北の街へ
さて、ある日のコト。
勇者アカサタは、いつものようにダラダラとその日を過ごしていました。ここ何週間も、ずっとこの調子です。完全にニート時代に逆戻り。一体、何をしにこの世界にやってきたんでしょうね?
「まだ、昼か。酒場に行くには早い時間だな。早く太陽が沈まねえかな…」
そんな風にブツブツ言いながら、街中を徘徊する勇者アカサタ。
街の人たちは一生懸命に働いているというのに、この時間からこんな調子です。
この世界には、身を削りながら懸命に労働に従事し、それでもわずかな賃金しかもらえない人々が大勢いるというのに、アカサタときたら勝手なものです。
戦闘での能力は格段に上がり、高額の武器や防具をいくつも手に入れました。1つ売り飛ばすだけでも、家が1軒買えてしまうくらいの品です。
そんなアカサタからすると、ちょこっと外で戦闘をこなし、その日を生きていくだけのお金を稼ぐだなんて、雑作もないことでした。なので、1度魔物退治に出かけると、その後は何日も、こんな風にだらけて過ごすのです。
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街をぶらついている勇者アカサタの前に、1人の女性が現われました。水風船のようにパンパンに膨らんだおっぱいの持ち主です。
それは、炎系の魔法の使い手、スカーレット・バーニング・ルビーでした。
「コラ!アカサタ!またダラダラして暮らしてるのか!」
「ああ~、アネゴ~!チ~ッス!」
「何がチ~ッスよ。ちょっとはマジメに働きなさいよね。あんた、それだけの実力があるんだから。近くの森に魔物退治に行くとかなんとか、やるコトはいくらでもあるでしょ!」
それに対して、勇者アカサタは、めんどくさそう~に答えます。
「けど、アネゴだって言ってたじゃないっすか。『どんなに魔物を倒したところで、全然減りはしない。それどころか、放っておいてもあんまり問題ない』って」
グヌヌ…と、スカーレット・バーニング・ルビーは、うなりました。
「それはそれ!これはこれよ!大体、ちょっとはお金を稼がないと生きていけないでしょ!」
「大丈夫!大丈夫っす!ちょろっと戦えば、しばらく生きていけるだけ稼げるんっすから。余裕っすよ!人生、余裕しゃくしゃく!」
完全に油断しまくりです。
まったく、エメルも、なんでこんなヤツに惚れちゃったのかしら?と、スカーレット・バーニング・ルビーは思いました。エメルというのは、エメラルドグリーンウェル嬢の愛称です。
「とにかく!暇そうにしてるんだったら、あたしについてきなさい!ちょっと北の街に用事ができたから、一緒に行くわよ!旅の準備をしなさい!」
「ええ~?北のまちぃ!?なんだか、寒そうっすね…」
「寒いわよ。だから、防寒具の準備もしてきなさいよ」
なんだかんだ文句を言いつつも、この生活にも退屈を感じ始めていた勇者アカサタです。ひさしぶりに本格的な冒険に出かける準備を始めました。
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今回の旅のメンバーは、スカーレット・バーニング・ルビーをリーダーとして、勇者アカサタ、女勇者ハマヤラ、あとは何人かの魔術師や僧侶、剣士など。それに、芸術の街ラ・ムーで演奏会を終えたばかりのハープ奏者パールホワイト・オイスターでした。
「アネゴ~!今回の仕事は危険なんっすか?」と、アカサタが緊張感のなさそう~な声で尋ねます。
「そうね。結構、強敵が多いわよ。なにしろ、雪の街だからね。それに適応した魔物ばかりよ」
「雪に適応?雪男とかっすか?」
「そうそう。他にも、スノーゴブリンとか、雪山トロールとか、そういった感じ」
「フ~ン…ま、大したコトなさそうっすね」
相変わらず、油断しまくりの勇者アカサタです。それは、そうです。いまや、アカサタにとってゴブリンやオーク程度、敵ではありません。トロールであろうとも、1人で平気で相手をしてしまうでしょう。そのくらい戦闘レベルは上がり、武器も以前とは桁違いの威力のモノを使っているのですから。
とにもかくにも、こうして、一行は北を目指して進み始めたのでした。




