東へ向って
雪の街スノーベルから帰ってきてからというもの、勇者アカサタは、またボンヤリとして過ごす日が増えてきました。
とはいえ、全くやる気がないわけでもありません。
「あんな風に人生を無駄にしてもいかんよな…」
そう呟きながら、雪山で遭難し、雪の中にかまくらを作って過ごした時のコトを思い出していました。
この世界に来る前みたいに、部屋の中でインターネットをやったり、ゲームをしたり、テレビを見たりして暮らすのも、それと同じように思えてきたのです。あるいは、この街をブラブラして歩いたり、酒場で時間を潰したりするのも。
こういう所は、以前のアカサタとはちょっと違ってきていました。
相変わらず、おちゃらけたり、いい加減な部分はありましたが、それでも前と比べると少しは使命感に燃えたり、マジメに生きていこうと思うようになっていたのです。
そうして、自分から魔物退治などの依頼を探すようになりました。
「何か、用事はないかな?できれば、金になるヤツがいいな」などと聞いて回るのです。
勇者アカサタは、飽きっぽい性格でありましたので、単純労働というのが苦手でした。同じ動作の繰り返しをしていると、すぐに飽きて投げ出してしまうのです。
なので、1つの街にいるよりは、旅をして様々な街を巡っている方が性に合っていました。
そうして、そういった依頼ばかりを積極的に受けるようになっていきました。
今回も、そういうお話です。
これまで、アカサタは西の砂漠を目指して旅したり、北に位置するスノーベル周辺の魔物退治をしたりしました。南は、ちょっと進むだけで、すぐ海になっています。
というわけで、今度は東。
「東へ向う冒険の依頼はないかな~?」などと言って、みんなに聞いて回ります。
そうして、何日かして、芸術の街ラ・ムーに住む画商イロハ・ラ・ムーさんに、1つの頼まれごとをされました。
「まあ、そんなに大した仕事ではないんだがね。この茶器を知り合いの茶道家に渡して欲しいんだよ」
そうイロハ・ラ・ムーさんに言われて渡された荷物は、厳重に布や箱などでくるまれています。
「茶器?」と、尋ねる勇者アカサタ。
「そう。茶道というのを知っておるかね?これは、その茶道で使う道具なのだ」
ここは、アカサタがまだ勇者になる前、ニートとして自堕落に暮らしていた世界から見れば異世界です。けれども、不思議な話ですが、アカサタが元々住んでいた世界の文化や食べ物などが、かなり流入してきているのです。
「ああ~、茶道!聞いたコトがあるな~!実際には、やったコトはないけど」
アカサタのその言葉に、イロハ・ラ・ムーさんは返します。
「せっかくだから、アカサタ君も茶道の基本を習ってくるといい」
「ええ~!?なんだかめんどくさそうだな…」
「ホッホッホ。まあ、最初はそう思うかもな。けど、そういった場所にも真実は含まれておるものだ。いい勉強になると思うがね」
勇者アカサタは、ちょっと嫌そうな顔をしながらも、依頼を受けるコトにしました。
「くれぐれも気をつけてくれたまえよ。貴重な品なのでな。アカサタ君、君は戦闘に集中し、茶器は誰か別の者に持たせるといい」
イロハ・ラ・ムーさんに、そう忠告を受けて、勇者アカサタは東へと向けて出発しました。