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真珠と水晶のコラボレーション

 ある時、芸術の街ラ・ムーで、パールホワイト・オイスターとクリアクリスタル・クリスティーナの公演が行われるコトになりました。稀代の名ハープ演奏者と、さすらいの詩人のコラボレーションです。


          *


 ハープ奏者パールホワイト・オイスターは、ここ2年ほどの時間を振り返っていました。

 勇者アカサタに連れられて、このラ・ムーの街へとやって来たコト。その後、傭兵のグループに参加し、足手まといになりながらも戦闘に参加したコト。

 パールホワイト・オイスターに、戦闘の能力はありませんでした。ただ、その奏でる音楽で仲間の心を癒したり、戦闘意欲を高揚させたりするだけです。

 ハープは、旅に持ち歩き、戦いに参加するには大き過ぎました。それで、旅の間は小型の竪琴を愛楽器に代えます。演奏法の基本は同じ。ちょっと練習するだけで、すぐに慣れました。


 パールホワイト・オイスターは、楽屋で1人、ハープの練習をしながら、こう呟きます。

「おかげで、随分と楽になった…」

 そう。勇者アカサタに誘われて、砂漠渡りの傭兵の仕事に参加したおかげで、随分な大金を手にすることができたのです。おかげで、その後は、生活費の心配をすることもなく、音楽に没頭できました。

「あの経験も生きた」

 命のやり取りをする魔物との戦闘。その端っこで楽器を弾いていただけとはいえ、その経験は、とてつもない影響を与えてくれました。そうして、その音楽性を大きく変えてくれたのです。


 演奏を聞きに来てくれるお客さんからは、このような感想が漏れるようになりました。

「以前よりも、演奏に深みと鋭さが増したわね」

「なんだか、2回りも3回りも世界が広がったようだ」

「これまではなかった、人生の過酷さや儚さを感じられるようになった」

 パールホワイト・オイスターは、それらの声に満足もしていましたが、さらなる高みに到達したいと望んでもいました。音楽における、神の領域へと!

 今回の詩人クリアクリスタル・クリスティーナとのコラボレーションも、その為の一環です。詩の朗読に乗せて、楽器を演奏するコトで新しい何かを見出そうとしているのでした。


         *


 さて、演奏会が始まります。

 舞台には、2人の美しき肌を持った女性が並んで上がっています。

 1人は、向こう側が透き通って見えるくらいの透明な水晶のごとき肌。もう1人は、真珠のようなクリーム色の肌。2人が並んで同じ舞台上にいるだけで、そのまま絵になりそうな風景です。


 客席は、お客さんでいっぱい。1000人近くは入りそうなホールに満員です。

 もちろん、勇者アカサタや女勇者ハマヤラもやって来ています。スカーレット・バーニング・ルビーやエメラルドグリーンウェル嬢の姿も見えます。


 最初に、詩人クリアクリスタル・クリスティーナが口を開きます。

 そうして、何行かの詩を語ったところで、パールホワイト・オイスターの奏でるハープの音が割り込んできます。それぞれが独立した人格を主張しているように思われましたが、それも時と共に徐々に1つとなっていくのでした。

 最後には、まるで1人の人が唄っているかのように一体化し、会場中に響き渡っていきました。


 次の曲は、ハープの音が先に入ります。その後、詩人の声が重なっていきます。

 今度は、最初からすんなりとハーモニーを奏でています。どうやら、詩人クリアクリスタル・クリスティーナの方が、格上のようです。相手に合わせる技術も桁違い。


 そのように、いくつもの曲が演奏され、何篇もの詩が語られました。

 1つだけ、どのような詩なのか聞いてみましょうか?


         *


 傍らに立つあなたの姿は、もはやない

 嵐が、あなたを連れ去ってしまったのだから

 戦争という名の嵐が


 人々は、今日もまた争い競い合う

 おかげで、世界は進歩の一途をたどる

 けれども、私の心は欠けていくばかり


 果して、成長は人のためになっているのでしょうか?

 進歩や進化は世界のためになっているのでしょうか?

 先に進むたび、人々の心は荒れてゆく


 安らぎは意味がありませんか?

 平穏は価値がありませんか?

 争い、戦い、成長するコトが全て?


 では、その先には何がある?

 さらなる成長を求め

 新たな戦いがあるばかり


 そうして、人々は永遠に

 戦いの歴史を繰り返す


         *


 会場は、一瞬シ~ンと静まりかえりました。

 その後、万雷の拍手。

 アンコールの声の後、新しい曲が演奏され、次の詩が語られます。

 そんなコトが何度か繰り返され、お客さんは満足の後、家路へとついたのでした。

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