宗教都市マービル
いくつかの街を過ぎ、旅の一行は宗教都市マービルへと到着しました。
勇者アカサタたちが目指すイル・ミリオーネに行くためには、このマービルの街を通り抜けなければなりません。
ところが、ここに来て、新しく仲間に加わった3人がブツブツ言い始めたのです。
「兄貴~!アカサタの兄貴!ここは、よしやしょうぜ」と、アゴの長いアゴールが言います。
すると、頭がつるっぱげのハゲールも続きます。
「そうそう、この街は、ろくなもんがありやせんからね」
さらに、巨漢のデブールも。
「ここは不幸を呼ぶ街って呼ばれてるんっすよ。こんなとこには寄らずに、さっさと次の街へ行きやしょう!」
おかしいですね。どうやら、何かありそうです。
「そんなコト言ったって、ここを通らないと次にも行けないだろう。こんな大きな街だ。商人だって、商売のしどころだろう。ここを逃す手はないぜ。大体、そろそろ日も暮れそうじゃないか。今夜の宿は、どうすんだよ?この街に泊まらないでどうする?野宿でもするのか?」
そう、勇者アカサタにも簡単に反論されてしまいました。
それにしても、3人ともすっかりアカサタと打ち解けています。アカサタの方も、既に馴れ馴れしい言葉づかいに戻ってしまっていました。ま、それだけ、この短期間に仲良くなれたという証でもあるのでしょうが。
*
旅の商人たちが街で商品の取引をしている間、護衛団のグループは、おのおの自由に過ごします。
勇者アカサタとゲイル3兄弟も、酒場で時間を潰しています。
「もう、こうなったらしょうがねえな」
「なるようにしか、ならんだろう」
「せっかくだ。ここで飲みまくり、食いまくってやろう!」
3兄弟は、そんな風に話しています。一体、何があったのでしょう?
「よくわからんが、ここはオレのおごりだ。好きに飲み食いしろ」と、勇者アカサタも言っています。
「おお~!さすがは、我らが兄貴だぜ!!」と、3人も大盛り上がり。さっそく、ウエイターにいろいろと注文し始めます。
こういうところは、羽振りがいいのです。それがアカサタの性格なのでした。お金がある時には、あるだけバンバン使ってしまい、なくなったらなくなったでどうにかしてしまう。
けれども、不思議なコトに、あまり極端にお金がなくなって困るというような事態にはなりませんでした。それは、この世界にやってくる前、ニートとして暮らしていた頃も同じでした。
これが、運命というものかも知れません。あるいは、アカサタに与えられた特殊能力の1つなのかも?
勇者アカサタとアゴール・ハゲール・デブールのゲイル3兄弟は、飲み食いを始めました。酒場の中で飲めや歌えやのドンチャン騒ぎです。
「うめぇ!こりゃ、うめぇぞ!ほら、デブール、お前も食ってみろ!」
「さっきから食ってますよ。おかげで、こんな風に体重が増えちゃいました~」
「バ~カ!そりゃ、最初からだろうが!」
「アハハハハ、そうでした!」
「次、アゴール歌いま~す」
「おう、いけいけ!!」
「じゃあ、オレは踊るっす!」
と、こんな感じ。
正直、酒場の従業員は迷惑そうな顔をしています。けれども、そんなコトはおかまいなし。
そんな風にして、数時間が経過しました。
4人は全然、宿屋へと帰る気配はありません。
そこへ、突然、ドタドタと大勢の人が入ってくる音が聞こえてきました。
「いたぞ!」
「捕らえろ!」
「こいつ!刃向かうか!」
「逃がすな!」
入ってきたのは、僧侶の格好をした者たちです。そうして、ぐでんぐでんに酔っぱらったゲイル3兄弟は、そのままとっつかまって、どこかへと連行されていきました。
同じく酔っぱらって、まともに動けなかった勇者アカサタは、その様子をポカ~ンと口を開けたまま見ていることしかできませんでした。




