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賢者アベスデ最大の失敗

 ある時、賢者アベスデは、大きな街の酒場で、1人でお酒を飲んでいました。

 そうして、過去の出来事を思い返していたのです。


 これまで、アベスデが認めた勇者は4人。

 どれも、類い希なる才能を持ち、努力も怠りませんでした。賢者アベスデのもと修練を重ね、充分な能力を身につけました。そうして、この世界を救うという使命を帯びて、理想に燃えて魔王へと挑んでいったのです。

 けれども、誰1人として戻ってはきませんでした。魔王や、その配下の者に倒されてしまったからでしょうか?いいえ、そうではありません。4人が4人とも、魔王ダックスワイズに説得され、仲間になってしまったからです。

 かつての4人の勇者は、今や“四天王”と呼ばれ、魔王軍の4本の腕としてシッカリと働いています。賢者アベスデは、魔王を討ち倒すどころか、さらに力を与えてしまっていたのです。こうして、魔王は以前よりも遥かに強敵となり、討伐するのが困難となってしまっていました。


 氷とお酒の入ったグラスを眺めながら、アベスデは1人で呟きます。

「私は、余計なコトをしてしまったのだろうか?」

 この世界に魔王を誕生させてしまった張本人。それだけではなく、その魔王にさらなる力をも与えてしまった賢者アベスデ。その後悔は、計り知れません。

「きっと足りなかったのだ。彼らでは、足りなかったのだ。能力以上に理想が。そして、情熱が。この世界に、計り知れぬほどの熱き情熱と理想を持った者は存在しないだろうか?どこに行けば、そういう人間に出会えるのだろうか?」


 賢者アベスデが、そんな風に考え、悩んでいる時。近くに座っている女性が、誰かを指さしているのが見えました。アベスデが、その指の先に視線を移すと、1人の男が目に入ってきました。

 バカ話に花を咲かせ、狂った宴会芸を披露している変な男です。

「楽しそうだな。実に、楽しそうだ。私も、あんな風に生きていければよかったのだが…」

 そう呟くいてから、アベスデはこんな風に考えたのでした。

 もしも、世界が平和なら、あんな風に生きていくのもいいだろう。だが、こんなにも荒み、混乱した世の中では、そうもいかんだろう。

 早く勇者を探さねば。魔王を討ち倒し、この世界を救ってくれる勇者を…


 こうして、賢者アベスデと勇者アカサタは、異様なほど近い距離へと接近したのです。

 けれども、この時はまだ、お互いに“それ”とわかりませんでした。真実というのは、そういうものなのです。

 すぐ側に存在しているのに、それと気づかないモノ。大切な存在ほど、理解するのに時間がかかる。一見した所、全く別の存在に思えてしまう。それどころか、真逆の存在として感じてしまったりもする。

 それでも、いずれは理解できる時が来るでしょう。時間はかかるかも知れません。でも、真実はいずれその姿をハッキリと現すようになってくる。アベスデもアカサタも、いつまでもそれがわからないほど愚かな存在ではないのですから。

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