雪の中の会話
雪の斜面を転がっていき、遭難してしまった勇者アカサタ。
気がつくと、女の人のヒザに頭を乗せて眠ってしまっていました。
「か、か~ちゃん!?」と、驚きの声を上げながら飛び起きる勇者アカサタ。
「何が、『か~ちゃん!?』よ。寝ボケんじゃないわよ!」
そう声を発したのは、女勇者ハマヤラでした。
「な~んだ。お前かよ」
そう言いつつも、アカサタは内心ホッとしていました。
しばらくの沈黙の後、女勇者ハマヤラがポツリと呟きます。
「ほんとに心配したんだからね…」
アカサタは黙ったままです。どうやら、恥ずかしがっているようです。
「チッ、やりづれ~な。こういうのは苦手なんだよ」
ようやく声を出したと思ったら、そんなセリフです。
再び、辺りは沈黙に閉ざされます。
時々、女勇者ハマヤラの唱える呪文の声が聞こえるだけです。ハマヤラも、“ウォーム・エア・ウォール”は使えるようになっており、その威力も持続時間もアカサタのものよりも、遥かに大きく長いものです。
さらに、いくらかの回復呪文も唱えてくれます。
「この手の魔法は、あんまり得意じゃないんだけどね」
そう言いつつも、女勇者ハマヤラの唱える魔法は、徐々にアカサタの体を癒していきます。
「ねえ、アカサタ?もしも…もしもよ?」
「ん?」
「もしも、私がこの世界がいなくなったとして、それでもあなたは生きていける?」
突然の質問に、勇者アカサタは乱暴気味に返します。
「は?なんだよ、それ?」
「もしもの話よ。大丈夫?みんなと力を合わせて生きていける?」
「…ったりめ~よ!お前なんざいなくても、どうにかなるって」
今回も助けてもらっておいて、このセリフです。
「そう…ならいいんだけど」と、女勇者ハマヤラは静かに答えただけでした。
*
勇者アカサタの体が温まり、体力も回復すると、2人はアカサタ自作のかまくらから外に出て、落ちてきた崖を登り始めました。
そこには、女勇者ハマヤラが降りてくる時に使ったらしい1本のロープが垂れています。
「オ~イ!オ~イ!大丈夫か~?」と、上の方から声が聞こえてきます。どうやら、仲間の1人が助けに来てくれたようです。
「大丈夫よ!今から、登っていくわ!」と、女勇者ハマヤラが大声で返答します。
崖を登りながらアカサタが小さな声で呟きました。
「世話になったな」
「え?」
「助けてくれてありがとうって言ったんだよ!」
それを聞いて、フフフ…と嬉しそうに笑うハマヤラ。
崖の上に到達すると、スカーレット・バーニング・ルビーを始めとして、仲間たちが集まってきていました。
「アカサタ、あんたが雪だるまに取り込まれて転がっていってから、ハマヤラは即座にあんたの後を追いかけていったのよ。私たちも魔物を片づけてから、すぐに追ったけど、全然追いつけなかったわ」と、スカーレット・バーニング・ルビー。
「そうだったのか…」と、勇者アカサタ。
「まったくもう。勇敢に敵に向っていくのはいいけど、ちょっとは気をつけなさいよ」
そうスカーレット・バーニング・ルビーに言われて、
「へ~い!今後気をつけま~す」と、おちゃらけながら答える勇者アカサタなのでありました。
*
その後は、同じような戦いが続きました。
スノーゴブリンや雪山トロールといった魔物を中心として、時々、妖精スプライトなども退治していきます。
そうこうしている内に、敵と出会う確率も極端に減っていきました。
「ま、こんなもんでしょう。そろそろ引き上げましょうか」
スカーレット・バーニング・ルビーのその言葉に従って、一行はスノーベルの宿へと引き上げ、帰り支度を始めました。
「いや~、おかげ様で今年も助かりました。来年も、またお願いします」
そう言って、スノーベルの街を取り仕切る人物が報奨金を支払ってくれました。
「オレ、みやげ物、買っていくっす!」
そう叫ぶと、勇者アカサタは、もらったばかりの報酬を手に、おだんごや人形などが並んでいる“おみやげコーナー”と書かれた看板のかかったお店へと走っていってしまいました。
「まったく子供みたいね。ほんとに大丈夫なのかしら…」
その後ろ姿を眺めながら、女勇者ハマヤラは、そんな風に呟くのでした。




