなった槍や木刀ぼくとうなど、怪我けがをしないように安全性を考えられた武器を使います。

 けれども、それだって、達人が使えば素人の命を奪うことは雑作もないくらい恐ろしい武器となります。そうでなくとも、ちょっと油断すれば、骨が折れたり、筋肉を傷つけられたりはするでしょう。


「参ります!」と、アゴール・ハゲール・デブールの3人が同時に叫びました。

 アゴールの槍での攻撃、ハゲールの木刀での攻撃、デブールの盾による突進攻撃が同時に繰り出されます。

 けれども、風揺葉は、そよ風が一吹きした程度の動きで、それら全ての攻撃をかわしてしまいました。そうして、手にした槍で、3人を次々と打ちえます。


 全く無駄のない行動。そのなめらかな動きは、まるで美しいダンスを見せられているようです。

 “武道ぶどう舞踏ぶとうと通じるものがある”という言葉にもある通り、それは一流の踊り手の動きのようでありました。

「どうした?その程度か?外の世界へと出ていき、以前よりも腕が落ちたか?」と風揺葉にたしなめられますが、3人はどうしようもありません。完全に格が違うのです。

 グヌヌヌヌ…と、ひざをついたまま、うめくアゴール。

「全力で来い。能力を使っても構わん」

 そう風揺葉に言われて、ゲイル3兄弟は次々と気合いを込めていきます。


 3人の必殺技…というよりも、このマービル摂理教に伝わる秘技。それは、気の力を使い、自らの肉体を変化させて戦う技なのです。

 アゴールの必殺技、それは自らの肉体を鋼鉄化させ戦う能力。

 ハゲールの必殺技、それは自らの肉体を紙のように軽くし、物凄いスピードで動き回る能力。

 ハゲールの必殺技、それは自らの肉体をクラゲのようにグニャグニャにし、敵の攻撃を無効化する能力。


 この3人が同時にかかってくるのです。並の使い手ならば、どうしようもありません。

 けれども、そこはさすがマービル摂理教の中でも最高位の実力を持つとも言われる風揺葉のこと。3人の攻撃をかわしつつ、1人1人片づけていきます。


 4人はすでに、武器や防具を放り投げ、素手で戦っています。ハゲールにいたっては、ほぼ全裸に近い状態。肌色のパンツ1枚の格好です。最大限スピードを増すためには、この姿がベスト!決して、変態ではありません。

 まずは、目にも止まらぬスピードで動き回るハゲール。その動きを目で捉え、肌で感じ、攻撃してきた瞬間、風揺葉は最低限の動きで身をかわすと、確実にカウンターを食らわせました。

 バチ~ンという音と共に、吹っ飛んでいくハゲール。

「身の軽さが、逆にあだとなっている。攻撃を避けきられ、反撃されれば、いつもより防御力は低い。ダメージは大きくなる」と、風揺葉。


 次は、体を鋼鉄化させたアゴールの番。風揺葉が気力を込めた掌撃しょうげきを放つと、アゴールの全身に電撃が走ったかのようにしびれが襲います。風揺葉は、そのままアゴールの体を抱きかかえると、背後に向って投げ飛ばしました。

「動きがいつもよりも遅くなっている。気による攻撃の耐性も弱い!」と叫ぶ風揺葉。

 

 残るは、体がゼリー状になり、全ての攻撃を吸収し、受け流してしまうデブールのみ。

 デブールは、絞め技を決めようと、風揺葉の体を捕らえにかかります。けれども、ヒラリヒラリと全て交わされてしまいます。まさに、風のように。

 そうして、バシリ!バシリ!と風揺葉の突きや蹴りが決まるのです。

 すると、不思議なことに、攻撃が当たるたびにデブールの体が凍りついていくのでした。

「これぞ、マービル流奥義!冷風結氷術れいふうけっぴょうじゅつ!!」

 そう宣言した風揺葉の前には、デブールの形をした巨大な氷像が完成していました。

「誰か、温めてやれ」

 風揺葉に命じられ、戦いを観戦していた僧侶たちが慌てて駆け寄ってきます。そうして、お湯をかけたり、気を使った特殊な回復術を用いたりして、凍りついてしまったデブールを介抱しました。


 風揺葉は、ゆっくりと歩みを進め、勇者アカサタへと近づいてきて言いました。

「さて、最後は、おぬしだな」

 アカサタは、ビビってチビりそうになっていました。

 そうして、内心、こう思っていたのです。

「どうすんだよ。こんな奴に、勝てるわけないだろうが…」と。

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