地下懲罰房へ
夜が更けてから、勇者アカサタは、修行僧が集団で寝泊まりしている部屋からそっと抜け出し、寺の敷地内を探索して回りました。
ここには、何十人という僧侶たちが暮らしており、それらは全員男のようです。少なくとも、ここにやって来てから、アカサタは1人の女性とも出会っていませんでした。
「チッ…調子が狂うな。女の香りが全くしないとは。こんな場所は、サッサとおさらばしたいもんだぜ」
誰にも聞こえないようにそう呟くと、アカサタは先を急ぎます。
けれども、広大な敷地内、それも初めての場所。おまけに真夜中であり、ほとんど明かりもありません。月明かりを頼りに、どうにか昼間、修業僧たちから聞き出した地下懲罰房の入り口へと近づいていきます。が、なかなか目的の場所は見つかりません。
公平寺は山の中腹にあり、秋も深まってきたこの季節、かなりの寒さを感じます。
それでも、マービルの街は、地理的には温暖な地域に位置します。1ヶ月以上も前から大雪が積もっていた北の街スノーベルに比べると、天国のようです。
そうこうしている内に、どうにかそれらしき場所を発見しました。
そこは、自然の洞窟になっており、その洞窟を改造して懲罰房としているのです。
洞窟の入り口には、誰もいません。それを確認すると、勇者アカサタは中へと入っていきます。洞窟の中は、下り坂になっており、アカサタはそのまま坂を下っていきます。
そうして、ついに、その先に鉄格子のはまった天然の部屋を発見しました。
*
鉄格子の向こう側には、3人の人物がベッドの中でスヤスヤと眠っています。もちろん、ゲイル3兄弟です。
どうやら、ここにも見張りは1人もいないようです。それもそのはず、元々、ここは監獄でも何でもないのです。ただのお寺に過ぎません。囚人を見張る必要などどこにもないのです。
こうして、戒律を破った者を捕らえることはあっても、そこまで厳戒な警備を置いたりはしません。時々、世話係の者が食事を運んでくるだけです。
「オイ!お前ら!何をのんきに寝てるんだよ!起きろよ!助けに来てやったぜ!!」
そう、声をかける勇者アカサタ。
けれども、3人は全く起きる様子はありません。グ~スカ、ピ~スカ眠ったまま。
「お~き~ろ~!!起きろっつってんだよ!!」
今度は、洞窟中に響くように叫ぶアカサタ。
それで、ようやくハゲールが目を覚ましました。
「ムニャムニャムニャ…兄貴?あ~、アカサタの兄貴が夢の中に助けに来てくれた」
けれども、まだ半分寝ぼけているようです。
「いや、夢じゃねーって。他の2人も起こして、早くここをずらかろうぜ!」
アカサタに、そう言われて、アゴールとハゲールの2人を揺り動かすハゲール。
しばらくして、檻の中の3人は、ようやくハッキリ目を覚ましました。
「けど、どうやって出るんっすか?檻には鍵がかかってるんっすよ」と、デブール。
「そういえば、お前らの例の能力で破壊できないのか?体が鉄になったりするヤツ」と、アカサタが尋ねます。
「いや~、それが無理なんっすよ。どうやら、この中では気力を封じられる力が働いているらしくって。あの技は気力が出せないと使えないんっすよ」
そう、アゴールが言います。
「それに、たとえ、ここを抜け出したとしても、またとっつかまるだけですぜ。アカサタの兄貴だけでも、逃げてくだせえ」と、ハゲール。
「バカ!そんなコトできるか!」と言いながら、アカサタは持っていたナイフで、牢の鍵を破壊しようと試みます。
そこに、ドタドタドタという足音が近づいてきます。そうして、大勢の僧侶たちが現われ、アッという間に勇者アカサタは取り囲まれてしまいました。
驚いて、声を上げる勇者アカサタ。
「え?なんで?」
「これだけの手練の中、君の行動に誰も気づかないと思ったかね?」と、僧侶の1人が答えます。
「最初から、バレてたってことか…」と、アカサタ。
「ま、そういうことだ」
勇者アカサタは、このお寺に侵入するために、宿屋にほとんどの武器を置いてきてしまっています。
いずれにしても、これだけの人数相手です。それも1人1人が血の滲むような修業を毎日こなしている熟練者ばかりなのです。武器などあったところで、とても勝てるわけがありません。
結局、勇者アカサタは、素直に降参することに決めました。そうして、持っていたナイフも取り上げられ、ゲイル3兄弟と同じ檻の中へと入れられてしまいました。




