真珠と水晶のコラボレーション
ある時、芸術の街ラ・ムーで、パールホワイト・オイスターとクリアクリスタル・クリスティーナの公演が行われるコトになりました。稀代の名ハープ演奏者と、さすらいの詩人のコラボレーションです。
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ハープ奏者パールホワイト・オイスターは、ここ2年ほどの時間を振り返っていました。
勇者アカサタに連れられて、このラ・ムーの街へとやって来たコト。その後、傭兵のグループに参加し、足手まといになりながらも戦闘に参加したコト。
パールホワイト・オイスターに、戦闘の能力はありませんでした。ただ、その奏でる音楽で仲間の心を癒したり、戦闘意欲を高揚させたりするだけです。
ハープは、旅に持ち歩き、戦いに参加するには大き過ぎました。それで、旅の間は小型の竪琴を愛楽器に代えます。演奏法の基本は同じ。ちょっと練習するだけで、すぐに慣れました。
パールホワイト・オイスターは、楽屋で1人、ハープの練習をしながら、こう呟きます。
「おかげで、随分と楽になった…」
そう。勇者アカサタに誘われて、砂漠渡りの傭兵の仕事に参加したおかげで、随分な大金を手にすることができたのです。おかげで、その後は、生活費の心配をすることもなく、音楽に没頭できました。
「あの経験も生きた」
命のやり取りをする魔物との戦闘。その端っこで楽器を弾いていただけとはいえ、その経験は、とてつもない影響を与えてくれました。そうして、その音楽性を大きく変えてくれたのです。
演奏を聞きに来てくれるお客さんからは、このような感想が漏れるようになりました。
「以前よりも、演奏に深みと鋭さが増したわね」
「なんだか、2回りも3回りも世界が広がったようだ」
「これまではなかった、人生の過酷さや儚さを感じられるようになった」
パールホワイト・オイスターは、それらの声に満足もしていましたが、さらなる高みに到達したいと望んでもいました。音楽における、神の領域へと!
今回の詩人クリアクリスタル・クリスティーナとのコラボレーションも、その為の一環です。詩の朗読に乗せて、楽器を演奏するコトで新しい何かを見出そうとしているのでした。
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さて、演奏会が始まります。
舞台には、2人の美しき肌を持った女性が並んで上がっています。
1人は、向こう側が透き通って見えるくらいの透明な水晶のごとき肌。もう1人は、真珠のようなクリーム色の肌。2人が並んで同じ舞台上にいるだけで、そのまま絵になりそうな風景です。
客席は、お客さんでいっぱい。1000人近くは入りそうなホールに満員です。
もちろん、勇者アカサタや女勇者ハマヤラもやって来ています。スカーレット・バーニング・ルビーやエメラルドグリーンウェル嬢の姿も見えます。
最初に、詩人クリアクリスタル・クリスティーナが口を開きます。
そうして、何行かの詩を語ったところで、パールホワイト・オイスターの奏でるハープの音が割り込んできます。それぞれが独立した人格を主張しているように思われましたが、それも時と共に徐々に1つとなっていくのでした。
最後には、まるで1人の人が唄っているかのように一体化し、会場中に響き渡っていきました。
次の曲は、ハープの音が先に入ります。その後、詩人の声が重なっていきます。
今度は、最初からすんなりとハーモニーを奏でています。どうやら、詩人クリアクリスタル・クリスティーナの方が、格上のようです。相手に合わせる技術も桁違い。
そのように、いくつもの曲が演奏され、何篇もの詩が語られました。
1つだけ、どのような詩なのか聞いてみましょうか?
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傍らに立つあなたの姿は、もはやない
嵐が、あなたを連れ去ってしまったのだから
戦争という名の嵐が
人々は、今日もまた争い競い合う
おかげで、世界は進歩の一途をたどる
けれども、私の心は欠けていくばかり
果して、成長は人のためになっているのでしょうか?
進歩や進化は世界のためになっているのでしょうか?
先に進むたび、人々の心は荒れてゆく
安らぎは意味がありませんか?
平穏は価値がありませんか?
争い、戦い、成長するコトが全て?
では、その先には何がある?
さらなる成長を求め
新たな戦いがあるばかり
そうして、人々は永遠に
戦いの歴史を繰り返す
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会場は、一瞬シ~ンと静まりかえりました。
その後、万雷の拍手。
アンコールの声の後、新しい曲が演奏され、次の詩が語られます。
そんなコトが何度か繰り返され、お客さんは満足の後、家路へとついたのでした。




