雪だるまとの決戦
勇者アカサタたち魔物討伐隊の眼前に、ピョンピョンと飛び跳ねながら雪だるまが迫ってきます。他にも、スキー板をはき、ストックを持った雪だるまも。あるいは、板の上に乗って、斜面を滑り降りてくるタイプもいます。
勇者アカサタは、まだ半信半疑。
「ほんとにあんなのと戦うのかよ!?」と、驚きつつも、その手にはシッカリと稲妻の槍が握られ、戦闘の体勢に入っています。
雪だるまの数は、全部で5体。
その内の1体が、勇者アカサタのすぐ横にいた剣士に突撃をかけ、そのまま2人(1人と1体?)は、雪の中へと倒れ込んでしまいました。
それを横目で見ていたアカサタにも、別の雪だるまが迫ってきます。アカサタは、積もった雪に足をうずめたまま、シッカリと踏ん張りをきかせ、突進してきた敵めがけて槍を振り下ろします。
ドスッという音と共に、見事カウンターが決まります!!
「グッ…重い!!」
そう口から漏らしたアカサタの攻撃は、完全に雪だるまに入ったはずでした。
けれども、あまりダメージを受けたようには見えません。稲妻の槍による電撃効果も意味を成していないようです。
「なんだ、コイツ。効いてないのか!?」
まるで、人形みたいだな、とアカサタは思いました。それは、そうです。雪だるまとは、雪でできた人形なのです。魂があるのかどうかもよくわかりません。
後衛にひかえていた魔術師たちから、炎の魔法が飛んできます。
ジュ~ッという音と共に、雪でできた敵の体から水蒸気が上がっていきます。どうやら、今度は効果があったようです。
「いけるわね!」
スカーレット・バーニング・ルビーは、喜びの声を上げると、続けて炎の援護魔法を発動します。
それにより、味方の剣士の持つ剣や、アーチャーの弓矢などに炎の属性が付加されるのです。
炎によって強化された武器により、雪だるまたちは次から次へとダメージを受けていきます。基本的に、敵の攻撃は単純。その雪の体を使って、体当たりを食らわせてくるだけなのです。
雪だるまの1匹が完全に粉砕され、その破片が辺りに飛び散りました。すると、その瞬間に、原形をとどめなくなった雪の塊の中から何かが飛び出してくるのがわかりました。
「何、アレ?」と、ハープ奏者パールホワイト・オイスターが疑問の声を上げます。
それは、小さな人の姿をしていて、背中には透明な羽が生えています。
「スプライト…!?」と、魔術師の1人が口にします。
スプライト。それは、妖精の一種。様々な魔法を唱えたり、自然の力を利用して攻撃してきたりします。
ただし、通常はそれほど獰猛な性格をしているわけではなく、人間を攻撃してくるとしても、それはイタズラ程度のつもりなのです。
他の雪だるまたちも、炎属性の攻撃を受けて、次々と正体を現していきます。どれも、中に入っていたのは小さな人の姿をした羽の生えた妖精でした。
ただし、一体だけ、最後まで粘りを見せる者がいました。最初から、他に比べるとひと回り大きな体格をした雪だるまでした。
そうして、その雪だるまは、周りの雪をかき集めると、さらに大きな姿へと膨らんでいきます。ゴロゴロと雪面を転がっていき、その体に大量の雪をまとっていきます。最後にはトロールよりも巨大な、巨人の姿へと変貌してしまいました。
「なんだ、コイツは…」
驚く冒険者一同。
そこへ、勇者アカサタが突撃していきます。
「うりゃあああああああああああああああ」と、叫び声を上げながら。
どうやら、威勢だけはいいようです。けれども、その歩みはカメよりも遅く、1歩1歩ゆっくりとしか進んでいません。
あげくの果ては、巨大雪だるまに捕まってしまい、ギュ~っと抱きしめられてしまいました。
「どうするの?これじゃあ、まともに攻撃できないわよ」
「上手くアカサタに当てないように攻撃しろ!」
「足元よ!足元を狙うの!それで、バランスが崩れるわ!」
雪だるまに抱きしめられたままのアカサタの耳に、そんな声が聞こえてきます。
ズブズブと巨大雪だるまの体の中に埋まっていく勇者アカサタ。周りから聞こえてくる声は、段々と遠のいていきます。そうして、最後には完全に雪の塊の中へと取り込まれてしまいました。
その瞬間、何度も炎系の攻撃を集中して下半身に食らった巨大雪だるまは、バランスを崩してグラリと傾きました。そうして、雪面にその巨体を倒れ込ませ、そのままマンガみたいにゴロゴロと山の斜面を転がって落ちていきます。
瞬く間に、その姿は雪景色の果てへと消えていってしまいました。
あわれ、勇者アカサタは、一緒にどこかへと転がっていき、行方不明となってしまったのでした。




